風のささやき

街で

歩き疲れて
あなたと二人
こうして座って
目を合わせ微笑む。

ささいな仕草からも
読みとれる
僕らの間には黙っていても
通じあえる言葉があって
それがこうまでに
二人を一緒にする。

花瓶のマーガレットが
花びらを一枚散らす
僕らのテーブルにも
白い珈琲カップが二つ運ばれて
手で触れるとあなたといる時の
温かさと同じだ。

耳に届くのは
壊れて話をやめなくなった
ラジオから流れるような言葉
少し暴力的で疲れてしまう。

僕はあなたと
そんな言葉で
結ばれたものには
なりたくはないんだ。

黙っていても心は華やいでくる
春風に心地良く揺られる
タンポポを真似て
その気分に揺られていたいんだ。

たとえばあなたが
珈琲カップを置いて
目を合わせ微笑む
あどけない少女の
人懐っこさ残したままの笑顔で。

そんなときに僕には
あなたがよく分かるのだ
優しい瞳に映し出される
あなたの心のさざ波が
僕の心にも押し寄せて
快く温かく濡らすから。

そうして
時折見せる
寂しげな仕草には
誘われるように
あなたの背を押す
そんな二人だけの言葉を
大切に思うのだ。

口に出した傍から
本当のことが伝えられなくて
嘘を重ねて行くような言葉は
もうこれ以上
紡ぐのを止めにしたくて。

どんな人込みにでも伝えあえる
二人だけの言葉に
僕の心の調べを
あなたが感じとってくれるといい。

もしかすると僕自身でさえ
気が付いていないかも知れない
心の調べを。