風のささやき

長生きの小鳥

とてもとても長生きの小鳥
とてもとても長いあいだの僕の友達
家に帰ってドアを開ければ
直ぐに気付いて鳴き声を上げる
とてもとても長生きの小鳥
飛ぶのがちょっぴりと下手で
カゴからでる時はおっかなびっくり
時々慌てては窓ガラスにぶつかります

話すことが大好きな長生きの小鳥
僕の肩に止まっては
唇にチョンチョンとキスをしながら
熱心なお話しの時間です

長生きの小鳥はとても食いしん坊
少しでもお腹が空けば直ぐにご飯を食べている
毎日同じものばかりなのに
飽きないなんてとても不思議

長生きの小鳥は眠るのも大好き
天気のいい日にはベランダで日向ぼっこ
止まり木の上でうつらうつらと眠ります
一体どんな楽しい夢を見ているのでしょう

長生きの小鳥のカゴの中
綺麗な音のする鈴と
自分の姿が映る鏡が
一人でいる時の遊び道具

鈴を鳴らしては音を奏で
鏡を見てはハイ、ポーズ
自分がかっこいいと
思っているらしい長生きの小鳥

そんな長生きの小鳥にも
小さな頃がありました
ある日とてもとても可愛いひな鳥が
僕の家にやってきたのです

水色の羽に黄色の綺麗な背中
ひな鳥は僕の手の中で
おなかを空かせながら
少し震えていました

ひな鳥はそれから
大切に大切に育てられました
暇があればかごから出してもらい
皆の肩をいったり来たり

心優しいひなどりは
誰かを噛むこともありません
皆のことが大好きで
唇に来てはお話しをせがみます

中でも一番大好きなのは
毎日餌を取り替えてくれるお母さん
だから一番に「おかあさん」「おかあさん」と
上手に言えるようになりました

僕のところに来ても「おかあさん」
妹のところに来ても「おかあさん」
お父さんのところに来ても「おかあさん」
皆が長生きの小鳥のおかあさん

長生きの小鳥は
それからたくさんたくさん
皆とお話しをして
色々な言葉をおぼえました

「遊ぼう」「美味しい」
僕のことを「お兄ちゃん」と
呼んでくれました
もちろん自分の名前は上手に言えます

籠に顔を寄せると
近寄って来る長生きの小鳥
くるりと回って背中を見せて
綺麗な羽を自慢します

長生きの小鳥は
夜更かしが大好き
僕らが眠るまで
一緒に起きていて朝寝坊

長生きの小鳥と
僕らが過ごした長い時間
沢山の写真も撮りました
今でも皆の大切な宝物です

そんなある日のこと
長生きの小鳥が大好きだった
そうして僕たちが大好きだった
おかあさんが天国に行ってしまいました

長生きの小鳥がおじいさんだからと
心配をしていたお母さんが
長生きの小鳥よりも
先に天国に旅立ったのです

そうして長生きの小鳥もやがて
「おかあさん」「おかあさん」と
いう言葉を忘れてしまいました
自分の名前を繰り返すばかりの長生きの小鳥

それからは
よぼよぼとした長生きの小鳥
やがて片方の足は動かなくなり
跛を引くようになりました

餌箱の前でじっとしていた
長生きの小鳥
それでも籠に近づけば
お話しがしたくて近寄ってきます

ある朝のことでした
僕が目を覚ますと
年寄りの小鳥は眠るように
目を閉じて横たわっていました

僕は少し震えながら
その小さな体を手にとって
甘い匂いのするその黄色い頭を
僕の額につけました

「ありがとう
ほんとうに長い時間を
一緒に過ごしてくれて
ほんとうに大好きだった」

もう今は大好きなお母さんのところに
飛んでいった長生きの小鳥
きっとまた「お母さん、お母さん」
という言葉を思い出して

大好きなお母さんの肩の上で
唇に触れながら話をしている長生きの小鳥
お母さんもきっと楽しそうにしている
今でも大好きな大好きな長生きの小鳥