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近年大将軍あたりは別荘が立ち並び、避暑地の様相が色濃 く示してきているが、付近では未だ黒毛和牛の放牧がなされている。 おそらく肉食用の牛なのであろう。 道路際の柵の側から長閑に草を食む牛たちにカメラを向ける と、彼らは一斉に口の動きを止め、私の方向に不安な視線を投 げかけたまま立ちすくんでいた。すぐ近くにいるものだけでな く、見える限りの牛たちの全ての視線が私の額の上に集まって いた。なにもかもが停止し、判断を保留していた。私がカメラ を降ろし、体を転回させるのと呼応して、牛たちの脳へ血液の 供給が再開され、停止していた思考が活動を始めたようだった。 |