嘲笑う白刃  3幕


「わたしもね、最近よく夢を見るの。おかしな、怖い夢・・・・・・」
「夢・・・・・・?」


「闇のなかから大きな黒い怪物が、丸い目玉をギラギラさせて飛び出してくるの。奇妙な、甲高い叫び声をあげながら・・・・・・。まるでわたしを、頭から呑み込もうとしているみたいに」



 コトノハの言葉にキリテの心臓が、一瞬打つのをやめた。
「それから・・・・・・?」
「それから・・・・・・、わからない。いつもそこで目覚めて・・・・・・、それで、わたしはここにいる」


「きっと疲れてるんだよ、オレも、コトノハも。それだけだ。なんでもないよ」
「そうね・・・・・・。ただの夢だものね」
「ああ、ただの夢だ。気にすることなんかないよ」


 コトノハにそう言い聞かせながらも、キリテはなにかが引っかかっていた。まるで、どんどん落ちて行く砂時計の砂を見つめるように、キリテは奇妙な焦燥感にとらわれていた。



 かけがえのないもの。遠く駈け去って行き、二度とは戻らない、永遠に・・・・・・。

 そして確かに、砂時計の落とす時は、尽きようとしていた。ふたりの時間は、もうあまり残されていなかった。
 オロチが闇の底より現れて、少女を喰らうまで・・・・・・。



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