ヴォルフィノーの市
春は嫌いだ・・・・・・。

彼女は冬が好きだった。

降りしきる雪のなかなら、どこまでもどこまでも歩いて行ける。
いづれにせよ自分がどう思おうと、時は流れ、季節はめぐり・・・・・・、春はゆっくり、着実に訪れようとしていた。それをおしとどめることなど、誰にもできようもなく・・・・・・。

少女の名は、コトノハ。
つまりこれは、コトノハの物語でもある。せめて誰かの記憶の片隅にとどまり、時にはその記憶の引き出しの奥から引っ張り出されて来て、他の誰かにそっと語って聞かされるべき・・・・・・、そうした物語のひとつでもある。
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