キリテは燃えているか?
あたり一面、無数の赤い火の粉の群れが、狂った蛍のように死の舞踏を踊っている。ごうごうと紅蓮の炎が闇に喰いつき、喰いつかれ・・・・・・。
「おまえは、ここで終われ。この世界と共に・・・・・・」
その瞬間、少年の瞳のなかで、なつかしい、ひとりの少女の姿がよみがえった。
「ここにいる・・・・・・。僕たちは、こうして。あきらめることはないよ、決して・・・・・・」
少女との約束を守るため、少年はきしむ身体に鞭打って立ち上がる。 彼は必死に祈る。これまでただ一度として祈ったことのない、神にむけて。
少年の名は、キリテ。
よってこれは、キリテの物語である。これまでただの一度も語られたことはなく、これから先もおそらくはもう二度と語られることはないだろう・・・・・・。紡がれた次の瞬間には、ほどかれて消えていく・・・・・・。そういう物語である。
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