遺 書
向日 岳人様
岳人へ
おれはちゃんと死んどりますか?行方不明とか意識不明とかでなく、ちゃんと死体を確認したんか?もしもおれが生きているのにこの手紙が届いていたら、それは何かの間違いや。すぐに手紙を封筒に戻し、旅行カバンの奥にでもしまってこのことは忘れるべきやで。
このままではなんもわからんなぁ。ほな、この一枚目だけ読んでもええことにするわ。
最近(この手紙を書いている、今な)いろいろ物騒やろ?こないだの試合中もボールやらラケットやら当たって救急車呼んどったし、おまけにおれらも3年や。そしたら担任の先生が「残される者の気持ちになってみろ」とか言い出して道徳の授業で、こんな手紙を書くことになったんや。まあ、もともと変なネタでよく作文書かせる先生やからなぁ。この手紙は書いたあと集められてタイムカプセルとかに入れられて埋められるんやて。で、掘り出すときに本人が死んでたら発送される手はずや。縁起悪いタイムカプセルやなぁ。
「友達でも家族でも、誰宛でもいい」ゆーとったから、おれは岳人宛てで書いておくことにした。
もうすぐ一枚目もおしまいや。
もう一回だけ訊いとく。おれはちゃんと死んどるんか?もしもそうでないなら、さっき書いたとおりにしてな。
***
なんや、ホンマに死んでしまったよーやな。
おれはどんな死に方したんやろ。願わくば「バナナの皮ですべって頭を打って」とか「試合中に勢い余って脇の柱に頭打って」とかいうマヌケな死因でないことを願うばかりや。
さて、ここまで書いてなんや疑問に思ってきたんやけど、これを読んでいる岳人は一体どんな岳人なんやろな。おれが知ってる岳人か、それともおれの知らない岳人なのか。
そんな岳人にこれから重大発表するで。ちゃんと目ひらいてみいや!
『向日岳人、
岳人はおれの、忍足侑史の今までの人生のなかで一番大切なひとや!』
おどろいたか?
自分でゆーのもなんやけど、おれ恥ずかしがり屋さんやからきっと岳人に面と向かって言ってないやろうなあ、と思って書いた。
いつからそう思うとったかは忘れた。これは同じ部活やっとるとか、同じクラスになったことがあるとかそんなんやない。理由抜きの親友や。男同士で一生つきあっていく友達や。恥ずかしくて今まで言ったことないけどな。
転校したばっかりの頃、うっかり岳人のこと女の子と間違えて怒らしたことあったの覚えとるか。実はあんときガラにもなくヘコんでたんや。こっちに来てから話す相手もおらんかったし言葉も違ったしな。なんやクラスのみんなと顔あわすのも妙に重〜く感じとって、だからわざわざメガネかけるようになったんや。
それなのに岳人はそんな失礼なことゆうたおれとそのまま友達になって、ダブルスまで組んでくれた。口に出したことないけど(なかったけど)ホンマ感謝しとるんや。
友達になってくれて、ありがとうな。
声かけてくれて、テニス部に行こうゆうて誘ってくれて、ほんまに、ありがとう。
あのころは岳人も背が低くてかわいかったから、なんやおれがめんどう見な!って思とったけど、いつの間にか背中をまかせれるようになっとったなぁ。ダブルスやから背中じゃなくて前か?上か。
岳人はおれのことどう思っとるんやろな。
それを知るのがちょっとこわいような気もするんや。もしかすると岳人とおれの気持ちは全然別なのかもしれへん。でも、もしも一緒なら、おれはめっちゃ幸せや!そのときはきっと岳人よりも高く高く跳べるはずや。岳人が嫉妬するくらいな(笑)
おれは岳人とどんな時間をこれから過ごすんやろうなあ。
一緒にテニスの試合勝ち進んで、卒業して高校生になって大人になって、いろんな物を見て、いろんな事を知って、合宿じゃなく旅行とかも行ったりするんやろか。(そんときはいっつも朝寝坊な岳人を起こしてやらなあかんな)
いや、これはもう過去形で書くべきやな。
おれは岳人とどんな時間を過ごしたんやろうなあ。
一緒にテニスの試合勝ち進みたかった。卒業して高校生や大人になりたかった。いろんな物を見たかった。いろんな事を知りたかった。合宿じゃなく旅行とかも行ってみたかった。(そんときはいっつも朝寝坊な岳人を起こしてやりたかったで)
岳人がこれを読んどるっつーことは、おれはもうこんな事ができないんやな。
この手紙、授業中に書き終わらんかったから持って帰って部屋で書いとる。いつもは夜になっても近所の音がうるさいんやけど、今日はなんや静かやな。今夜は近所でオバハンが布団たたいとらんし、暴走族と警察のカーチェイスもない。いつもなら跡部とかからメールもくるんやけど今夜はケータイも鳴らへん。さっきベランダに出たらきれいな月が出とったで。
とっても静かな夜や。
岳人に頼みがあるんやけど、この手紙読み終わったら1年間はおれのことを覚えててほしいんや。
テニスをしているとき。部屋でゴロゴロしてるとき。散歩しているとき。勉強しているとき。隣におれがどんなに一緒にいたかったか、思い出してや。それで、1年経ったら岳人は前だけ見て生きてほしいんや。おれじゃない新しい親友を作って、そいつと一緒に楽しく生きてほしい。おれのことは忘れてくれてええで。
こないだの合宿で、いつもはおれが先に起きて岳人のこと起こしとったけど、最後の1日だけ岳人に起こされたことあったやろ。あんときは朝からめっちゃ驚いたけど、なんや妙にうれしかったんや。
でも、もう起こさなくてええで。
もう起こしてくれなくてええんや。
なんでおれは岳人に「大事や」て言わんかったんやろなぁ。
そうや!次の試合が終わったら、おれは岳人に今度こそ言うで!
手紙で書けたのに言えないことないんや!
次の対戦校には思いっきり余裕かまして、いつもどおり岳人とダブルスでたたきのめしてやるわ!そんで岳人に、たった一言で今までの関係が大きく変わるようなこと言ったるで!
そのときが今から楽しみや。
忍足 侑史
P.S
はずしたばかりのおれの一部を一緒に入れておく。たまにこれを付けて蒼い空を見上げて、おれのこと思い出してな。
どうかおれの気持ちが岳人のそれと同じであるように。
ずっとずっと、永遠であるように。
「・・・なんだよ、これ」
あるマンションの一室。遅めの朝の光が窓から差し込んでいる。
「岳っく〜ん。お手紙なんやったぁ〜〜?」
侑史はベットから寝ぼけた声を上げた。岳人の位置からは布団がもぞもぞと動いている姿と枕にちらばった長めの髪しか見えない。そういえば切りに行きたいといいながら延ばし延ばしになっている。
「あ、あ〜・・・。ダイレクトメールだよ。わりぃ侑史宛だったけど開けちゃった」
「そっか〜〜」
郵便配達人の鳴らしたチャイムに出た岳人は読み終わった手紙から顔を上げて応えた。手の中にはやや古めの便せんの他に『先日の同窓会でタイムカプセルを開けました。同席できなかった分は本人宛に返送します。第×期氷帝学園中等部卒業生様』と書かれた、中学校の時の元担任からの手紙。
「俺が勝手に捨てるのもなんだから戻しとくよ。使わない旅行カバンにでも入れとくから後でゆっくり見ろよ?ホント、後ででいいから」
「ん〜〜・・・」
岳人はいそいそと手紙を戻しながら応えた。それに応える侑史の声はだんだんと小さくなり、寝息に溶けていった。
岳人は手紙を封筒に戻すと、中に入っていたちょっと型遅れなメガネを取り出し自分の顔にかけてみる。レンズに度は入っていないらしく、メガネ越しに寝返りを打つ侑史の姿が歪まずに見えた。
END
ま、ぶっちゃけ『アリソン』ネタです。
会社で記憶だけを頼りに書いたので、かなりはしょってますな。関西弁も怪しいし一人称も怪しいし。
アリソンの遺書はスンゴイ感動しますよ!保証しますよ!!