57 USPQ2d 1553
パイオニア・マグネティック社 対 マイクロ・リニア社
Pioneer Magnetics Inc.社 対 Micro Linear Corp.社
アメリカ連邦巡回控訴裁判所

No.00-0012
2001年1月23日


特許
 侵害−控訴−審査経過禁反言(§120.1105)
    特許弁護士の申立てに示された係争のクレーム限定への追加が不注意によるもの
   との原告の主張は、原告が審査経過禁反言の発動を免れるのを、許容するものでは
   ない。その理由は、審査経過禁反言のみが、クレーム補正の理由を決定付けるもの
   であり、弁護士の申立ては考慮されないし、また審査経過禁反言は、クレーム補正
   の理由が不注意にあったことを、示していないからである。

 侵害−控訴−審査経過禁反言(§120.1105)
    原告が不注意にも権利主張されているクレームに限定を付加したとの、原告の主
   張は、審査経過禁反言の禁止を克服するには不充分な理由である。それは、草稿さ
   れた特許のクレームが誤りの侭認可された否かの判断を、特許権者の競争相手に強
   いることにより、特許の持つ公示機能が、危うくされるからであり、また特許申請
   者が、審査過程での補正によるか、或いは再発行による範囲の拡大を求めることに
   より、クレームの草稿の誤謬を矯正する機会が多いからである。

 侵害−控訴−審査経過禁反言(§120.1105)
    クレーム補正が自発的になされたという単なる事実は、審査経過禁反言の発動か
   ら原告を守らないし、特許性に関連した理由でなされたクレーム範囲の自発的な減
   縮補正は、補正されたクレーム要素につき審査経過禁反言を生じさせる。

 侵害−控訴−審査経過禁反言(§120.1105)
    審査経過禁反言は、電力供給での訴追された特許クレームは、審査官がスウィッ
   チ無し増幅器という先行技術引用を開示したことに鑑み、当初のクレームを拒絶す
   る先行技術を避けるべく“スウィッチ”限定が付加されたことを示している。更に、
   原告がアナログ・スウィッチ増幅器を含ませ、引用の先行技術との区別を出したか
   らである。;“スウィッチ”限定がクレームの許容には不要であったとの原告の主張
   には、価値がない。というのは、主張されたクレームの特許性は、スウィッチ増幅
   器を含めた記述された結合の新規性に依るからである。また、“スウィッチ”限定
   の付加が、審査官の予想された拒絶に反応してなされ、原告が先行技術と区別する
   のに役立ったからである。

当該特許−電気関係−電力供給
 466,677,366 Wilkinson and Mandelcorn

 定電圧・流/電力供給
非侵害容認の略式判決

カリフォルニア州中央地区管轄アメリカ地方裁判所よりの控訴
 判事 J. Baird
パイオニア社(Pioneer Magnetics Inc.)からマイクロ・リニア社(Micro Linear Corp.)に対する侵害訴訟。原告が非侵害の略式判決を求め,容認判決。
 Oppenheimer, Wolff & Donnelly 社(カリフォルニア州ロサンゼルス在)のMarc E. Brown氏とGeorge L. Fountain氏が、原告―控訴人側。
 Wilson, Sonsini, Goodrich & Rosati社(カリフォルニア州パロアルト在)のVera M. Elson氏、Michael A. Ladra氏、Behrooz Shariati氏とRoger J. Chin氏が、被告―被控訴人側。
 裁判長 Mayer, C. J.判事 Newman、Lourieの両巡回判事 立会

Mayer, C. J.判事
 パイオニア社のカリフォルニア州中央地区管轄アメリカ地方裁判所への控訴に対し、本件No. 95-CV-8307の、その訴追された製造物のどれについても米特許No.4,677,366(‘366特許)に対する侵害はないとのマイクロ・リニア社への略式判決が容認された。その理由は、両当事者が文言上の侵害有無については争わず、審査経過禁反言が均等の原則の下での侵害を阻止すると地方裁判所が判決したが、それは妥当だからである

背景
 パイオニア社は、「定電圧・流/電力供給」に向けた‘366特許を保有している。この特許は、異なる電圧の電流を投入しても、常に一定の電圧を出力する電気回路を記述しており、それにより他の回路への一定の電流供給を可能ならしめるものである。
‘366特許は、4つのクレームから成る。:即ち、独立のクレーム1と従属のクレーム2−4から成り立つ。クレーム1の関連部分の記述は、「切替による電力供給では、つまり整流器が交流電流線に取り付けられ、ブースト変圧器が整流器の出力電流に取付けられ、…制御回路…、電圧エラーの増幅器を含む制御回路…、アナログの切替増幅回路…、電流調整増幅器…、パルス幅調整器付きの回路を意味し…」366特許 コラム 6, 11. 7-38(強調部分を追加した。)
クレーム2は、これも訴審査経過禁反言に関連して、次ぎのように記述している。「増幅器が切替タイプであり、また調整回路にタイマーと上記切替増幅器に時計信号を送ると共にパルス幅調整器にランプ信号を送るランプ信号発生器が付き、クレーム1で定義された結合」同上のコラム6、11、39-43
 パイオニア社の特許弁護士、Keith Beecher氏が申請書を提出し、それが1986年5月12日‘366特許認可された。申請書には、9つのクレームが含まれ、クレーム1のみが独立クレームで、2−9のクレームは従属であった。これらオリジナルクレームの内の4つは、当面する問題に関連している。
 クレーム4.クレーム3で定義された結合は、増幅器を含む回路と述べられていた…
 クレーム5.クレーム4で定義された結合は、回路は…を意味し…
 クレーム6.クレーム5で定義された結合は、最終的に名付けられた前述の回路は、
パルス幅調整器を含み…
 クレーム7.クレーム6で定義された結合は、増幅器が切替タイプであり、また調整回路にタイマーと上記切替増幅器に時計信号を送ると共にパルス幅調整器にランプ信号を送るランプ信号発生器が付くと記述された。(強調部分を追加した。)
 審査官は、オリジナルのクレーム1と8―9を、特許法102条(b)に基づき、米特許No.4,437,146(Carpenterカーペンター引用)より自明であるとして拒絶した。その引用は切替増幅回路やパルス幅調整器を表示しなかった。また審査官は、オリジナルクレーム6を、特許法112条第2項に基づき、「最終的に名付けられた前述の回路の語句は、クレームに適切な先行的限定部分がなく」、不明確であるとして拒絶した。クレーム7はクレーム6に依存しており、同じ基準で拒絶された。
 パイオニア社は、この拒絶を争わず、代りに、クレーム1と7を補正し、クレーム2−6を取下げた。クレーム1への補正には、クレーム2−6を移し入れ、オリジナルクレーム5に於ける「回路の方法」を「パルス幅調整器を含む回路の方法」に変え、オリジナルクレーム4の「増幅器」を「切替アナログ」増幅回路に変えた。パイオニア社が、補正申請の注釈の部分で説明している。
 引用のカーペンター特許No.4,437,146には、補正後のクレーム1に述べられた特定の結合がないことは、明らかであると信じられる。クレーム1は、オリジナルクレーム6の独立フォームのものであり、そのクレーム6は米特許法112条に基づく欠陥を克服するために補正されたと認められる。
 補正クレーム1がオリジナルクレーム2−6を組み入れたものだと2度も述べながら、パイオニア社は、オリジナルクレーム1−6に無かった「切替アナログ」という限定の理由を説明しなかった。
 その注釈で述べているように、パイオニア社はオリジナルクレーム7(最終的にクレーム2とした)を、補正クレーム1に従属するものとし、クレーム7に記述された切替増幅器を「パルス幅」タイプに特定した。1987年1月21日に、審査官がBeecher氏と電話インタビューをして、「パルス幅」限定を削除する補正を提案した。この追加補正の結果、当特許が1987年6月30日に発出された。
 その後8年以上経過した1995年12月14日に、パイオニア社がマイクロ・リニア社を相手に侵害を主張して訴訟を起こした。クレームの解釈を求める申立ての中で、両当事者は法廷に「切替増幅器」の均等を確認するように、また審査経過禁反言により阻止されるものかどうかを確定するよう依頼した。この申立ての支持のためとして、パイオニア社は、Beecher氏が自分の軽率により「切替」限定が付加されたとの証言を出した。「切替なしの増幅器」は、特許商標局による先行技術に照らしクレームの特許性に関して起こり得る拒絶に対応するために、限定を加えた減縮クレーム1の範囲外であると、法廷は断じた。この裁決に基づき、両当事者は、マイクロ・リニア社に、訴追された同社の製品が、‘366特許の何れのクレームも侵害しないことを認める略式判決と、審査経過禁反言が「切替アナログ増幅回路」を含むクレームの侵害を阻むことを、認容した。地方裁判所は、この認容を支持し、非侵害の最終判決を下した。

討議
 私達は、新たに地方裁判所の略式判決をレビューしてみる。以下参照 Vanmoor社 対 Wal-Mart Stores社 201 F.3d 1363, 1365, 53 USPQ2d 1377, 1378 (Fed. Cir. 2000年) (Petrolite社 対 Baker Hughes社 96 F.3d 1423, 1425, 40 USPQ2d 1201, 1203 (Fed. Cir.1996年)を引用). 審査経過禁反言が、新たなレビューでの法的問題となる。Cybor社対 FAS Techs社 138 F.3d 1448, 1459-60, 46 USPQ2d 1169, 1177-78 (Fed. Cir. 1998年) (全裁判官法廷) (引用省略)
 文言上クレームを侵害しない訴追された装置が、文言上または均等上、クレームの各範囲に、訴追された装置に該当するならば、侵害はあり得る。Warner-Jenkinson社 対 Hilton Davis化学社 520 U.S. 17, 40, 41 USPQ2d 1865, 1875 (1997年)参照
審査経過禁反言は、審査過程で特許性の故にその範囲が減縮されたクレーム範囲の均等を拒絶することにより、均等の原則の制限する働きをする。クレーム補正が審査経過禁反言を生じさせるか否かを決めるのに、法廷は先ず均等の対象となるクレームの範囲を確定せねばならない。Festo社 対 燒結金属工業(株)234 F.3d 558, 586, 56 USPQ2d 1865 1886 (Fed. Cir. 2000年)(全裁判官法廷)ここでは、パイオニア社が、「切替アナログ増幅回路」が均等に該当し、その「増幅器」から「切替アナログ」増幅器へのクレーム補正が、クレームの文言上の範囲を減縮したと認めていることについての争いはない。
 次ぎに法廷は、申請者が何故補正したか、その理由を調べねばならない。Warner-Jenkinson社 520 U.S.の32-33、41 USPQ2dの1872-73 Festo社 234 F.3dの565、586 56 USPQ2dの1869-70 特許権者に、補正の理由が特許性のに関係ないことの立証責任を、課している。Warner-Jenkinson社 520 U.S.の33、41 USPQ2dの1873 Festo社 234 F.3dの586 56 USPQ2dの1886 参照 補正の理由が審査記録から特許性に関係ないとされた時、禁反言を阻止するか否かを決めるために、法廷はその目的を検討せねばならない。Warner-Jenkinson社 520 U.S.の40-41、41 USPQ2dの1873 Festo社 234 F.3dの565-66
569, 585 56 USPQ2dの1870, 1872, 1886 何等の説明も立証できない時に法廷は、申請者が補正には特許性に関連した理由があるものと推定しなければならない。同上 その場合、審査経過禁反言が、範囲に関しての均等の原則の発動を阻む。同上
 それ故、補正のために提示された理由を吟味する。パイオニア社は、「切替」限定を特許への法的要件により動機づけられたものではなく、不注意に付加したものだと主張する。この「切替」限定が誤ってなされたことの根拠として、(1)Beecher氏の証言(2)補正クレーム1がオリジナルクレーム2−6を組み入れたという特許申請の部分(3)補正クレーム1が「切替」限定を含むと読むことは、補正クレーム2に照らし余分であるとの主張を挙げる。

 この議論は説得力なし。第一に、Beecher氏の証言は、クレーム補正の理由としてなされたものと考える。特許審査の公的記録、つまり審査経過のみが、そのような理由の基礎になるものである。Festo社 234 F.3dの586 56 USPQ2dの1886 第二に、審査経過は、「切替」語句への補正の理由が不注意なものであったと示していない。補正の注釈部分が、パイオニア社クレーム1を補正し、クレーム6が独立フォームであると述べているのは、パイオニア社は意図的にクレームを変更したが、不注意にも注釈を改訂し忘れたということもあり得る。最後に、クレーム2はクレーム1の余剰部分ではない。その理由は、それが追加の限定「タイマーとランプ信号発生器…」を含むからである。‘366特許 コラム 6, U, 41-43

 その補正についてのパイオニア社の説明を受け入れるとしても、不注意は本件の事実についての審査経過禁半言による阻止を克服するに充分な理由にはならない。特許権者の競争相手に、草稿された特許クレームが誤りの侭認可されたのかとの推測を強いることにより、特許の公示機能を危うくし得る。参照 Festo社 234 F.3dの576-77, 56 USPQ2dの1878(特許クレームの限定機能・公示機能と、審査経過禁半言の分野での投機的な詮索の助長を嫌がることを強調している)特許申請者は、そのクレームの草稿を修復するための機会が多数ある。まず審査過程で補正することが出来る。参照 Solomon社 対 Kimberly Clark社 216  F.3d 1372, 1378, 55 USPQ2d 1279, 1282 (Fed. Cir 2000年)(引用は省略)(クレームの補正が可能な特許審査過程で、曖昧さが認識され、記述言語の範囲や幅が探られ、明確化が強いられる…特許審査の本質的な目的は、正確で、明白で、正しくかつ意味明快なクレームを形成することにある。このようにしてこそ、執行過程でクレーム範囲の不確定性を出来る限り除去され得る。)また特許権者は、特許法251条の規定に基づき、2年以内にの再発行によりクレームを拡大することが可能である。(1994年)

 更にパイオニア社は、クレーム1への「切替」限定を付加した補正は、自発的になされたもので、先行技術などによる拒絶の克服のためになされたものではないと主張する。しかしながら、フェスト判例が明示しているように、単に補正が自発的になされたという事実のみでは、審査経過禁半言を免れない。自発的な補正は、他の補正と同様に扱われる。従って、特許の法的要件に関連した理由からクレーム範囲を減縮した補正は、補正されたクレーム要素につき審査経過禁半言を発動させる。Festo, 234 F.3d の 568, 56 USPQ2dの1871
従って、私達はパイオニア社が、特許に関連しない補正理由を立証出来なかった
と断ずる。私達の調べた審査経過から、補正が先行技術を避けるためになされたも
の、つまり、審査経過禁半言の発動の典型的な基礎となるものだと確信する。
Warner-Jenkinson 社 520 U.S. の30-31 また Sextant Avionique, S.A.社 対
Analog Devices社 172 F.2d 817, 826, 49 USPQ2d 1865, 1871(Fed. Cir. 1999年)
(Bai社 対 L & L Wings社 160 F.3d 1350, 1355, 48 USPQ2d 1674, 1677 (Fed. Cir.
1998年)を引用)(審査官からの特許不可としての拒絶への明らかな対応としてのク
レームに対する実体的な補正は、審査経過禁半言を生じさせる。)

 審査経過によれば、審査官が、カーペンター判例引用により、クレーム1−5と8−9を拒絶した。それは、カーペンター発明には切替なしの増幅器があることを意味する。パイオニア社は、クレーム1を切替アナログ増幅器を含むものに補正し、カーペンターに対する‘366特許の区別を付けた。従って、この限定の追加は、先行技術を避けるためになされたものである。
   パイオニア社は、「切替」限定がこのクレームの容認のために不要であったと主張
  することにより、この結論を避けようと試みる。同社発明のカーペンター特許に対す
  る区別を付けるために、「切替」限定を付けたのではなく、パルス幅調整器を付加し
  たのだと強調する。パイオニア社によれば、審査経過からして、クレーム1は「切替」
  限定なしで容認されていたであろうとする。というのは、審査官が第1回の拒絶で、
  先行技術によりクレーム6(パルス幅調整器の限定を含むが、「切替」限定は含まな
  いもの)を拒絶するとは述べず、単に112条の不適当な先行的限定によると述べたに
  過ぎないからだとする。
    ある特定の単一補正が、特許審査に重要なものだとは考えない。フェスト社 234
   F.3d の 576-77, 56 USPQ2d at 1879 (Hubbell社 対 United States, 179 U.S. 77,
84 (1900年)を引用) クレーム1は、結合クレームである。その特許性は、切替増
   幅器を含む補正後クレーム1の記述結合の新規性如何による。参照 同上の590-91,
  56 USPQ2dの1889-90 その上、審査経過によれば、。パイオニア社は要素の結合が
  特許容認に重要であったことを認めている。特許商標局への注釈で、カーペンター特
  許4,437,146には、補正クレーム1に述べられたような特定の結合が示されていない
  と陳述している。(強調部分を追加)審査経過からは、引用カーペンター特許克服に
  は、パルス幅調整器の追加のみで充分であったかどうかは分からないが、「切替」限
  定の付加が、審査官の予想拒絶に対応したものであり、パイオニア社をして先行技術
  との区別を付けるのに役立った。参照 Bai社 160 F.3d の1356, 48 USPQ2d の1678-79
  (その限定が先行技術に対して当該発明を区別するような追加の限定がなかりせば、
  審査官がそのクレームを容認したであろうかとの考察を拒否している)従って、審査
  経過は、先行技術を避けるために、特許性に関連する理由により補正がなされたこと
  を示している。
   特許性との関連の故になされた減縮されたクレーム限定には、何等の均等の範囲も
  与えることが出来ない。フェスト社 234 F.3dの574, 56 USPQ2dの1877  従って、
  パイオニア社は、禁反言により‘366特許クレームの「切替アナログ増幅回路」限定の
  均等を求めることは出来ない。両当事者が認めたので、これらの問題についての判決
  は、方向性の点で決定的である。故に、残余の問題に触れる必要はない。

判決
故に、カリフォルニア州中央地区アメリカ地方裁判所の判決を、
支 持 す る。