56 USPQ2d at 1865

フェスト社 対 燒結金属工業株式会社
(Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co.)




アメリカ連邦控訴裁判所

No.95-1066
判決日:2000年11月29日



特許

[1] 侵害−均等の原則−概括(§120.0701) 
     侵害−抗弁−審査経過禁反言(§120.1105)
 法定要件に関連した如何なる理由による特許クレームへの減縮補正も、その補正されたクレームエレメントについての審査経過禁反言を生じさせる。というのは、審査経過禁反言を生じさせる『特許性に関連した重要な理由』でなされた補正は、先行技術の克服や回避に限定されないからである。;告知機能の維持と、特許権者が均等の原則に基づき放棄された従属項の“回復取得”することの否定という、この原則の目的は、『重要な理由』が、特許に関連する全ての問題に意味しないと、完全には実現できない。

[2] 侵害−抗弁−審査経過禁反言(§120.1105) 
 自発的に、或るいは審査官の要請に基づきなされた特許クレームの補正は、その補正されたクレームエレメントについての審査経過禁反言を生じさせる。というのは、何れの補正も公衆に、従属項は放棄されたからであり、また審査過程で自発的になされた供述は、それが従属項の放棄を証しているならば禁反言を生じさせるとする、主張に基礎を置く原則とも合致するからである。

[3] 侵害−審査経過禁反言−概括(§120.0701)
侵害−抗弁−審査経過禁反言(§120.1105)
 審査経過禁反言は、クレームの範囲が特許性に関連しているとの理由で減縮された場合、均等の原則の適用を完全に否定する働きをする。というのは、均等の原則の可能な限りのすべての適用を排除しないところの『弾力的な否定』の下では公衆は、放棄された従属項の範囲を適切に知らされず、特許の告知機能が減殺されるからであり、また補正は特許権者に対して厳格に解釈されるべきであるからであり、更に『完全否定』下では、公衆が審査経過の禁反言を明確に判定でき、存するであろう正確な均等域について憶測する必要がなくなり、放棄された従属項の範囲を決めるために、訴訟に依る必要がなくなるからである。

[4] 侵害−均等の原則−概括(§120.0701)
    侵害−抗弁−審査経過禁反言(§120.1105)
審査経過禁反言は、補正の理由が証されなければ、均等の原則の適用を完全に否定する。というのは、補正理由の説明の欠如は、審査経過禁反言の推定を起こさせ、このような推定から生じた禁反言はその補正された限定については全てであると、看倣されるからである。

[5] 侵害−抗弁−審査経過禁反言(§120.1105)
 特許審査経過が、補正の理由が特許性に関連しないことを示さない限り、特許クレームの範囲の減縮補正は、審査経過禁反言を生じさせる。というのは、そのように解釈しないと、特許記録の公衆への告知機能が損なわれるからである。;従って、特許権者は、クレーム補正の理由を、もっぱら公式記録の中から立証する責任を負う。

[6] 侵害−均等の原則−概括(§120.0701)
 法廷は、『オール・エレメント・ルール』を適用すべきであり、もし法廷が、その原則に基づく侵害が、当該クレームエレメントを『完全に無効に』するものであろうと判定すれば、均等の原則に基づく侵害はないと判定すべきである。というのは、告訴された装置に、クレームの1つのエレメント、またはその均等物すらが無いことになれば、均等の原則に基づく侵害はあり得ないからである。

[7] 侵害−抗弁−審査経過禁反言(§120.1105)
     特許構成−クレーム−広狭(§125.1303)
 告訴された、磁化不可能のスリーブを用いた、磁気により結合された無ロッド・シリンダーは、均等の原則に基づいて訴訟中の特許を侵害するものではない。というのは、磁化可能のシリンダー使用を記述した補正は、その追加されたエレメントが、原クレームの修正でなく、それを置換したものであったにせよ、申請されたクレームの文言上の範囲を減縮したからであり、審査経過からは、補正の理由が明らかでなく、また磁化可能スリーブが特許性に関連なく単に明確化の目的で追加されたとのしるしもなく、従って、補正が審査経過禁反言を生じさせ、それが均等の原則の適用を完全に否定するからである。



[8] 侵害−抗弁−審査経過禁反言(§120.1105)
     特許構成−クレーム−広狭(§125.1303)
     特許構成−クレーム−手段(§125.1307)
 主張された装置のピストン上のガイド・リングの軸方向の外側に『シーリング・リング』を追加した、磁気結合された無ロッド・シリンダーに対するクレーム補正は、当該クレームの範囲を減縮した。というのは、その補正が、シーリング・リングのエレメントを記述した独立のクレームの代わりに、新規にそのような記述のない独立のクレームで代替させたからである。;その補正が、単に手段プラス機能表現<機能を有する手段>を、それに相当する構造物で置換されただけにせよ、クレームは減縮されている。というのは、手段プラス機能の表現に記述されたクレームエレメントは、文言上相当する構造物とその均等を含んでいるが、それに相当する構造物を記述するエレメントには、構造物の均等を含まないからである。

[9]侵害−抗弁−審査経過禁反言(§120.1105)
 主張された装置のピストン上のガイド・リングの軸方向の外側に『シーリング・リング』を追加した、磁気結合された無ロッド・シリンダーに対するクレーム補正は、特許性に関連する理由でなされた。従って、審査経過禁反言を生じさせ、このクレームエレメントについての均等の原則の適用を否定する。というのは、問題の補正が、米特許法112条の拒絶への対応としてなされたものであり、法規を充たすためになされた補正は、特許性に関連する理由でなされたと看倣され、また補正に付帯された供述が、先行技術と区別するためになされたからである。

[10]侵害−抗弁−審査経過禁反言(§120.1105)
     特許構成−クレーム−広狭(§125.1303)
 主張された装置のピストン上に『1対の弾力性のあるシーリング・リング』を追加した、磁気結合された無ロッド・シリンダーに対するクレーム補正は、審査経過禁反言を生じさせ、かくして、クレームエレメントについての均等の原則の適用を排除する。というのは、その補正が原クレームを、1対のシーリング・リングを記述した独立クレームで置換え、係争のクレーム範囲を減縮しており、更に、補正に付帯された供述が、その補正が特徴を有する結合を明示するためと、先行技術と区別するために役立ったことを立証しているからである。

 当該特許−General and mechanical<一般及び機械>−無ロッド・シリンダー
 3,779,401 Carrol(キャロル)物体の移動のための気圧による装置。均等の原則に基づ
く侵害判決を逆転・破棄とする。
 4,354,125 Stoll(ストール) 磁気結合された駆動・被駆動部材。均等の原則に基づ
く侵害判決を逆転・破棄とする。

 アメリカ連邦最高裁判所よりの差戻し
 フェスト社より燒結金属工業株式会社とSMC Pneumatics Inc.に対し、特許侵害の訴訟が、マサチュセッツ地方裁判所に提訴された。被疑者は、係争の一つの特許に対する略式裁判の侵害判決につき、また二番目の特許に対する陪審審判後の侵害判決につき、控訴した。その結果、地方裁判所の判決が支持された。(37 USPQ2d 1161)被疑者が、最高裁判所に移送命令を申請しその申請が認められ、更に無効判決と再審理差戻しと続き、1999年4月19日に地方裁判所の判決が一部支持され、一部無効と裁決された。(50 USPQ2d 1385)被疑者の全裁判官による再審理申請が認められ、4月19日の判決は無効とされ、その付帯意見も撤回された。(51 USPQ2d 1959)全裁判官出席再審理では、地方裁判所の判決が破棄された。

Plager(プレーガー)判事: 支持するが、個別の意見を付ける
Lourie(ロウリー)判事:  支持するが、個別の意見を付ける
Michel(ミッシェル)判事: 一部支持、個別意見を付け一部反対。その個別意見をRader
             判事も支持
Rader(レイダー)判事:   一部支持、個別意見を付け一部反対。その個別意見をMichel
             判事とLinn判事が支持
Linn(リン)判事:     一部支持、個別意見を付け一部反対。その個別意見をRader
             判事が支持
Newman(ニューマン)判事:一部支持、個別意見を付け一部反対

 Hooffmann & Baron社(Syosset, N,Y.州所在)のCharles R. Hoffmann(ホフマン)、Gerald T. Bodner(ボッドナ−)、Glenn T. Henneberger (ヘネバーガー)、Anthony E. Bennett(ベネット)の各氏が原告・被上訴人側に

Oblon, Spivak, McClelland, Maier & Neustadt社のArthur I. Neustadt(ノイシュタット)、Charles L. Gholz(ゴルツ)、 Robert T. Pous(パウス)の各氏が被告・上訴人側に

Finnegan, Farabow, Garrett & Dunner 社(Washington, D.C所在)のJ. Michael Jakes(ジェイクス)、American Intellectual Property Law Association(アメリカ知的財産権協会、Arlington所在)のLouis T. Pirkey(パーキー)、Knobbe, Martens, Olson & Bear社 (Newport, Calif.所在)のJoseph R. Re(リー)の各氏がアメリカ知的財産権協会の法廷助言者として

Bright & Long社(Los Angeles, Calif.)のFrederick A. Lorig(ロリッグ)、Hogan & Hartson社(Washington)のJohn G. Roberts Jr.(ロバート Jr.)とCatherine E. Stetson (ステッソン)、Pennie & Edmonds 社(New York, N.Y)のRory J. Radding (ラディング)、Pennie & Edmonds社( Washington)のStanton T. Lawrence III(ローレンス3世)とCarl P. Bretscher(ブレッチャー)の各氏がLitton Systems社の法廷助言者として

 Pillsbury, Madison & Sutro社(Washington)のWilliam P. Atkins(アトキンス)、 Kendrew H. Colton(コルトン)、Michael A. Conley,(コンレイ)、Shamita D. Etienne-Cummings,(エティネ・カミング)Barbara M. Flaherty(フラーティー)の各氏が、Columbia 地区法曹協会の特許・商標・著作権関係の法廷助言者として

 Roddy M. Bullock(バロック)氏, (Cincinnati, Ohio在住)が The Procter & Gamble 社の法廷助言者として

 Irell & Manella社(Los Angeles)のMorgan Chu(チュー)Perry M. Goldberg(ゴールドバーグ)、 Laura W. Brill(ブリル)の各氏がHewlett-Packard社の法廷助言者として

 Morgan & Finnegan社(New York)のChristopher A. Hughes (ヒューズ)とMark J. Abate (アベイト)、IBM社(Armonk, N.Y.)のFrederick T. Boehm(ボーエム)、Kevin M. Jordan(ジョーダン)、Pryor A. Garnett(ガーネット)、 Mark F. Chadurjian(チャデューリァン)、 Eastman Kodak社(Rochester, N.Y)のJ. Jeffrey Hawley(ホーリー)
Ford Motor社(Dearborn, Mich.)のRoger L. May(メイ)の各氏がIBM社、Eastman Kodak 社、Ford Motor 社の法廷助言者として

 Conley, 'Rose & Tayon社(Houston, Texas)のJonathan M. Harris(ハリス)と Fulbright & Jaworski 社のJames W. Repass(レパス)の両氏がヒューストン知的財産権協会の法廷助言者として

 裁判長のMayer(メイヤー)判事、Newman、Michel、Plager、Lourie、Clevenger(クレベンガー)Rader、Schall(スコール)、Bryson(ブライソン)、Gajarsa(ガジャーサ)、 Linnと巡回裁判所のDyk(ダイク)の下に裁判がなされた。

Schall判事;
 これは、マサチュセッツ地区の地方裁判所が、燒結金属工業株式会社(SMC Corporationとして知られている)とSMC Pneumatics, Inc.(両社を合わせて以下“SMC”と呼ぶ)がFesto Corporation(“Fest”と呼ぶ)の所有する二つの特許、US 特許No.4,354,125(Stoll特許)とUS 特許No. B1 3,779,401(Carroll特許)を侵害したとの判決についての控訴である。Warner-Jenkinson社 対 Hilton Davis Chemical社に対する最高裁判所判決 520 U.S. 17[41 USPQ2d 1865](1997年)に従って、この事案を取り上げ、全裁判官法廷に提示し、残存する均等の原則に関する諸問題の解決をしようと図った。特に、下記の5つの質問に対する回答を、再審理の全判事に求めた。

1.クレーム補正が審査経過禁反言を生じさせるか否かを決める目的での、『特許に関連する重要な理由』は、(Warner-Jenkinson社 対 Hilton Davis Chem.社, 520 U.S. 17, 33, 117 S. Ct. 1040, 137 L.Ed.2d 146 [41 USPQ2d 1865] (1997年)参照) 102条と103条に基づく先行技術を克服するための補正に限られるか、それとも『特許性』は特許許可に影響する如何なる理由をも意味するのか?

2.Warner-Jenkinson判決下で、『自発的な』クレーム補正、つまり審査官によって要請されていない補正又は法定理由に基づく審査官による拒絶の応答としてなされた補正は、審査経過禁反言を生じさせるか?

3.もしWarner-Jenkinson判決下でクレーム補正が審査経過禁反言を生じさせるとすれ
ば、均等の原則に照らし、仮にあるとすれば、そのように補正されたクレームエレメ
ントの均等域は何か?

4.(クレーム補正についての)『説明が立証されない』場合、Warner-Jenkinson, 520 U.S. at 33, 117 S. Ct. 1040、かくしてWarner-Jenkinson判決下禁反言が発動したとき、均等の原則に基づき、仮にあるとすれば、そのように補正されたクレームエレメントの均等域は何か?

5.本事案での侵害判決は、Warner-Jenkinson判決での要件、即ち、均等の原則の適用においては、『総体としてのクレームエレメントを除去する』程広範囲なものとしてはならないとの要件に違反するだろうか?520 U.S. at 29, 117 S. Ct. 1040 換言すれば、Warner-Jenkinson判決後において、そのような判決は、オール・エレメント・ルールに違反するだろうか? Festo社 対 焼結金属工業(株), 187 F.3d 1381 1381-82 51 USPQ2d 1959 1959-60(Fed. Cir.1999年)(『Fest V』) 

全裁判官法廷へのこれらの質問に対する私達の回答の簡単な要約とその回答が本訴の処理に如何なる影響を与えるかの大要を述べることから始める。

全裁判官法廷の質問1.への応答として、『特許性に関連した重要な理由』は、先行技術の克服に限定されず、特許の法定要件に関連する他の理由も含まれると、私達は判断する。従って、特許の法定要件に関連する如何なる理由によりなされてもクレーム範囲を減縮した補正は、クレームエレメント<要素>に関する審査経過禁反言を生じさせる。
<脚注1;従前の事案では、“element=エレメント”と“limitation=限定”との両方の用語を使用した。参照 Lemelson社 対 アメリカ合衆国, 752 F.2d 1538 1551 224 USPQ 526, 533(Fed. Cir. 1985) (“element”の用語を使用) Sextant Avionnique, S.A.社 対 Analog Devices社, 172 F.3d 817 826-27, 49 USPQ2d 1865 1870-71 (Fed. Cir. 1999年)( “limitation”の用語を使用)の例を参照。クレーム用語に言及するときには、“limitation”という語を使い、被疑者の装置に言及するときには、“element”という語を使うのが望ましい。参照 Dawn Equip.社 対 Kentucky Farms社, 140 F.3d 1009, 1014 n.1, 46 USPQ2d 1109 1112 n.1, (Fed. Cir. 1998) しかし、全裁判官法廷では“element”という語を使用しているので、私達も意見の中では、この語を使う。>
全裁判官法廷の質問2.への応答として、自発的なクレーム補正は、他のクレーム補正と同様に扱われるべきだと、私達は判断する。従って、特許の法定要件に基づき自発的にクレーム範囲を減縮した如何なる補正も、補正されたクレーム要素に関する審査経過禁反言を生じさせる。
全裁判官法廷の質問3.への応答として、クレーム補正が審査経過禁反言を生じさせるときは、補正されたクレームエレメントについて均等域はないと、私達は判断する。
全裁判官法廷の質問4.への応答として、『説明されない』クレーム補正について均等域はないと、私達は判断する。
全裁判官法廷の質問5.については、この当面の事案審議の中で後程明らかになるので、触れなかった。

 全裁判官法廷の質問に対する私達の回答に従って、Stoll特許のクレーム1とCarroll特許のクレーム5、6、9が侵害されたとの判決を、私達は破棄・逆転する。均等により侵害されたと看倣されたクレームエレメントは、Stoll特許の審査とCarroll特許の再審査の過程で追加された。これらのエレメントを追加した補正は、クレームの範囲を減縮した。Festoは、これらの補正が特許性に関連ないことの説明をしていない。拠って、補正されたクレームエレメントには、均等域はない。当事者双方は、SMCがこのクレームエレメントを文言上充たす装置を作っていないことに同意するので、侵害の判決は破棄・逆転されねばならない。
 第T節は、均等の原則と審査経過禁反言についての簡単に鳥瞰し、第U節は、Warner-Jenkinsonの最高裁の判断について審議し、第V節は、全裁判官法廷の質問に対する私達の回答を述べる。第W節では、全裁判官法廷の質問に対する私達の回答をこの事案の事実に当て嵌め、当控訴を判決する。

審   議
第T節 均等の原則と審査経過禁反言
 均等の原則は、被疑者たる侵害者が、発明の本質的な同一性を維持しつつ微細か重要でない変更を加えることにより侵害の責任から免れようとするのを妨げる。Graver Tank & Mfg.社 対 Linde Air Prods.社, 339 U.S. 605, 608 [85 USPQ 3281] (1950年) 参照 均等の原則は、『過酷な論理を和らげ、侵害者が発明の恩典を盗むのを抑制するために』用いられている。同上(Royal Typewriter社 対 Remington Rand社, 168 F.2d 691, 692, 77 USPQ 517, 518 (2d Cir. 1948) (Hand, J.)を引用)これらの目的を追求する上で、特許権者が特許の恩典を完全に享受できるようにすることと、クレームが特許の範囲を公正に公示することとのバランスを保つように図られている。London社 対 Carson Pirie Scott & Co.社, 946 F.2d 1534, 1538, 20 USPQ2d 1456 1458-59 (Fed. Cir. 1991年) しかしながら、このバランスは、容易に崩され得る。それは、『均等の原則が幅広く適用されると、法的なクレーム作成要件の明示機能と公衆告知機能と相容れなくなるからである。』
Warner-Jenkinson、520 U.S. 29条
 審査経過禁反言は、均等の原則がクレームの告知機能を無効にすることを阻むための1つの手段である。Charles Greiner 社 対 Man-Med Mfg.社, 962 F.2d 1031, 1036, 22 USPQ2d 1526, 1529-30 (Fed. Cir. 1992年) クレーム補正及び特許局での主張を含む、特許権者の種々の行為は審査経過禁反言を生じさせる。Pharmacia & Upjohn社 対 Mylan Pharms.社, 170 F.3d 1373, 1376-77, 50 USPQ2d 1033, 1036 (Fed. Cir. 1999年) 『審査経過禁反言は、特許権者が特許審査過程で放棄した従属項を、均等の原則の範囲内として回復取得するのを妨げる。』同上at 1376, 50 USPQ2d at 1036  従って、『均等の原則は、審査経過禁反言に対して副次的な働きをする。』Autogiro社 対 アメリカ合衆国, 384 F.2d 391, 400-01, 155 USPQ 697, 705 (Ct. Cl. 1967年) 審査経過禁反言の論理は、特許権者が審査過程で、特許権者が当該エレメントを特許の到達範囲から放棄したと、公正に公衆に告知する記録を創り出したのだということである。

第U節 Warner-Jenkinson
 この全裁判官法廷での再審理において、私達は、Warner-Jenkinsonが、均等の原則と審査経過禁反言に関して判例法へどのような影響を与えたかに、注意の焦点を合わせたい。
Festo V, 187 F.3d at 138 1-82, 51 USPQ2d at 1959-60; 更に参照 Shoketsu Kinzoku Kogyo
Kabushiki Co. <焼結金属工業(株)>対 Festo Corp., 520 U.S. 1111 (1997) (『Festo V』) (Warner-Jenkinsonの判決に照らして再審理すべく本事案を差戻された)
 Warner-Jenkinsonの法廷に提訴された特許は、染料を純化するための“超濾過”と称する改良された工程を開示していた。Warner-Jenkinson, 520 U.S. 21  審査経過で、特許権者が補正し、この工程は、pH約6.0から9.0の間で実施するものと記述した。同上 at 22
被疑者の工程は、pH5.0で実施された。同上 at 23 これらの事実に照らして、最高裁は『均等の原則による妥当な範囲を明確化するように努め』始めた。同上 at 21
 該法廷は、Graver Tank判決にて確立した均等の原則は、1952年の特許法改正で廃絶されたとの(侵害者として告訴された)Warner-Jenkinsonの主張を斥けた。同上at 25−27 それにも拘らず、該法廷は、『Graver Tank判決以来適用されてきたので、それ自体の命を有するものであるからとして、均等の原則』への関心を示した。同上 at 28-29 該法廷は、Graver Tank判決が、『審査経過禁反言を、均等の原則の法的な限定として扱わない』という点では、Warner-Jenkinsonに同意した。同上at 30 しかしながら、該法廷は、Warner-Jenkinsonの『特許審査過程での補正の理由は、その後の如何なる禁反言とも関係ない』との主張を斥けた。同上 『原告とその反対側により引用されたこの各事案では、審査経過禁反言は、先行技術回避のための補正、それでなければ、自明性の如き特別な関連の、その従属項が特許拒絶されるような補正に、関係付けられている』と、該法廷は記した。同上 at 30-31 従って、該法廷は『変更の理由の如何に拘らず、禁反言を発動させるために、より一層厳格なルールを必要とするという重要な事由はない』と考えた。同上at 32(脚注は省略する)
 当面の問題に移ると、該法廷は、当事者が上限のpH9.0は先行技術を避けるために追加されたという点で同意したが、『下限のpH6.0がどのような理由で加えられたか、不詳である』とした。同上 『下限のpH6.0を含めた理由現すものが見当たらない…という問題』に直面して、該法廷は、『特許権者に、特許審査過程で要した補正の理由を立証する責任を課した。』同上 at 33 該法廷は、『申し述べられた理由が、補正で追加されたエレメントについての均等の原則適用の否定として働く審査経過禁反言を克服するに充分なものであるかを判定せねばならない』だろうと、該法廷が述べている。同上 該法廷は、また『理由の説明がない場合には、特許申請者が補正によりエレメント限定を含めるには、特許性に関する重要な理由を有していたと、法廷は推定すべきである。』同上 従って、『審査経過禁反言は、そのエレメントについての均等の原則の適用を否定する。』同上 Hilton Davis社が、『最高裁判所において…pH下限を追加した理由を提供しなかった』故に、該法廷は、Hilton Davis社がpH下限を追加した補正の理由を提供したか否か、またHilton Davis社にその理由を立証する機会を与えるべきか否かを判定するために、本件事案を担当の当法廷に差戻した。同上 at 34
 Warner-Jenkinsonが提案した均等の原則への他の制限を、該法廷は拒否した。同上 at 35-40 特に、該法廷は、『均等の原則の適用を認める前に、その件の司法上の衡平を精査する必要性』を拒否し、同上 at 34 均等の原則の適用されるには、侵害被疑者側に『意図の証拠』があるべきだとの要件を拒否し、同上 at 35-36 更に、『均等の原則に対する衡平弁護』として『独自の実験』を採用することを拒否した。同上 at 36 また該法廷は、『均等を評価する妥当な時は、…侵害時であり、特許認可時ではない』との理由により、均等の原則を『特許自体の中で開示された均等に』限定することも拒否した。 同上 at 37
 最後に該法廷は、均等の原則がエレメント毎に客観的な調査をした上で適用されるべきだが、『均等の原則に固執する』道を選ぶと述べた。同上 at 40 『審査経過禁反言は、侵害に対する防衛として存続し続ける』と、該法廷は記した。同上 しかしながら、『審査過程で要求された補正が、特許性に関連のない目的を持っていたと特許権者が立証すれば、禁反言が否定されるべきか否かを決めるために、法廷はその目的を検討せねばならない。』同上 at 40-41 もし、『特許権者が、そのような目的を立証できないならば、法廷は必要な補正の背後にある目的が、審査経過禁反言を適用すべきものだと推定すべきである。』同上 at 41

第V節 全裁判官法廷への質問
A.質問1
 クレーム補正が審査経過禁反言を生じさせるか否かを決める目的での、『特許に関連する重要な理由』は、(Warner-Jenkinson社 対 Hilton Davis Chem.社, 520 U.S. 17, 33, 117 S. Ct. 1040, 137 L.Ed.2d 146 [41 USPQ2d 1865] (1997年)参照) 102条と103条に基づく先行技術を克服するための補正に限られるか、それとも『特許性』は特許許可に影響する如何なる理由をも意味するのか?

 [1]私達は質問1に対して次のように回答をする。:クレーム補正が審査経過禁反言を生じるか否かを決定する目的のための『特許性に関する重要な理由』は、先行技術克服のためのものに限られず、特許の法定要件に関する全ての理由を含む。従って、特許の法定要件に関する理由でなされた如何なる理由による減縮補正も、その補正されたクレームエレメントについて審査経過禁反言を生じさせる。
 Warner-Jenkinson判決で最高裁判所が、先行技術の回避又は克服のためになされたクレーム補正に焦点を合わせたことは真実である。Warner-Jenkinson 520 U.S. の30-34 しかしながら、有効な特許の許可前に充たされねばならない、つまりそのような特許性に関する法定要件には、幾つかある。新規性及び特許法102条と103条 改正特許法(35 U.S.C.A.)102条と103条(West1994年と補則2000年)の非自明性を充たすだけでなく、クレームは特許の従属項に向けられていて、且つその主張された発明が、特許法101条に述べられた有用性を持たねばならない。更に、特許法112条の最初の項は、特許の明細書は発明を実施するための最善の方式を記述し、可能ならしめ、明記していなければならないと規定している。特許法112条1項(1994年) 他方、112条の2項は、申請者が自分の発明であると看做していること、クレームが明確に指摘し、明瞭に発明を記述するような従属項を、クレームが記述していることが必要だとしている。特許法112条2項(1994年) 特許局は、これら法定要件のどれ1つとして欠くものは拒絶する。以下参照 特許審査マニュアル 特許審査 2100-1から173(第7版 1998年改訂)そして、これら要件の何れも、特許許可を不成立の理由となるのである。例 特許法282条(1994年);Atlas Powder社 対 Ireco社 190 F.3d 1342, 51 USPQ2d 1943 (Fed. Cir. 1999年)(そのクレームは、特許法102条により予測出来たものとされた);三菱電機(株) 対 Ampex社 190 F.3d 1300, 51 USPQ2d 1910 (Fed. Cir. 1999年)(そのクレームは、特許法103条の自明性により無効とされた);State Street 信託銀行 対 Signature Fin. Group社 149 F.3d 1368, 47 USPQ2d 1596 (Fed. Cir. 1998年);(特許法101条により特許可能なものか論ぜられた);Process Control社 対 HydReclaim社 190 F.3d 1350, 52 USPQ2d 1029 (Fed. Cir. 1999年)(そのクレームが実施不可能であり、特許法101条の要件を充たさないとされた);Johnson Worldwide Assoc.社 対 Zebco社 175 F.3d 985, 50 USPQ2d 1607 (Fed. Cir. 1999年)(112条1項の書面記載要件の下に特許クレームが無効と看做された);Gentry Gallery社 対 Berkline社 134 F.3d 1473, 45 USPQ2d 1498 (Fed. Cir. 1998年) (112条1項の書面記載要件に適合しないので特許クレームが不成立と看做された);Enzo Biochem社 対 Calgene社 188 F.3d 1362, 52 USPQ2d 1129 (Fed. Cir. 1999年)(112条1項の要件により、クレームが成立せず、特許が不成立とされた);United States Gypsum社 対 National Gypsum社 74 F.3d 1209, 37 USPQ2d 1388 (Fed. Cir. 1996年)(112条1項の最善方式要件を充たさず、特許が不成立とされた); Morton International社 対 Cardinal Chem.社 5 F.3d 1464, 28 USPQ2d 1190 (Fed. Cir. 1993年)(112条2項の明述要件を充たさず、特許が不成立とされた)これら法定要件のどれかに関してなされた如何なる補正も、特許性に関する重要な理由でなされた補正である。  
 判例法は、先行技術回避のためになされた補正が、審査経過禁反言を生じさせるという点では、これまでも明快であった。例 Warner-Jenkinson 520 U.S. at 30-31(Exhibit Supply社 対 Ace Patents社 315 U.S. 126 (1942年)とKeystone Driller社 対 Northwest Engineering社 294 U.S. 42 (1935年) を論じている)審査経過禁反言の機能という観点<クレームの公示機能の維持と、特許局で放棄した従属項を、均等の原則に基づき回復取得するのを否定する事>から、上記の特許性以外の他の理由からなされた補正からは同様に審査経過禁反言を生じさせないという理由が見付からない。本当の所、もし特許性に関する重要な理由が、狭義の特許問題に限定されると、審査経過禁反言の機能は、充分に発揮されない。寧ろ、特許性に関する重要な問題は、特許法102条と103条のみならず、同法101条と112条も含むのである。
 Warner-Jenkinson判決において最高裁判所がこの問題に回答しなかったと信じるが、私達の回答がWarner-Jenkinson判決と矛盾するとは決して思わない。 Warner-Jenkinson判決は、審査経過禁反言を『先行技術の中に含まれた…もの(先にクレームされたもの)に典型的に』適用する先例を示している。(強調追加)しかし、Warner-Jenkinson判決には、先行技術回避のためになされた補正に対する審査経過禁反言の適用を制限する叙述は全くない。以下も参照 Crawford社 対 Heysinger社, 123 U.S. 589, 606 (1887年)(実施性の拒絶に対応してなされた補正から審査経過禁反言が生じるとした) その上、私達のアプローチは、『補正は必ずしも均等の原則による侵害を排除するとは限らない』という、Warner-Jenkinson判決の要件と合致している。同上 at 33 故に、特許権者が審査経過よりクレーム補正が特許性関連以外の動機でなされたことを証すことが出来れば、補正が審査経過禁反言を生じさせない。


B.質問2
 Warner-Jenkinson判決下で、『自発的な』クレーム補正、つまり審査官によって要請されていない補正又は規定の理由で審査官による拒絶の応答としてなされた補正は、審査経過禁反言を生じさせるか?

 [2]私達は質問2に対して次のように回答をする。:自発的クレーム補正は、他の補正と同じように取り扱われる。従って、特許の法定要件に関する理由でクレーム範囲を減縮した自発的補正は、補正されたクレームエレメントについての審査経過禁反言を生じさせる。
自発的補正と特許局からの要請による補正の何れも、従属項が放棄されたことを公衆に伝える。特許局が特許できないと信じてクレームを拒絶した時には、審査経過禁反言が生じ、申請者が特許してもらえないと信じクレームを補正した時には、審査経過禁反言が生じないというのは、理屈に合わない。
 この質問に対する私達の回答は、主張に基礎を置いた禁反言の原則に合致する。審査過程で自発的になされた主張は、その主張が従属項の放棄を証明出来るならば、審査経過禁反言を生じさせる。KCJ社 対 Kinetic Concepts社 223 F.3d 1351, 1359-60, 55 USPQ2d 1835, 1841-42 (Fed. Cir. 2000年)(KCJの審査経過での供述が、明快で誤解のしようがないような従属項の放棄をしめしており、均等の原則による回復取得は出来ないと判決した);Bayer社 対 Elan Pharm. Research社 212 F.3d 1241, 1252-53, 54 USPQ2d 1711, 1719 (Fed. Cir. 2000年)(Bayerの特許局への供述と提出した宣言書から、Bayerが誤解しようのないような従属項放棄の供述をしており、均等の原則による回復取得は出来ないと認めた);Pharmacia & Upjohn社 170 F3dの1377, 50 USPQ2dの1036(『審査経過での幾つかの行動が、… 問題のクレームの認可を得るための主張を含め』(引用部分省略)); Southwall Techs社 対 Cardinal IG社 54 F.3d 1570, 1583, 34 USPQ2d 1673, 1682 (Fed. Cir. 1995年)(『特許性を支持するための審査過程での明快な主張は、それが特許を得るために実際に必要であったと否とを問わず、… 審査経過禁反言を生じさせるかも知れない』);Texas Instruments社 対 United States Int'l Trade Comm'n, 988 F.2d 1165, 1174, 26 USPQ2d 1018, 1025 (Fed. Cir. 1993年)(発明の1つの特徴を強調した審査過程での主張が、その特徴を持たない装置が均等の原則により特許を侵害したとの特許権者の主張についての禁反言が生じるとした) 補正に基礎を置く従属項の放棄に、主張に基礎を置く従属項の放棄よりも弱い法的効力を与えるべきだという理由はない。
 この私達の回答がWarner-Jenkinson判決と合致すると、また私達は信じる。最高裁判所は、『要求された』補正と述べているが、問題のWarner-Jenkinsonでのクレーム補正は、つまり下限のpH6の追加は、先行技術拒絶により要求されたものではない。当初のクレームは、超濾過工程と記述している。主張された先行技術引用は、超濾過工程がpH9超で実施されると教えていた。補正後のクレームは、超濾過工程が大凡pH6.0から9.0の間で実施されると記述している。Warner-Jenkinson 520 U.S. at 21 当事者は、先行技術との区別のためにpH上限9.0が追加されたことにつき、争わなかった。同上 at 32  しかし、法廷は、pH下限6.0が追加された理由を判別出来なかった。同上 at 32−33 拠って、Warner-Jenkinsonにおける問題のクレーム補正は、 pH下限6.0については自発的であったと推測される。それにも拘わらず法廷は、pH下限追加の補正が審査経過禁反言を生じさせ得るとした。同上の34

C.質問3
もしWarner-Jenkinson判決下でクレーム補正が審査経過禁反言を生じさせるとすれ
ば、均等の原則に照らし、仮にあるとすれば、そのように補正後のクレームエレメ
ントの均等域は何か?

私達は、質問3に対して次のように回答をする。:クレーム補正がクレームエレメントにつき審査経過禁反言を生じさせる時、補正後のクレームエレメントについては均等の範囲は全くない。均等の原則の適用は完全に否定される。(『完全否定』)
審査経過禁反言が補正後のクレームエレメントに適用される時に認められる均等の範囲の質問が、少なくともその補正が明らかに特許性の理由からなされた場合においては、直接最高裁判所に出され、回答された事はないと考えるのが公平である。Warner-Jenkinsonにおいて、該法廷は審査経過禁反言の存在にも拘らず一般的に存すると思われる均等の範囲の問題よりも、審査経過禁反言が生じさせるような状況そのものに、主な焦点が置かれた。Warner-Jenkinson 520 U.S.の30-34 該法廷は、上限pH9.0については論じず、単に、それが先行技術克服のために選ばれたことにより、クレーム減縮になると看倣した。同上 at 32 仮にあるとした場合の上限pHの均等の範囲を、該法廷は論じなかった。
Warner-Jenkinsonに於ける審査経過禁反言が適用される時の均等の範囲に関する唯一の言明は、説明のなかった補正についての該法廷の議論に見られる。同上 at 33-34 該法廷は、それらの補正に対して『審査経過禁反言は、そのエレメントについての均等の原則を否定する』との意見であった。同上 at 33

1.Warner-Jenkinson以前の諸事案において、最高裁判所は均等の原則下での侵害を排除するために、審査経過禁反言を適用した。しかし、該法廷は、審査経過禁反言が適用される時の実際の均等の範囲、つまり、補正により放棄された従属項の程度を、分析しなかった。Weber Electric社 対 E.H.Freeman Electric社 256 U.S. 668 (1921年)判決では、特許権者は、単なる回転により電球とソケットとを着脱できるとの先行技術克服のために、彼の電球ソケットのクレームを補正した。補正後のクレームは、それに代わり人為的な圧力を加えることにより着脱できると記述した。同上 at 677 この補正に鑑みて、該法廷は『特許を得るために…また、無補正の時よりも広い範囲を有するクレームを求めた均等の原則に依ろうとして、さらにクレーム減縮を行った』として、申請者に特許を許可しなかった。同上 本件の事実関係では、侵害被疑者は先行技術記載の従属項と全く同様に、回転運動で電球を締め付けていた。同上 at 678 従って、該法廷はクレーム補正による従属項の放棄部分の正確な輪郭を論じる必要がなかった。同様の状況がSmith 社 対 Magic City Kennel Clubでも展開された。282 U.S.784 (1931年) その件での問題の発明は、ドッグレース・トラックの人工的な疑似餌を含んでいた。同上 at 786-87 特許権者は、公表されていた疑似餌を掴む真っ直ぐなアームを開示していた先行技術を克服するために、蝶番つきのアームを記述した。同上at 788-89 侵害被疑者の装置は、硬直的なアームを使用していた。同上 該法廷は、『拒否を逃れるために』特許権者が放棄した特定の従属項を均等の原則に依拠することにより回復することは認めないとした。同上 at 790 
 Weberの場合と同様に、Magic City Kennel Club判決でも、先行技術から知り得た被疑者の装置が、非侵害を勝ち取った。参照 Wilson Sporting Goods社 対 David Geoffrey & Assocs社 904 F.2d 677, 683-85, 14 USPQ2d 1942, 1947-49 (Fed. Cir. 1990年)(均等の原則は、先行技術を含めて適用できないとした)Exhibit Supply社 対 Ace Patents社 315 U.S. 126 (1942年)においては、特許権者は審査官により引用された先行技術を克服するためにクレームを補正した。彼は、伝導手段を従来のテーブルにより運ばれるというものから、ゲームテーブル(ピンボール・マシン)に埋め込まれる形に変えた記述をして補正した。Exhibit Supply社 315 U.S. の 136-37 参照 該法廷は、特許権者は、それ以降均等の原則に基づき、伝導手段がテーブル埋め込みでなく、テーブルで運ばれる形の告訴された装置に拡げることは出来ないものとした。同上 告訴された装置が審査官により先行技術拒絶として引用されていたか否かは、該法廷の意見からは明らかではない。同上 at 133(それは、明瞭に『本件で言及されている技術として表示されているコイル・スプリングの屈曲による電気の接続というのは、技術的に古い』との審査官の主張を引用している)しかし、該法廷は、次のようにも述べている。:
 クレーム7が原型で許可されると、それは告訴された全ての装置がそう読めることにな
る。その理由は、コイル・スプリングの補助的な全ての伝導手段が『テーブルにより運
ばれる』からである。クレームからその語句を除去し、代わりに『テーブル埋め込み』
を挿入することで、申請者は、そのクレームを伝導手段が、テーブルで運ばれ、且つテ
ーブルに埋め込まれたものに限定した。その補正により、2つの語句の差異を認識し、
また強調して、その差異に含まれる全てのものの放棄を宣言したものである。同上 at 136
補正後クレームに残っている正確な均等域について、該法廷は触れなかった。従って、原クレームと補正後クレームとの間の『差異』、特許権者によって放棄されたと該法廷が言う差異は、明瞭には明示されなかった。
 反対意見を述べる中で、 Michel判事は、Goodyear Dental Vulcanite社 対 Davis社 102 U.S. 222 (1880年)及び Hurlbut社 対 Schillinger社 130 U.S. 456 (1889年)に基づき、クレーム範囲が補正により限定されたという事実があっても、特許権者はある均等域への権利を有するとの論説に拠っている。しかし、これらの何れの事案も、全裁判官法廷の質問3、即ち、均等の原則下審査経過禁反言を生じる補正により、補正後のクレームエレメントにつき、仮にあるとすればその均等域が認められるかとの質問で提示された問題には、触れていないと私達は信じる。
 認可時に、Goodyearは、義歯床用の『ゴム又は弾力性のある素材』と記述している。Goodyear 102 U.S. at 224-25 再発行の過程で、クレームは、固いか又は『加硫化=硬化』ゴムに補正された。同上at 228 再発行補正を見て、該法廷は、特許権者が『特許を詳細な製造工程下での硬化ゴムのみからなる製造物に限定する』と断じた。同上 該法廷は、被疑者の製品がセルロイドを使用しているので、侵害は起こらないと判決した。同上at 229-30  該法廷は、審査経過禁反言を論じたのではなく、単に再発行特許の表現の下では、セルロイドが硬化ゴム又はその均等物ではないと断じたまでである。
 Hurlbut は、再発行され、放棄がなされた特許につき、告訴された。Hurlbut 130 U.S. at 462-63 再発行では、第2のクレームが追加されたが、クレーム文言に変更はなかった。同上 クレーム1は、実体が図示され記述されているように、分離したコンクリートのブロック又はセクションを記述していた。同上at 463 クレーム2は、実体的に記述された目的のために、隣り合わせのコンクリートブロックの間に、タールペーパーを配置することを記述していた。同上 特許権者は、『プラスティック材質のブロックでの造成に、その造成工程で接合部分に何かを介在させることを』放棄した。同上 この放棄に直面して、該法廷は、『コンクリートの舗道用ブロックの間に、永久的または一時的な介在物があること』を、クレームの必須条件とした。同上 at 465 該法廷は、コンクリート層を鏝を使って切ることは、両クレームの侵害になると認定した。同上 at 469 均等物を引用する際に、該法廷は両クレームを引用した。(実体的にはクレーム1と、クレーム2でのその均等物)従って該法廷は、放棄後の均等の原則に基づき残存している均等の範囲の問題を論じなかった。
 Michel判事により言及された他のどの判決でも、その補正により審査経過禁反言が生じた補正後のクレームエレメントに均等域が認められなかったと、私達は信じる。参照 Cal. Artificial Stone-Paving社 対 Schalicke社 119 U.S. 401, 407(1886年)(『クレームを認める如何なる論理構成においても』侵害がないと述べている);Fay社 対 Cordesman社 109 U.S. 408, 420-21 (1883年)(告訴された装置は、審査経過禁反言や均等の原則に触れることなく、原告発明の重要なエレメントを欠いていると認定した);Shepard社 対
Carrigan 社116 U.S. 593, 597-98 (1886年)(侵害判決を破棄し、先行技術と被疑者の装置は、丸溝ひだ若しくはプリーツのバンドまたは縁なしでのスカートの保護を記述しているのに対して、当発明はこれらによるスカートの保護を記述している);Sutter社 対
Robinson社, 119 U.S. 530, 541-42 (1886年)(侵害判決を破棄し、先行技術と被疑者の装置は何れもタバコ葉貯蔵用の金属箱を記述しているのに対して、当発明は木箱と記述している);Phoenix Caster社 対 Spiegel社 133 U.S. 360, 364, 368-69 (1890年)(被疑者の装置は、クレーム記述のロッカー型のカラー<鍔>ベアリング又はその均等物を有しないので侵害はないとした);Royer社 対 Coure社 146 U.S. 524, 53 1-32 (1892年)(被疑者の実施方法は、特許クレームの妥当な解釈からして、原告の方法のエレメントを欠いているので、被疑者に侵害はないとした);Hubbell社 対 アメリカ合衆国, 179 U.S. 77, 80, 85 (1900年)(審査経過禁反言に振れることなく、審査過程をクレームと同一視し、非侵害とした)
 補正後クレームエレメントにある均等域は、Michel判事は述べられているが、単純に最高裁判所に提示されておらず、全裁判官法廷の質問3で提示された問題を論じていない。各法廷は、最高裁判所の『明快で注意深く考慮された』言語表現を読み取らねばならないが、 (参照 Stone Container社 対 アメリカ合衆国, 229 F.3d 1345, 1350 (Fed. Cir. 2000年)) Michel判事は述べられた言語表現の何れも、クレーム補正が審査経過禁反言を生じる時の均等域について、明快で注意深く考慮された言語表現となっていない。
 2.最高裁判所は、審査経過禁反言が適用される場合に認められる均等域の問題に完璧には触れていなので、私達はこの問題を単独で判決せねばならない。議会が特に連邦控訴裁判所に対して、Hormone Research Found社 対 Genentech社 904 F.2d 1558, 1564, 15
USPQ2d 1039, 1044 (Fed. Cir. 1990年)の如く司法上創り出された法原則たる審査経過禁反言に関連する問題のような、特許法に固有の問題、即ちMarkman社 対 Westview Instruments社 517 U.S. 370, 390 [38 USPQ2d 1461] (1996年) (H.R. Rep. No. 97-312, pp. 20-23 (1981年)を引用)などを、解決するように任じた。Markman社判決, 517 U.S. at 390議会は、連邦控訴裁判所が『技術成長と産業革新を促進するような形に米国特許システムを強化』するだろうと考えた所の本件のような問題が、当法廷が『その特殊専門知識をもって』回答するようにと取り置かれたのは、けだし妥当であろう。Warner-Jenkinson, 520 U.S. at 40(均等の原則下での侵害審査を公式化する作業が明快に取り置かれた)
 連邦控訴裁判所が、下記のHughes裁判で、審査経過禁反言が適用される場合の均等域を最初に言及した。Hughes Aircraft社 対 アメリカ合衆国, 717 F.2d 1351, 219 USPQ 473 (Fed. Cir. 1983年) (『Hughes I』) その事案では、連邦控訴裁判所への申立ての前に、一部の地方裁判所では、審査経過禁反言を弾力的な否定事由とし、他の地方裁判所では、審査経過禁反言適用を完全な否定事由とした。同上 at 1362-63, 219 USPQ at 481-82 私達は、審査経過禁反言が均等の境域を大から小からゼロまでの領域に『限定する法的効力』を有し得ることを述べ、審査経過禁反言を弾力的な否定事由として適用することに決めた。同上 at 1363, 219 USPQ at 481-82
 LaBounty Manufacturing社 対 United States International Trade Commission 867
F.2d 1572, 9 USPQ2d 1995 (Fed. Cir. 1989年)は、弾力的否定アプローチの例である。
LaBountyでは、私達はInternational Trade Commission(『ITC』)の非侵害の判決を破棄し、このITCの件を、再審理のために差し戻した。というのは、行政法判事(『ALJ』)が、審査経過禁反言の範囲を決めることが出来ず、その代わりに、1度でも補正後のクレームのエレメントには、均等域はないと裁決したからである。LaBounty, 867 F.2d at 1576, 9 USPQ2d at 1999 Black & Decker社 対 Hoover Service Center, 886 F.2d 1285, 1295, 12 USPQ2d 1250, 1258-59 (Fed. Cir. 1989年)においては、審査過程でなされた補正は、均等の原則に基づく侵害の判断を排除するものではないという意見である。その理由として、その補正を引き起こした先行技術に似た装置については、補正が均等の原則に基づく侵害を否定するかも知れぬが、審査経過禁反言が均等の原則のあらゆる適用を妨げるものではないからである。同上;以下も参照 Dixie USA社 対 Infab社 927 F.2d 584, 588, 17 USPQ2d 1968, 1970-71 (Fed. Cir. 1991年)(審査経過禁反言は、均等を完全排除するものではないとした) 同様に、Modine Manufacturing社 対 United States International Trade Commission, 75 F.3d 1545, 1555-56, 37 USPQ2d 1609, 1616 (Fed. Cir. 1996年)では、私達は、『禁反言により、認められる均等域は限られていて、…審査経過と先行技術が均等を排除しない』にせよ、審査経過禁反言により均等の原則に基づく侵害無しとするALJへ判決を破棄した。 
 HughesTの後1年経過しない内に、5名裁判官審理の当法廷が、Kinzenbaw社 対 Deere 社 741 F.2d 383, 222 USPQ 929 (Fed. Cir. 1984年)の事案を判決した。Kinzenbawの主張された発明は、畝への種植えをする装置であった。同上 at 388, 222 USPQ at 932  問題のクレームエレメントは、種植え機が作る畝の深さを制御する深度測定器が組み込まれた2つの車輪に関していた。同上 審査過程で、先行技術による審査官拒絶を回避し特許取得するために、発明者は、他の補正と共に、車輪の半径は種植え機(『ディスク』と呼称)の刃の半径より小さいものと特定して、クレームを減縮した。同上 被疑者の装置では、車輪の半径はディスクの半径より大きかった。同上at 388-89, 222 USPQ at 932 従って、被疑者の装置は文言上侵害し得ないとした。その結果、特許権者(Deere)は、均等の原則による侵害の証明を求めた。同上 at 389, 222 USPQ at 932 地方裁判所は、審査経過禁反言の故に、Deereが均等の原則に依拠することは出来ないとした。同上 222 USPQ at 933 該法廷は、測定器付き車輪に関する限り、発明者は意図的にクレームを減縮したものであり、発明者自身が自分のクレームに付けた限定を、均等の原則の下に避けることは許されないと断じた。同上
 控訴審では、Deereは、測定器付き車輪の半径がディスクの半径より小さいものとの、装置についてのクレーム限定は、先行技術との区別に不要であったので、審査経過禁反言は適用されるべきでないと主張した。同上 特に、測定器付き車輪の半径が車輪の軸からディスクの後端までの距離より大きいと規定したクレームの部分が、先行技術克服による特許取得に必要であったことを強調した。同上 5名裁判官から成る法廷は、Deereの異議を斥けた。以下の如く述べた。:『発明者が自身のクレームに減縮限定のみをした場合…それでも審査官が特許許可していただろうかとの憶測的な問合せには、応じ兼ねる。』同上 依って、該法廷は、地方裁判所の非侵害の判決を支持した。同上 at 391, 222 USPQ at 934
 Kinzenbawで採用された審査経過禁反言へのアプローチは、早速Chisum教授による以下の観察を齎した。要約:『1982年の創出直後に始まったが、連邦裁判所は、先行技術区別のための補正又は論議後の審査経過禁反言の範囲につき、2系統の法理論を展開した。1つは、厳密なアプローチで、法廷がより狭い減縮補正を許可しただろうかと憶測をすることを拒否するものである。他の1つは、弾力的又は領域を認めるアプローチで、それによると補正は全ての均等を排除するものではないと認めている。…』5A Donald S. Chisum, 『Chisum on Patents 』 §18.05[31[b], at 18-492 (1998年)  Hughes I とKinzenbawの判決の直後から、これら判決はアメリカの大学の法律レビューで注釈の対象となり、毎年連邦裁判所の仕事をレビューした。注釈者達は、『審査経過禁反言を扱う2つの異なる権威(法理)』は、即ち、Hughes T系統とKinzenbaw系統は、特許訴訟に於ける『不確定さと混乱』を益々増えさせる原因となった。Douglas A. Strawbridge et al.“Area Summary, Patent Law Developments in the United States Court of Appeals for the Federal Circuit During 1986”《分野要約、1986年中のアメリカ連邦控訴裁判所に於ける特許法の発展。》36 Am. U. L.Rev. 861, 887-88 (1987年) Hughes I とKinzenbawの判決以降に始まった注釈は、その後も継続した。参照Gregory J. Smith, “The Federal Circuit's Modern Doctrine of Equivalents in Patent Infringement”《特許侵害に於ける連邦巡回裁判所の最新の均等の原則》29 Santa Clara大学 L. Rev. 901, 921 (1989年)(Hughes I とKinzenbawには、明らかに相反があると記している);銘記 『否定か非否定か:Warner-Jenkinson以降の審査経過禁反言』111 Harv.大学 L. Rev. 2330, 2336 (1998年)(Hughes I系統の判決とKinzenbaw系統の判決は、相容れないと述べている)
 Warner-Jenkinson以来、当法廷は、審査経過禁反言が存すると認定された後の均等域の問題につき、幾度となく検討した。2つの事案が、再審理のために最高裁判所により差し戻された。Honeywell社 対 Litton Sys.社 520 U.S. 1111 (1997年); アメリカ合衆国 対 Hughes Aircraft社 520 U.S. 1111 (1997年) Litton Sys.社 対 Honeywell社140 F.3d 1449, 1455-57, 46 USPQ2d 1321, 1325 (Fed. Cir. 1998年) で、この法廷は、Warner-Jenkinsonは、『禁反言は、審査過程で実際に放棄した従属項を回復取得することを否定するだけであるとの、長年存続した法理』を変更したものではないと判決した。該法廷は、『最高裁判所は、補正限定の禁反言の妥当な均等域の問題には及ばなかった』、従ってWarner-Jenkinsonは、この問題についての既に確立された判例理論に影響を与えないと記した。同上at 1457, 46 USPQ2d at 1327 同様の分析と判決が、Hughes Aircraft社 対 アメリカ合衆国, 140 F.3d 1470, 147677, 46 USPQ2d 1285, 1289-90 (Fed. Cir. 1998年) (『Hughes II』)で述べられている。その件の侵害被疑者は、Warner-Jenkinson判決により、審査経過禁反言は完全否定として働き、均等の原則に基づく侵害を否定することになるのだと争った。Hughes U, 140 F.3d at 1476, 46 USPQ2d at 1289  この主張を斥ける時に、当法廷は、正確な『実際に放棄された従属項』についての確定がなければならないと述べた。同上at 1476-77, 46 USPQ2d at 1290 被疑者の装置が、放棄された従属項の範囲に該当しないので、均等の原則に基づく侵害を否定されないとした。同上 該法廷は、LittonとHughes Uの両方について、拒絶判決への不服に対して、全裁判官法廷での再審理をすることを拒否した。Litton Sys.社 対 Honeywell社 145 F.3d 1472, 47 USPQ2d 1106 (Fed. Cir. 1998年);Hughes Aircraft社 対 アメリカ合衆国 148 F.3d 1384, 47 USPQ2d 1542 (Fed. Cir. 1998年)
 LittonとHughes Uの何れも、Hughes Tの審査経過禁反言に対して弾力的なアプローチを採った。その点では、『1984年から1997年までの殆どの連邦巡回裁判所の判決が弾力的なアプローチをとったが、それは1983年のHughes Aircraft判決 [HughesT]から開始された…』とのChisum教授の観察と合致している。Chisum教授上記の論文, §18.05[3][b][i], at 18497 それにも拘らず、当法廷はKinzenbawの否認もしていないし、HughesT系統とKinzenbaw系統の間に矛盾があると認めてもいない。このような状況下で、法廷が或る事案に対して、Kinzenbawアプローチを適用するか、より一般的なHughesTアプローチを適用するかは、明確でない。それに劣らず重要なことは、HughesTアプローチが適用されても、放棄されたと認定された均等域の程度について、不確定さが存すると言える。かくして、Chisum教授は、連邦巡回裁判所の2つの判決、即ちSun Studs社 対 ATA Equip. Leasing社 872 F.2d 978, 10 USPQ2d 1338 (Fed. Cir. 1989年)とEnvironmental Instruments社 対 Sutron社 877 E2d 1561, 11 USPQ2d 1132 (Fed. Cir. 1989年) を検討し、『弾力的アプローチの予測困難性』を例証した。上記のChisum教授 §18.05[3][b][A], at 18505 to 18506 同様の論調で『審査経過禁反言を発動する補正の効果を決めるために法廷が用いる基準が、明確又は規則正しく規定されていない』また『例えば「補正の性質と目的により、大から小からゼロまでの限定効果を及ぼす」との、連邦巡回裁判所の著名な観察は、補正の性質と目的と、それから生じる効果との関係について殆ど解明しない』と述べられている。Ted Apple教授 Enablement Estoppel: Should Prosecution History Estoppel Arise When Claims Are Amended To Overcome Enablement Rejections?《審査経過禁反言の権利付与:権利付与拒絶の克服のための補正がなされた時に審査経過禁反言は生じるか?》 13 Santa Clara Computer & High Tech L.J. 107, 128 (1997) (脚注省略)

 [3]3.本日は、最初にHughes Tに触れた際の問題に還り、審査経過禁反言が適用される場合に存する妥当な均等の範囲について、その事案に対して行ったのと異なる判決をする。特許に関連する理由のためになされたクレームの減縮補正がある時、審査経過禁反言は、均等の原則の適用の完全否定として働くものとする。Hughes Tで採用された弾力的アプローチを斥けるとの私達の結論は、殆ど20年間、特許問題控訴の唯一の法廷としての私達の役割を実行した経験から来たものである。それらの年月に、特許の告知機能は至上のものとなり、特許保護の範囲についての確実性への要求は強調されるようになった。弾力的アプローチの問題点の1つは、放棄の境界線が引かれる判決前には、殆ど予測不可能だという事である。特許権者は、先行技術に接して、或いはすぐ外側に境界線を引き、審査経過禁反言が言及しない形で、広大な均等の範囲を残そうとする。しかしながら、侵害被疑者は、クレーム記述の文言に近くに、均等の範囲を些少か皆無にするように、境界線を引こうとする。このような動機の故に、弾力的否定アプローチ下では、審査経過禁反言が適用された時に起こる放棄範囲の確実性の程度を予測することが困難になるものと、私達は考える。
 この判断に至るに当り、拘束力のある先例を安易に無視するなとの最高裁判所の指導を念頭に置いている。該裁判所は、先例拘束性は、『公平無私で、予見可能で、一貫性のある法原理の発展を促進し、司法判断への依存を助長し、現実且つ識別可能な司法手続きの完全性に貢献するものだ』と述べている。Payne社 対 Tennessee社 501 U.S. 808, 827 (1991年)  また『実行不可能、又は誤った理由によって』先例の拘束判決を時折破棄・逆転したが、該裁判所は、当事者から提出されない限り、破棄・逆転したことは稀にしかないと述べている。アメリカ合衆国 対 Int'l Bus. Machs.社(IBM) 517 U.S. 843, 856 (1996年) (引用省略)
 審査経過禁反言が適用される時の均等の範囲に関する法の現状が『実行不可能である』と私達は信じる。特許法において、一貫性のある結果を生むと信頼され、市場にその固有の問題にどのように対処したら良いかのガイダンスを提供するような法原則を生じさせるような規則が、『実行不可能な』規則として適格であると私達は考える。長年の弾力的否定アプローチの経験から、その『実行可能性』には欠陥があると結論した。その上、Hughes Iを破棄・逆転するに当り、『当事者から提示されたもの以外の根拠に拠り』、私達は行動した。SMC社とその法廷助言者は、本日採用する審査経過禁反言には、厳格なアプローチに従うよう強く求めた。全裁判官法廷の被疑上訴人SMC社の開幕時の弁論趣意書 その他 at 49-53;以下も参照 Int'l Bus. Machs. (IBM)社、Eastman Kodak社、Ford Motor社の法廷助言者の趣意書, at 14-20(クレームの減縮補正には均等域は認められるべきではないと主張する)
 弾力的否定アプローチは、『重要な客観性の実現に直接的な障害となる』と私達は信じる。Patterson社 対 McClean Credit Union, 491 U.S. 164 173 (1989年)(『先行判例を破棄・逆転した正当化の典型的な理由』を記している)これらの客観性は、審査経過禁反言が生じる時に、減縮補正という行動が従属項の放棄という効果を齎すことをも含む。特許クレームの告知機能が保持されるとしたExhibit Supply社 315 UIS. at 136-37、Warner-Jenkinson, 520 U.S. at 29、 また、確実性を増進するMarkman, 517 U.S. at 390 を参照されたい。これらの客観性の実現は、弾力的否定アプローチに備わっている不確実性により、挫折させられる他ない。
 審査経過禁反言が完全否定として働くようにすることにより、私達はクレームの減縮補正の放棄効果を強いることが出来る。クレームを減縮することで、特許権者は原クレームに含まれた従属項を放棄するものとする。例 Exhibit Supply 315 U.S. at 136-37;Magic City Kennel Club, 282 U.S. at 790;Shepard, 116 U.S. at 598(審査過程でクレームを減縮した特許権者は、『その語句に該当しないで、且つ彼女が明らかに放棄したエレメントを包含するために、クレームを拡大する』ことは出来ないと記した) 最高裁判所が述べたように、『補正により、特許権者は原クレームと補正後クレームとの差異を認め、強調し…そして、その差異に含まれる全てのものの放棄を宣言する。』 Exhibit Supply, 315 U.S. at 136 補正は、『発明者に厳格に、公衆に有利に解釈され、権利放棄と同様に看倣されねばならない。』Hubbell, 179 U.S. at 83-84 そのような補正を特許権者に対して厳格に解釈するために、特許性に関連して減縮されたクレームエレメントに何等の均等域も与えることは出来ない。古い最高裁判所での事案が、この私達に提示された問題に直接触れていなかったと理解するが、それらの事案で均等の範囲についての厳格な査定を提案すべく用いられた言語表現が、この問題に対する私達の回答と合致していると考える。
 或る均等域を認めることは、放棄されたものに関する疑問を残すという恩典を、特許権者に与えるが、この恩典付与は、公衆の犠牲において成り立つ。従って、完全否定が特許クレームの公知と明示機能に最も役立つのである。『特許権者に彼の発明を特定することを求める特許法の目的は、彼の保有する権利の全てを確保することだけではなく、公衆に未だ何が開放されているかを知らせることにもある。』 McClain 対 Ortmayer, 141 U.S. 419, 424 (1891年) しかし、『均等の原則は、もし拡大解釈で適用されると、特許法定要件の明示機能及び公知機能と相容れない。』Warner-Jenkinson, 520 U.S. at 29 審査経過禁反言が均等の原則適用の完全否定として働くなら、特許権者と公衆の何れも、特許性に関連する理由により補正後のクレームエレメントが与える保護の範囲を認知することが出来る。特許権者と公衆の何れも、公的記録である審査経過を視て、どのクレームエレメントに審査経過禁反言が生じるか判定することが出来る。そうなれば、エレメントの保護範囲が明確に確定され得る。
 補正の理由が説明出来ない時に、審査経過禁反言が適用されるとの推定をするというWarner-Jenkinson判決での完全否定の価値を、最高裁判所は認めた。同法廷は、『クレームは、間違いなく明示と公知の両機能を有する』という事を念頭に、もし推定に反証が挙げられない時には、『審査経過禁反言が、そのエレメントについて均等の原則を否定する』ものとした。同上 at 33 (強調追加);更に後述の全裁判官法廷の質問4.に対する回答を参照 説明欠如の補正に対する均等の原則適用否定は、同法廷が述べているように、『クレームを明示し、公知する機能という役割を全う』することになる。 Warner-Jenkinson 520 U. S. at 33 また完全否定は、理由説明があり、しかも審査経過禁反言が生じる時の明示と公知機能にも利用できる。補正の理由説明があろうと無かろうと、特許性に関する理由によりクレーム範囲減縮の補正がなされた時は、均等の原則の完全否定が、公衆と特許権者の双方に主張されたクレームの範囲を明確に通知することを可能にする。
 完全否定はまた、特許性に関連した理由での補正により放棄された従属項について、公衆が推測する必要を無くさせる。審査経過禁反言という事実には、推測を許さないという面も幾つかある。最高裁判所は、クレーム補正に繋がった審査官の拒絶の正当性を調べる必要はないとした。 Warner-Jenkinson 520 U. S. at 33 n.7(Magic City Kennel Club, 282 U.S. at 789-90を引用) 拒絶が妥当でない場合でも、補正は審査経過禁反言を生じさせる。同上 加えて私達は、その補正が特許審査に重要であるか否かを考察しない。というのは、『特許権者は、限られた書式で記す訳で、彼のクレーム全てを重要なものにするから』である。Hubbell, 179 U.S. at 84(引用省略) 審査経過禁反言の他の面での憶測的な問合せを容認したくないので、特許性に関連した理由で減縮されたクレームエレメントに残存する均等範囲を決めるのに、推測の問合わせが必要でないものとすべきである。完全否定は、そのような問合わせを無用とする。
しかしながら、弾力的否定アプローチ下では、審査経過禁反言が適用される時の正確な均等域は、先行技術がクレーム範囲の外境界を示すだけで、事実上確認不可能と言える。原クレームと補正後クレームの間のどの従属項が諦められたかを決める正確な物差がない。例えば、15の数値を開示していた先行技術を克服するため、元々『20以下』の数値と記述されたクレームを『5以下』の数値に補正されたクレームを考えなさい。<脚注2;同様の問題が、Warner-Jenkinsonの事実で出てきた。つまり、pH9.0以上と表示された先行技術を克服するため、上限のpH9.0との記述に変更した。Warner-Jenkinson, 520 U.S. at 32> 弾力的アプローチ下で、どの従属項が放棄されたか? 特許権者は、15より5に近い数値に限定されるのか? それとも彼は15以下の数値なら含めることができるのか? 特許権者は数値10を均等により含めることができるか? それとも、それは放棄された従属項の部分回復になるか? 平易な表現をすれば、この基礎的な例からでも、公衆と特許権者の双方にとって、弾力的アプローチ下で認められる正確な均等域を決めることは不可能である。これは、『企画や実験をする事が、クレーム侵害の危険を伴い…そのフィールドからの締め出しの1歩手前という程度にまで発明を思い止まらせる不確定ゾーン』を創出することになる。Markman, 517 U.S. at 390 (引用 United Carbon社 対 Binney & Smith社, 317 U.S. 228, 236 (1942年)) 『公衆は、本来彼等に属する権利を、その権利の限界が何であるかと教えられることなく、奪われるであろう。』 Markman, 517 U.S. at 390 (引用 Merrill社 対 Yeomans社, 94 U.S. 568, 573 (1876年))
 このように、完全否定は、弾力的否定と違い、特許が許容する保護範囲を決めるのに確実性を付与する。完全否定では、公衆と特許権者の何れも、特許性関連の理由でクレームの減縮補正がなされた時には、エレメントの包含範囲が文言表現以上に広がらないことを知り得るからである。認められる均等域についての推測も不確実性もない。この確実性が、公衆と特許権者の双方が、訴訟により従属項が何を含むかをケース・バイ・ケース分析で確認する必要もなく、その特許の真の範囲と価値を自ら確かめるのを支援することになろう。完全否定では、特許権者がクレームを補正した時、特許権者が放棄した従属項の正確な範囲を確認するために、公衆と特許権者の双方が訴訟取扱費用を支払う必要がなくなる。
拠って、完全否定アプローチの下では、弾力的否定アプローチ下で減縮されたクレームの周辺の未知で非明示の領域に置かれていた技術進歩が、訴訟の怖れの故に無駄にされ、或いは未開発で終わるということがなくなる。公衆は、その変更が特許性関連の理由により減縮されたクレームエレメントに残存する均等域に入るかも知れないために、告訴される怖れがあり、出来なかった既特許技術への改良や、周辺設計を、自由にすることが出来るようになる。この確実性は、侵害のリスクの予測が確定し易くなるので、技術改良や周辺設計への投資を刺激しよう。一般に、公衆や特許権者に、補正後のエレメントに備わる保護範囲について助言することの困難さが、完全否定アプローチ下では、そのような否定がもたらす確実性と予測可能性の故に、大幅に軽減されよう。 
 最後に、弾力的アプローチには、完全否定を陵駕する利点を見出せない。弾力的アプローチは、均等の原則の下、特許権者により大きな保護を与えるが、その利点が不確実性というコストより大きいとは、私達は信じることが出来ない。最高裁判所は、 Warner-Jenkinson判決において、均等の原則が『特許クレームに拘束されることなく、独自の生命を有するに至った』と記している。 Warner-Jenkinson, 520 U.S. at 28-29 完全否定は、均等の原則下で旨く働くし、クレーム範囲を識別し易くし、且つクレームの公知機能を保持させよう。該裁判所は、完全否定の適用が、審査経過禁反言をして『均等の原則に妥当な制限』を加えさせ、特許法との矛盾の危惧からその原則を絶縁する』ことになると示唆している。同上 クレーム補正が審査経過禁反言を生じさせる時には何時でも均等の原則に完全否定を適用する事が、同様に均等の原則により与えられる特許保護と特許範囲を確認する公衆の能力との間の矛盾をも軽減する。

D.質問4
  (クレーム補正についての)『説明が立証されない』場合、Warner-Jenkinson, 520 U.S. at 33, 117 S. Ct. 1040、かくしてWarner-Jenkinson判決下禁反言が発動したとき、均等の原則に基づき、仮にあるとすれば、そのように補正後のクレームエレメントの均等域は何か?

 [4]私達は質問4に対して次のように回答する。:クレーム補正の説明がない場合には、そのように補正後のクレームエレメントには均等域はない。
 この質問には、Warner-Jenkinsonが以下のように回答している。:
 何等の説明も立証されない時、...審査経過禁反言はそのエレメントについて均等の原則の適用を否定する。 Warner-Jenkinson, 520 U.S. at 33(強調追加)
この質問に回答するに当り、私達はSextant,172 F.3d at 832,49 U.S.PQ2d at 1875 で述べられたことを支持する。:つまり『 Warner-Jenkinsonの推定が適用される時、...そこから生じる審査経過禁反言は全てであり、補正限定についての均等域の適用を完全に否定する。』


E.質問5
この事案での侵害判決は、Warner-Jenkinson判決での要件、即ち、均等の原則の適用においては、『総体としてのクレームエレメントを排除する』程広範囲なものとしてはならないとの要件に違反するだろうか?Warner-Jenkinson 520 U.S. at 29, 117 S. Ct. 1040 換言すれば、Warner-Jenkinson 判決以降では、そのような判決は、オール・エレメント・ルールに違反するか。

 私達はこの質問に回答に触れる必要はない。その理由は、今後この特定の問題についての事案が私達にだされたとき、その審議の中で明らかになろう。従って、『オール・エレメント』ルールについての議論は、他日に譲ろう。

第W節 フェスト特許の侵害
 Festoは、譲渡に基づいたStollとCarroll特許の所有者である。両方とも磁気結合の無ロッド・シリンダーに向けたものである。 FestoはSMCをマサチュセッツ州米国地方裁判所に、特許侵害を主張して告訴した。陪審員法廷は、SMCが均等の原則下Stoll特許の侵害ありと認定し、その損害を査定した。 Festo Corp. V. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki
Co.<フェスト社 対 焼結金属工業(株)> No. 88-1814-PBS, slip op. at 2-3 (D. Mass. Oct. 27, 1994)(判決)(『Festo T(判決) 』) それ以前に該地方裁判所は、SMCの無ロッド・シリンダーの一部製品が、これも均等の原則下Carroll特許の侵害ありと主張して求めた略式裁判の実施を認容し、その略式裁判で侵害ありと判決された。Festo社 対 焼結金属工業(株)No. 88-1814-PBS, slip op. at 2-3 (D.Mass. Oct. 27, 1994年) (判決)
<脚注3;当裁判所への第1回目の控訴で、法廷は、均等の原則に基づき両特許に対する侵害を支持した。Festo社 対 焼結金属工業(株)72 F.3d 857, 37 USPQ2d 1161 (Fed. Cir. 1995年)(『Festo U(判決)』)この判決の後、最高裁判所がWarner-Jenkinson判決を下した。SMCが該裁判所に、移送命令を求め、それが認められ、既判決が破棄・逆転され、 Warner-Jenkinson判決に照らしてこの事案を再審理すべく、当裁判所に差し戻された。(GVRと呼ばれる一連の手続き) Festo V, 520 U.S. at 1111 差戻し審で、当法廷は、均等の原則に基づき、侵害判決を支持した。Festo社 対 焼結金属工業(株)172 F.3d 1361, 50 USPQ2d 1385 (Fed. Cir. 1999年)(『Festo W』)そこにおいて、SMCが全裁判官法廷での再審理を求め、私達はそれを認めた。)Festo V, 187 F.3d at 1381, 51 USPQ2d at 1959年>

A.特許と係争の技術
 Stoll特許とCarroll特許の双方とも、無ロッド・シリンダーを現している。主張された装置は、3つの主要部分:ピストン、シリンダー、スリーブから構成されている。基礎的な表現をすれば、ピストンはシリンダーの内側にあり、圧縮された液体で動かされる。スリーブはシリンダーの外側にあり、ピストンと磁気結合されている。スリーブとピストンとの間の磁力のため、スリーブは、シリンダー内でのピストンの動きに従ってピストンにくっ付いて動くことになる。スリーブは、コンベヤー・システム上の物体を動かすのに用いられる。

1. Stoll特許の申請は、1980年5月28日に提出された。;特許は1982年10
月12日に発行された。特許の唯一の図面である次の図面は、Stoll装置のスリーブ(18)とシリンダー(10)とピストン(16)を示している。

          <<図面省略>>

シリンダーの内部で、ピストンが圧縮液により駆動される。Stoll特許、Stoll特許 Col.3,U, 13-19 ピストンがシリンダー内を移動するに連れ、磁気で結合されたスリーブがシリンダーの外でピストンの動きに従って動く。同上
 ピストンは、マグネット(20)と2つの『エラストマー<ゴム>のシーリング・リング』(26)を含む。同上 at col. 3, U 20-32 シーリング・リングは、不純物がピストンに付着するのを防止する。同上 at col. 3, U. 48-55 また、ピストン上に1対のガイド・リング(24)がある。同上 at col. 3, U. 26-30 特許が説明するように、ピストンの表面より突出しているガイド・リングは、『滑動する程度に適合され、シリンダーの内部表面に沿って通過し、』同上at col. 3, U. 29-30 不純物がピストンを汚すのを防止する。同上 at col. 3, U. 51-55
 Stoll特許のスリーブは、複数の部材から成り、その中にマグネット(32)と磁化可能な素材からできた外側の本体(30)も含まれている。同上at col. 3, U. 60-65 特許によれば、スリーブのマグネットの周りを取り囲むスリーブ上の磁化可能素材は、『駆動集合体の近くに洩れる磁界は、最小限に抑えられる』ことを可能にし、それが不要なブレーキをかけることを妨げる。同上 at col. 2, U. 24-35
Stoll特許のクレーム1が、Festoにより主張されたクレームの代表的なもので、係争の特許で唯一控訴されたクレームである。:

クレーム1.物体を移動させるために、空洞のシリンダー状チューブと、駆動部分と、その上に被駆動部分を有する配置は、改良を構成することになり、

上記チューブは、非磁性の素材から成り、

上記駆動部分は、ピストンであり、動くように上記チューブの内部にマウントされている。上記ピストンは、ピストンの本体部分とピストンの本体部材を取り巻き複数の軸方向に間隔を置かれた、第一の環状永久的マグネットを有す。

更に上記ピストンは、上記永久的マグネットを上記の軸方向間隔で隔てる第一の中間部材を有し、上記永久的マグネットの放射的周辺上の外表面は、上記チューブの内壁に密接して置かれ、

更に上記ピストンは、ピストンの本体部材を取り巻くガイド・リングの中間部材を含み、滑りつつ上記内壁と協働し、

第一のシーリング・リングは、上記ガイド・リングの軸方向の外側に配置され、上記ピストンが上記チューブに沿って動くに連れ、上記の内壁を拭き取り、それにより上記チューブにあり得る不純物をチューブに沿って押し出し、その結果序上記環状マグネットには、上記不純物の邪魔がなくなり、

そこにおいて、上記被駆動部材は、磁性の素材から成り上記チューブを取り巻くシリンダー状のスリーブを含む。

上記スリーブには、軸方向に間隔を置かれた複数の第二の環状永久マグネットが付着されており、上記の第一永久マグネットと磁気的に引き合う関係にあり、

そして、第二の中間部材は、上記第二永久マグネットを上記間隔で隔て上記マグネットの放射的に内部の表面は、上記チューブの内部表面に密接して配置され、

上記スリーブは、最後の表面の中間部材を有し、上記ピストンの駆動の動きに対応して上記被駆動部材が上記チューブに沿って動き、上記チューブの外面壁を拭き取るようにと、第二のシーリング・リングは上記第二永久マグネットの軸方向の外側に置かれる。それにより、上記チューブにあり得る不純物がチューブに沿って押し出され、その結果上記第二環状永久マグネットは、不純物の邪魔がなくなる。Stoll 特許, col. 5,  1. 23 - col. 6, 1. 18 (文節を追加)

2. Carroll特許の申請は、1972年2月17日に提出された。;特許は1973年2
月18日に発行された。再審査証明書が、補正後クレームと共に1988年10月25日に出された。Carroll特許は、Stoll特許と同じ技術に向けられていた。Carroll特許装置の外見は、Carroll特許の図面1に示されているが、下記の如く再現した。

          <<図面省略>>

開示された具体的装置では、スリーブ(28)は、把握装置に装着された永久マグネットであり、シリンダー(10)の外側の一部を取り巻いている。Carroll Patent, col. 2, U. 17-26  Stoll特許の装置と同様に、Carroll特許のスリーブは、シリンダー内での磁化ピストンの動きに応じてシリンダーに沿って動く。同上 ピストンの両端には、環状溝に設置されたシーリング・リングがある。同上 at col. 2, U.1-16 該特許によれば、シーリング・リングは、『シリンダーの内壁と共に、液体不漏出の密封状態を創り』、シリンダーの外側にあるポート=出入口=(12)又は(14)に注入された圧縮空気や圧縮液体が、ピストンを何れの方向にも動かす。同上at col. 2, U. 10-16, 42-59 ピストン及びスリーブ上のマグネットの分極は、シリンダーの外側に配置されたスリーブを、シリンダーの内部に配置されたピストンの動きに従って、動かすことになる。同上 at col. 2, U.17-24
再審査されたCarroll特許のクレーム9は、フェストによって権利主張されたクレームを代表している。:

 クレーム9.物体を移動させる装置であり、以下の構成部分から成る。

 非鉄素材で作られた1つの空洞のシリンダーで、軸方向に両端を有す;

 1つのピストンが空洞シリンダーの内部にマウントされ、その中で往復滑動することができ、且つ中央マウント部材を含めたピストンは、シリンダーの軸方向に配置され、

複数のシリンダー形状の永久マグネットが中央マウント部材にマウントされ、それ
らは互いに軸方向に間隔が置かれ、各々のマグネットは中央マウント部材を容れ
るための軸方向のボア<内腔>を有す 

少なくとも1対の端末部材が、中央マウント部材にマウントされ、複数のマグネ
ットが軸方向の両端に配置され、

弾力性のある素材から出来た1対のクッション部材、そのクッション部材は、中央
マウント部材の軸方向の両端近くに置かれ、ピストンがシリンダーの軸方向の端に接触した時にダメージが生じないようにし、

中央マウント部材の軸方向の両端近くに置かれた弾力性のある素材から出来たシーリング・リングと、それと協働するシリンダーにより、液体密封の効果を得る。

空洞シリンダーの外部にマウントされ、その上を往復滑動する本体、

シリンダーを取り巻き互いに間隔を置いて配置された、複数の環状型の永久マグネットを含む本体、

ピストンの永久マグネットと、その本体をピストンと磁気結合させるために分極化された本体、それによりシリンダー内のピストンの動きが、シリンダー外の本体を対応的に動かす。

更に、その上に物体を乗せて運ぶ装置を保持する手段を含んだ本体

圧縮液のシリンダーへの注入とシリンダーからの液体排出を制御し、シリンダー内のピストンを動かす手段

ピストンと本体との両永久マグネットの磁力の強さを、事前に設定された数値以下の荷重では、ピストンの動きが本体の動きに対応し、本体への上記の事前設定の数値を超えたら、ピストンの動きが本体の動きに対応しないようにする。
再審査後のCarroll特許, col.1, 1. 34 - col.2, 1. 37(文節を付加)

3.均等の原則に基づきStoll特許とCarroll特許を侵害すると認定されたSMCの装置は、両特許で主張された構造との間に2つ明らかな差異がある。第一に、SMC装置は、2つの硬いプラステックのガイド・リングを装着したピストンを有するが、弾力性のある双方向のシーリング・リングは唯1つであり、両ピストンの1端に配置されている。従って、特許が1対のシーリング・リングを持つ装置のクレームを開示し主張するのに対して、SMC装置は単一の双方向のシーリング・リングを有している。<脚注4:通常のシーリング・リングは、リングの片側に液体流を封じるためのリップを有する。対照的に、双方向シーリング・リングは、リングの両側にリップを持ち、両側の液体流を封じることが出来る。> 第二に、SMC装置のスリーブの外側部分は、アルミ合金から成り、両当事者は、磁化不可能素材であると認めている。従って、Stoll特許が磁化可能素材で作られたスリーブを表示し主張するのに対して、SMC装置は、磁化不可能素材で作られたスリーブを有している。

B.係争特許の審査経過
 1.Stoll特許の申請は、ドイツ特許の同等物として、アメリカ合衆国において提出された。提出書面では、Stoll特許のクレーム1は当初次のように記された。:

   クレーム1.コンベヤー・システムに直線状モーターが使用され、

   上記モーターは圧力手段により運転され、チューブ状部材が圧力の源部材に接続できる

   上記チューブ状部材の中を滑動でき、両端に密封手段を有し、チューブ状部材の内部表面と協働して拭き取る作業をし、圧縮手段としての密封をする1つのピストンがある。

   そして、チューブ状部材の上を滑動でき、チューブ状部材の外部表面と協働して拭き取る作業をする手段をその両端に備えた1つの被駆動集合体、

   ピストンと被駆動集合体は夫々空洞シリンダー集合の形での駆動マグネット装置を持つ、

   各マグネット装置は、チューブ状部材の密接表面との関係において放射状に働く、

   そして、チューブ状部材に面したマグネット装置の表面は、チューブ状部材の夫々
の表面と密接するようにする。

原申請はまた、関連した2つの従属クレーム、即ち、クレーム4と8を含んでいた。:

   クレーム4. クレーム1から3によれば、直線状モーターであり、そこでピスト
ンの密封手段がシーリング・リングを構成し、ピストンにはシーリング・リングの
近くに滑動するガイド・リングを備えている。

クレーム8. 前述の全てのクレームによれば、直線状モーターあり、そこで被駆動には、磁化可能な素材から作られたスリーブを備えており、それがマグネット装置集合体を取り巻いている。(強調追加)

 特許局の第1次アクションで、特許審査官は12の原クレームを拒絶し、参考として3つの特許が『関連すると信じる』と述べた。クレーム1−12は、特許法112条1項により『作動の正確な方法は不明確である。その装置は、真のモーターか、それともマグネチック・クラッチか?』との理由から、拒絶された。加えて、クレーム4−12は、特許法112条2項により、『不当に、互いに依存している』から、拒絶された。
 その対応として、Stollは一部のクレームを補正した。それは、クレーム1を残し、クレーム4と8を含む幾つかのクレームを撤回した。クレーム1.は、以下の記述に補正された。『複数のガイド・リングが意味するのは…そしてガイド・リングより軸方向の外側に配置されたピストンの最初のシーリング・リング』、並びに『磁化可能な素材で作られたシリンダー状のスリーブ』と。その補正に付帯された注釈で、Stollは『この申請に現存する各クレームは、特許法112条のTitle<表題>の規定に従って、レビューされた。故に、これらのクレームを、特許法112条のTitleに照らして再審査して頂きたく請願する。』と述べた。
 Stollがこの補正を提出した時、彼はまた2つのドイツ特許No.27,37,924とNo.19,82,379の申請記録も用意した。Stollは、補正に付帯された注釈の中で、『この申請に現在あるクレーム』は、これらの引用技術に対する差異を示していると論じた。Stollは、『これら2つの引用技術は、該装置がチューブに沿って動く時にチューブの内部及びチューブの外部に不純物が邪魔するのを防止する構造物の使用を開示していない。』と述べた。
 この応答を検討したした後、審査官は、この語句が『異なる作動性を持つ異なる装置を意味する』から、『直線状モーター』に関する全ての参照を削除するように指示して、補正クレームを許可した。
 
 2.Carroll特許の審査経過の関連部分は、その再審査である。再審査の前には、クレーム1は、以下のように記されていた。:

  クレーム1.物体を動かす装置で、以下の部品から成る。

  1つの非鉄素材のシリンダー、

  その軸側の両端上に夫々極部を持った1つの永久マグネットを含む、1つのピストン、

  上記シリンダーに密接して外側に配置された本体、その上記本体は、実質的にシリン
ダーを取り囲む永久マグネットを含み、上記本体に含まれる永久マグネットの軸側の
両端には極部分があり、そして、

圧縮液のシリンダーへの注入とシリンダーからの液体排出を制御し、シリンダー内のピストンを動かす手段、

両永久マグネットの磁力が、事前に設定された数値以下の荷重では、ピストンが本体の動きに対応して動き、本体への上記の事前設定の数値を超えたら、ピストンが本体の動きに対応し動くようにさせる。

参照 原Carroll特許, col. 4, U. 4-19 (語句追加) このクレームは、明細書に表示されたシーリング・リングを記述していない。
 Carrollは、1988年3月18日に再審査を求め、Carrollの審査経過の記録にないドイツ特許No.1,982,379を引用した。再審査申請の中で、Carrollは、当ドイツ特許は特許性に関する重要な新しい問題を提供すると主張した。その理由は、特許局が『Carroll特許の審査の過程で引用された他の参照と併せて、当ドイツ特許が、…クレーム1.で明示された主要な構造上の特徴を開示することになるかも知れない』と主張した。
 当ドイツ特許は、1対のシーリング・リングを含め、Carroll特許で記述された幾つかの特徴を持つ無ロッド・シリンダーを記述していた。特許局は、当ドイツ特許が『水力により作動される磁化ピストンに対応して可動する物体の移動装置を開示しており、それは Carroll特許の審査過程で審査官が見つけなかった特徴である。』と認め、Carrollの再審査を容認した。
 再審査の過程で、Carrollはクレーム1を撤回して、クレーム9を追加した。そこでは、
『中央マウント部材の軸方向の両端近くに配置され、それによりシリンダーと協働して液体の漏出しない密封する、1対の弾力性のあるシーリング・リング』と記述されている。補正に付帯された注釈の中で、Carrollは、今補正されたクレームは、<脚注5;Carrollはクレーム3と5もクレーム9に依存するように補正した。> 『より明確に、より特定的』に、再審査申請のために引用した当ドイツ特許を『含めた、技術記録と区別する特許権者の発明の特徴』を明示していると強調した。Carrollはまた、クレーム9に今記述されている構造は、技術記録に現れていないとした。更に、Carrollは『中側のピストンと外側の本体という当該の構造は、今や新クレーム9で特に記述されているが、技術記録に現れていない。』と記した。特に、ピストンと外側本体の両方のためのマグネットの位置とそれが複数であることの再引用と、ピストンの両端に付けた弾力性のある素材とクッション素材の再引用を強調した。
 審査官は、補正後クレームを許可して、『主張された関係での、複数のマグネット、両端の素材、クッション素材を含むクレーム結合は、先行技術が教え、明示するものではない。』と述べた。

C.地方裁判所での審査
 Festoは、StollとCarrollの両特許の侵害であるとして、地方裁判所に告訴した。Festo の侵害と損害の主張に対して、SMCの無効との反対主張は、審判のためにspecial masterに訴えられた。special masterは、StollとCarrollの両特許とも無効ではないとした。参照 Festo社 対 焼結金属工業(株) , No. 88-1814-MA, slip op.<簡決意見> at 42, 19 (マサチユセッツ州 Special Master Apr. 27, 1993年)(報告)  更に、special masterは、この訴訟の問題のSMC装置は、Stoll特許を侵害しないが、同上 at 42, 47   Carroll特許のクレーム5、6と9の侵害になると審決した。同上 at 25
 その後、地方裁判所は、両当事者からの侵害と法的効力の問題についての略式裁判の申請を容認した。Festo T(Order=命令、判決文に記載されない。), slip op. at 1-3     地方裁判所は、Carroll特許の侵害を除き、他の全ての申請につき略式裁判を拒絶した。同上 at 2 申請を判定するに当り、地方裁判所は、SMCの装置は磁化可能なスリーブを有しないので、文言上SMCがStoll特許を侵害できないとした。同上 at 6 同時に該裁判所は、均等の原則に基づき、侵害についての重大な事実という真正の問題があると断じた。同上 at 11
該裁判所は、磁化可能なスリーブというエレメントは当初クレーム1に記述されておらず、特許局の第1次アクション後クレームに追加されたので、審査経過禁反言がStoll特許への均等の原則の適用を否定するとの主張に言及した。同上 at 9-10 該裁判所は、磁化可能なスリーブへの補正の理由は、『ミステリー』であり、特許法112条の審査官の拒絶に関連しないように見えるので、発明を先行技術と区別するためのものとは看倣さないとした。同上 at 10 拠って、該地方裁判所は、Stoll特許が均等の原則下侵害されたという認識を審査経過禁反言が否定するとの判定を拒否した。
 Carroll特許に戻ると、該裁判所は、SMCがなした唯一の非侵害の論点は、そのピストン内の単一のシーリング・リングは、Carroll特許のクレーム9にある1対のシーリング・リングの均等物ではないということであると、認めた。同上 at 14 しかしながら、Festoは、SMCの単一シールは、クレームに記述された2つのシールの均等物であるとの専門家の証言を提出した。同上 at 14 この証言を論駁するためにSMCは、Stoll特許の審査過程でStollが述べた、ゴミの防止には2つのシーリング・リングが必要だいう趣旨の声明を引用した。同上 at 14-15 該地方裁判所は、Stoll特許の審査過程でなされた声明は、Carroll特許で『記述されたシーリング・リングの趣意と機能』とは関係ないと認めた。同上 at 14-15
故に、該裁判所は、Carroll特許のクレーム5、6と9の均等の原則下での侵害につき、Festoが申請した略式裁判を許可した。同上 at 16
 残された問題、即ち、均等の原則下でのStoll特許の侵害とCarrollとStoll特許の法的効力は、陪審員により裁決された。Fest T(判決), slip op. at 14 1994年 そこでは、両特許とも無効ではなく、Stoll特許のクレーム1が均等の原則に基づき侵害されたと断じた。同上 at 2-3 その特別の判決フォームは、Festoが優勢な証拠を以ってSMCの磁化不可能なスリーブと単一のシーリング・リングが、主張された磁化可能スリーブと1対のシーリング・リングと実質的に機能を実質的に同じ方法で実質的に同じ結果を得ていると陪審員が認定したことを示している。Festo社 対 焼結金属工業(株) No. 881814- PBS (マサチユセッツ州 7月 14日,1994年) (Special Verdict Form) (『Festo I (Special Verdict Form=特別の判決フォーム)』)

D.SMCの控訴
 均等の原則下に特許が侵害されたとの陪審員の裁決に従って結審した、Stoll特許の侵害判決に対して、SMCは控訴する。均等の原則下の特許侵害というのは、事実問題である。Warner-Jenkinson, 520 U.S. at 38 私達は、もしそれが重要な証拠で支持されないか、或いは誤った法的決定に基づいているなら、事実問題についての陪審員の裁決を逆転せねばならない。Kearns社 対 Chrysler社, 32 F.3d 1541, 1547-48, 31 USPQ2d 1746, 1751 (Fed. Cir. 1994年) 審査経過禁反言は、当法廷で新規にレビューの対象となっている法問題である。LaBounty社, 867 F.2d at 1576, 9 USPQ2d at 1998年 拠って、陪審員判決をレビューする時、私達は独自に、Stoll特許への審査経過禁反言の適用という法的問題を決めるものとする。
 SMCはまた、地方裁判所によるCarroll特許の侵害判決に対して控訴する。その判決は、Festoの申請に従って許可されたクレーム5、6及び9は、均等の原則に基づき侵害されたとの略式裁判の容認に従ってなされた。『もし有ればその宣誓供述書も併せた、訴答、証言録取、質問への回答、出願時の自白が、何等の重大な事実についての問題がないこと、申立人がJMOL判決への権利を有すると示しているならば』、直ちに略式判決は執行されよう。
Fed. R. Civ. P. 56(c); Vivid Techs社 対 Am. Sci. & Eng'g社, 200 F.3d 795, 806-07, 53 USPQ2d 1289, 1297 (Fed. Cir. 1999年) 私達は、Conroy社 対 Reebok, Int'l社, 14 F.3d 1570, 1575, 29 USPQ2d 1373, 1377 (Fed. Cir. 1994年)、また非申立人に有利なように、全ての妥当な事実推定を引き出したAnderson社 対 Liberty Lobby社 477 U.s. 242,
255 (1986); Semiconductor Energy Lab.社 対 Samsung Elecs.社 204 F.3d?1368, 1378, 54
USPQ2d 1001, 1008 (Fed. Cir. 2000年) の判決に反して、略式裁判の容認をレビューする。

 1.均等の原則下に侵害が生じたと認められた時、法廷は均等につき2つの主たる司法的限定、即ち、『裁判前の方向を決定する申立てか、証拠提出後で陪審員判決の後のJMOL裁決への申立てかの何れかで決めねばならない。』Warner-Jenkinson, 520 U.S. at 39 n.8 
これらの司法的限定とは、審査経過禁反言と『オール・エレメント』ルールである。
 最初に法廷が検討すべきものは、審査経過禁反言である。というのは、審査経過禁反言が、所与のクレームエレメントへの均等の原則の適用を完全に否定するかも知れないからである。審査経過禁反言の第一のステップは、どのクレームエレメントに均等が認められるかを判定することである。次に法廷は、問題のエレメントが特許審査の過程で補正されたかを判定せねばならない。これらが無ければ、補正に基づく禁反言は、均等の原則の適用を否定しない。しかしながら法廷は、審査過程でなされた供述が、主張に基づく禁反言を生じさせるか検討する必要があるかも知れない。参照 Pharmacia & Upjohn社, 170 F.3d at 1377, 50 USPQ2d at 1036
 もし問題のクレームエレメントが補正されていれば、法廷は先ず文言上クレームの範囲を減縮したかを判定せねばならない。もしそうならば、特許権者がその補正が特許性以外の理由によりなされたと立証しない限り、審査経過禁反言が適用される。Warner- Jenkinson, 520 U.S. at 40-41 もし特許権者がそれを出来なければ、審査経過禁反言はそのクレームエレメントへの均等の原則の適用を否定する。

[5] Warner-Jenkinsonにおいて、最高裁判所は、特許権者に補正理由の立証責任を課すことの目的を説明した。:責任をこのように割り当てることは、『1つの発明の明示と公衆への告知提供の役割に従うことになる。』同上 at 33 公衆への告知の考慮はまた、審査経過禁反言の範囲に関する私達の判断にも根本的なものであった。例 Pharmacia & Upjohn社, 170 F3d at 1.377, 50 USPQ2d at 1036(『どの従属項が放棄されかを判定するために、競争相手に対して、該申請者が関連するどの従属項を放棄したと合理的に信じるかと審問するという、客観的テストを実施した。』(文書と口述の引用省略)) Warner-Jenkinsonの枠の下で公知機能に適切に従うために、特許権者は、補正の理由を立証するには、特許審査過程の公的記録、つまり審査経過のみに、自分の主張の基礎を置かねばならない。それ以外の解釈−つまり特許権者が補正の理由を公的記録にない証拠に拠ることを容認すること−は、特許記録の公知機能を削減しよう。もし補正の理由が特許審査の公的記録になければ、大抵の場合その理由は特許権者にしか知られていないのである。従って、私達は、特許の審査経過がその補正が特許性に関連しない理由でなされたと示さない限り減縮補正は審査経過禁反言を生じさせるものとする。<脚注6;反対意見の中で、Newman判事は、減縮補正が特許性に関連のない目的でなされたとの立証を審査経過に含まれたものに限定することにより、特許権者にペンルティーを課すことになると述べている。その回答として私達は、その補正理由を決める際に、審査経過に載っている補正理由に関する代理人の如何なる意見も適切に検討することが出来る点を挙げる。特許権者が審査経過禁に無関係な証拠に拠ることの許容は、特許記録の公知機能を削減する。Warner-Jenkinsonにおいて最高裁判所は、特許権者は『審査過程で要求された補正が特許性に関連のない目的でなされたことを示す』機会を与えられねばならないとした。Warner-Jenkinson 520 U.S. at 40-41 しかし、該裁判所は、それに関して特許権者が使用できる証拠については審議しなかった。従って、証拠を審査経過記録に限定することは、Warner-Jenkinson判決に対立しない。>

[6]もし審査経過禁反言が均等の原則の適用を否定しないならば、法廷は原則に対する第2の司法的限定、『オール・エレメント』ルールを検討すべきである。参照例 Pennwalt社 対 Durand-Wayland社 833 F.2d 931, 4 USPQ2d 1737(Fed. Cir. 1987年)(全裁判官)(もし告訴された装置には、クレームの1つのエレメント又は均等物すら存しないならば、均等の原則に基づき侵害はないとする) もし法廷が均等の原則下の侵害が、『特定のクレームエレメントを無効にする』と判定するならば、その時法廷は、均等の原則に基づく侵害はないものと断ずべきである。Warner-Jenkinson, 520 U.S. at 39 n.8.

2.陪審員は、Stoll特許のクレーム1が均等の原則に基づき侵害されたと認めた。Festo T(特別判決フォーム) 均等により侵害された認定された2つのエレメントは、『磁化可能素材で作られたシリンダー状スリーブ』と『ガイド・リング…の軸方向の外側に配置された第一のシーリング・リング』であった。同上 両エレメントともに、特許審査の過程で追加された。上に概括された方法論に従って私達は、審査経過禁反言がこれらのクレームエレメントへの均等の原則の適用を否定すると結論する。
私達は、磁化可能スリーブというエレメントの分析から始める。このクレーム・エレメントには如何なる均等域も与えるべきでないと、SMCは異議を唱える。補正が特許性に関連のない理由でなされたことをFestoが示さず、従ってWarner-Jenkinson推定が適用され、均等の原則が否定されるのだと、SMCは争っている。Warner-Jenkinsonでは、補正が要求されたものか自発的なものかを問わず、特許権者に補正の理由の立証責任を課しているので、補正の自発性は審査経過禁反言問題には関係ないと、SMCは主張する。Festoは、彼が磁化可能なスリーブを記述して補正した時に磁化不可能なスリーブを放棄したと、SMCは強調する。更に、自分達を含めた公衆は、特許の審査経過から、Festoが磁化不可能なスリーブで作られた如何なる装置も放棄したと理解するのが妥当であろうと、SMCは主張する。
 Warner-Jenkinson推定は、自発的補正には適用されないと応答する。磁化可能スリーブへの原クレームの補正は、先行技術拒絶の対応または特許法112条の拒絶克服のためになされたものではないと、Festoは強調する。従って、審査経過禁反言はこのクレームエレメントへの均等の原則の適用を否定しないと、Festoは異議を唱える。

[7]クレーム補正が審査経過禁反言を生じさせるか否かを判定するために、私達はクレームの文言上の範囲を減縮したか否かを判定せねばならない。ここでは、追加されたクレームエレメントが、原クレームの補正ではなく、新クレームという形でなされたという状況が与えられている。それでも、新クレームが原クレームに置換されたので、磁化可能スリーブの追加は、原クレームの範囲を減縮したと言える。特に、磁化可能スリーブを記述していなかった唯一の独立クレームが、磁化可能スリーブを記述している唯一の独立クレームに置換されたのである。その補正がクレームの文言上の記述範囲を減縮したので、私達は、その補正が特許性に関連ない理由でなされたことをFestoが立証した否かを判定せねばならない。
 磁化可能スリーブを追加した補正の理由が審査経過からは明らかでないということについては、私達はSMCに同意する。この発明の特徴は原従属クレーム8に記述されていたが、原クレーム1は磁化可能スリーブを記述していなかった。第1次アクションへの応答として、Festoは原クレーム1を、磁化可能スリーブを記述したクレームに置き換え、クレーム8を撤回した。補正が第1次アクションへの応答としてなされたが、補正自体は第1次アクションに述べられた拒絶の何れに対して応答するものではなかった。先に審議したように、第1次アクションは、主張された装置が真性のモーターかマグネティック・クラッチであるかが、審査官には不明確だという理由で、特許法112条1項により全てのクレームを拒絶した。;更に、特許法112条2項の不適切に複合的に依存しているとの規定により、クレーム4−12を拒絶した。磁化可能スリーブを追加した補正は、これらの拒絶に言及し無かった。その上、このエレメントが独立クレームに含められた理由を説明する供述が審査経過にない。
 最高裁判所からの差戻し審の補足弁論趣意書の中で、クレームを明確化するために補正をしたと、Festoは主張した。特に、原クレーム1で記述された『空洞のシリンダー状の集合体』を、『磁化可能素材で作られたシリンダー状スリーブとしてより明確に書き直した』と、Festoは特に強調した。参照 最高裁判所からの差戻し審での被控訴人の補足弁論趣意書 at 7 しかしながら、この主張は、Stoll特許の審査経過には、磁化可能スリーブが、特許性に関連なしに、単に明確化のために追加されたと示唆するものが全くないので、Warner-Jenkinson推定を免れるためには妥当ではない。
 更に、差戻し審で、磁化可能スリーブというクレームエレメントを追加した補正の自発性は補正が審査経過禁反言を生じさせるのを否定すると、Festoは異議を唱えた。自発的補正は他の補正と同様に取り扱われるとする、全裁判官法廷への質問2に対する回答により、この異議を拒絶せざるを得ない。
 このように、FestoはWarner-Jenkinson推定下での、磁化可能スリーブというエレメントを追加した補正の理由が特許性に関連がないとの立証をなし得なかった。従って、補正は審査経過禁反言を生じさせる。参照Warner-Jenkinson, 520 U.S. at 40-41 審査経過禁反言が均等の原則の完全否定として働くので、このクレームエレメントに対する均等の原則の適用は否定される。
 私達は、今度はシーリング・リング・エレメントに目を向ける。シーリング・リングというクレームエレメントは、先行技術と区別するために追加され、故に如何なる均等域も与えられないと、SMCは主張する。補正に付帯された議論が、補正が先行技術との区別のためになされたことを明示していると、SMCは主張する。彼等の如き競争相手が、Festoは当初主張した密封手段と補正されたクレームに記述されたシーリング・リングとの差異部分を放棄したと結論するのは当然だと、SMCは強調する。同じ要領で、原クレームと補正されたクレームの差異部分を放棄したと、SMCは議論する。
 Festoの主たる主張は、原クレーム1と補正されたクレームは、シーリング・リング・エレメントに関して殆ど差異がないというものである。特に、原クレームはシーリング・リング・エレメントを手段プラス機能という表現で記述しているのに対して、補正されたクレームは、記述された機能を作り出すような明細の構造物を記述していると、Festoは主張する。(『それに相当した構造物』) または、クレーム補正は、それが特許法112条の拒絶、即ち先行技術の回避への応答としてなされたものではないので、審査経過禁反言を生じさせないと、Festoは主張する。補正に付帯された供述書が、明確で誤解しようのないような従属項の放棄を証しておらず、故に審査経過禁反言を生じさせなかったと強調する。

[8]シーリング・リング・エレメントは、独立した原クレーム1を新たにクレーム1として出された独立したクレームで置き換えた時に、追加された。この補正がクレームの文言上の範囲を減縮した。というのは、そのようなエレメントを記述しない独立クレームを、シーリング・リングを記述した独立クレームに置き換えたからである。シーリング・リングを追加した補正が単に手段プラス機能の表現を、それに相当する構造物の記述で置き換えたに過ぎないとしても、その補正はクレームの範囲を減縮する効果は有していた。手段プラス機能の表現で記述されたクレームエレメントが、それに相当する構造物とその均等物を文言上含んでいる。参照 Laitram社 対 Rexnord社 939 F.2d 1533, 1536, 19 USPQ2d 1367, 1370 (Fed. Cir. 1991年)  対照的に、その相当する構造物を記述するクレームエレメントは、その均等物を含まない。同上 従って、手段プラス機能表現をそれに相当する構造物に置換したクレーム補正は、クレームの文言上の範囲を減縮する。

[9]Festoはシーリング・リングを追加した補正が特許性に関連しない理由でなされたことを立証しなかったと、私達は断じる。その補正は特許法112条の拒絶に対応してなされたと、Festoは異議を唱える。クレームが112条の条文の要件を充たさない限り、認容されないので、法規を充たすためになされた補正は、特許性に関する理由による補正である。上記の全裁判官法廷への質問1に対する回答を参照 その補正はまた、先行技術と区別するためになされたように見える。補正と共に、以下の趣旨の供述書が提出された。No.27,37,924とNo.19,82,379の両ドイツ特許は、『現在の申請書<つまり、補正されたクレーム>の中にあるクレームの従属項に対して、明確に区別可能であることは明らかである』というのが、その趣旨であった。更に補正と共に提出されたのが、『これらの2つの参考例は、装置がチューブに沿って動く時に、チューブの内部及びチューブの外側に位置する不純物が邪魔するのを防止する構造物の使用を開示していない。』との主張である。これらの供述書に鑑みて、シーリング・リング・エレメントを追加した補正が、ドイツ特許と区別するためになされ、従って、特許性に関連する理由でなされたものと結論する。参照 Warner-Jenkinson, 520 U.S. at 30-31 (先行技術の回避のためになされた補正は、審査経過禁反言を生じさせるものと解すと記している) 拠って、その補正が特許性に関連のない理由でなされたことを、Festoは立証出来なかった。従って、その補正は審査経過禁反言を生じさせ、私達の全裁判官法廷の質問3に対する回答通りに、シーリング・リング・エレメントには、均等域はない。
 陪審員の侵害判断は、磁化可能なスリーブとシーリング・リングというクレームエレメントへの均等の原則適用に基づいていた。拠って、Stoll特許のクレーム1が均等の原則下侵害されたとの判決を破棄・逆転させねばならない。
3.地方裁判所は、Carroll特許の独立クレーム9と従属クレーム5及び6に関して均等
の原則下での侵害についての略式裁判を求めるFestoの申請を許可した。Festo T(命令)slip. op. at 15 均等により侵害されたと看倣された3つのクレームの全てのエレメントは、『中央マウント部材の軸方向の両端近くに配置された1対の弾力性のあるシーリング・リング』(以下『1対のシーリング・リング』)である。同上 at 14<脚注7;このエレメントは、態々クレーム9で記述され、クレーム9に依存し、且つそのクレームの全ての限定も継承するクレーム5と6に含まれている。参照 特許法112条4項(1994年);37 C.F.R. §1.75(c)(1999年)> このエレメントは、Carroll特許クレーム9の再審査の過程で追加された。上に概括された方法論に従い、私達は審査経過禁反言がCarroll特許クレーム9のエレメントへの均等の原則の適用を否定するものであると結論する。この判定に基づき、私達は『オール・エレメント』ルールには触れない。
 SMCは、この補正をしたFestoの目的は不明確であると主張する。<脚注8;SMCは、地方裁判所においては、Carroll特許に関して審査経過禁反言を議論しなかった。しかし、最高裁判所からのGVRにより、控訴裁判所は、公正さを増すために『以前に提示されなかったところの、関連のある判定や主張を検討しても良い』ことになった。 Stutson社 対 アメリカ合衆国 516 U.S. 193, 197 (1996年) 審査経過禁反言に関する現在の私達の検討は、特に適切である。というのは、Warner-Jenkinsonの故に、最高裁判所がGVR により、当法廷で検討するように指示した本事案は、均等の原則に対する限定としての審査経過禁反言の役割について特に指向されているからである。参照Warner-Jenkinson, 520 U.S. at 40>
Festoが、ピストンの両端にあるシーリング・リングを記述しない原クレーム1を特に撤回し、ピストンの両端にあるシーリング・リングを記述するクレーム9を追加したので、唯一の妥当な結論は、その補正が特許性に関連した目的のためになされたものであると、SMCは述べている。クレーム9は結合クレームであり、その特許性は、記述された1対のシーリング・リングを含む、記述された結合の新規性如何に依ると、更にSMCは主張する。その上、補正の理由が不明確であるならば、Warner-Jenkinson推定が適用され、均等の原則の適用は否定されると、SMCは議論する。
 Festoは、1対のシーリング・リング・エレメントを追加した補正は、要求されたものではなく、拠って自発的なものだとの主張で応答する。補正が自発的なものであったので、Warner-Jenkinson下での審査経過禁反言を生じさせることは出来ないと、述べる。また、ドイツ特許がシーリング・リング付きのピストンを開示しているので、再審査を早めたドイツ特許と区別するためにも、その補正は必要ではなかったと、Festoは述べる。補正が特許性に関連する目的でなされなかったので、その補正が審査経過禁反言を生じさせなかったと、Festoは異議を唱える。

[10]このクレーム補正が審査経過禁反言を生じさせるか否かを判定するために、先ず私達は、その補正がクレームの文言上の範囲を減縮したか否かを決める。上に審議したStoll特許のエレメントの場合と同様に、問題のクレームエレメントは、懸案のクレームの補正ではなく、新クレームとして導入された。特に、再審査の過程で1対のシーリング・リングを記述しない独立クレーム1が、1対のシーリング・リングを記述する独立クレーム9に置き換えられた。この補正はCarroll特許クレームの文言上の範囲を減縮した。<脚注9;クレーム5と6は、従属クレームであり、それらが依存するクレームの範囲が減縮されると、クレーム5と6もまた減縮される。参照 上述の脚注7> そこで私達は、補正の理由を検討する。
 上で審議したように、Warner-Jenkinsonにおいて、Festoは特許性に関連のない理由での補正であるとの立証責任を負う。Warner-Jenkinson, 520 U.S. at 40-41 Festoには、それが出来なかった。審査経過記録の中には、『特段のシーリング・リングについての言及』がなかったと、Festoは認めている。参照 全裁判官法廷での原告・被控訴人Festoの答弁趣意書 at 49 その上、全裁判官法廷での質問2に対する私達の回答に鑑みて、補正の自発性は、この問題には関係ない。
 Carroll特許の審査経過は1対のシーリング・リングというクレームエレメントを追加した補正が、少なくとも1つの特許性に関連した理由により動機付けられたことを現している。:それは、先行技術を回避しようという願いである。クレーム9を導入した補正に付帯された注釈の中で、再審査の申請時に記述されたドイツ特許を含めた『先行技術と区別し得るように特許権者の発明の特徴』をその補正が明確化したと、Carrollは述べている。かくして、ドイツ特許はシーリング・リング付きのピストンを開示していたが、1対のシーリング・リングを含む当該クレームに記述された特徴の結合は、ドイツ特許のクレームとの区別を示したと、Carrollは主張した。その上、審査官が再審査されたクレームを許可した時に、彼は『主張された関係での、複数のマグネット、端の素材、クッション素材を含むクレーム結合は、先行技術が教え、明示するものではない』(強調追加)審査官は、その許可声明書で特に1対のシーリング・リングを参考として引用しなかったが、彼の声明書は、主張されたエレメントの結合が特許可能と認められたことを強調している。この審査経過に鑑み、Festoは、1対のシーリング・リング・エレメントを追加した補正が特許性に関連のない理由でなされたことは立証できない。実際の所、審査経過はその補正が特許性に関連した理由でなされたことを示している。全裁判官法廷での質問3に対する私達の回答に従い、審査経過禁反言が、1対のシーリング・リング・エレメントに対する均等の原則の適用を否定する。拠って、私達はCarroll特許のクレーム5、6、9に対する侵害判決を破棄・逆転しなければならない。

判決
 均等により侵害されたと判定されたStollとCarroll両特許のクレームエレメントは、Stoll特許の審査とCarroll特許の再審査の過程で関連のクレームに、クレームの範囲を減縮した補正により、追加された。上に説明した如く、Festoは、これらの補正が特許性に関連なくなされたとの説明をしていない。従って、その補正は審査経過禁反言を生じさせた。このような状況下、補正されたクレームエレメントについての均等域は認められない。拠って、それらのクレームエレメントには、均等による侵害は起こり得ない。均等の原則に基づき侵害されたとの該法廷の判決を、

破棄・逆転する。

訴訟費用
 各当事者が、夫々自己の費用を負担するものとする。

(完)

<<尚、一部の判事の反対意見は、割愛した。>>