阪神大震災ボランティア報告

1996.06.24

1.はじめに

 パシフィック・アジア・カイロプラクティック協会(PAAC)と 
 日本オステオパシー学会(JOA)の平塚、岡崎、西岡、前田の 
 4名は、去る2月11日に神戸市立住吉小学校(神戸市東灘区 
 住吉東町4丁目)を訪れ、同所のボランティア本部との交渉の末に、 
 カイロプラクティックの無料施術を実施する了解を得た。 
 これを皮切りに、PAACの有志39名(延べ60名)が2月12日より 
 4月23日までの日曜日ごとに、通算10日間にわたってボランティア 
 治療を行なった。 


 校舎が倒壊寸前のため、校庭でのテント生活を余儀なくされている 
 避難所が多い中で、この住吉小学校はそのような被害がほとんどなく、 
 そのため東灘区の中でも最も大きい避難所になっており(ピーク時の 
 避難者はおよそ600名)、治療ボランティアを行なうにしても、 
 屋内でできるという利便さがある。また医師と看護婦が24時間体制で 
 常駐しており、近隣の住民のための食糧・飲料水の配給所にもなって 
 いる。2月の時点で大阪方面から電車で最も神戸寄りへ到達できるのが 
 JR住吉駅であり、住吉小学校は、この駅から南へ徒歩5分の場所にある 
 (JR在来線の完全復旧は4月1日、山陽新幹線の復旧は4月7日)。 

 我々の仕事は基本的に「人助け」の性格が強いものである故、 
 「このようなときこそ」という気持ちで活動に参加して下さった先生が 
 ほとんどであるように思う。快くボランティアに応募して下さった 
 先生方はもちろんのこと、PAACおよびJOAの事務局の方々には、物心 
 さまざまな面で絶大な支援・賛同をいただき、発起人を代表して 
 この紙面をお借りして、まずお礼を申し上げたい。 


 ひとくちに無料カイロプラクティックを行なうと云っても、 
 鍼灸やあんま・マッサージのように、すでに社会に浸透している 
 治療法に比べて、カイロプラクティックやオステオパシーはまだだ 
 ごく限られた人たちにしか知れ渡っていないので、避難所の 
 ボランティア本部でカイロプラクティックを行ないたい旨を申し出ても、 
 責任者たちにこの治療法を説明し、理解を得るまでが、まず第一関門で 
 あったことを記しておかねばならない。このことは、出発する前から 
 ある程度予想していたことであったが、実際に芦屋の津知町公園や 
 住吉小学校のボランティア本部で交渉したとき、本部の係員誰一人 
 としてカイロプラクティックという名称すら知っていなかった。 
 日頃自分の治療室の中だけで仕事をしているときにはあまり意識 
 しなかったことではあるが、これほどまでに社会的認知が低いのかと、 
 今更ながら思い知らされた。この点が、鍼灸・あんま・マッサージとの 
 大きな相違であることを、読者諸氏にお知らせしておきたい。 

 そしていざ治療を始めるにしても、治療スペースの問題や、認知度が 
 極めて低いことゆえに、患者を集めるという課題が残されている。 
 最初、ボランティア本部の人たちは、治療を行なうなら特別の 
 スペースを確保せねばならないのかと考えたようで、この点でも難色を 
 示されたのだが(教室・体育館が被災者で満杯状態のなかで、 
 余分な場所を確保するとなると、彼らの仕事が増える)、廊下の片隅で 
 充分に治療できることを理解してもらった。現実に、使用させて 
 もらったのは階段を上がった踊り場のような廊下であった。 

 つぎに、患者を勧誘する方法として、カイロプラクティックを 
 できるだけ簡単に理解してもらえるような、しかも同じ避難所に 
 常駐している医師団の反発を買わないような文案と看板を作って 
 学校の玄関や校門脇の塀に張り付ける、ビラを作って食糧の配給を 
 受けに来た罹災者に配布する、校内放送で流してもらう、などの 
 手段を用いて患者の勧誘に努めた。ほかに、新聞へボランティア情報を 
 提供したり、患者さんや平塚先生のご親戚の専門家にパソコン通信への 
 登録などを行なっていただいた(ニフティ・サーブ、インターネット)。 
 そのほか、B4用紙一枚に書いたカイロプラクティックの説明を用意し、 
 治療に来られた患者さんに渡して読んでもらうようにした。 
 (ビラを100枚配布すると15〜20人程度の方が治療に来られた)。 

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2.治療実績

実施日   2/11 2/12 2/19 2/26 3/5 3/12 3/19 3/26 4/9 4/23 
スタッフ 
人数     4     4    4   8    6    8    8   6    6   6 
ベッド数   0     0    3   4    4    5    5   5    5   5 
 患者数  16    42   57  48   66   59  102  74   67  46 

【年齢の判明している566名の年齢別の度数分布】
  1〜9歳 =   1人 
 10〜19歳 =  19人 
 20〜29歳 =  46人       患者総数(延べ)=577名 
 30〜39歳 =  62人 
 40〜49歳 = 114人       患者の平均年齢=51歳 
 50〜59歳 = 131人               最年少= 8歳 
 60〜69歳 = 132人               最年長=84歳 
 70〜79歳 =  58人 
 80歳〜   =   3人 

 度数分布から、患者の年齢は40代から60代までほぼ均等に 
 分布していることが判る。このような年齢分布が一般的で普遍的な 
 ものか、あるいは今回だけの特有のものかは判断がつきかねる。 
 みなさんの治療室での現状と比べて判断していただきたい。 


【患者の訴える症状】
 ボランティアを行なった住吉小学校のある東灘区は、家屋の倒壊に   よる死者が最も多い地域である。もっとも目立ったのが、地震後の   水運びや重量物を運搬したことによる肩、肘、背部、腰部の   痛みである。そのほか、家屋や家具の下敷きになっていたことに   よる上肢・下肢の関節機能不全、地震そのものや家族の死亡による   精神的ショック、などがある。特に最後の精神的苦痛が身体に   現われる場合には、その多くが「肩こり、疲労」となって現われたり、   患者自身がそういう表現を用いることが多いようなので、   治療に際しては、この点に関して特に注意が必要であった。   中には心身症の域を通り越して、明らかに神経症あるいは鬱状態に   至っていると思われる被災者も治療に来られ、担当なさった先生は   大変気を使って治療しておられた。  【治療後の患者の反応・評判】
 おおむね良好であるとの感触を得た。ボランティアに来て下さった   先生方がそれなりのキャリアを有しておられることと、短時間とは   いえ充分注意して治療に当たっておられたのが、印象に残っている   (しかも治療する側にとってはすべての患者が初診の状態である)。   当たり前のことかも知れないが、「治療事故」と呼ぶようなことは   ただの一度も発生しなかったことは、我々のグループのレベルの   高さの証明になっていると考えて良いだろう。同所に常駐している   医師団からの苦情なども全くなかった。   そして活動の後半になると、「口コミ」によって、治療に来られた   方の家族や知り合いが来られるようになった。また、治療中に   患者と会話して行く中で、ほとんどの先生が遠く関東方面から   手弁当で来られたことが判ると、多くの患者はこのことだけで   感激され、「遠くからでも自分たちのために救援に来てくれる人が   いる」ということが、治療に来られた人たちには、なによりの   精神的な励みになったようである。  【ボランティアに来て下さった先生方の感想】
 細かな点では個人個人でさまざまな考えをお持ちであろうが、   次のような感慨を漏らして神戸を後にする先生が多かった。   最大公約数としての感想を箇条書きにしておく。 

 1 地震のニュースに接する度に何かできることをしてみたいと 
  思っていたが、きっかけがなくてどうすることもできなかった。 
  PAACからのボランティア募集を見てさっそく応募した。 
  治療をしてあげると心から喜んでもらえたのが判り、 
  喜んでもらえて良かった。 

 2 神戸に来てみて、現実につぶれた家や倒壊しかけているビルを 
  目の当たりにすると、地震のものすごさが想像を絶するものだと 
  判った。 

 3 普段の仕事では初診の患者は少ないが、現場では、担当する患者は 
  すべて「初診の患者」ばかりだ。しかも限られた時間内で 
  (15分程度)それなりの結果を出さねばならない。 
  そういう意味でずいぶん勉強になった。 

 4 ほかの先生方が実際にどのような治療をしているのか、 
  なかなか見学する機会に恵まれないが、この機会にほかの先生の 
  治療を見ることができた。これもまた勉強になった。通常の 
  セミナーでは得られない勉強の機会であった。 

 このほか別の考えや感想をお持ちでありましたなら、 
 PAACニュースに投稿して下さることを期待している。 


【ボランティア参加者氏名(敬称略)】

関西地区:
 五十嵐 英隆 石田 伸二  河内 貴司  小柴 徳太郎 小村 健二 
 杉山 秀樹  西岡 伸郎  前田 滋    吉田 文明 

関東地区:
 足立 和子 市後崎 兼一郎 岩瀬 俊裕  植木 洪祐  大久保 典子 
 大場 健治 岡崎 豊輝   金成 親男   兼古 将    神戸 則光 
 栗原 輝久  肥田 栄男   権田 高史  桜田 善治  田中 一法 
 土井 武志 中島 豊仁   二之湯 昭  長谷川 昭雄 畑中 伊久雄 
 初田 幸助 原田 健穣   平塚 晃一  平塚 康之  松石 正和 
 村上 剛  山本 和弘     渡辺 勉    渡辺 英生  匿名希望者1名 

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3.最後に

 このたびの阪神大震災に遭われて避難所生活を余儀なくされた 
 人たちは、ピーク時におよそ20万人、この原稿を書いている 
 4月末の時点でおよそ5万人である。避難所に行かなくても被害を 
 被った人を含めると、被災者は軽く30万人を越すだろう。 
 このような多数の被災者が発生した中で、我々の治療できた人数は 
 高々600人ほどである。彼我の数字を比べると大海の中の一滴の 
 ようなものである。しかしできることは僅かでも、一人一人が 
 できることを少しずつ行なえば、大きな活動になる。そして 
 この一滴の波紋が、いずれは大きなうねりとなってゆくだろう 
 という手応えをつかむことができた。 

 これに関連して、他の避難所でも無料カイロプラクティックの 
 活動を行なおうという考えは当初からあったが、PAACとJOAの 
 動員力では1ヶ所で行なうのが精一杯で、2ヶ所以上に手を 
 広げることは無理であった。それにつけても残念なのは、 
 国際カイロプラクティック・リサーチ協会(療術師の団体)を 
 除いて、他の団体が神戸でのカイロプラクティック・ 
 ボランティアを行なったという情報が聞こえてこなかった 
 ことである(添付した新聞の切り抜きを参照されたい)。 


 以下は余談である。 
 患者さんとの会話の中で、「治療を受けたことはないが、 
 テレビその他でカイロプラクティックの名前だけは知っていた」と 
 いう方がざっと2〜3割、「カイロプラクティックを受けたことがある」人 
 はほんの一握り、7〜8割の 方は、この名前を耳にすることすら 
 全く初めてであった。カイロプラクティックの名前を知っていた人の 
 中には、さぞかし痛くて乱暴な治療ではないかと思いこんでいる人も 
 おられ、「70才を過ぎているとこんな治療には向かないのでは?」と 
 おっしゃる方や、最初はこわごわ来られた人もおられた 
 (もちろん治療後は、そのような誤解は全く解けた)。 

 カイロプラクティックが生まれて今年で100年目を迎えるが、 
 大都市である神戸でさえ、「カイロプラクティック」は一般の 
 人々に知られていること極めて少ないか、知られていても暴力的な 
 治療であるとの誤解があることが、この活動を通してあらためて 
 判った。まして他の都市や地域における浸透の度合いは、 
 推して知るべしであろうゆえ、「日本でのカイロプラクティックに 
 対する正しい理解はまだまだ低い」と云わざるを得ない。 
 そして、この仕事に携わっている者すべてが、これまで以上に 
 カイロプラクティックの正しい啓蒙運動を広げて行く必要性を 
 強く感じる。 


【添付資料】:
阪神大震災関連の鍼灸、カイロプラクティックのボランティア情報
(主に朝日新聞に基づく:2月10日〜4月26日掲載分) 

2/10:鍼灸1件:一日のみ 

2/18:カイロプラクティック1件(PAAC)8回 

2/19:カイロプラクティック1件(兵庫県療術業協同組合): 
   1ヶ所一日のみ 

同上:鍼灸:大阪府、和歌山県、埼玉県の鍼灸師会30名が12の会場で 
                         (一日のみ) 
同上:鍼灸マッサージ:阪神中国医学研究所鍼灸院: 
   2ヶ所で一日のみ 

同上:マッサージ:全国病院理学療法協会大阪府支部のメンバー 
   10名:2ヶ所で一日のみ 

2/25:鍼灸:兵庫県鍼灸師会:2/26の午前中5ヶ所で、 
      午後は場所を変えて8ヶ所で 

2/27:鍼灸:近畿中医学研究会:3/5に35名が2ヶ所で:一日のみ 

3/3 :鍼灸:兵庫県鍼灸師会:3/5に8ヶ所で(2度目) 

同上:鍼灸:近畿中医学研究会:3/5に4ヶ所で(2/27の記事と重複) 

同上:全国病院理学療法協会近畿会:3/5に午前中3ヶ所で、 
   午後は場所を変えて2ヶ所で(2度目) 

3/4 :ビワ灸:日本ビワ温圧療法師会:3/4に4ヶ所で 
               3/6〜3/8は東灘区内 
         3/9〜3/11は灘区内(通算7日間) 

3/5 :鍼灸:川西市栄町の純鍼灸整骨院で: 
            一日のみ(読売新聞) 

同上:気功:全日本気功連合会:3/5に1ヶ所で 
               3/19に1ヶ所で(読売新聞) 

3/6 :ビワ灸:日本ビワ温圧療法師会:3/6〜3/8に6ヶ所で 
     (3/4の記事と重複) 

3/6 :日本スタファー:大阪心斎橋のスタファー本部にて3月末の月・金 

3/9 :ビワ灸:日本ビワ温圧療法師会:3/9〜3/11に6ヶ所で 
    (3/4の記事と重複) 

3/9 :カイロプラクティック:PAAC:3/12,19,26に住吉小学校で 
     (毎日新聞) 

3/11:マッサージ:全国病院理学療法協会近畿会: 
   3/12に午前中1ヶ所で、午後は場所を変えて1ヶ所で(3度目) 

3/11:鍼灸:兵庫県鍼灸師会:3/12に中央区の12ヶ所で(3度目) 

3/16:マッサージ:全国病院理学療法協会近畿会: 
      3/19に2ヶ所で(4度目) 

3/18:鍼灸:兵庫県鍼灸師会:3/19に11ヶ所で(4度目) 

3/19:鍼灸マッサージ:奈良県鍼灸マッサージ師会: 
      3/21に御影高校で 

3/20:鍼灸:日本鍼灸師会:3/21に神戸市内7ヶ所で(5度目) 

3/24:鍼灸:日本鍼灸師会:3/26に長田区と兵庫区の12ヶ所で(6度目) 

3/24:マッサージ:全国病院理学療法協会近畿会:3/26に2ヶ所で(5度目) 

4/5 :カイロプラクティック:PAAC(9度目) 

4/21:ビワ灸:日本ビワ温圧療法師会:4/22に芦屋市と神戸市内9ヶ所で 
                    (通算8日目) 

4/26:マッサージ:大阪からだとこころの出会いの会: 
       4/28,29,30,5/12,6/23にそれぞれ1ヶ所で2時間ずつ 

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