現象としての脊椎の後方変位(2)セサモイド誌 No.2(99年7月号)より転載前田滋:カイロプラクター(大阪・梅田) 無断使用・転載等は厳禁! (https://www.asahi-net.or.jp/~xf6s-med/jreport2.html) 本サイトの内容を一部なりとも引用、転載する場合には、必ず上記のURLを明記するか、リンクを張って下さい。 1.初めに前号では脊椎の後方変位に関して、この変位がレントゲン診断学の 分野では「後方辷り症」という名称で割り合いに古くから知られていること、 病院(整形外科)で原因の特定されない腰痛には腰椎の後方変位を 起こしている可能性が高いこと、およびレントゲンフィルム上での判定法と、 その対処法などについて説明を行なった。今回は筆者の治療室における症例を 挙げてみることにする。なお、レントゲン撮影は、すべて自然立位にて実施している。 2.症例報告症例1.42才の女性主訴:左下肢の坐骨神経痛 アジャストメント:L5の後方変位 坐骨神経痛の発生したのが83年7月17日から、治療開始はそれよりほぼ 1年後の84年6月4日である。同年8月20日までに11回の治療を行ない、 左下肢の症状は完全に消えた。その後も軽い腰痛がときどき出現する度に 治療を継続した。 治療開始時のL5の後方変位は6mmで、回復後の撮影は2年半後であるがL5の 後方変位は2mmに減少していた。その他にも仙骨の回旋(P5-L)や骨盤の 中心線と恥骨結合とのズレが減少し(10mm→5mm)、骨盤孔が正常な形状 (ハート型)に近くなっているのに注目していただきたい。 図1. 治療前のレントゲン前後像(84.06.04)
図2. 回復後のレントゲン前後像(86.11.11)
図3. 治療前のレントゲン側面像(84.06.04) 左下肢の坐骨神経痛、L5の後方変位=6mm
図4. 回復後のレントゲン側面像(86.11.11) 2年半後、L5の後方変位=2mm
症例2.30才の女性 主訴:歩行不能を伴う急性の酷い腰痛と両足底の痺れ アジャストメント:L5の後方変位 この患者は急性の酷い腰痛で、担がれるようにして来院した。 腰痛は6回の治療で解消し、その後一週間に一度の頻度で治療を継続し、 13回後(3ヶ月後)には両足底部の痺れが消失した。治療開始前にはL5の 後方変位が6mmであったが、3ヶ月後には2mmに減少した。 症例1と同様に、骨盤前後像の観察では、骨盤の中心線と恥骨結合との ズレや骨盤孔の形状など、骨盤の様々な変位が軽減している。 図5. 治療前のレントゲン前後像(84.09.19)
図6. 回復後のレントゲン前後像(84.12.15)
図7. 治療前のレントゲン側面像(84.09.19) L5の後方変位=6mm
図8. 回復後のレントゲン側面像(84.12.15) 13回アジャスト後、L5の後方変位=2mm
症例3.38才の男性 主訴:慢性の腰痛 アジャストメント:L5の後方変位 この患者は来院する20年ほど前から腰痛の再発と緩解を繰り返していたが、 20回の治療(7ヶ月)で痛みは全く出現しなくなった。治療開始前には L4とL5にそれぞれ5mmの後方変位が存在していたが、7ヶ月後のレントゲン 撮影では、L4の後方変位に改善は認められなかったものの、L5の後方変位は 1mmまで改善されていた。その他、骨盤の様々な変位も大きく軽減している ことに注目。 図9. 治療前のレントゲン前後像(86.02.07)
図10. 回復後のレントゲン前後像(86.09.19)
図11. 治療前のレントゲン側面像(86.02.07) L4の後方変位=5mm、 L5の後方変位=7mm
図12. 回復後のレントゲン側面像(86.09.19) 20回アジャスト後 L4の後方変位=4mm、L5の後方変位=1mm
症例4.59才の女性 主訴:酷い腰痛による間欠性歩行 アジャストメント:L5の後方変位 この患者は来院する何年も前からの腰痛が徐々に悪化し、遂に間欠性歩行を 来すようになった。治療開始当初は7日間隔でアジャストを行ない、 少し歩行が楽になってきた16回目の治療以後は10日間隔でアジャストした。 治療開始時のレントゲン像では、L4の偽性辷り症による前方変位が9mm、 L5の後方変位が5mm存在していた。間欠性歩行が完全に解消した半年後の レントゲン像では、残念なことに腰椎の左への側彎は余り改善されておらず、 またL4の辷りも変動がなかったが、L5の後方変位は1mmにまで改善されていた。 この間の治療回数は27回であった。 図13. 治療前のレントゲン前後像(90.09.26))
図14. 回復後のレントゲン前後像(91.04.05)
図15. 治療前のレントゲン側面像(90.09.26) ひどい腰痛による間欠性歩行 L4の辷り=9mm、L5の後方変位=5mm
図16. 回復後のレントゲン側面像(91.04.05) 27回アジャスト後 L4の辷り=9mm、L5の後方変位=1mm
症例5.66才の女性 主訴: 左鼠径部の熱感 アジャストメント:L5の後方変位 この患者は発症(90/12/20頃)してから4ヶ月後に治療を開始した。 治療を始めてからおよそ2ヶ月後(10回目)に右股関節の熱感は 完全に消えた。その後も腰痛、膝関節痛などの症状を訴えていたので、 1~2週間の間隔で継続して治療を行った。 図17. 治療前のレントゲン前後像(91.04.01)
図18. 治療前のレントゲン側面像(91.04.01) L4の後方変位=4mm、L5の後方変位=4mm
図19. 回復後のレントゲン側面像(91.10.25) 24回アジャスト後 L4の後方変位=4mm、L5の後方変位=2mm
症例6.46才の男性 主訴:右下肢のひどい坐骨神経痛 アジャストメント:L5の後方変位 一般に、ひどい腰痛や坐骨神経痛を起こしている患者は最初に 整形外科を受診し、そこで2~3ヶ月治療を続けてから、なかなか 回復しないので知り合いに紹介されて来院することが多い。 しかし、この患者は発症後わずか一週間で治療を開始しているので、 非常に早い段階で治療を行なうことができた例である(症例7も同様)。 そのため、比較的少ない治療回数(8回)で症状が消えた。 治療前には、L4とL5はそれぞれ5mmの後方変位を示していたが、 8回治療後のレントゲン側面像では、L4の後方変位に変化はないものの、 L5の後方変位が3mmに減少していた。この事実から、右下肢の坐骨神経痛は L5レベルにおける右椎間孔内での障害であると考えられる。 その他、骨盤孔の形状、骨盤の中心線と恥骨結合のズレ(10mm→5mm) などが軽減していることに注目していただきたい。 図20. 治療前のレントゲン前後像(96.3.18)
図21. 回復後のレントゲン前後像(96.5.11)
図22. 治療前のレントゲン側面像(96.3.18) L4とL5の後方変位=5mm
図23. 回復後のレントゲン側面像(96.5.11) 8回アジャスト後 L4の後方変位=5mm, L5の後方変位=3mm
症例7.26才の男性 主訴:ひどい腰痛と右下肢の坐骨神経痛 アジャストメント:L5の後方変位 この患者は彼の母親の紹介で、酷い腰痛と右下肢の坐骨神経痛が 出現してから2日後に来院した。治療前のレントゲン前後像では、 典型的な疼痛回避姿勢(左への脊柱傾斜)を示している。 側面像ではL5の後方変位が7mm認められた。 3回目の治療時に脊柱の傾斜が消え、6回目の治療時には歩行時と 静止時の右下肢痛が消えた(ラセーグ徴候は30°から70°に回復)。 14回治療後(約6週間後)のレントゲン撮影ではL5の後方変位は4mmに 減少していた。症例6と同様に、この患者も痛みの出現から 僅か2日後に治療を開始しているので、極めて早期に神経痛が消失した例である。 図24. 治療前のレントゲン前後像(97.01.18) 顕著な疼痛回避姿勢
図25. 回復後のレントゲン前後像(97.03.04)
図26. 治療前のレントゲン側面像(97.01.18) L5の後方変位=7mm
図27. 回復後のレントゲン側面像(97.03.04) 14回アジャスト後:L5の後方変位=4mm
症例8.54才の男性 主訴:酷い腰痛と左下肢の坐骨神経痛 アジャストメント:L5の後方変位 この患者は来院する2ヶ月前から、酷い腰痛と左大腿後部の激痛と 痺れが続いていた。痛みが強く、また長期にわたって持続しているので、 病院では手術を勧められていた。治療開始前の腰椎のレントゲン側面像では、 L5の後方変位が8mm存在した。この数値は筆者の経験では腰椎の後方変位の 中で最大の部類に属する。 5回目の治療時には左大腿後部の痛みが軽減し始めたので、 治療間隔を3日から5日に延ばした。10回目の治療時には大腿部の痛みが 殆ど消えた。この時点で治療間隔を7日毎とし、20回目の治療時(5ヶ月後) には腰痛も殆ど消えた。その時点でのL5の後方変位は3mmに減少している。 これに伴って骨盤孔の形状も正常なハート型に近くなっている。 ただし、長時間座っていると左坐骨部に軽い痛みと痺れが出現するので、 現在も('99年6月現在)10日に一度のペースで治療を継続中である。 図28. 治療前のレントゲン前後像(99.01.05)
図29. 回復後のレントゲン前後像(99.05.11)
図30. 治療前のレントゲン側面像(99.01.05) L5の後方変位=8mm
図31. 回復後のレントゲン側面像(99.05.11) 20回アジャスト後:L5の後方変位=3mm
3.結語20年にわたる筆者の治療室における後方変位の代表的な症例を列挙してみた。 後方変位の症例は無数に経験しているが、回復後にも再びレントゲン撮影に 応じてくれる患者は極めて限られている。従って、治療前の後方変位 レントゲン像は無数にあるが、回復後のそれは非常に少ないのが現状 である。それらの中で代表的な8例を挙げて説明を試みた。レントゲン診断学のテキストには、後方変位は椎間板の萎縮や椎間板 ヘルニアに伴うものであるという説明がなされているが、脱出型ヘルニアで なければ、たとえヘルニアが存在していても後方変位を起こしている椎骨の 可動性を改善するようなアジャストを継続して行けば、早期に症状は 改善されるだろう。 各症例で説明した通り、手によるアジャストによって腰椎の後方変位を 軽減させるだけで、骨盤の様々な変位も解消されていることが理解して いただけるだろう。このことから、腰椎のメージャー・サブラクセイションの アジャストメントによって頸椎や胸椎など脊柱全体にも良い影響を およぼすことが類推できる。逆に、頸椎や骨盤にメジャー・サブラク セイションが存在する場合にも同様の効果が期待できるだろう。 今回は言及しなかったが、腰椎の分離辷り症または偽性辷り症による腰痛や 坐骨神経痛においても、そのアジャストは辷りを起こしている直下部の 椎骨に対して後方変位の場合と基本的には同じ様にして行なうことができる (症例4を参照)。ただし、辷り症の場合には、症状は改善されても辷りの 程度は軽減されないのが一般である。椎弓部の破損(分離症)や椎間関節 における一種の脱臼(偽性辷り症)では、如何なるアジャストを行った としても、椎骨の前方変位は極めて稀にしか軽減されないことは自明である。 ダイナミックなレントゲン撮影が可能であるなら、辷りを起こしている分節の 可動域の改善が証明されるであろうが、静止状態のレントゲン撮影では アジャスト後の椎骨の辷りの程度に変化が現れることはない。 *附録:カイロプラクティックを含めた保存療法の適用除外例 図32.女性;50才、右坐骨神経痛、ラセーグ兆候陽性 両側の膝蓋腱反射陽性 発症の5年前に子宮癌摘出手術歴あり 異常を見つけてすぐに病院に送った。 モニター上では見にくいが、椎骨に異常所見が認められる。
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