日常の健康:線維筋痛症

Wellness in Practice: Fibromyalgia

Meridel Gatterman, D.C.
J Amer Chiropr Assoc(JACA) 2004 Jun;41(6):22-24
訳:栗原輝久:パシフィック・アジア・カイロプラクティック協会・理事

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線維筋痛症には、圧痛点と呼ばれている様々な部位での触診痛と広範な部位での慢性的な疼くような疼痛という特徴がある(1)。 特殊な基準によって識別される線維筋痛症を認識するとしないに拘わらず、重症度や患者の疼痛の頑固さによって、医原性だとして患者支援グループ、弁護士、メディカル医療の中にいる協力者から未だに訴えられることがある(3)。 線維筋痛症の発生率は2~3.3%の間である(4)。 線維筋痛症と診断される患者の85~90%は女性である(5)。


症状

線維筋痛症の最も一般的、特徴的な症状は、全身の疼痛、強張り、 疲労、頭痛、睡眠障害である(6)。関連症状には過敏性腸症候群(訳注1)、 むずむず脚症候群(訳注2)がある(1,5,6)。患者の多くは「何処もかしこも痛い」と訴え、 過去に結果として心気症(訳注3)と診断された経験を持っている(6)。 典型的なものでは、運動や驚かされると症状が悪化する(6)。 患者が隠れた怒り、恨み、あるいは鬱を伴った虐待歴を訴えることも多い(7-9)。


表1.合衆国リウマチ学会による線維筋痛症の診断基準
1.広範な疼痛の既往歴。以下の事柄が全てみられる時に、
  広範な疼痛とみなす。
  ・身体の両側に疼痛がある
  ・(肩と臀部を含んだ)腹部の上下に疼痛がある
  ・軸骨格(頸椎、胸椎、前胸部、腰部)の疼痛がなければならない
  ・上記の3つの部分での疼痛が広範な疼痛という基準を満たす


2.以下の18ヶ所(両側の9ヶ所)の圧痛点のうち、指による触診で
  11ヶ所に疼痛がみられる

  後頭骨:後頭下筋群の両側の付着部
  下部頸椎:C5-C7の両側の横突起間スペースの前部
  僧帽筋:両側の僧帽筋上縁の中心部
  棘上筋:両側の肩甲骨内縁近くで肩甲棘上部の起始部
  第2肋骨:両側の第2肋-肋軟骨結合部
  上腕骨外側上顆:両側の外側上顆の末梢2㎝の部位
  臀筋:両側の臀溝の上外側部
  大転子:両側の大転子の隆起の後方
  膝:両側の関節裂隙内側で脂肪の豊富な部分


臨床所見

線維筋痛症患者の最も重要な所見は、多くの圧痛点の存在である(表1)。 (ドクターの)爪が蒼白になるまで、圧痛点への垂直方向の圧迫を徐々に強めていく(6)。 過剰な圧を加えてはならない、患者が顔をしかめたり身を引くのを観察しなければならない(6)。 線維筋痛症患者は非常に敏感なので、優しく扱わなければならない。 線維筋痛症は、その特徴的な症状や圧痛点の多さから容易かつ確実に診断されることがある(1.2.5.6)。


生体病理学的なメカニズム

線維筋痛症患者の研究から、神経内分泌の機能異常が明らかになったが、 これには中枢感作や視床下部‐下垂体‐副腎(HPA)の軸線の異常が含まれる。 現在では線維筋痛症は、中枢感作症候群(訳注4) に分類されるグループの症候群中の一疾患であると認識されている。 このグループに含まれるものには、線維筋痛症の疼痛、慢性疲労症候群、過敏性腸症候群、 むずむず脚症候群、緊張性頭痛、片頭痛、化学物質過敏症などがある。

中枢神経系感作は、様々なタイプの中枢感作症候群に共通する病原が結合した「膠(にかわ)」 であると考えられている(1)。中枢感作は、通常であれば痛む(痛みを感じない?) 程度あるいは非侵害性の末梢刺激に対する中枢神経系の過剰な反応であると定義されていて、 この刺激には接触(これで痛みを感じるのであれば異痛症(訳注5))などがあり、 中枢神経系ニューロンの興奮性亢進や過敏症を意味している。 中枢感作の他の特徴には疼痛時間の延長と頑固さがある。 侵害性ニューロンと非侵害性ニューロンとの間の「クロストーク」 は中枢神経系の神経可塑性と呼ばれている。 これは中枢神経系機能は確立されているわけではなくて、 末梢性の要素や環境的な要素によって変化することができるということを暗示している。

興奮性アミノ酸の他に様々な神経ペプチド間の相互作用は、 増強された刺激を脊髄後角において、あるいは後発事象の際に調節するが、 これは、持続性の異常興奮性と過敏性を持った二次ニューロンにおける著しい機能的な変化、 末梢性刺激の増幅、受容野の拡張、"wind-up"現象(訳注6)へと至る。 wind-up現象は、末梢のC線維に反復性の短時間の刺激を加えた後に二次ニューロンの反応が徐々に増強し、 そのために継続的な刺激に伴って、これらの二次ニューロンの反応は増強し、 以前のものよりも強くなることと記されている(1)。 感覚の処理続きに関する複雑な現象の中では 脊髄ニューロンと脊髄より上位のニューロンが常に互いに影響し合っているという証拠がある。 これらは、全てKorrの促進理論やNimmoの反響回路を連想させる(6)。

視床下部‐下垂体‐副腎の軸線の異常が線維筋痛症患者において実証されたことがあるが、 これには24時間尿中コルチゾールの減少、昼間のコルチゾールの変動、 夕方のコルチゾール・レベルの上昇が含まれる。 副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンに対する誇張された副腎皮質刺激ホルモン反応が報告されたことがある。 これは(中枢メカニズムを示唆している) 上昇した副腎皮質刺激ホルモン・レベルに対する相対的な副腎皮質機能亢進症を示唆している。



線維筋痛症患者の管理

線維筋痛症患者の管理の成否の鍵は確定診断で、その後に病状が悪性ではなく、 致命的な障害をもたらすものではないこと、そしてやがては軽減する事を確認することにある。 線維筋痛症患者は、伝統的な患者中心のカイロプラクティック治療に良好な反応を示す、 このカイロプラクティック治療には次の特徴がある:
 ・先天的な組織化や環境に対する身体の適合能力を認識し、
  それを促進する
 ・患者の価値、信仰、期待、健康管理の必要性を承認し、
  尊重する
 ・薬物を用いない侵害性が最小限の保存的な治療を優先する
  ことによって、患者の健康を増進させる
 ・患者が自身の健康に責任を持つことを激励するような
  積極的な方法
患者と患者を中心に考えるドクターは、意思決定、臨床効果の強化、 経済的にも適切な治療において、パートナーとしての役割を担う。

患者が自分自身を助け、活力を保つために良好な環境に変えるように患者を激励しなければならない。 そうすれば健康の全面的な改善へと通じる小さな手掛かりが見つかる。 教育は、理想的には患者だけでなく、患者を支えるネットワークの中にいる家族も対象になる(6)。 認知療法は、自身に関する認識と他人に対する態度を変化させて、 患者の怒りが鎮まるのに役立つ事が明らかにされた(1,6)。

手技療法を行うカイロプラクティック治療が線維筋痛症患者の管理に役立つことが証明された(6.11,12)。 線維筋痛症患者に対する健康法に、 ヒトとしての活動の質を最適化するライフ・スタイルを通して肉体的、観念的、情緒的、 精神的幸福を促進する価値観や行動を含めるべきである。 健康には患者の積極的な参加が必要である。これは、遺伝子構造があるとすれば、 最良レベルの機能を追い求めることによって、可能な限り最良の健康を獲得する過程である。 健康の目標は、線維筋痛症患者の回復に欠かすことのできない内的環境と外的環境の間の 最も都合の良いバランスを維持することである。


訳注1:過敏性腸症候群
腸管とくに大腸の機能的疾患、副交感神経系の持続的緊張亢進状態によって、 腸管の運動亢進、分泌亢進が起こり、腹痛、下痢、粘液便、便秘、腹部膨満などを起こす。 便通の状態により便秘型、下痢型、便秘下痢交代型に分けられるが、同一例に種々の型が出現しうる。

訳注2:むずむず脚症候群
尿毒症などの際にみられる末梢神経系障害の1つ。知覚異常や麻痺などを伴う。

訳注3:心気症
心身の些細な変調にとらわれて、それに見合った客観的な所見が認められないにも拘わらず、 重大な病気に罹っているのではないか、 それが見逃されているのではないかと心配し、 執拗に色々な心身の異常を訴える状態を心気状態といい、 その状態が持続するようになると心気症または心気神経症と呼ばれる。

訳注4:中枢感作
脊髄後角細胞が過敏状態になり、弱い刺激に対しても過剰に反応する症候群。

訳注5:異痛症
痛み、神経感作により、通常痛みを感じない程度の痛みでも痛みを感じる現象。 片頭痛発作の75%は末梢神経感作後に中枢神経も感作される事が認められており、 中枢神経感作が皮膚異痛症として発現すると、皮膚が過敏状態になる。 こうなるとトリプトファン(異常に拡張した脳の血管を収縮させて、片頭痛を治める)も効かない。

訳注6:wind-up現象
末梢神経をある一定の頻度と程度で刺激すると、脊髄後角細胞の反応が刺激ごとに増強していく現象。

参考文献
1. Yunus MB, Inanici F. fibromyalgia syndrome: Clinical features, diagnosis, and biopathophysiolgic mechanisms. In Rachlin ES, Rachlin IS (eds.) Myofascial pain and fibromyalgia: Trigger point management. 2nd ed. St.Louis: Mosby; 2002.
2. Wolfe F, Smythe HA. Yunas MB et al. The American College of Rheumatology 1990 criteria for the classification of fibromyalgia. Report of the Multicenter Criteria Committee. Arthritis and Rheum 1990;33:160-72.
3. Ehrlich GE. Is fibromyalgia an organic disease? JAMA 2003;289:1385.
4. White KP, Speechley M, Harth M, Ostbye T. The London fibromyalgia epdidemiolgy study: the prevalence of fibromyalgia syndrome in London Ont. J Rheumatol 1999;26:1570-6.
5. Yunas MB. Inanici F. Clinical characteristics and biopathophysiologicl mechanisms of fibromyalgia syndrome. In Baldy PE. Myofascial pain and fibromyalgia syndrome. Philadelphia, Churchill Livingstone; 2001.
6. Gatterman MI, Blunt KL, Goe DR. In Gatterman MI. Chiropractic management of spine related disorders. Baltimore: Lippincott, Williams & Wilkins; 2003.p.319-69.
7. Haber JD, Roos C. Effects of spouse abuse and/or sexual abuse in the development and maintenance of chronic pain in women. In Fields H. Howard L. World Congress of pain: 4th Proceedings (Advances in Pain Research and Therapy). New York: Raven Press; 1985. SER: 9, p.889-93.
8. Taylor et al. The prevalence of sexual abuse in women with fibromyalgia syndrome. Arthritis Rheum 1995;38: 229-34.
9. Boisset-Pioro, et al. Sexua/physical abuse in women with fibromyalgia syndrome. Arthritis Rheum 1995;38: 235-41.
10. Gatterman MI.A patient-centered paradigm:A model for chiropractic education and research. J Altern Compl Med 1995;1:371-86.
11. Blunt KL, Rawani MH, Guerriero RC. The effectiveness of chiropractic management of fibromyalgia patients:A pilot study. J Manipulative Physiol Ther 1997;20: 398-99.
12. Hains G, Hains F. Combined ischemic compression and spinal manipulation in the treatment of fibromyalgia: A preliminary estimate of dose and efficacy. J Manipulative Physiol Ther 2000;23:225-30.

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