チャカぽこ


幼 稚 園1971.2月号〜9月号 小学一年生1971.2月号〜8月号
小学二年生1971.2月号〜8月号 小学三年生1971.2月号〜8月号
小学四年生1971.4月号〜8月号 小学五年生1971.4月号〜8月号
小学六年生1971.4月号〜8月号 以上に連載(小学館)

上の画像は「幼稚園」1971年1月号掲載の連載開始予告。

1971年(昭和46年)の正月、ダイナミックプロ・イズムが子供の 基礎教養になった!

いたずらがだいすきな「チャカぽこ」
ゆかいなおじいさんの「ポクポク」
おとぼけパパの「ポコぽこ」
すてきなママの「ポコちゃか」
おちゃめないもうと「チャカちゃか」。

「幼稚園」連載開始の1971年2月号に載っているチャカぽこ一家の プロフィールだ。各学年誌全てにまだ目を通せていないが、一応 そういう「手続き」でこのマンガは始まっている。

だが、 「永井豪とダイナミックプロ」がそう単純にコトを運んでくれるはずはない。 コレ常識。一家に一冊のこの学年誌上から下まで全てを使って、マンガ絨毯 爆撃テロを敢行していたのだっ!

「いたずらがだいすき」なのは全員。おじいさんは「ゆかい」にいじめぬかれ、 一家は確信犯で略奪、暴虐の限りを尽くす。器物損壊・不法侵入は当たり前、 死者負傷者はその内統計でも取ろうかってなくらい毎度毎度のコト。

そもそもどういう設定かっつーと、托鉢僧を一家でやってるんですよ、こいつら。 「チャカぽこ チャカぽこ はらへった〜」なんて賑やかに念仏唱えながら どこからともなく現れ、突然目に付いた家に上がりこみ、メシ喰うだけ喰って 去って行く。理由なんてのはない。いやまだメシ喰う回なら腹減ってるって 理由がある分、読者にも感情移入するスキがあるからイイ方。

大概の場合、善良な一市民がヤツラの餌食になる。例えば街のペンキ屋さんが エントツに文字書いてると、チャカぽこ一家に作業を邪魔されまくった挙句、 突き落とされる。

街一番の健康が売りのおじいさんがマラソンしていたら、 ヤツラのペースに乗せられ、他所の家に勝手に上がりこみ、女風呂に侵入し、 変質者として病院送りになる。宇宙ロケットが飛び立つも、ちゃっかり乗り 込んでメシ喰わせた挙句、墜落させられてしまう。

あなたが年頃の女性なら、ヤツの落し物を拾ってはいけない。 それだけで一方的に惚れられ、まとわりつかれる上、チューを迫られ、 あなたの顔は怪獣となり、ヤツを殺すつもりで振り払わねばならないのだ。

しかもヤツラには連帯感はない。標的となる市民がいなかったら、 自分たちの中で、弱点を見せた者を徹底的にいたぶり倒す。 常に「チャカぽこ チャカぽこ〜」と念仏を唱えながら。 繰り返すが、ヤツラには信心も、イデオロギーもない。 早乙女門土(『ガクエン退屈男』)言うところの 「たたかいたいからたたかうんだ!ころしたいからころしたんだ!」 …である。

チャカぽこ一家も楽しそうだから、美味しそうだから、と単純な欲望 で動いてるに過ぎない。しかも普通なら最後にひどい目に会って云々、 というフォローがあるが、半分以上のエピソードは反省を促すよう な気配は全くない。まあ究極のアナーキズム・ナンセンスである。

このマンガがうっかり妙な意識を持ったヒトに見られたら、 「あらゆる暴力百花繚乱に描き、全てを笑いにしているワースト作品」 というだろう。でも元来子供ってそういう存在なんだよな。

編集者もどこか確信犯だったようで、「幼稚園」連載開始号では直接 作品とは関係ないが、「チャカぽこぷれぜんと」なる企画を表紙裏で 展開。「小学三年生」4月号トビラでは、「ハレンチ学園の永井豪先生 が大はりきり!」…と、煽ってすらいるのだ。親への通信ページでは、直接 『チャカぽこ』と謳ってはいないが、マンガやテレビの持つ暴力性と、 子供はソレを見分けているという旨を繰り返し説いてみたり。

※ちなみにこの時期『ハレンチ学園』は有名な「大戦争編」終了後、 人気が高いために再開されていた。

また「三年生」同号には豪ちゃんのコメントも載っていて、「めまぐるしく変わる 現代社会に大人は振り回されているが、子供はしたたかに社会を振り回 している。そのバイタリティーを描きたい(大意)」とのこと。

まあ要はイイワケつーか先回りなんだろうけどね。ギャグマンガってのは 半端におもねるとつまんない、だけなのだけども。恐らくは最も豪ちゃん が時代に対して先鋭化していた時期なワケで、誰しもイデオロギー無縁の スカッとすっきりバイオレンスに覆われた、ギャグが欲しかったのだ。

ちなみに同時期の作品は、『魔王ダンテ』 『ススムちゃん大ショック』『くずれる』『屋台王』などなど。 いや実際、神も仏も無い世界ばっかり描いておられます。

計算上は44本あるはずだが、唯一の単行本『どんがら三銃士』 (メディアファクトリー・永井豪華版シリーズ・全1巻)に 収録された現存している分が16本。ああ無情。

筆致を見るに、各学年ごとに、岩沢友高、小山田つとむ、風忍、 石川賢各氏らしいタッチも見え隠れしている。この時期いかに ダイナミックプロ周辺の作家集団が切磋琢磨してエスカレート していたか、という貴重な証左ともなっていて、できれば完全 版を望みたい作品だぜ。いや、マジでマジで。

また、同時期に一緒に掲載されているのが、『新オバケのQ太郎』 『ドラえもん』と藤子2連発に『帰ってきたウルトラマン』『ジャン ボーグA(テレビ化前のパイロット版)』の円谷攻撃、テレビでも 人気の『いなかっぺ大将』『魔法のマコちゃん』や光プロによる 『魔法使いサリー』などなどあまりに豪華な面々だけに古書市場も高い高い。 尚のこと、単行本で普通に全部見たいっす。

そういや、唐澤俊一氏が、トークライブにて「永井豪ランド」 があった場合、一番パレードに出て欲しくないキャラとして 挙げていた。恐らく沿道の客は身ぐるみはがされ、場合によっては 命も危ない。全く同意しますです。


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