『魔王ダンテ』レビュー その(4)

ストーリー・設定などもろもろは 公式サイト(http://www.mao-dante.com/)参照。

#10「神略」 <2002.11/2(土)>

原作の大柴ゲラゲラリンチ編から「なぜ助けてあげないの」とメドッサ 出現、過去に遡りソドム滅亡〜悪魔誕生編まで。

冒頭に宇津木家・涼主催家族会議シーン追加。一人暮らししたい、と語る涼に 家賃光熱費は自分で稼げ、とだけかすかな笑顔で伝える康介。コレだけ色々あ る親子だけに、どこか白々しい空気が流れて見えるのは、狙いなのかな?

というのは、大柴に「下宿探し手伝ってやれ」と指示する一見親心に見える描写。 神の使徒である康介の本心とするならば、父親としてのものなのか、涼に不審な 悪魔の影を見出した上で大柴の監視を付けたのか、何とも言えない。

で、全編通しての空気はまあまあ原作のトレースとしては並みの下ってところ。

削られたと思ってた、剣道部リンチのシーンがココで登場。それ自体は『魔王 ダンテ』に現れる「豪ちゃんらしさ」を象徴する意味で、ようやくか、という ところだが、ココにつながるまで、アニメオリジナル展開であれだけ悩める裏 主人公張ってた壮ちゃんが、何かを吹っ切ったかのように悪魔なぶるという突 然の豹変展開になってしまってるのは、その間の心の動きを表す描写が、もう少し 欲しいところかなあ、どうせなら。いくら人間が作った悪魔と本物の悪魔が 違うとはいえ、対処法が別人だやね。

その上で、今回の全体の感想としては、
・大柴のガイキチっぷりが足りない
・ダンテとメドッサのベッドシーン描写がいかにも童貞クサくてこっちが照れる
・神の業火に焼かれるサマ見ると、ソドムの街には10代後半の若者しか住んでないのか
・そもそもソドムの街のプロダクションデザインは、いくらなんでももう少し現代と差別化できるように考えて設計しよ うよ
とか作画マン個々の体験値の低さが目立つのはさておき(おいてねーよ)。

ダンテ誕生の瞬間見ると、つくづく枚数抑えてるんだろうなあ、と溜息。アニ メーションが本来得意としている「メタモルフォーゼ」という要素が全く生か されてない。この回、他は紙芝居でも、ココは動かなきゃいかんだろう。

焼かれる火の中で、恐竜と超兵器と涼が、炎となって形を変え、強烈な意識力 でイマジネーションとしての「怒り」を具現化するわけで。その象徴が醜い化 け物であるところがまた哀しいわけだし。だからこそ、融合し変形するという 部分がしっかり描かれてなきゃいけない。コレ、原作読んでないと、翼がプテ ラノドンで、牙がT-レックスで、戦闘機がパイルダーオンしてるってデザイン 上のアイデアが伝わんないぞ。この「意思の力で無を有に変える」というテー マは例えば『手天童子』の降魔の剣とか、『サイコアーマーゴーバリアン』の 設定とか、案外豪ちゃん世界では大事な要素なんだよなあ。

神の攻撃を受けて廃墟と化したソドムの街。ベール教授以下、ゼノンやダンテ、 メドッサと街の人々を前に、以前から神の侵略を予見していたという「賢者サタ ン」が登場。声の出演・野沢那智に吃驚。これでまた枚数にかけられる金が 減ったんじゃないのか?(笑)というか、野沢那智をキャスティングするとい うことは、それなりの伏線あってのことだろうけども。サタンは神?悪魔?

※付記:野沢氏が代表を務める、「パフォーミング・アート・センター」の サイトを見ると、同所所属の遠藤綾氏が宇津木沙織のオーディションで残り 二人まで行ったこと(結局残念だったようですね)に合わせて、野沢氏が 「ダンテ」役に内定している、との情報が載せられている。「サタン」役との 混同?それとも?(2002.11.23)

さて、 今週特に思ったんだけど、沙織役・小林沙苗さんの演技って、「なんか一所懸 命やってまーす」は分かるんだけど、トーシロ演技だよね。もちっと自然にで きんもんかね。(いや涼役・千葉進歩とライバルやってるっていう『ヒカルの 碁』は見てないんだけどさ)

次回サブタイトル「沙織」。シャワーに打たれながら泣き叫んでる 沙織がフィーチャーされた予告編つーわけで、なんだか衝撃的な展開があるみたいね。 小林さんの演技に結構な重みが必要だが…さて。

#11「沙織」 <2002.11/9(土)>

▼いよいよ残すところ3本。サブタイトルは「沙織」「窮地」「終焉」 とアナウンスされている。で、前回のレビューで沙織にとって衝撃 的な事件が起こるのでは、と予想したワケだが結果的に言えば、 非常に沙織にとってパーソナルなところでの「事件」ではあった。

大好きなアニキが家を出て行った上に、デルモの古代冴子の肩抱いて 歩いてくるところに遭遇、ショックの余りに兄貴の写真見ながら 「いっぱい泣いちゃう」な展開。15歳の少女が現実にそれほどアニキ へ恋慕するものなのかどうか、6つ下の妹を持ってる俺としては甚だ 疑問なのだが。まあ妹萌えの人的にはOKなのかね?

物語自体は勝手に沙織を巻き込んで動いた、 という印象だ。突如兜甲児の声で喋る神が現れ、シャワールームで いっぱい泣いてる沙織を拉致、そのまま神の戦士へと改造する。 奪われたアニキ、というのが神の戦士・イブの行動原理になりうるのだろうか?

▼一方で、最初から振られていた宇津木一家にある「どこか空辣で不安定な家族像」 みたいなものは、この回で 宇津木家が粉々に崩れることで、一応の縦筋として機能はしたんだろうな、と。

特に康介ってことさら思惑もないまま、正直に神を盲信して ただけだったのね。父としての動揺に、もう少しフォローが欲しかった。

神の使徒でありながら、それと知らず自分が魔王を 立派に育て上げてしまったという事実に驚愕。愛娘すらも信じていた 神に奪われてしまう。彼の何がそうまで神の仕打ちを受ける「理由」 ないし「罪」なのか。彼は父として何が欠けていたのか。そういうことが 物語の動機になっていたのは感じるだけにだ。結局発狂の末に最も醜い人工悪魔 を作っている最中に、自分が育てたもう一人の暗殺者・大柴壮介の 苦悶の刃に倒れるわけだが。康介は自分が育てた全てに裏切られて 死を迎えるのだ。

▼そんな、何かが通じていない「康介が育てたもの」の中で、「家族」の 「母」以上の存在ではなかった民子は、神の復活とともに単なる「入れ物」 でしかなかったことを露呈。母らしく振舞ったものの、神が離脱し、 理性を失い獣と化した人間たちが放った火の中で、いとも簡単に、多分何も 真実を知らぬまま、死を迎える。 …その瞬間を超感覚で知った涼、というシーンは秀逸だ。

▼そして大柴壮介。原作と最も違うのが案外この人だろうか。人間であり ながら神への疑問を持ち続け、理不尽な存在の「神」をあがめるシステム に挑む。例の司令官を殺し、発狂した康介が人造悪魔を暴走させようと しているところに飛び込み一刀両断。その人間の科学が生み出した人造悪魔と 相打ちに終わり、「人間は何のために生まれたのだ!」と叫び絶命。

ただ…正直見ている間は、彼に感情移入できるのだが、ふと考え直してみる。 彼の行動は永井豪の創作物に対して、上原正三がそこから切り込んだ 軌跡と思えるが、さて、壮介の問いかけ「神とは?人間とは?」そのもの は本来涼たちから成されるべきものなので、この処理が妥当だったのか といえば、やや疑問が残る。

▼とはいえ、時間枠的に今回のテンション自体は結構良かったんじゃないでしょうか。 絵も見やすくまとめられていたし(作画監督・進藤満尾氏)。

かねてよりの疑問だった悪魔に変身できるキ ャラとサタニストのままでいるエキストラがいた理由は説明 され一応納得。

また、ゼノンの遺言「アダムとイブに気をつけろ」が予想 (つーか期待)通り生きてきました。イブはどうやら沙織 …が、アダムに付いてはどうなのよ、沙織がイブになった時に いきなり沙織の横に出てきちゃったみたいだけど?もしかして大 柴がアダムということか?

▼あと2話で神vs悪魔の戦いを描くことになるよう ですが、果たして持つんだろうか、と不安もよぎったり(笑) 次回はサタンが恐らく復活、彼が聖書の記述どおりの堕天使を 演じるのだとすれば、確かにもう一山あるかな。『デビルマン』 と『聖魔伝』の中間みたいな展開にて終わるのだろうか?

#12「窮地」 <2002.11/16(土)>

沙織=人類の全エクトプラズム集積兵器登場・苦戦するダンテ・次々 と殉じていく悪魔たち・メドッサの悲哀溢るる末期・サタン復活・…と、 イベントは多いのだが、なんだか今回は全体に他人事のよーな空気を 感じてしまった。見ている俺のテンションが低いからか?

▼魔王サタン復活。
ダンテとのつながりや、ソドムの街での役回りなどが今一つ明確に 見えなかった、設定だけの存在・賢者サタン。どうやらみんなに 頼りにされていて、ことある時にはソドムの街を動かしていた人のよ うだが、その辺りのエピソードが今まで特に描かれていない。

従って、視聴者としては感情移入できず、サタン復活が物語にうねり を与えるようには、期待感が盛り上がらないのだ。復活したサタンが 「悪魔軍団よ!」なんつって、マントの裏の異空間(?)から悪魔沢 山出して、ダンテ対沙織の場を盛り上げようとするのだが、入りこめ ないっす。

うーん。そもそもその役回りは、サタンに振らないで主人公・ダンテ にこそ求めるべきなんであって。原作ではちゃんとそうなってるから、 ラストの怒りにつながるんだし。こうなるんだったら、サタンをそも そも今回のアニメからは削るべきだったと思う次第。声を野沢那智大 センセーがやったら存在感大丈夫ってモノではないと思うぞ。

▼神の兵器・エクトプラズム集合体+沙織。
これ、もう一展開次回に待ってるみたいだけど。というのは、なんと も気にあるのが、沙織である女性体に対して、何の意思表示も活躍も なくダンテの炎に消された男性体の存在なんすよ。

あの「雌雄同体」の姿は、「これがアダムとイブ」だと視聴者に思わ せるブラフ(引っ掛け)なんじゃないか。で実は神の兵器じゃなくて、 ダンテと沙織の間にある、現世での兄弟であり宿命の敵であるという 運命を神が使って何かを仕掛けるという展開が待ってたりとか。

だとしたらダメダメだなあ。もう少しあのデザインをうまく使った 戦いが見たかったなあ、と。でないと、ブラフとして機能してないぞー。 (と思って来週見てはぐらかされたら…いやいや)

▼メドッサの最期。絵作りは疑問符が付くけど、ココであえてやって おくというのは分かるかな。涼×沙織×メドッサの三角関係は一応や らないって宣言しつつ、ストーリー全体の中での彼女の哀しみみたい なものは、十分生きてるってコトで。

神の兵器と戦うダンテのために、命を捨ててまで神の軍団の一人と刺 し違えるってのは、いい役回り。生きてもう一度ダンテに会えないっ てのが、またねえ。せめて亡骸くらいはダンテの前に持っていってや れよ、サタン。

まあ物語の根幹を考えると、実は魂の輪廻がベースにあるので、肉体 の死にそれほどショックを感じなくなっている、視聴者の心構えって のがあって。そこは計算違いというか、矛盾を抑えきれてないという か。「それは言わない約束でしょ」とも思うが、この展開であるがゆ えに、惜しいなあ、と。

▼と、いうわけで次回最終回・アーマゲドン。今まで原作ではソレを 語らなかったがゆえに、豪ちゃん印「たたかいだ!ゆくぜ!」効果が うまく作用した一作になっていたんだと思うんですけども。それに果 敢に挑戦して成功した事例ってのは、前回も書いたけど、『デビルマ ン』と『聖魔伝』だけじゃないかと…さて、この作品はどーなる?


ストーリー・設定などもろもろは 公式サイト(http://www.mao-dante.com/)参照。

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