わんど2000/9月


立山砂防軌道
建設省立山砂防軌道(2000/08/24)



TKAルート(続)

わんど2000/8月から続いてます
〔穂高→立山〕

 この山の中のホテルまで迎車にきてもらったら、乗車時点ですでにかなりメーターが上がっていて、駅まで5000円くらいもいるのではないかとビクビクしながら乗った翌朝のタクシーでしたが、通常の運賃に迎車料 180円を上乗せしただけの2000円弱で穂高駅まで行ってくれました。このあたりの運賃システムがどのようになっているのか…。

 予定していた時刻よりもかなり早く駅に着いたものの、昨日にも感じたように時間を潰す店もなく、小さな待合室でぼんやりと列車を待ちます。もっとも、こういう時間の過ごしかたというのも旅行ではたいせつなのかもしれず、日程ぎりぎりのツアーでのせわしなさがないのがかえっていいものかもしれません。

 小一時間ほど待って松本発信濃大町行き普通 4227M列車に乗車。単線でしばしば列車交換のために長時間の停車をしつつ、ここでもやはりゆっくりとした時間を過ごしながら大町盆地の景色を楽しみます。残念ながら北アルプスの尾根には厚い雲がかかっていまして、これから行く方向の天候がちょっと心配になりました。この列車、信濃大町に8時53分着、大町で乗る扇沢行きのバスが9時発で、このバスを逃しますと10時40分までありません。列車はちょっと遅れ加減でしたので、車内からこのバスを運行している北アルプス交通に電話をしてみたら、列車が遅れてもそれを受けてバスが出るのでだいじょうぶとのこと(いやあそれにしても便利になったもんです)。この列車を受けなければバスに客がないということはあとで分かりました。

 大糸線沿線ではおそらく最も大きな町の玄関であり、TKAルートの東の入口でもある信濃大町駅ですが、穂高駅よりはそれなりの規模ではあるものの、やはりひと気は少なく、駅前広場が閑散としているのも、まだ朝だというのに強烈な真夏の日ざしのせいだというわけでもなさそうです。

 扇沢行きのバスでは運転手さんのすぐ後ろの座席にありつきました。夏の旅行では、どちらの窓の景色がいいのかの判断とともに、なるべく日が当たらないほうの座席を確保することもたいせつ。カーテンを閉めなければならない日差しだと、景色のいいほうの座席に座ってもけっきょく何も見られませんから。

 大町の市街地を抜けてバスは徐々に山に分け入り、深い谷間が見え出したと思ったら広大な駐車場と場違いな建物が唐突に現れて、そこが関電トロリーバスへの接続地点の扇沢だったのでした。

続く(2000/09/01)
go top go end

扇沢で洗車中の車輌 扇沢からは関西電力のトロリーバスで針ノ木隧道(関電トンネル)で一気に黒部ダムサイトまでいくことになります。じつは、鉄分の多い私にとって、このトロリーバスに乗ることも楽しみにしていたひとつでもありました。トロリーバスは、見た目はほとんどバスですが、法規上は「無軌条電車」という電車なのです。鉄ちゃんとしては当然のことながら興味深々であります。

 かつて大阪市京都市にはトロリーバスがありました。私の住んでいた家のすぐ近く「あべの橋」と「玉造」の間にも走っていて、静かな音のわりに乗り心地は電車ほどよくなかったことを覚えています。しかし、架線で行動範囲が制限されることが嫌がられて早くに廃止されています。しかし、最近の電池ディーゼルハイブリッドバスなどの導入をみていますと、車両そのものがクリーンなトロリーバスは、時代が時代ならもっと重要視されたのにと思うのです。

黒部ダム駅ホーム それを証明するように、関電トンネルは開通当初からトロリーバスでしたし、立山側の大観峰から室堂までのトンネルでも元々はディーゼルバスだったものが数年前にトロリーバスに転換されています。ま、よく考えれば、山の恩恵を受けて水力で電気を作っている現場で電気を使わず石油燃料を使うというのも妙なことで、そういう意味では、室堂から美女平までのバスも電気動力になればと思いますが、トロリーバスだと架線がいりますから、もしこの区間を電化するなら電池バス(笑)でしょうか。

 閑話休題、トロリーバスの乗り心地はやはり独特のものでした。隧道内なのでタイヤの音が反響し、けっして静かではありませんでしたが、加速感やモーターの音は快適で、これは何度も乗りたくなります。

 途中で列車交換ならぬトロリーバス隊列同士の交換、閉塞信号もありますが、安全対策のためかさらに昔なつかしい「タブレット交換」らしきものもあって、約15分で扇沢駅と違って完全にトンネル内の黒部ダム駅(左写真)に到着。いや、楽しい。

 駅から 220段といわれる地下の階段を登って外に出ると、そこには想像をはるかに越えるすばらしい景色が広がっていたのでした。

続く(2000/09/03)
go top go end

 なにを隠そう、私は自他ともに認める極度の高所恐怖症です。小学生のころ、自宅の裏にあった鶏小屋の屋根から飛び降りようとして足を滑らせ、一回転して背中から地面に激突したのがPTSDになったのではないかと自分では分析しているのですが、ともかく、テレビなどで人が高いところにいるのを見ただけでもお尻がムズムズしてくるくらいです。

黒部ダム展望台から黒部渓谷下流方向 ところで黒部ダムは、ダム本体の堤高が186mといわれています。そして、黒部ダム駅から 220段の階段を登ったところにあるダム展望台はさらにそれだけ高いところにあります。黒部川の谷底までおそらく250mくらいはあるのではないでしょうか。トンネルから出て、紫外線をたっぷり含んだ真夏のアルプスの太陽を浴びると同時に、私は後立山連峰の中腹の小さな建物の屋上に飛び出したことになります。目の前は立山の東壁、背中に後立山の崖、足元に虹を浮かべたダムの放水の落ち込む黒部川本流。左に青々とした黒部湖とその両側の、いまだ雪渓を随所に残した山。右には十字峡などに続く深い谷(右写真)。

 展望台の端の手すりにもたれてこのすばらしい景色に見とれ、写真を撮り、双眼鏡を持ってこなかったことを悔やみましたが、しかし高さに対する恐怖がほとんど感じられません。かつて、福岡空港から上五島空港まで長崎航空の双発アイランダー機(9人乗り)で行ったとき、高度1000フィートくらいで飛ぶコミュータ機の窓から下界の景色を心から楽しんだことがあり、そのときも高所恐怖はありませんでした。

黒部ダム堰堤/放水による虹が見える 黒部の展望台でなぜ高さが恐くないのか考えてみますと、これはあまりにも日常とかけ離れた景色、構造物ばかりのため、距離感や寸法の感覚がとれないからではないかと思ったわけです。高さを感じるために比べるものが視界にない。近くでみた黒部川本流の幅がどのくらいか私は知りませんし、だからそこに架かっていた小さな橋を人が渡るとどのくらいに見えるのかも想像できません。対岸の沢筋の急流まで、展望台からどのくらい離れているのかかいもく見当がつきません。ダムの堰堤(写真左)の上を観光客が歩いているのがかろうじてスケールの根拠になりそうですが、それにしてもまだ堰堤に行っていないので実感がありません。

 未経験の風景だと、おそらく人間は現実感を喪失するのでしょう。これはあとに行った立山室堂平でも感じたことでした。

 ダム周辺の景色は、それはもう「すごい」としかいいようがありません。堰堤をゆっくりと渡り、ふたたびトンネルの中に入って、これまた全線トンネルという珍しいケーブルカーに乗って立山方面に向かいます。

続く(2000/09/05)
go top go end

黒部ケーブル黒部湖駅 全線トンネルの中のケーブルカー(写真左)というのは、全国でもこの黒部ケーブルが唯一だということです。このあたりから、乗り物に乗るのにすこしずつ待ち時間が増えてきて、ケーブルのあとのロープウエイの乗車整理券を受け取りつつ、お盆明けの平日のこの時期でさえこの混雑では、ほんとうの多客期はさぞたいへんだろうなと思いながら、いわゆるケーブルカーに乗り込みました。

 で、それなりに満員のケーブルカーが走り出しましたが、この車体(ゴンドラといいますが)、ま、普通のケーブルカーではあるのですが、その、どうでもいいことなのですが、えーと、窓は必要ないのではないだろうかという…。だって黒部湖駅を出て黒部平駅に着くまで窓の外はトンネルの壁だけですから。かろうじて中央部でのゴンドラどうしの入れ代わりが窓から見える景色です。

 超のつく満員の車内で、やたらに大きな声が耳に障ります。この大声の主は、このあと富山地鉄の立山駅で私たちが宿に向かうときに、同じく駅前から貸切バスに乗り込むまでしばしば同じ乗り物になってしまいまして、中国語でしたからたぶん台湾のかたの団体のツアコンのおっちゃんでした。大阪弁の団体さんもウルサイといわれるようですが、このツアコンおじさんはケタ違いの賑やかさでありました。

立山ロープウエー/下は畳平 ケーブルとロープウエーの乗り換え駅である黒部平では50分待ちといわれ、腹は減ったものの、レトルトのようなカレーライスが1000円、家庭用のおもちゃみたいな氷削り器で作ったカキ氷が 300円。いやはやなんとも…。持参した缶ビールを、かなりぬくくなっていたのを辛抱して腹の足しにしたものの、やはりちょっと頼りない、ふと見ますと駅の立ち食い蕎麦がとてもうまそうだったので、熱々のそれを3口ほど食べ始めたところでロープウエイの乗車の番が予定よりかなり早く回ってきまして、ぜんぶを食べられないままにあわてて改札口へと急がなければなりませんでした。ダシがうまかったのに残念。

高度のある大観峰駅では酸素も売っていた ここからのロープウエイ(写真右)は、高所恐怖にはちょっとつらい「途中に支持する塔のない索道」。単純に山上と麓の建物でワイヤが引っ張られているというもので、こういうのも日本中でここだけだということです。もっとも、実際に乗ってみたら、これまた比較物がないからか、下から見ていたほどの高度感はなく、景色をみているうちになにごともなく大観峰駅に着いてしまいました。

 ここからまた地下にもぐる…。

続く(2000/09/09)
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 立山トンネルはふたたびトロリーバスになります。ここは以前は普通のディーゼルバスが走っていたらしいのですが、そのころにこなくてよかったと思うのは、バス一台がやっと通るトンネルを10分ほど走るわけで、ここでディーゼル排気はとてもつらいだろうということ。

 黒部トンネルと違って、こちらではタブレット交換はないようでしたが、歴史が新しいぶんだけシステムも新しくなっているのかもしれません。そのうちそのあたりの調査か取材をしたいと思っているうちに「室堂」に到着。

 室堂駅とそれがある建物のあたりに関しては思い出したくもない。突然にギラギラの観光地の真っ只中に放り出されたようなもんで、なんだか吐きそうになる。私はもともと人の多いところが苦手なんです。転げ出るようになんとか人の少なそうなところを求めて室堂平へ向かいました。ここでの景色や歩いたところについては省略。大阪へ戻りたくなくなるのは毎度のことか :-)

 3時間近く室堂の雪渓の残るところを徘徊しましたが、所詮山を歩く装備はしていないのでちょっと消化不良ぎみのまま、遅くならないように行列に加わって美女平行のバスの人になりました。

 きわめてツヅラ折れが連続する立山高原パークライン、雲の上から雲の中を抜けて雲の下の美女平に着くまでの景色は「乗り物の窓からの景色評論」もしている私にも表現できないすばらしさ。このあたりを単なる移動途中などと考えてはもったいないとだけ書いておきます。

 美女平に着いてケーブル乗車を待つ時間、ひさしぶりに「大音響よけいなお世話のBGMこれでもかこれでもか、だもんね」攻勢に遭遇。これがニッポンの正しい観光地という雰囲気に意気消沈(苦笑)。またまた例の中国語の騒がしいツアコンおじさんと同乗の立山ケーブルで下界へと向かう。

 とうとうTKAルートも最終。

続く(2000/09/13)
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 長文の雑誌原稿の〆切があってそちらにかかりきりになっていました ^^;

 立山ケーブルは一説には日本でいちばん勾配の急な鋼索鉄道だと聞きました。このTKAルートにはいやに日本一とか日本唯一とかいう交通機関が多いわけで、書き忘れましたが立山トンネルトロリーバスは日本でいちばん高いところを走る鉄道なのだそうです。ケーブルに話を戻しますが、そういえば車輌の側面の窓のずれ具合がとても激しいのは確かで、乗車しても車内の床の階段がかなりなものでもありました。ところが手元の資料でざっと調べてみましたら、そのケーブルの最急勾配は 560パーミル(56パーセント)で、さきほど乗ってきた黒部トンネルのケーブルの 587パーミルのほうが急ではありませんか。私の記憶違いか、それともトンネルの中のケーブル以外といいたいのかと思ってさらに見ていましたら、東京都の高尾登山電鉄は 608パーミルとありました。高野山のケーブルも 563あります。ちなみに日本最古の近鉄生駒鋼索線は 227ということで、半分以下の勾配だそうです。

称名滝 いずれにしても一気に下界に降りてきて、立山駅に近づいたとき、進行方向左側になにやら線路が…。これがあこがれの建設省立山砂防軌道の千寿ケ原スイッチバックの一部なのでありました。これの見物は明日の楽しみとしておきます。

 ようやく大声ツアコンおじさんと別れて二番目の宿「立山国際ホテル」へ。ここは前日の「穂高ビューホテル」より周囲の環境や建物自体のレベルはすこし落ちますが、夕食・朝食とも食事場所が完全禁煙だったのには大拍手でした。穂高ではせっかくの美味い空気なのに分煙すらない食堂にひどく幻滅でしたから。スキー場のまん前にあるホテルなので冬が主体なのでしょうが、夏はツアー客もどんどんとっている大衆的なホテルにしてはタバコに対する配慮はかなり進んでいると感じたことでした。

 例によって都合4回ほども温泉に入った翌日、ほとんど客のない路線バスで称名滝まで往復、しかしこの滝は午前中は逆光になります。とても美しい滝なので、ここはぜひ午後に見るべきでしょう。立山駅に戻って砂防博物館を見物しがてら立山砂防軌道の構内でしばしうっとりと軽便見物。昼前の富山地鉄の富山行き各停でアルペンルートを後にしたのでした。

ひょっとしたら続く(2000/09/21)
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