日々雑談 '96/11月上旬



11月1日/苗代田という停留場

 「苗代田」などという駅名からは、回りに田んぼの広がった野中の駅というイメージしかわいてこないのではないでしょうか。
 この駅(というか、ほとんど停留所でしたが)は今はもうありません。苗代田という地名もほぼ消滅して、近在に「苗代小学校」というのが唯一名残を感じさせているにすぎません。そもそも南海平野線が、阪神高速松原線の工事によって廃線になってしまっています。
 私が小学校から高校を卒業するまでいた家の裏にこの駅はありました。南海平野線というのは、大阪軌道線の一部、いまは阪堺電気軌道という会社になっている、要するにチンチン電車の路線でした。だから駅とはいっても、地面から少し盛り上がったプラットホームと、そこに小さな屋根、木造の粗末な作り付けのベンチ、壁には新世界の映画館のポスター、そういう舞台装置でした。それでも小学校のころは、小さな切符売り場があって、おばさんが切符を売っていたような記憶があります。駅前でしばしば花菱アチャコさんをお見かけしたのもこのころでした。
 この電車が開通したころ、私が住んでいたあたりはおそらく田園地帯で、田んぼのまんなかに苗代田駅ができたのでしょう。氏神さまが阿部王子神社、つまり熊野詣での王子の第一番目がルーツという、そういう土地柄だったのです。

11月2日/ミナミは大阪の顔

 たいへんひさしぶりに夜のミナミに行ってました。ミナミというのは、大阪の大きな夜の繁華街の呼び名でして、もうひとつ「キタ」というのがあります。東京でいえば、キタが銀座でミナミが新宿というところでしょうか。
 昼間のミナミででも感じていたのですが、夜になるとまたいちだんとミナミの表通りは若者であふれかえっていました。もっとも、すこし裏に入りますと、歩いている層はぐっと昔と同じになりまして、黄色い歯をむき出して下品に笑ってるおじさんたち、見るからに「おミズ」系の女性、できたらすれ違うときにも袖が触れ合わないようにしたい「その筋」風のおにいさんたち、段ボールを満載したリヤカーを四苦八苦して曳いているホームレスおやじさん、危なっかしい風体のポンビキ業のかた、そういう人たちとは無縁に淡々と商売に打ち込んで屋台を開いている人たち、うむうむ前とおんなじミナミや、と安心するのでした。

11月3日/病院はコンビニエンスストアではない

 当直をしていて最近気がつくことですが、休日や夜間に昼間と同じ希望をなさる患者さんが多くなったような気がします。とくに若い人に多いような…。
 たとえば、喘息の患者さんがちょっと特殊なエアゾルタイプの薬を希望したり、予約の検査の申し込みがなぜできないのかと文句をいったり、もちろん何日も前からの不調をわざわざ深夜に受診しにきて検査ができないことに不満そうにするのはいつものとおり。
 ふと思ったのですが、これは24時間営業のコンビニエンスストアがごく日常のものになってきている影響なのではないでしょうか。ということは、まもなく24時間営業の保険薬局などといいうのもできてくるかもしれません。現実はどうあれ、在宅介護支援センターというのはすでに24時間をうたっているわけですし…。

11月4日/紅葉の季節の箕面駅

 当直明け。やれやれと思いながら駅につきますと、次の電車は「臨時特急」だという。ま、乗り換え駅には停車するので、その電車に乗りました。先頭に「もみじ」と書いたヘッドマークをつけています。
 乗り換え駅では、いつもの休日だと電車の本数が少ないので、けっこう待ち時間があるのに、今日はすぐに便がありました。やはり「もみじ」のトレインマークつき。
 終点の箕面につきますと、駅のコンコースには紅葉見物の待ち合わせの人たちがあふれかえっていました。年に一度の華やいだ季節が今年もやってきたなあという…。駅からのバスは行楽とは関係がないので、いつものように落ち着いたものでした。
 この連休の二日とも勤務だったパートナーは、帰宅途中を箕面の紅葉見物帰りの車の渋滞に二日とも巻き込まれてたいへんだったようです。
 これからしばらく、北摂では紅葉が真っ盛りになります。

11月5日/儲ける気もない蕎麦屋さん

 以前から、旨いのでいちど食べにいったら、といわれていた蕎麦屋さんを初めて訪ねました。ちょうどすぐ近くに用件があって、しかもちょうど昼だったのです。
 なんの変哲もない町並みの中で、まったく特徴のない屋号と店構えのそのお店、聞いていなければそこいらにたくさんある蕎麦屋さんと区別がつきません。店も小さなもので、全体にこじんまりとしていて、休日などには行列ができるとはとても信じられないたたずまいでした。
 しかし、メニューは蕎麦とうどんだけ、町の蕎麦屋さんにありがちな丼物や肴系はまったくありません。料金はちょっとだけ高い目。
 今日は「にしん蕎麦」をいただきましたが、表現は「旨かった」としかいいようがありません。口こみで一部だけで知られている名店というわけですが、いや、また食べにいこうと思います。

11月6日/季節季節季節

 朝、テレビでいつもの番組を見ていますと、今が今日の最高気温、などといっていました。じっさい、雨があがってからもどんよりとした天気のうえに、だんだんと風が強くなってきて、夕刻にはもうほとんど「木枯らし」という状況になりました。
 暑がりの私はといえば、見た目にはちょっと分からないものの、シャツにネクタイの上にはまだ夏もののジャケットを羽織っています。で、さすがに帰宅途中は寒かった。明朝も同じようなら、ジャケットだけは間(あい)のもの*1)にすることにします。
 いよいよ冬のかけらも見えてきたようです。
    *1) 間(あい)とは、大阪では字のとおり「あいだ」のことを言いま
    す。ジャケットでいいますと、夏ものと冬ものの中間のものの意味。

11月7日/受験産業のなりふり構わなさまたは品のない営業

 帰宅して風呂に入ろうかと服を脱いでくつろぎかけていますと、換気のために網戸だけにしてあった玄関の外になにやら人の気配がします。「こんばんは」という男の声。「こちらは高校一年の××さん(娘の名前)のお宅ですね」、なんやなんや何ごとや、と応対に私が出ました。
 受験産業の営業マンでした。やりとりの詳細は省略しますが、以下の点を鑑み、私より10才くらいは年上らしきその人には失礼ながら、玄関先でこてんぱんにやってしまいました。
○アポイントなしにじぶんどきに突然自宅を訪れる非常識。
○中学3年のときにたまたま受けた公開模試のデータを流用しての営業行為。
○暗くなった時刻に男二人で迫るという押し売り的態度。
○求めていないものを強制しかねない押し付けがましさ。
○客の側が現代の受験状況を知っていないようだという「蔑み」的言辞。
○単なる営業なのに、受験という高尚な事態に関っているという自己陶酔。
○その他その他、のうえに、そういう病識が皆無である態度。
 こういう対応はされたことがなさそうでしたが、みなさんは心で思っていても常識のある人たちだからおっしゃらないだけで、私みたいな非常識なニンゲンは思ったままを言っているだけや、と駄目押ししておきました。ま、出てきたのが、ジーンズにノースリーブのシャツ、頭はぼさぼさで髭づら、そのくせ理屈をこねまわす変なおやぢだったので、おふたりは少し腰がひけていたようですが、それにしても、父親はおそらくまだ帰っていないが、母親と高校生は家にいるという微妙な時間帯を狙っているのは明らか。汚い商売したらあきまへんでぇ、ほんま。往生しまっさ。
 ご同業のかたがおられたら申し訳ないが、こういう商売はたいへん迷惑なものだと認識だけはしておいていただきたいのです。

11月8日/魔のきんよーび

 その昔「はなきん」という言葉がありました。金曜日というのは、週休二日の職場や学校にとってはいわゆる週末、ほっとする日なのではないでしょうか。
 私にとっては、一週間のうちでいちばんハード(というか、つらい業務)なのが金曜日、つまり一日中の外来診察の日でありまして、それだからよけいに金曜の夜というのは開放的な気分になります。もっとも、仕事でかなりぐったりしていますから、若いときと違ってワッと繰り出すという元気はありません。いそいそと家に帰って静かに酒を飲む、というのがいいのです(それではいつもといっしょやんか、という声が聞こえてきそうですが、うーん、そうかもしれん)。
 最近は土曜日にいろいろと課外活動 :-) が多いので、とくに金曜日の夜というのは気分が変ります。そして、明日は下関市まで日帰り出張ですが、この気分のまま「探偵ナイトスクープ」は見てから寝ます。

11月9日/「のぞみ」は揺れるゾ

 仕事関係の研修会の聴講のため、下関市まで日帰りででかけました。下関市はちょっと大阪からのアプローチが不便でして、午後いっぱいの研修会にゆったりと日帰りしようとしますと、小郡や新下関での乗り換えを考えてはだめで、とくに19時ごろに下関から帰ろうとしますと、ほとんど24時近くになってしまいます。いちばん効率がいいのが、「のぞみ」で小倉乗り換えという方法。けっきょく往復とも嫌いな「のぞみ」利用になってしまいました。
 それで、車内にバソコン(リブレット)を持ち込んで、遅れている原稿を書いたりしようと画策したのですが、いやもう揺れがひどくてたいへんでした。効率が悪い。もちろん出先のグレ電ででニフティにアクセスすることができたのは助かったのですが、往復の車内のキーボード操作ですっかり肩が凝ってしまいました。
 来週の土曜日はまた東京日帰りを敢行しますが、それも帰路は「のぞみ」になります。「のぞみ」登場のころ、そこまでして早い列車がいるのか、その早さにかかわる危険性などどうなるのだ、などと自分の BBSで批判の論を張ったのは私ですが、やはり必要なときには便利な列車です。でも、このスピードに恐怖を感じるのは、何度乗っていても同じですね。

11月10日/新車がきた

 我が家では私もパートナーもクルマが必要な仕事をしていたので、10年くらい前からそれぞれのクルマを持っていました。しかし私はここ数年来、クルマ(自家用車)なし生活をするようになっていまして、ほとんど乗ることがなくなってきました。そして、パートナーのクルマは長いこと乗っていてぼつぼつ乗り換えなければならない時期になりましたので、思い切って2台(うち一台は10月30日に手放しました。もう一台はパートナーの乗っていたこのサニーです)を売って1台の新車にすることにしました。
 その新しいクルマが今日きました。ひさしぶりの新車の香りです。私は日常には乗りませんから、いってみればこの新車はパートナーのクルマということになりますが、それでも新車というのは心が浮き立つものです。「脱クルマ21」活動に賛同しつつも新車へのトキメキがなくならない、クルマとはまことに不思議な道具だとあらためて思ったことでありました。

11月11日/私も薬を飲んでいます

 何度か書きましたように、夏からごく軽い降圧剤を一日一回毎朝服用しています。それによってちょうどよい血圧に安定していますので、いまは28日分処方してもらって持っているのですが、今朝ふと気がつくと残りが数個になっていました。あれれ、どこかへなくしたのかな、と思いつつ、病院で自分のカルテを出してきて見てみますと、なんと前回の処方日は10月12日、少し余裕をみて出しましたから、ちゃんとなくなる時期がきていたわけです。
 それにしても一ヶ月のたつのが早いこと。
 会計で再診料と処方箋料など 180円支払い、処方箋を持って近所の保険薬局へ出向いて頭痛のときの常備薬ともどもで 800円也。もういっぱしの薬常用者のリズムになってしまっています。

11月12日/プロとはなんやねんな

 いくつかの雑用をこなすために、午後から休暇をとって大阪市内を走ってきました。阪神高速道路と、ベイエリアのほうを走ったのですが、混雑/渋滞は覚悟していたものの、しばらくこういう場所から遠ざかっていたのでよけいに感じるのかもしれませんが、とくにトレーラーや大型トラツクに恐怖を感じました。渋滞で走れないときはともかく、空いてきますと、まるで何かにとりつかれたように、目が血走っているのではないかというように、額に青筋が何本も出ているのではないかと思えるように、ともかく突進しているそれらが多いのです。
 そういえば今日も名阪国道でトレーラーがきっかけの大きな事故があったようですし、ここのところ事故のニュースをよく聞きます。
 私が運転免許をとったころ(1967年です)、先輩ドライバーからは、トラックやタクシーの運転手さんというのはプロ、いわば運転の職人さんなんだから(とうぜん運転はたいへん上手だから)、われわれシロウトはそれを邪魔するようなことは絶対にしてはいけない、と言われていました。でも最近はとても職人さんとは思えないようなシロウトさんも見かけます。そういう人がいるから大型車に責任のある大事故が増えているのではないでしょうか。
 普通自動車はどう頑張ってもトラツクには負けます。こんな恐ろしい道路は、やはりなるべく走らないことだと再確認したことでした。

11月13日/一気に冬か

 今日はこの秋いちばんの冷えこみだったようです。
 午後に川西市北部の訪問診察に回っていたときも、冷たく強い風が吹き、天気が目まぐるしく変って、寒い時雨がくり返し降っていました。にもかかわらず、強風のせいか見晴らしのいい場所からは大阪平野を縦断して和泉山地まで見通せていました。
 つい数日まえまで知らぬ顔して夏のジャケットを着用していたというのに、いよいよ一気に冬か。

11月14日/尻に火がつく

 もうすぐに人前でしゃべらなくてはならないのに、まだ原稿や OHPの下絵ができていません。頭の中ではだいたいの構想はできていて、プロならそれだけで規定時間のおしゃべりができるのでしょうが、私は口演原稿をきっちりと作っておかないと不安なのです。じっさいの現場では原稿から離れてけっこうアドリブをするのですが、イザというときのものを持っていないと恐いのですね。
 いつも早くから構想を考えて、パソコン上でいつでも気のついたときに原稿を書けるようにしてあるのですが、ちょこちょこと考えているキーワードをファイルに書いていくうちに、なんとなく安心してしまってほんとにギリギリまで完成原稿を作らない悪い癖なのです。
 これは、かつての学生時代にギリギリまで試験勉強をしなかった悪癖が尾を曳いているのかもしれません。
 これではいかんのだけど…。

11月15日/至福の時間

 夜更かしが好きです。でも、若いころは「夜更かしの朝寝坊」だったのに、最近では「夜更かしでも早起き」になっていて、昼間はなんとなく寝不足、欲求不満という按配です。休日には朝寝しようと思うのに寝ておれないのは何度か書いたとおり。
 もちろん昼寝をするヒマはありません。それで、最近は、帰宅のバスの揺れの中での居眠りが楽しみになっていたりします。交通渋滞でなかなか走らないバスでも、座れてさえいれば、うとうととと居眠りするのはなかなか至福の時間であります。
 いまのところ寝過ぎて乗り過ごしたということもありません。阪急バスは私の寝不足の治療に役立っておりますです、はい。




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