Chapter Fifty-two

第52話


Wavelet解析が終了して気分一新、と言いたいところだが、まだ信号処理のあたりをうろうろしている。これまでの話を読み返してみると、信号処理の入り口のところが抜けていることに気がついたのでしばらくおさらいをしてみようと思う。<エキスパートには退屈な話なのでパスしてもらったほうが生産的かもしれない。> 下の図はサンプリングをシミュレートしたもので、2Hzの架空の信号を9.5Hzでサンプリングするとどんなデータが得られるか示したものだ。

信号処理の本には必ずサンプリング定理という有名な定理のことが書いてある。あまり深く考えなくても理解できたような気になるから、いつもふんふんと軽く流して見ていた。ためしに家にある本からサンプリング定理のことが書いてある部分を抜き出してみよう。

サンプリング定理(標本化定理あるいはナイキストの定理)

(A)もし波形データがfc(Hz)以上の高周波成分を含まないとするならば、Δt≦1/2fcの間隔でサンプルされた値には、もとの波形中の情報はすべて乗っている(科学計測のための波形データ処理 ISBN4-7898-3031-4)

(B)連続信号に含まれる周波数成分を正しくサンプリング値データとして与えるには、サンプリング周波数が連続信号のもつ周波数上限の2倍以上でなければならない。(見てわかるディジタル信号処理 ISBN4-7693-1162-1)

(C)周波数ω0で帯域制限された連続信号x(t)はナイキスト周波数ωn(=2ω0)より大きな周波数で標本化した信号x(nΔt) (Δt≦2π/ωn=π/ω0)によって完全に表されることになります。(ディジタル信号処理 ISBN4-87184-005-0)

(D)To avoid aliasing, the sampling rate must be greater than twice the maximum frequency component in the signal to be acquired. (LabVIEW FOR EVERYONE ISBN0-13-268194-3)

著者によって表現方法は異なるがだいたい同じことを言っている。私は英語であることを除けば(D)が一番分かりやすいが、みなさんの意見はどうだろうか?

さて、だいたい同じことを言っているのだが、周波数fn/2のサイン波の信号を周波数fnでサンプリングしたら正しく信号をとらえることができるだろうか?
(A)は注意深く読むとNoと言っている。(B)はYesと言っている。(C)は"帯域制限された"という意味を"周波数ω0以上の周波数成分を持たないなら"と1ページ前で言っているから、Noなのだろう。(D)はわかりやすくNoと言っている。
2Hzのサイン波の信号を4Hzでサンプリングすることを考えてみると信号とサンプリングの位相によって振幅が変化するからサンプルからだけではどんな信号だかわからなくなっている。実際にはそんな危険なことはしないで余裕をもって十分高い周波数でサンプリングするから問題ないとは思うが文章は良く読まないとあぶない。自分の持っている本の表現をチェックしてみよう。

2Hzのサイン波の信号を4.2Hzでサンプリングすることを考えてみると信号の位相の違うポイントを拾っていくので信号の情報を正しくサンプリングできる可能性がある。では、サンプリング時間あるいは信号の持続時間はどのくらい必要なのだろうか? サンプリングの開始時の位相差にもよるが、たぶん30秒から40秒ぐらいサンプリングして、始めの15秒ぐらいは正しくない値が出ることを覚悟しないといけないだろう。

つまり、この定理を考えるときは信号の持続時間やサンプリング時間の前提を取ってはいけないのだ。その観点からすれば、(B)と(c)は連続信号と明記しているが、(A)と(D)はやや不親切と言えよう。厳密に言えば連続信号とは永遠に続く信号という架空の世界での出来事なのであって、現実的には、十分連続と見なしてもいいぐらい長い時間続けてサンプリングすればほぼ正しく復元できるというふうに理解しなくてはいけない。

マイバージョンでの表現は
連続する信号のサンプリングデータから元の信号を正しく復元するには、信号に含まれる最高の周波数の2倍より高いサンプリング周波数を用いる必要がある。

次回は信号の復元方法についてVIの説明をしよう。

See you!


Nigel Yamaguchi

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