だれの独り言なんて書きたくねぇ(いやマジで)
「抱擁」

控えめなノックをして僕の部屋を訪れる君
いつもは明るい君が今日は何かを躊躇うような顔をしているね
「どうしたの?」と聞くと
俯いた顔を更に下げて君は今にも消え入りそうな声で呟いた

「抱いて欲しい」

顔を真っ赤に染めて小さくなっている君
僕が一瞬で頭を完全にリセットされたなんてきっと思いもしないんだろうね

床に座ったまま顔を上げられない君の柔らかい髪を僕はそっと撫でた
ほんの少しだけ上げられる顔
素直すぎて不安を隠せない君に僕は笑顔を向ける
「寝る準備ができたらまたおいでよ」
軽く肩を抱くいて囁くと君は本当に嬉しそうに微笑んで何度も頷いた

満面の笑顔で部屋を出て行く君を見送って僕は大きな溜息をつく
君は無邪気な顔で時々悪魔のような事をするよね
悪気は無いって事は解っているんだよ
解っててもね

君は……

沢山言いたい事を僕は必死で飲み込んだ
頭を冷やす為にシャワーを浴びて君が来るのを待つ
君もパジャマに着替えて枕を抱えて僕の部屋に戻って来た
僕がベッドの半分を空けていると君はそこに枕を置いてそのまま横になる
期待を込めた上目遣いで僕の顔を見つめる君

ふっと息をついて僕も君を抱きしめて横になる
ごく自然に僕の胸に顔を埋める君
シャンプーとかすかな石けんの香りが僕の鼻をくすぐる
良いんだけどね
もう慣れちゃったから

ほんの数分の内に君の静かな寝息が聞こえてきた
熟睡しているのに僕のパジャマを握りしめている君の両手
穏やかな寝顔に反してまるで決して離さないでと懇願するように

だからね
いつも僕は君に言ってるよね

「夢中になって徹夜を続けると起き癖が付いちゃうから夜はちゃんと寝てね」

僕は君の枕じゃないんだよ
そこのところをちゃんと解ってる?

うっかり忘れてしまっていた
君が目を覚ましたらちゃんと言っておかなきゃね

「普通は「一緒に寝て」って言うの」

間違っても他の皆が聞いている所であんな言葉を言わないでね
誤解じゃ済まなくなるし、僕は皆の反応が怖いんだからね
殺されそうな思いをするのは言った君じゃ無くて言われた僕の方なの

この可愛い「超天然お馬鹿さん」を治す薬は無いのかな?

僕は腕の中の宝物を優しく抱き直すと諦めて眠りについた



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