瀬尾修治のひとりごと

「木陰」

真夏の強い日差しが俺の足元に影を落とす
あいつはいつもの場所に座っていた
そこは風通しの良い木陰
コンクリート製の階段だが午後しか日が当たらない
校内で一番涼しい場所で他の生徒は気付いていないらしい
あいつのお気に入りの場所だけどこっそり俺にも教えてくれた

気持ち良さそうに座ってるお前はまるで犬みたいだな
声を掛けると嬉しそうに微笑んでくる
おいおい、本当に尻尾まで見える様な気がするぞ

俺もあいつの横に腰掛ける
さわやかな風に汗が一気に引いていく
俺は缶を開けてウーロン茶を飲んだ
冷たい液体が喉を潤して午前中の授業の鬱憤をはらしてくれる

ふと気が付くとあいつがじっと俺を見つめている

あ、そうか
すぐにあいつに缶を差し出した
一瞬、驚いたように目を瞬かせてあいつは缶を受け取った
嬉しそうに音を立ててお茶を飲んでいる
やっぱりお前も喉が渇いていたんだな

「サンキュー」
缶を返そうとしたあいつに
俺が全部飲んで良いと告げると少し不満そうな顔になった

何だ?
ああ、俺に悪いと思っているんだな
缶を返して貰って残りを全部飲み干した

何でそんなに嬉しそうにしてるんだ?



全く何考えてるんだよ

俺が立ち上がるとちょうど予鈴が鳴った
あいつも腰を上げて埃を払う

「また放課後にな」
そう言ってあいつは元気良く走って教室へ戻っていく
「ああ」
俺も教室へ足を向けた

本当はあいつの頭に缶をぶつけてやろうかと思ったけど
『ゴミはくずかごへ』……だよな


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