『7月10日』


 晩ご飯の用意をしながらテレビのニュースを聞いていたら、おもろいコトを言っとった。まつながーが帰ってきたら話してみよっと。

「なあ、まつながー」
「ん?」
「今日な、納豆の日なんやて」
「何だそりゃ?」
 俺も初めて聞いたけど、水戸出身のまつながーも何のコトか解らんて顔しとる。こら、納豆業界の人らが今年作った新ルールみたいなモンなんかな。
「7月10日やから「なっとう」てゴロ合わせらしいでぇ」
 そう答えると、まつながーは眉間に思いっきり縦ジワを寄せながら箸を置いて、ゆっくりと息を吐いた。あ、メッチャ嫌な予感。
「あのな、ヒロ」
「……何?」
 まつながーから暴走1歩手前って感じの気配がビンビン伝わって来る。
 晩ご飯食べるの諦めてでも、速攻で逃げた方がええ?
「日本人なら1年365日納豆を食うのが当たり前だろうが。何を根拠にそんな日を決めたんだ? 納豆は日本の大切な……いや、必須の食文化だ。記念日なんて作らなくて良い。日本人なら誰でも当たり前に出来る事だろ」
 いや、日本人でも納豆を嫌いな人も居るし。それに俺が決めたんとちゃうのに、何で俺が怒られなアカンの?
「それにだな……」

 まつながーの納豆演説は、せっかく作った味噌汁も鳥の唐揚げも完全に冷めて、生野菜サラダはヨレヨレにしおれ、真夏の気温に部屋が納豆の臭いで充満しても続いた。
 教訓、まつながーに納豆ネタを振ったらアカン。

おわり

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