sinwa
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『少女の神話』
たかさき はやと
風があたしを抜けて行く。
あたしは魔法使い。ほうきだけが旅の友。
旅の目的はまだない。
蒼い光りが空と地を照らす。連なる連鎖の山を越えるとエムステルダの平原が広がる。
緑と砂地のハーモニーが色鮮やかさを醸し出す。
降りて行くと木々も見える。木が密集しているところがある。
あそこで少し昼寝でもしょう。
葉が日の光りを遮り、緑のカーテンがすべてを包む。
外からはちょっとした木の集まりにしか見えなかったが、中は何百年も生きている巨木が連なる、多元構造になっていた。
岩や地面には苔(こけ)がはびこり、ふかふかしている。
どこかほどよく乾いている場所はないものか。
池のほとりまで来た。
たいして広くもない池だ。でも、ちょっとした遊泳はできそうだ。
そこに灰色のローブを着た老人が立っていた。
白いひげが口の横に飛び出し、シワが何重にも連なっている。
そこのお嬢ちゃんと呼び止められる。
なんですか、とあたし。
長年の疑問が私を悩ますという老人。
なにを悩むのですとあたし。
老人はうろうろそこらを歩きまわり、とん、と手を打った。
ジャッポン。
老人に池につき落とされるあたし。
ずぶぬれのまま老人を見る。
そうだったのか、と老人は悩みが解けた様子。
これからこの池のことをジャッポン池と銘々しょう。
老人はしたり顔。あたしは池から上がると老人を一本背おいした。
ドッポン。
ややや、ドッポン池とな? と、老人。もう、勝手にして。
日の当たる苔の上で横になる。
そうそう、老人にはやさしくしょう。そんなことを思いながら眠りについた。
あーよく眠れた。
エムステルダの平原を後に天秤の湖へ向かう。
地と空にそれぞれ湖があり、空に浮いてる湖は壮大なものがある。
ここを通るには、上下の湖の間にある巨大な雲を越えなければならない。
あたしは螺旋(らせん)の雲と呼ばれる白い塊に突っ込む。
視界は無いに等しい。
方向は間違ってはいない。
と、なにか音がする。
次に音の正体があたしの頭にぶつかった。
それは人だった。
一緒に空の湖に落ちる。いや上がる……かな。
向こうはぷかぷか湖に浮かんでいる。
あたしは泳いでいってその人の顔を上げる。
あたしよりは若い、7才くらいの女の子だ。
大丈夫? とあたし。
女の子は放心状態だ。
ををを、頭に血がのぼる。
とりあえず女の子をほうきに乗せると、水面を走り、雲の中に入る。
あなたどこから来たの、住んでる場所は? ……でも、女の子はなにも答えない。
こんなところに村なんかあったかなあ。
まあ、探してあげますか。
螺旋の雲には風の流れが中心に近づけばどんどん速くなる。
しっかりつかまってて。
そう言うとかなり飛ばす。
それでも渦の中心に引き込まれて行く。
なんとか中心を越えた時、女の子が渦に飲み込まれた。
すぐに引き返して女の子をつかむ。
渦の中心でぐるぐるまわされるあたしと女の子。
と、渦の回転が止まった。
女の子がなにか光る玉を持っていた。
それは螺旋の運動エネルギーのすべてがつまっているようだった。
女の子はあたしを螺旋の雲の外まで誘導してくれる。
女の子は雲を翼として空に舞い上がる。
ありがとう……そんな声がしたような気がした。
天使にもおっちょこちょいなのがいるんだな、とゲルバの滝を見ながら、そう思った。
そんな日……。
おしまい