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『ラセン物語』                   たかさき はやと



 あたしの夢は伝説の魔法使いになること。誰もが大人になったら魔法使いになるこの世界で……。
 あたしはフローネ十六才……めざすはめくるめく冒険と探求の日々……とびっきりの仲間にとびっきりの魔法で幸福をつかまえるの。
 なにもないありきたりの日常をこなごなにして、りっぱな伝説の魔法使いになるんだから。
 なにがあったとしても……でも、なにもあたしのまわりでは起きないのだ。
 ――じゃあ、起こしたほうがいいの?
 あたしの心の声に誰か反応した……まわりには友達がふたりいるだけだ。
 あたしはふたりに聞いてみる。
「ねえ、ミリア、ミーシャ、なにか言った?」
「えーなにも言ってないけど……」
 ふたりの親友のひとり、ミーシャがあたりを見回す。学校へ向かう坂道には、木が何本か緑をたくわえ、風が葉をゆらしている。他にはなにもない。
「フローネ、……風のささやきかなにかじゃない?」
 ミーシャがこともなげにそう言う。
「え、う〜ん……そうかもしれない」
「フローネさん、それは精霊の声にちがいありません!」
 短い紅茶色の髪、めがねにセーラー服姿のミリアがそう言う。
 あたしは、背はクラスの中でも低いし、栗色に腰まである、くりんとなったパーマがかかったような髪、藍色の瞳にちょっとこの春、日焼けしちゃった肌。
 数々の丸くくりぬかれた金色の装飾品を腰につけている。
 なぜか、あたしは内向的で、なにをやってもダメなのだ。
「まえまえからその姿その背のオーラ……何者かと思っていました……まさか精霊の声が聞けるなんて……」
「え〜っ」
 ミリアがあたしに冷や汗をかかす〜……。
 ミリアはいつもあたしを英雄みたいに言う。でもそれはミリアが、あたしをかいかぶりすぎてるから。
 ミリアはオーラだのなんだの言うけど、あたし、フローネ・リンクルは魔法の科目はなんでもすべて赤点ときてるただのダメっ娘にすぎない。
 古代語をはじめとしたあらゆる魔法の語学で満点のミリアとは大違いだ。
 このあたしがつけてる装飾品の山はミリアがくれたのだ。
 魔法使いはこういう恰好がいいと言って……。
「バカだねミリアは、魔法使い目指す者が精霊の声聞いてどうすんのよ」
 ミーシャは背中まである蒼いストレートヘアをゆらして、ミリアの言葉をさえぎる。
 ミーシャも攻撃魔法を使わせれば実習の先生に並ぶ実力派だ。もちろんどの学年でも、生徒でかなう者などいない。
 あたしのファイアーではマッチにすら火をつけられない。あたしだけなのよね〜おバカさんなのよね〜……涙、涙。
「フローネさんにはきっと精霊と一体化できるちからがあったのです。これは一万人にひとりの才能ですって!」
「だからそんなわけねーって!」
「フローネさんは選ばれた人なのですよ、この才能を開花させるおてつだいをすることこそ友人としてのあるべき姿です」
「根拠のない理屈で通用する世の中だと思うなよミリア!」
「ふたりともケンカやめてよ〜」
 いつものごとくケンカにエキサイト? するミーシャとミリアには悪いけど、どうも気のせいらしい。だってあたしはどこにでもいる平凡な魔法使い見習いのひとり……なのだから。
 誰でもが大人になれば魔法使いとなり、特に専門分野以外の一般魔法は覚えるのが義務となっているこの魔法のご時世。
 水泳を泳ぐように空を飛ぶことを習い、簡単な攻撃魔法も習う。
 ごく当然の世の中。それがこの世界……。
 そんな魔法を習う学校は、いくつもの坂をあがった高くなだらかな円形の丘の上にあった。
 魔法で作りあげた巨大樹をくりぬいて作られた重厚な四階建ての建物だ。
 けっこう広い校庭と小さな裏庭とのあいだに建っている。
 高台にあり、出入り口は正門だけ。地方都市の中でも最高のマンモス校で、十万都市の中心でもある。
 高名な魔法使い達がそうとうな時間をかけて作りあげた学校で、ここを出た有名な魔法使いは数しれず、そう、あたしもそんなひとり……になれたらなあ……あはは……。
 クラスが違うミリアと別れ、半円のドアをまわしてあけ、ミーシャと教室に入る。
 そこは最近出没する魔物の話題でいっぱいだった。
 黒い学生服の男子達がわやわやと集まって盛り上がっている。
 ちっとは勉強しろよあんた達……ってあたしはしてるわよ〜いつも赤点だけど……。
「破壊された家屋が百以上だって」
「大変だな」
「それでケガした人が二十人こえたって……」
「いよいよ騎士団まで出るらしいぜ」
「ウチのとうちゃんもでるんだ」
 意気揚々と笑うクラスメイトたち。なんでそんなことがおもしろいのだろう。それよりも次の魔法のテストのほうがあたしにはよっぽど怖い。
 ――おやおや、お嬢さんはテストがにがてかな?
 !
 ……確かに先ほどの誰かの……中年の女性の声がした。それも心の中で……。
 な……んで?……。
 「だ……。
  れ……?」
 でも、誰もいない。
 そんな大人の女性は……。
 ひぇ〜なにか変な物だったらどうしょう!?
 それともやっぱり気のせい……?
 ――気のせいじゃないわよ……。
 わあ、出た変な物!
 ――違うってば。
 じゃ、じゃああなたは精霊?
 ――わたしは……。
 先生が円形の扉の半分をまわしてあけ、教室に入って来た。
 教科書、教科書……と、うあーテストだあ……。
 ――ちょっと聞いてるっ!?
 いまテストなの、ちょっとまってて……。
 ――あのねえ、あんたわたしが不思議じゃないの?
 いまこの不思議より、目の前のテストで赤点とったら、あたしはもうこれ以上今年は進級出来ないんです〜〜ダメ! ……ダメよダメよ勇気、持たなくちゃ……みんなつらいテストのまえに耐えてきたのよそうよがんばっっっらなくっちゃっっっ! ……負けませんあたし……! ……これからあたしのすべてをおみせしますっ。
 ――……はは……は。まあ、いいでしょう……待ってるから……。
 生徒に次々と石が渡されていく。それをどう変化させるかで魔法の創造性をみるのだ。
 みんな、もくもくと石を変化させている。
 あたしの石は……なんだか雪のようなものになってきた……ぼろぼろくずれていく……ふえ〜これじゃなんだかわからないものになっちゃうよ〜努力はかかしたことがないのにぃ創造力がたりなひのねぇ〜おバカさんなのねえ〜えーん、涙がにじむ……。
ボフュッ
 ミーシャの石が火を上に放つ。さすがあ……。


 テストは散々だった……これだけは言える。赤点まちがいなし……と。
 ――ちょっと、もういいの?
 あ、はいはいどうぞ……それであなたは精霊さんですか。
 ――はずれ……わたしは魔法に意識が宿りし存在……螺旋法よ。
 ラセン法……? ……魔法に意識って……やどるものなの? ……その魔法の意識さんがあたしになんの用なんですか?
 ――あなたは偉大なる螺旋法使いとして、このわたしのパートナーになったのよ。光栄に思いなさい。さあ、螺旋法を使って世界を救うのよ!
 は? ……はあ……ラセン法使いですか。なんかすごそうですね。
 ――あんたがなったのよ。
 え? ……それって宝クジに当たったみたいにいいことなんですか。
 ――たからくじ……よりはマシよ。さあ世界を変えるのよ!
 うあーなんだか新手の宗教みたい……。
 ――こころの背筋をシャキッとしなさい!
 え、は、はいっ。でも、なんであたしに……。
 ――わたしの知るかぎりではいま螺旋法使いは世界に二人といないわ。あなた宝クジよりすごい確立で螺旋法使いになったのよ。もっと誇りに思わなくちゃ。
 そうなんです……か? ……じゃあえっと……ラセン法ってなにができるんです?
 ――さあ、知らないわね。
 知らないって魔法の意識じゃないんですか。
 ――そうねえ……効能としてはすべて思いのままよ。
 すべてって……魔法の意識がついてくるだけじゃないんですか。たとえば魔法としては……。
 ――じゃああんたはなんの魔法が使えるの。それによってもちがうしね……。
 えーと光を出す魔法は3回に1回は成功しますし……それに……。
 ――は? ……あんた、螺旋法使いが魔法が使えない……と?
 いえ、ですから3回に1回は……。
 ――なにかのまちがいだわ……こんなコがこんなコがこんなコが……。
 誰にだって初心者であった時があったハズで……。
 ――いいわけだけは一人前の半人前という最悪のパターンだあ……。
 そんな……。
 ――螺旋法使いになれば自分の理想の世界を創造できるのに……。
 え、そうなんだ……すごいですねえ……じゃあ世界を平和にするとか……。
 ――実行策のない理想はノルマをふやすだけよ……。
 はあ……簡単じゃないですね。
 ――こんなぼんくらが螺旋法使いなんて……世も末だわ……。
 そんな、ひどいです、あんまりです。でも、そのとおりだからなにも言えなひよう……。
 ――まあ、いいわ。わたしの名前はミラルよ。
 は、はあ、あたしはフローネ・リンクルといいます。ってミラルって……?
 ――……来るわね……。
 え?
 自然の風がやんだ。
 これは……魔力?
 あたしは窓の方を向く。
「わかるのかフローネにも? ……なんだ……これは……」
 魔法のカンにすぐれたミーシャはとっくに気づいていたようだ。みんなも窓の外を見てざわめきがおきた。
 みんな窓にかけよる。校門にふきあれる煙にまぎれ、なにかがいた……人でないなにかが……。
「グワオ!」
 学校中に魔物の雄叫びが響く。
 まさか、この学校に……!?
 ――そうらしいわね……何人か逃げ遅れぎみね……魔法で攻撃してる人達がいるけど、ヤツの防御力はぴかいちよ。フローネ、逃げなさい。いまのあなたでは倒せないわ。
「みんな、逃げるんだ、右の階段から裏口へ行くんだ!」
 みんな教室の外に出ていくが、わたしは避難を指示する先生の声も耳をすどおりした。
「ミリアもとりのこされている……」
 ミーシャのいうとおり、逃げおくれたなかにミリアがいた。
「あたしがっ!」
 ミーシャがかけだしていく。
「あぶないよっ!」
 あたしが引き留めるのを振り切って、ミーシャがかけだしていく。先生がミーシャを追いかけていく。
 ――あんたはいっちゃだめよ、フローネは逃げるのよ!? ……いい?
 あたしは……どうしたらいいんだろう……お母さん……。
(フローネは元気がいいわね……)。
 こんな時、お母さんだったらどうしただろう……。
(フローネ…勇気のおまじないわね…)。
 お母さんが言ったその言葉は……。
 ミラル!
 ――え、はい、なに?
 あたしはほほを両手でたたくと、一気に独白する。
「あたしの夢は伝説の魔法使いになること。誰もが大人になったら魔法使いになるこの世界で……」
 そう、あたしはフローネという名の女の子……ひとりしかいないあたしの力……。
 ――ちょっと、フローネっ!?
 あたしはかけだす。魔物のほうへ……後ろのいつもより重い気がする丸い半円の扉をあけると、魔物の方へ向かう階段をかけ降りる。かけ降りるというよりも樹木のてすりをまるですべっていくかのように走った。校庭への扉は閉められていたが、横のまどから強引に外にでる。
 ――バ……ッカあんたが行ったところでなんにもならないよ。ライトもろくに使えない魔法使いなんかが……ね……。
 ミラルさん、ラセン法使いなら……それならどうですか?
 ――言うわねフローネ……やってみたいのね……うーんやってみますか。
「はっ!」
 息が風に流される。それでもあたしは走った……アタマは半分パニくってる……。でも……それでも……体がかってに向かってしまう……どうしてだろう……なんだか、あたしの存在がはじめて必要とされているようなそんな気がした……。
 ――ふーっ……しかたない……。ま、騎士団が来るまでの時間かせぎくらいだったらあんたとわたしでなんとかなる……わね……。
 ほんとですか?
 ――ここで冗談言ってなにかわたし達が得する?
 ……でも、なにをするんです。
 ――魔物でもあの種族は人を食べないけど、あんたを食べ物にみせてフローネが逃げ回るとか……。
 絶対にいや〜っ。
――それじゃ、あんたが異性のラベールになってひきつけ……。
 あたしはノーマルです。
 校庭にでると、そこには黄色と黒の毛並みをした2メートルはあろうかという大きなトラに大きな白いつばさが生えた魔物がいた。でっかいツメがおどろおどろしい。すごいプレッシャーをうける。こんな相手にどうやって時間かせぎしょう……。魔法学校唯一の出入り口に、魔物はいた。魔物を排除しないと外へは出られない状態だ。
「束縛に牙城はくずれず、このつばさの風よ攻めよ」
「混沌は扉……ゆめ見しはこの鎖のなか……」
「輪の内たる宇宙によってなす言葉……いましめよ……」
 魔物の動きをとめようとしている人達がみえる。
「でやあっ!」
ゴヴァヴアッ!
 力まかせのミーシャのファイアーボルトが魔物に決まる。四散する火花が花火のように美しい。
 ミーシャ、カッコイイ。
 煙が晴れるが魔物にはキズひとつない。魔法防御力が段違いなのだ。ミーシャ以外にも何人かの生徒や先生達が魔法で攻撃している。しかし魔物には、あまり効いていないみたい。
 ミリアがこちらに来る。
「痛たた」
 転んだのか、ひざをすりむいている。
「ミリア、だいじょうぶ?」
「ええ、ミーシャさんのおかげで……」
「ミリア、校舎から裏庭へ行って!」
「フローネさんは攻撃魔法もってないじゃないですか。あぶないですわよ」
「うん……でも、いかなくちゃ。あたしはラセン法使いだもん」
「は……? ……らせんなんですって?」
「いいから、ほいっと」
 あたしはミリアを窓から校舎に押し込むとまた外に駆け出す。と、体がとまった。
「いけませんいけません!」
 ミリアが後ろからあたしを、おさえている。あたしはその手を片方だけふりはらい、ミリアの方にふりむく。
「いま、あたしがやらなければこの街は壊滅するかもしれない」
 ハッとしたようにあたしの顔をあおぐミリア。あたしは続けた。
「あたしがやらなきゃ誰がこの街を救うというの!?」
「そ、そうでしたわね……わたくしがまちがっていました……」
 目がうるうるしているミリアの最後の手をふりほどくとあたしは軽く手をふってまた魔物に向かってかけだす。
「がんばってくださいフローネ〜……っ!」
 ミリアが白いハンカチをふりながら見送ってくれる。く〜っ泣けるわあ……。
 みんなラベールに気をとられていて、楽々とミーシャの横に並んだ。ほんの十メートル先にはラベールがいる。
(怖いよ……)。
 ? ……確かにいま少年の声が……。
「おいフローネ、なにやってるんだよ、来るなんて!」
 なんだろ……。
「あれ……魔物の後ろになにか見える」
「なにが、おいフローネあぶないってば、おい」
 ? ……なにか見える……魔物の先に……小さな子供の魔物達……これは魔物の記憶?
 ――それはラベールのこころ……ラベールという種族は魔物とは言うけど、人の邪気にあてられて狂暴化してしまうのよ。それでもラベールが人を襲うことはなく、人の邪気にあてられて建物を壊すことはあっても、普段はごくおとなしい生き物よ。
 それじゃ魔物じゃ、ないじゃないですか。ラベールをなんとか助けることはできないんですか。これじゃ……これじゃあんまりです。
 ――結果は人に害をなす魔獣にはちがいないわ……それとも手加減できる相手だとでも思ってるの? ……これだからあまちゃんは困るのよ……あ、そろそろ騎士団の到着のようね……さあ、退治してもらいましょう。
 重そうな金の鎧や兜、ヤリを持つ騎士団の人達が魔物の後ろから続々とあらわれだす。
 わたしは魔物……いえ、ラベールの前に進みでる。ラベールは凶暴な刃であたしを威嚇する。なみだがぶわっとあふれだして、あたしのほほをつたい落ちる。めっちゃ怖いよ〜。それでも、ゆっくりとラベールに近づくあたし。
「だいじょうぶ……だいじょうぶだよ……」
 手をさしのべ、さらに近づくあたし……。
パァアアアア……。
 光りと闇がラベールとあたしをつつむ……。
 ――やるわね……空間をラベールとフローネのふたりで閉めた……ってフローネ、なにをするつもり? ……怖いなら逃げなさい。めったなことでは死ぬわよあんた。
 救ってあげたい……さあ……こっちだよ……。
 あたしの両手が光りをおびる。
 ――こんな……救うつもり? ……なまはんかな気持ちなら騎士団はいらないわ。あんたがヒーローになるかどうか……やってみたいのねできるのね……くーっいくわよ……聞こえてる? ……並大抵のことじゃないのよ。死ぬかもしれないのよ、わかってるの?…ねえ、あんたひとりでやろとしてない……ひとりじゃ……あんたのレベルじゃ自殺行為よフローネ!
ひとりでなにができるっていうの!?
 この気持ちじゃいけませんか?
 あたしの頭にいろいろな思いが交錯する。ミラルさんにこの思いを伝えようとした瞬間、いろんな人達がみえた……。
(賢者よ、これが魔法の螺旋です)。
(わしにはなにもない……広漠なイメージだけじゃ……)。
(もしも魔法に意識があれば……)。
(しかしそれは無理というもの……)。
(もういいのねフローネ)。
(うん、お母さん……)。
(この魔法の意識を……螺旋法と名付けよう……)。
(さあ、フローネとやらこの力を永久にしてくれ……)。
(鐘が鳴る)。
(あたしがすべてとなる日……)。
(あたしはラセン法とつながった日……)。
(あたしは成ってみせるこの思いの日に……)。
(グギャオ!)。
(この獣ともつながっているあたし……)。
(つなげてみせるこの命と……)。
(ずっと……ずっと……ずっと……)。
 ……。
 ――これが……あなたの気持ち……。わかっ……た……、わたしを意識してフローネ。
 はい。
 ラベール、かならず救ってあげる……。
 さらにラベールに近づくあたし……。
 ――……できるかどうかわからないわよ……あなたはイメージして……。
 イメージ?
 ――イメージしたらその思いを言葉にして、それが呪文となるわ。
 呪文……。
 ――呪文は約束だから……。
 ……だれとの?
 ――自分が信じるものとの……。
 ――わたしがあなたの意識に同調したらラベールにふれて……いくわよっ!
 あたしとミラルのこころがラベールに対しての一点で意識がふれあった……。
「あたしはラベールの意識と化して!」
バシュゥウウ……。
 一瞬で、闇と光りが混ざり合う空間が黒一色の世界になる。
 暗い闇の中、無数の星が白い光りを発して、ラセンしてまわっている。ひとつひとつの光りに意識がある……。
 これはみんなのこころ?
 ……ラセンから外れたところに赤い星がひとつ。
 ……これは……ラベールのこころ? ……。
 いま帰すから……。
 あたしの両手の光りはピークにたっした。
 ――いまよ!
 わたしはラベールを抱きしめた。
 泣いている。
「……誰なの……君は……」
 光がこたえる。
「もう、ボクをいじめない?」
 いじめないよ……こんなにも苦しんでいたんだね……。
「ここにいてもいいの?」
 いいよ……ずっといていいんだよ……どこもすべての地が、あなた達の……みんなの居場所だから……。
 みんなでなかよしになろうよ……。
「うん……!」
 光はラベールとなり……そうして……、なにもしないでジッとしているラベール……。
「ありがとう……」
 それは誰の言葉だっただろうか……。
 闇は去った。
 いつのまにか普通の空間になり、まわりの人達が驚きの声をあげる。
 誰もラベールがいるからさわいだのではない。
 ラベールには使い魔の紋章がひたいにあった。これは……わたしとの契約が成立したのだ。
 魔力が強ければ強いほどその紋章が本物であると理解できる。
 ――ラベールも使い魔にすることができるようになった……使い魔としてラベールは魅力的な生物よ。これでラベールは魔法使いにはなくてはならない使い魔として対等な関係が成り立っていくでしょうね……。
 これがラセン法……。
 ――いいえ大半はあなたの……パートナーであるわたしのおかげね!
 そうかなー?
 ――言うなこいつ……でも……、ふい〜っうまくいったわね……ま、バカもここまでくると立派よね。
 あたしはなみだをぬぐう。
 ミラルさん、バカじゃありません。あたしにはフローネ・リンクルという名前があります。
 ――あんた……いや、フローネ、あんたの純粋な心が一瞬ラベールの邪気をふきとばした……こんなバカはそうそういるもんじゃないじゃない。あ、そうそうわたしのことはミラルさんじゃなくてミラルと呼んで……。
 伝説の大魔法使いと同じ名前ですね。
 ――だって本人だもの……。
 は? ……あなたは単なる魔法の意識ではないのですか、人……だったことがあるんですか?
 だって大魔法使いミラルといったらあたしがもっとも尊敬する魔法使い……………………えーっ! ……そうなんですか? ……ホントに? ……冗談でなく?
 ――冗談でこの状況を説明してると思う? ……尊敬してるなら態度であらわしなさい。
 は、はい。いろいろな失礼があってすみませんでした。……でも、なんで魔法の意識なんかに……。
 ――わたしがいろいろ冒険していたのはしってるわね。
 はい。
 ――その冒険で得た人生の答えがこれだったってわけ……わかる?
 はい、すばらしいです!
 ――まあ、そんな、ほんとのことを……ねえ……?
 はい、あたしもがんばってラセン法になります!
 ――そうそう螺旋法に……ってなにぃ〜っ!?
 ミラルさん、さっそくやってみます。
 ――なに言ってんの、そんなことフローネなんかにできるハズないじゃないっ! ……わたしはね、これに人生のすべてをかけてね……えーそんなことじゃなくて、フローネにはムリよっ!
 どうしてですか? ……あたしミラルさんみたいな人生送るのが夢だったんです……この日常をやぶってくれる最高の人があたしのなかにいるなんて……もーさいこーです。
 ――むずかしいわよコレは……遊びじゃないのよ。つまり苦難の人生を生きることなのよ。
 だってミラルさんもいるじゃないですか。
 ――それはそうだけど……ああ、ほら、お友達が来るわよ。
 校舎のほうからミーシャがミリアの手をとりながらかけよってくる。
 あたしは手をふった。
「ねえねえミーシャ、ミリア、いつかあたし大魔法使いになるから」
「フローネ大魔法使いって……ラベール使い魔にしたの? ふいーっ、そんなの聞いたことない……おめでとうやったんだね! すごいじゃないか」
「ラベールなんて、あぶないですわよフローネさん」
「え、そう……かな?」
「そう……あなたは……フローネさんの実力ではラベールに使われてしまいますわよ」
「あ、あは、あははははははは……」
「ケガとか、だいじょうぶですかフローネさん……」
「……だいじょうぶだったよ。それに、あたしには最強の仲間達がいるからっ。これからラベールのこともあるし、ちょっと出てくるから……」
 ミーシャとミリアがあたしの手をとる。
「がんばれよ」
「無理はなさらないでくださいね」
「うん! ……それじゃ、行こうラベールっ!?」
 そうして歩き出すあたし……。
 ヒョコヒョコついてくるラベール。
 ――偶然、螺旋法使いに選ばれたにしてはまあまあのスタートね……。
 え? ……えーっ!? ……やっぱりあたしの実力はダメ……?
 ――まあまあ……。さあ、これからも螺旋法使いには、たとえようもない苦難がまってるわよ……みんながあなたひとりを待っているから……。
 は、はい。きっとやって見せます。ミラルさんのように……。
 ――フローネらしい……ね。ま、ダメっコになに言ってもしかたない……わよね。
 そんなー……。
 ――でも、あんただったらなにかありそう……ね……。
 それってほめてるんですか。
 ――まあ一応ね……いいわ、こうなったらとことん面倒みようじゃないの……。
 ありがとうございます……。でも、ラセン法使いになるってどうしたらいいんだろう……。
 ――まずは魔法の大家、八賢者に習うことね……。
 八賢者……ですか?
 ――そう、まず西の都市マリアダに行って。八賢者のひとりがいるわ。でも……ほんとうにどうなるかはわからないわいいのね?
 はい!
 ――お友達に送ってもらったら?
バサッバサッ
 ミーシャの使い魔、飛竜であるドランゴが降りてくる。
「こいつならひとっ飛びさ」
 ミーシャが笑う。
「わたくしも見送りますわ」
 ミリアの足下にはネコにコウモリのつばさがあるヴェッツァーがいる。魔法使いには荷物はいらない、使い魔さえいれば……と言われている。
「ありがとう……それじゃ、好意にあまえさせてもらうね……」
 あたし達は飛竜の背にのぼる。
 空が見えた。かぎりない空が……。
 ――夢は?
 大魔法使いです!
 そうしてあたしの魔法見習いははじまったのだった。
 ……それは魔法がさせたこと……。
 わたしがしたこと。
 あたしのそしてミラルという魔法のこころとしたこと。
 凍てつく風にあたしはミラルという希望を感じはじめている。
 だからゆっくりと行こうこのラセンの道を。
 もうもどることはない昨日という後ろ髪をひいてラベールとともに行こうこの道を。
 ただつづけるだけでいいから。
 きっと明日見える光明を信じて。
 きっと。
 ずっと。
 少しづつ………。

おしまい









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