第2話:常陸國

新羅三郎義光の野望


兄義家に対する朝廷の冷たい仕打ちを目の当たりにした義光の心には 複雑な想いが芽生えていた。

いくら武家の棟梁と称されようとも、京に戻れば 摂政関白の家人、身分は下級貴族にすぎない。あるいは自分が三男ではなく 嫡男として生まれていたら関東に源氏の旗を立て....という想いすらあったかもしれない。 いずれにせよ武勇の将にとって謀略渦巻く京の都は 決して住み易い場所ではなかった。

義光の脳裏に思い浮かぶのは、かつて常陸介として赴任していた常陸國だった....。 常陸國は、関東平野の北部で太平洋に面し、天慶二年(939年)には平将門が ここを中心に関東にユートピアを築こうとしたほど 開拓に適した土地が広く、山海の物産にも恵まれた豊かな國である。

また、常陸國は父の代から縁の深い奥羽への入り口でもある。 加えて、奥羽は金、名馬の産地であり、 かつて後三年の役で力を貸した清衡(藤原と改姓)が、いまや 奥羽の最有力者なのである。いつか訪れるであろう武家社会の到来まで 清和源氏の勢力を確固たるものとするに、これ以上に適した土地はなかった。

ついに義光は、刑部丞という中央官職にありながら常陸國に居住することを決意する。 かつての将門のように、ことを急ぐ気はない....しかし、静かに着実に 奥羽と連携をとりつつ東国をまとめ、いつの日か清和源氏こそが 揺るぎない東国(武家)国家を確立するのだ....そのためには、自分は今なにをすべきか ....。

義光の野望は、およそ百年の後、兄義家の曾孫義朝の子頼朝と義経によって 成し遂げられることになる。このとき、各地に土着していた義光の子孫たち (甲斐源氏、常陸源氏、近江源氏ら)が大きな力となったことは言うまでもない。


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