マーラー演奏の期待〜3番

 
 現役生の時からマーラーの交響曲、しかも9番という難曲の洗礼を受けた卒業生が運営するOBオケなら必ずマーラーを取り上げてもらえるという期待は入団2年目の2010年に早くも叶えられることになりました。曲は第3番、アルトの独唱と女声合唱・児童合唱を伴う、マーラーの交響曲の中では最も演奏時間の長い曲です。本番の会場は、大学の時にオール・ワーグナー・プログラムを演奏した時以来31年ぶりとなる東京文化会館でした。最も好きなホールで大好きな3番を演奏する幸せを噛み締めながら演奏したことを憶えています。

 オーケストラの演奏会に行きたくてもお金がない中学生の頃、往復はがきを出すとコンサートの入場券が当たる都民コンサートやNHKの公開録音に足しげく通ったのですが、会場で一番多かったのが東京文化会館で他に日比谷の野外音楽堂、NHKホール(当時霞ヶ関にあった)などがありました。とりわけ東京文化会館は当時の思い出が一杯詰まったホールで、どの演奏会でも緊張してドキドキしながら開演を待ち貪欲に音楽を聴いていたことや、開場まで時間があると階上にある音楽資料室に行ってスコアを閲覧したことなどが思い出されます。

 この曲のLPレコードを最初に買ったのは忘れもしない、社会人になって最初に貰った給料を握り締めて駆けつけた高田馬場にあったレコード屋(これは2軒目。1軒目は後述)。ディミトリー・ミトロプーロス指揮ケルン放送交響楽団のLP、その演奏の数日後ミトロプーロスはミラノで同曲のリハーサル中に心臓発作で世を去るといういわく付きの演奏でしたが、盤面が擦り切れるまで聴いたものです。しかし、曲はというとマーラーお得意の苦悩とか激情とは無縁で、しかも涙にずぶ濡れになるシーンもありません。第1楽章の長閑なところやヴァイオリンのソロのメロディがとても好きです。また終楽章の温かみのある響きで悠然としたところはどこか東洋的な無限の世界を想わせるところがあります。

              ミトロプーロス マーラー3番     ミトロプーロス

 この演奏会は第43回ということで、年2回の公演ですから第50回や60回という節目の演奏会はそう遠くないわけで、祝典的な曲とも言える第2番『復活』や第8番『一千人の交響曲』が取り上げられる期待を持たせてくれる話しを時折耳にするようになったのもこの頃でした。しかも、このオーケストラの打楽器パートの充実ぶりは人数だけでなくその演奏レヴェルにも目を見張るものがあり、それだけに選曲における発言力も半端なく、マーラーのような特殊楽器をふんだんに使う作曲家を遠慮なく候補に挙げてしまうのです。黙っていても面白い曲を演奏できるオーケストラで弾かせてもらえるなんて何ともラッキーなことでした。


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