サリー&マグナム OF THE GENUS ASPHALT

 75歳が芥川賞の候補になったとか、同じ芥川賞の候補に20歳がいて歳の差が50歳もあるとかいった、年齢に関する話題が文学賞に付随して起こることはあるけれど、年齢が体力と直結するスポーツでもない文学の世界で、75歳だろうと13歳だろうと優れたものが書ければそれは候補になり得るし、受賞することだってあり得る。見た目が綺麗だとか経歴が特殊だといったことに劣らず、年齢は賞の本質とは無関係だと言っておく。

 10代20代が読者の中心になっているライトノベルという世界なら、同じ感性を持った若い人の方が面白いものを書けるのか、というとそうでもないのは30代40代から中には50代になっている人でも、面白いライトノベルを書いていることから分かる。45歳でのライトノベル作家デビューはだから、その作品が面白く読めるものなら別に不思議ではない。というか、すでに電撃ゲーム小説大賞を田村登正が50歳を越えて「大唐風雲記」で受賞し、デビューしているから、ギネス級の記録という訳でもない。

 それでもやはり気になる、45歳が書いたライトノベルがいったいどんな内容なのかという部分。てり、という名の作者によるその「サリー&マグナム OF THE GENUS ASPHALT」(講談社BOX、1200円)という小説は、ワイルドでクールでスタイリッシュな上にスピーディーなストーリー。それでいて人情味もたっぷりあって、読ませ泣かせて楽しませる。何でも面白がれる若い人はもちろんのこと、ライトノベルなんて普段は読まない大人でも、普通に読んで普通以上に楽しめる。間違いなく。

 何しろマグナムというニックネームの主人公が、おっさん、というほどではないものの、青年というのも似合わないマッチョ系でガテン系な30歳の兄さんで、前に働いていた空調設備の会社から仕事を回してもらって、エアコンの取り付け工事だの修理だのに出かけて言っては日当をもらい、それでしばらく食いつなぐその日暮らしの生活をしている。あとは美奈子という名の占い師のガールフレンドから、お化け退治のような仕事を請け負っては悪くない報酬を得ていたりする。

 つまりはそういうことで、人間には見えない妖怪変化の類、ここではバグと呼ばれる存在を関知し会話すらできる能力をマグナムという男は持っていた。子供の頃はそれで面倒事もあったけれど、他人には見えないものが見えると主張して騒動が起こることにいつしか気づき、黙っていることを覚え、それからは排除もされず、かといって知り合いのように能力を大金に変えることもしないで、日々をダラダラと過ごしていた。

 そのマグナム。鍛え上げられた肉体以上に、とある突起がマグナムサイズだと自ら訴えてみせるところがちょっぴり大人の雰囲気で、講談社BOXというレーベルから出た、45歳の作家の手になる小説らしさを感じさせる。そんなマグナムに相棒として加わるタイトルロールのもう1人、サリーがこれまた筋肉質のスリムな長身を、レザーパンツにタンクトップで包んだいい男。それでいて口を開けば出るのかオネエ言葉だというからこの設定、純粋なティーンに限らない、ハードにセクシャルな方面からの喝采も浴びそうだ。

 そんな2人がとある一件から知り合い相棒となって、バグが絡んだ事件に挑んで解決していくというのが主なストーリー。吸血鬼を相手に闘っては、囚われていた半透明の少年で実は少女にもなれるユキというバグを助け出したり、ポルターガイストでも現れたかのようにギシギシと揺れる屋敷に行って、普通の人には見えない巨大なタコが屋敷いっぱいに充満しているの小さくして、解き放ったりと活躍する。

 そこにマグナムが子供の頃から知り合いだった電婆とか、アスファルトのバグらしいサリーのせいで地上に出られなかったと逆恨みして襲ってきながら、今はバグとなって地上を闊歩できることを喜び改心したセミのバグとか、カップラーメンから合われるナルト模様のビキニをつけた小さい人魚のバグとかと連れだって、わいわい楽しくやっているサリー&マグナム。美奈子とは違うオッパリというあだ名の美人占い師と、高校生の頃からの因縁があって久々の再会をきかっけに喧嘩をふっかけられて一悶着を起こしたり、美奈子が暮らす所沢へと赴いて、彼女の占いを助けながらも結婚できない曖昧な関係を続けたりと、女性関係もなかなかに賑やかだ。

 そこに肉体は男性、心は女性、とは限らないけれど普段はオネエなサリーが横やりを入れてくんずほぐれつする大人のラブコメディ、なんて展開で流して行くことだってできたはずなのに、この「サリー&マグナム OF THE GENUS ASPHALT」ではバグがどうして現れて、それが見える1億人に1人といった能力を持つマグナムとはいったいどういう役回りで、そして今何かが起ころうとして、バグたちの身に災難が降りかかろうとしているのを、マグナムが救いサリーも手助けしてひとつの解決を見るという、大きな設定の上でクールにハッピーなストーリーが繰り広げられる。

 サリーがかつてアメリカで大暴れしていたバグだということ。日本にやって来て今はマグナムのそばにいるということ。それらが重なり合って見えてくる、バグたちの危機に挑むマグナムのそのストレートでシンプルな態度がまた格好いい。敵には容赦なく見方には熱いその態度には、サリーでなくなってユキでなくたって惚れるはず。オッパリはどうして惚れないのか、それとも惚れていながらフラれた怒りが今も尾を引いているということなのか。今回はそこまで踏み込んだ描写がなかっただけに、次に期待したくなる。

 何より結集して結束したサリー&マグナムとその愉快な仲間たち、人呼んで「チーム・デンバー」の活躍を、これからも読んでいたいところ。その名前の元になった存在に関わるひとつの残念を得ながらも、どうにか解決した事件の先に新たな敵が現れるのか、もっと大きな出来事が起こるのか。マグナムによって一太刀浴びせられたオッパリの本気の復讐が始まっても面白い。だから読ませて欲しい、この続きを。


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