「草間彌生展」&「六本木クロッシング」
展覧会名:「草間彌生展 クサマトリックス」&「六本木クロッシング」
会場:森美術館
日時:2004年2月11日
入場料:1500円



 休日出勤の農林水産省から地下鉄日比谷線に乗って六本木へと向かい7日から始まった展覧会の「草間彌生展 クサマトリックス」とあと「六本木クロッシング」って現代美術の最先端を集めた展覧会を観光する、じゃなかった鑑賞する。だってねえ、入場料の1500円を払って入った客の全員をまずは展望ルームへと流してぐるりと「六本木ヒルズ」のビルの周囲を回らせてから、最初の「草間彌生展」へと向かわせる方式が目的とするのは、現代美術の粋に触れてもらうと言うよりは、「美術」を「観光」してもらう「美術観光」と呼ぶしかほかにないじゃないですか。休日に観光地を訪れた人たちが。その足でさほど興味もない人たちが、見る人を驚かせる作品にかけては日本でも有数の草間彌生の作品に「なにこれ?」って怪訝な顔を見せたり「はははっ」と笑ったりしながらギャラリーを通り過ぎていく様は、どこかの観光地にある見世物小屋や郷土資料館と大差ない。

 ぐるりと草間彌生の巨大な水玉バルーンに水玉ウォールペインティグに鏡の間を見てから上がった「六本木クロッシング」でも、起こっている現象はまったく一緒。既成の美術館なんかにはない、最先端のキュレーターを招いてアートの凄いところを日本の人たちに見てもらいたい、という意欲のもとに作られただろう美術館のこの有様に、いったいどこでボタンを掛け違ってしまったのかとビルを設計した人なり、企画した人たちを問いつめたくなる。

 が、一方ではお上りさんでも夜景を見たいラブラブなカップルでも、何でも構わず引っ張り込んでは無理矢理アートを見せてしまって、学問を修めたものたちによる権威といったバックボーンを共同幻想的にそれぞれが、持って寄り集まりそれが何であるかは構わずに愛で喜ぶ(喜んでいるふりをする)これまでの展覧会の因習を打破し、現代美術を気楽に楽しみながら内容なんかもお構いなしに享受するという、かつてない新しいスタンスをうち立てようとしているのかもしれない。それをもって「美術観光主義」とか何とかいった新しい美術運動へと発展させて行こう、という壮大にして遠大な構想が果てにあるのだとしたら、こういった試みも面白いかもしれない。運動の道具にされる出展アーティストたちはたまったもんじゃないだろうけれど。

 作品について触れれば、草間彌生は過去からずっと描き続けてきたオブセッション系の水玉を描き連ねた作品や、ナルシズムの渦に巻き込まれる鏡を使った作品も素晴らしかったけど、驚きだったのは藁を敷き詰めた部屋に、ニキ・ド・サンファルほどではないけど派手な色彩で塗られ人間とか犬の人形が立ち並ぶ、その壁を透明なシートに描かれたてんでばらばらなファッションに身を包んだ少女のイラストが埋め尽くしている作品。前にパルコギャラリーで見た女性がテーマの展覧会で見たファッショナブルなアートを、さらにスケールアップさせたみたいで、明るくって楽しげでいつもどこか苦しそうだった草間彌生とは一線を画す、新世紀の草間彌生の姿を見せてくれたようで嬉しくなった。

 この部屋に1日居れば押し寄せるエネルギーにさらに新しい発見と感動を得られたかもしれないけれど、何しろ「美術観光」なんで尾瀬とか上高地なみに通行人が多く、とてもじゃないが静かに空気に浸るなんてことはできない。平日の人の少ない日を選んでゆきたいものだか東京でも注目の観光スポットだけあって平日でも状況に大差ない可能性もあるのが悩ましいところ。行ってみるしかないのだが……。

 導線は無茶苦茶であらゆる人がぞろぞろと入り込んではぐるぐると回廊を巡る展示方式に異論は山程あっても、こと内容については最良だったという点では「六本木クロッシング」も同様。まず入って正面に加藤美佳の人形をリアルに描いたような巨大な少女の顔の作品があって、まつげまでがしっかりと描かれた緻密さ、人形をいったん作ってから絵に写すという作業がもたらす奇妙なリアルさに目を奪われる。前に「小山登美夫ギャラリー」で展覧会「カナリヤ」を見て以来、気にかかっていたアーティストだったけど変わらないままそれでも確実にステップアップをしている。

 すでに重鎮の感が漂う会田誠も圧巻。「美術手帳」の表紙にもなっている魚だかと少女が絡み合っている絵も良かったけどそれより壁に掲げられた巨大なモニュメントっぽい少女のヌードの絵が最高。割れ目もまる出しに胸をはり腕の筋肉に力をみなぎらせて屹立している姿に真下から拝みたくなった、観音様観音様と唱えながら。

 そして八谷和彦。以前にミズマアートギャラリーで、「オープンスカイプロジェクト」って銘打ってやっている例の「メーヴェ」を飛ばそうとするプロジェクトで、フェーズ1のラストを飾る実験機が飛ぶ映像を見てここまで来ていたのかと感心したけど、今回はさらに進んでいよいよフェーズ2へと移るみたいで会場ではパイロットを募集する旨告知も出ていていよいよ本格的に動き始めたことへの緊張感と興奮を抱かせる。

 それでもアニメーションで見た光景が実際になるのは夢のあることで、体重が50キロを切ってる20歳から30歳の女性で、我こそはと思っている人が応募して、その若い命を空に賭けてくれる時が来ることを今は願っている。胸はキツネリスが間に挟まるくらいが理想か。それだと体重50キロ以下はきついのか。


奇想展覧会へ戻る
リウイチのホームページへ戻る