縮刷版2004年8月下旬号


【8月31日】 会ったのはたったの1度だけでそれも10分に届かない時間。人の顔を覚えるのが極端に苦手で2度3度と会った人でも、もしかすると違ってるんじゃないかって心配になって、こちらから声をかけそびれること多々あってそんなこんなで没交渉になってしまった人数知れず。そんな怠惰な身でありながら、なぜか妙に印象に残っていたのは若くてナイーブそうな人かもって印象を覆して、がしっとした体躯とそして絶やさない笑顔でもって喋りかけてくれたから、だったりするんだろー。

 周りにガイナックスの山賀博之さんとかもいて、あとブロッコリーの木谷高明社長もいていよいよ立ち上がった「熱風海陸ブシロード」のこれからについていろいろと、話を聞いたような記憶があるし、そうじゃなくって「トリニティ・ブラッド」をただただ僕の方から賛辞する言葉を、僕がはき続けていただけかもしれないけれど、今となってはどっちだって構わない、ただひとつ、その時の続きが話せればと願うけれども、それは永遠に叶わぬ夢となった。7月15日。吉田直さん。永眠。その経緯が書かれた「ザ・スニーカー」の2004年10月号を読んで改めて哀しさと悔しさがわき上がる。

 悔しいのは読者だけじゃなかった。「ご遺族から彼がいかにトリ・ブラの将来を楽しみにしていたか、という話を聞いた。心臓停止するまでのあいだに、彼の瞳からは涙が流れ落ちたという。さぞ悔しかったことだろう」。そうだろう。遺された物語。生み出されようとした物語。それらがもたらす圧倒的な歓喜を現実に目にし耳に聴くことなく逝く悔しさは、読者のそれを上回って余りある。生きるための手術。結果得られた命。広がった未来。一転しての暗闇。よぎった悔しさはいかばかりか。

 「トリ・ブラ」シリーズの美麗なイラストを寄せたTHORES柴本さん描く追悼の1枚。アベルと着飾ったエステルに挟まれ微笑む男はまさしく去年の1度の邂逅時に見た顔だった。優しげで自信にあふれた表情にTHORES柴本さんが込めたものは何だったんだろう。先に逝く身を赦せ、いずれ再び会おうと耳に響いた吉田さんの想いなのか。病気に苦しみ作品作りに悩みながら続けてきた疾走を無念とは言え終えたことで得た安寧か。残る10月9日夕刻の、「吉田直先生を偲ぶ会」の一般公開時間には立ち寄り1ファンとして無念の想いをその場にてきっぱり捨て、安らかに旅立って頂くように気持ちを新たにして来よう。それはそれとして「学園小説大賞」の1次通過作品も発表になってるぞ。ふーん。へー。ほー。2次が楽しみ。

 この世界への懐疑が大爆発して宇宙までをも含めた驚天動地の物語を作り上げた前作「神は沈黙せず」に続く山本弘さんの新作「審判の日」(角川書店、1600円)はスケールこそ短編って形式からやや抑えられているよーには見えるけど、繰り出されるテーマにはなかなかどーして、どれもこれも「神は沈黙せず」に負けず劣らず世界の常識をひっくり返し、あり得ないはずの世界に姿を与え命を吹き込み立ち上がらせては読む人の当たり前の日常にひびを入れる。ひびはやがて裂け目へと広がりそこから世界への懐疑を心の奥底へと忍び込ませ、惑乱のうちにやがて心を木っ端微塵に吹き飛ばす。

 冒頭の「闇が落ちる前に、もう1度」は今いる世界が過去より始まり未来へと続くとゆー固定観念への挑戦。これはバーチャルアイドルがバーチャルを信じないタレントと対峙する「時分割の地獄」とも通じるテーマで自分が生きている世界って一体どんなだろーって、感じさせて身の置き所をなくさせる。「審判の日」はもしも世界が突然終わったら、ってゆー何度も聞いたことのありそーな汀間だけど設定はそれとして、上で繰り広げられる人間の強さと奥ゆかしさに関するドラマが読んで身に染みる。

 「夜の顔」と「屋上にいるもの」は都市伝説的なシチュエーションにどーにか理屈を付けよーとするんだけど、それでも怖ろしさが漂うくらいにホラーとして結構な水準にありそー。読み終えるとちょっとした音が、何もないはずの空が気になって仕方がなくなる。頭上に響く音に横切る顔。聴きたいし見たいけどでも、それが聞こえたり見えたりした時はお終いなんだよなあ。ああ怖ろしい。

 数学やら物理学やらを駆使してよーやく分かる設定を楽しむSFもあるけれど、「審判の日」にても「屋上にいるもの」にしてもストーリーは分かりやすく、複雑な構成とか小難しい理屈とかもまるでない。それでいて伝わる驚きや恐怖はしっかりとあって、読んだ人は真っ直ぐにこの世の裂け目を感じることが出来そー。小松左京さんとか平井和正さんとかの日本SFの短編を貪るよーに読んで世界はひとつの法則で出来上がってはいないかも、心にはとんでもない虎が潜んでいるのかもって思った、10代の気持ちを蘇らせてくれる短編集。楽しめます。


【8月30日】 つう訳でアテネ五輪も終わってしまってひとまず安心。妙なを起こした偉い人がビジネス新聞をスポーツ新聞へと変えてこの2週間余りを五輪報道に邁進して来た関係で、連日合ったこともないスポーツ選手の話とか見たこともないスポーツの話を書かされる羽目になり、ネットや雑誌やスポーツ新聞や書籍をひっくり返してエピソードを見つけ出し、また競技に関する知識をネットから探し出しつつ張り合わせては1本の原稿へと仕立て上げる、ブンヤでも社会部に見られるパターンでもって記事を作る日々が続いて苦闘にまみれてた。

 不得意だからってことじゃなくってどっちかと言えばそーゆーのは大得意で、合ったことはなくてもインタビューを読んだことはあるし、見たことはなくてもだいたいのところは知っているから後はそーした前知識にそってデータを引っ張り出し、ストーリーに乗っけて流せば良くって下手に自分で原稿を作るより、手早くそれでいてそれなりなものを作ってた。問題はそれが果たして真っ当か、って1点で針小棒大で鳴るスポーツ新聞だって選手には会うしスポーツは見る。会いまた見た上で記事にするんだけど、それが世の中が関心を持ちたがるストーリーに凝縮されてしまっているから、金太郎飴みたいな感じにどの新聞を読んでも同じ話しになってしまうだけで、場所さえあれば実に奥深い記事がちゃんと出てくる。

 一方でそうしたメディアを参考にしている記事は、エディトリアル的なテクニックと修辞部分での想像力なんかを駆使して見栄えは良くできても、新しい発見が得られるようには絶対にならない。いつかどこかで見た情報が美味しく分かりやすく並んでいるだけ。なるほどそーゆーメディアがあって決して悪い訳じゃないけれど、でもやっぱり情報源へ、1次情報へと接して感じたこと、知ったことを踏まえて自らのストーリーを創り出したいってのがこーした仕事に関わる者の望みだろー。偉い人が自らテレビで放映されたインタビューを使って評伝を作っているメディアでそれが可能か。そーした自律が求められているのか否か。いなけりゃそれまでってこった。

 そんな訳で記事作成に活用させていただいた関連書籍の品評会。まず役だったのは大住良之さんと大原智子さんの共著による「がんばれ!女子サッカー」(岩波アクティブ新書、735円)でこれは女子サッカーの起源から各国での波及の様子、現在の状況に加えて澤穂希選手と酒井與惠選手の対談まであって同級らしーざっくばらんな会話が交わされていて他の単独インタビューなんか読むより楽しめた。日本のL・リーグチームの紹介もまずまず。試合に行かないと買えないパンフレットがなかなか手に入らない人にも、リーグのチームがどんな謂われか解って勉強になる。テレビで女子サッカーのファンになった人は必読の1冊。

 それから為になったのは吉田敏明さんってアメリカの女子バレー代表の監督を務めている人の自伝。日本人がアメリカ代表の監督を務めてるってのは結構衝撃的で、逆に言うなら日本の柔道代表の監督をアメリカ人が務めているよーなものかもしれない。「情熱大陸」なんかでも紹介されてたけど、公募に応じて選ばれ就任したとゆーから情実とかはまるでなく、その実力を評価されての就任で、世界トップクラスのバレーボール理論を日本人が持っていたってのはちょっぴり嬉しくさせられる。とはいえ米国女子はアテネでは準決勝で敗退。期待されたメダルには届かなかった訳でシドニー五輪の4位を下回る結果に吉田監督、去就はどーなるのかそれともどーなったのか興味あるところ。日本の女子代表の監督になれば面白くなるのになあ。男子で良いか。田中幹保前監督の後任も決まってないし。

 付けっぱなしのテレビで流れたテレビ埼玉の番組に突然登場したラップバンド。音楽よりは踊っている水着のお姉ちゃんたちに最初は目が釘付けになったけど、野球帽を斜に被ったいかにもラッパーって感じの男の最初の歌が終わった後を引き継いで、周りで迫力たっぷりにギターのエクスプローラーを鳴らしていたゴツくて丸顔で髭面のおっさんが歌い始めて仰天。上手い。でもってハイトーン。その声の抜けっぷりがあまりに心地よくって調べて発見。「CHOKE SLEEPER」って名前なのか。

 おっさんに見えたギターでボーカルのShigeこと森本繁来さんはまだ26歳であのエクスプローラーは「友達に作ってもらった」ものだそーで(ホントかい?)そんな無茶苦茶な、いかにもラップグループって感じなのに唄うとメインボーカルは格好良く、Shigeって人のボーカルは心地よく、サウンドは迫力たっぷりでついでにビデオクリップはイヤらしい。会社のテレビで音を殺して見るんじゃなくってCDでど迫力の音声でもって聴きたいし、DVDで舐めるようにクリップを眺めたいって気になってるんだけどクリップの方はあるのかないのか不明なんで後回し。音楽はCDが出ているよーなんで明日買おう。ライブもある模様。おまけにテレビ埼玉主催でエイベックス当たりの仕切りのイベントに出る予定もあるみたいなんでこっちも行こう、平日だけど。格好どんなんが良いだろー。室伏広治銀メダルTシャツ?

 そのTシャツ。朝方に神田のミズノのショップに行ったら午前9時あたりではまだ看板が出ていたけれど、10時ではすでに撤去されててTシャツが積まれてあったラックにも手が掛かってて、開店の午前10時半には棚に積んであったシャツがすべてなくなっていた。金メダルが決まった状況では流石に売れんわな。それにしても決定的な証言が室伏選手本人から出たって話には驚いた。いわば仲間であり友人でもあるアヌシュ選手を訴え出る気持ちの”寂しさ”たるや、いかばかりかって想像するに余りあるけれど、会見でメダルの裏に書かれてある公明正大を讃える詩を真っ先に紹介したところに、友情よりも正義、というより友情なればこその正義を尊ぶべきだって想いが現れていたのかもしれない。悲しかったけど素晴らしいエンディング、見せてもらったよ。


【8月29日】 「ワンダーフェスティバル2004夏」へ。午前9時45分に到着した「東京ビッグサイト」は雨中だけあって傘を差すスペースが必要な分、列も長く伸びていて、歩けども歩けども最後尾が見えて来ない。結局観覧車のある「メガウェブ」の直前まで続いていてそこで最後尾に並び雨に打たれたままぞろぞろと歩いたり止まったりしながら1時間ほどで場内へと到着。冬の時には死ぬほどの行列が出来ていた「ワンダちゃん」関連グッズのコーナーの人だかりが少なく、1人1セットに限定した効果が出たのかと早計したら後ろにわんさと行列が出来ていて買うのを諦める。歳かなあ。

ついに世界に進出のアキハバラだけど、路上のPOP撤去、ポスター撤去を要求されたら景観も変化しそう。守れるか。守るべきか。  アトリウムの中をぐるりと回ってまずはこの9月にイタリアで開催される「ヴェネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展」に向けた日本館(にっぽん・やかた)のプレゼンテーションを見物。適当に仕切られたスペースに展示物の概要なんかがカラープリンターで出力されて張り出されていて、なるほどこんな感じのものが展示されるのかって雰囲気だけは伝わった。けどやっぱり行って見るのが正しいんだろーなー。行きたいなあ。出張費用なんか出ないから自腹になるんだろーなー。でも休みなんかとれないからなー。どーしよう。

 入り口付近の立て看板が妙に可愛くそれが描かれた「OTAKU展」の公式カタログを案内するチラシを手に取り読んでびっくり。デザインこそ例の「週刊わたしのお兄ちゃん」の大嶋優木さんだけどイラストは日本館の総合プロデュースだかを担当している森川嘉一郎さんが描いているらしくって、本も書くしアートにも建築にも造形が深いんだけど萌えイラストも描けるんだとその多芸ぶりに関心することしきり。もしかしたら造形だってへっちゃらにこなしたりして。村上隆さんの強力なライバル出現?

 ブースの入り口付近に並べられたテーブルには「ワンフェス」でガレージキットを並べて売っている人っちとはちょっぴり雰囲気の異なる匂いを出している人が座ってて、たぶん日本館の展開なんかを担当している建築でアートで国際な人だと想像したけど真相は不明。近づくとなにやら胡乱な奴が近づいてきたって目を向けられて、中年おっさんがいい歳をして萌え萌えなコーナーにやって来るってゆー、この国のまか不思議な状況を分析されてるよーな気がして身も引き締まる。その昔にブロッコリーから出た「デ・ジ・キャラットアロハ」なんかを着ていたのもそれっぽさを感じさせたかな。ヴェネチアにはやっぱりコスプレで行かなきゃまずいかな、って行く気かい? 今の職場がなくなれば勇んで行くけど。

 1階の中をほとんど見ないですぐに上の階へと移ってそちらに出展しているアルフレックスで「仮面の忍者赤影」のフィギュアの出来を見る。これはすごい。似てるってもんじゃないくらいにそっくりで、仮面を取ったらとてつもない美男子じゃないかってテレビを見ながら思ったあの感情を実に忠実に甦らせてくれる。取れるかを聞くの、忘れちゃったよ。1万5000円は絶対に買いだな。

 あと別に白影と青影のセットが21000円で発売あれるそーでこれまたそっくりで青影は「だいじょーぶ」をやってるし白影には凧もちゃんとつくそーで、赤影を買うなら絶対に買い逃せない逸品だけどでもなあ、合わせると3万6000円になってしまうのがなあ、痛いなあ。税金を含めると3万7800円かあ。でも日本が誇る素晴らしいキャラクター。原作の横山光輝さんに坂口祐三郎さん追悼の意も込めてここは奮発して揃えよー。発売は10月下旬。あとはこれに麻生久美子さんの網タイツくノ一が加わればカンペキなんだけど(映画が違う)。

大きさは従来品の8倍くらい。投入するお金のサイズも10センチ、な訳はない  せっかくだからと「エロポン」も2つ買って会場を出て隣で開催中の「トイフェス」も見物。欲しいものはあっても買えるだけの資産に買って置くだけのスペースがない身なんで最初から購入は諦めてひたすら見物。誰よりも早く商品を手にしたいってマニアたちから殺気すら漂う真下の「ワンフェス」とは違って、ブルマアクっぽいフィギュアとかあったりガンプラとか並んでいたり人形とかミニカーとか山と積まれた中を、カップルとか家族連れが歩くいつもなかがらの光景に、中古玩具のマーケットもすっかり世の中に定着したって感を抱く。オリエンタルのカレーも定着したなあ。

 会場で1番驚いたのはトミー系のユージンが出してた巨大「ガチャポン」。横の普通のガチャが4台並んだものよりさらに巨大なマシンには、何個かカプセルが搭載されてて1500円を払いコインを貰って投入し、ハンドルをぐるりと回すとゴトンと言って中からカプセルが落ちてくる。入っていたのは何だったっけ、プーさんか何かの人形だったかな、ともかく1500円分の価値はありそーで、回す楽しさとも相まって見ている人のガチャ魂を擽ってた。

 雨の中を持って歩くには景品が大きかったことと、あと種類が種類なんで手は出さなかったけど、これが例えば中身の見えないカプセルで、古くなっているかもしれないけれど3000円分くらいの美少女フィギュアが入ってるって言われたら、勇んでプレーしたかもしれない。シーズンが終わって古くなったサッカーのレプリカが入っていてもプレーしたかな。ってことでどっかのサッカーショップが在庫処分に常設してくれることを希望。


【8月28日】 公衆電話の側でかかってくるかもしれない田波からの電話を待ちながら溜息をつき身もだえる成沢と、会社で留守番をしている田波の所にどうやって戻ろうかと悩みながら橋の上で片手を前に伸ばす不思議なポーズでしなを作る高見ちゃんのどちらを選ぶべきなのか。なんてことを読む人のおそらく大半の男子は思い抱くだろー「ジオブリーダーズ」の第10巻は堀田駅がモデルの堀日駅を舞台にした化け猫の戦闘があり温泉で謹慎する入江を狙った暗殺ありとシリアスで一杯の内容で、お気楽お手軽だったそれまでの展開からの違いに戸惑う人とか多そう。

 なおかつそのシリアスな展開が「ヤングキングアアーズ」の2004年10月号でもよりハードになって続いていてて、改造された化け猫から逃げ回る菊島社長の狼狽ぶりはとてつもなくマジだしハンガーに立てこもった神宮司重工の面々もいよいよ打つ手がなくなり大ピンチ。ここで変身ヒーローでも颯爽と現れ化け猫を倒してくれる可能性があるなら安心しつつ読めるんだけどそーした設定なんて存在していない以上、迎える可能性は極めて悲観的で果たして誰かがどーにかなってしまうのか、どきどきしながら来月の次号発売までを過ごすことになりそー。ちなみに第10巻では脇腹を打たれて死んだふりをしている箏井の眼差しも含めた死んだふりっぷりも成沢のもじもじ、高見のしなしなと並ぶ強力な媚態。迷います。

 いよいよもって金剥奪の可能性が高まって来たんで折角だからともう1枚、買い足すつもりで神田にあるミズノのショップへと出向く。すでに撤去してある可能性なんかも想像したけど決定していない段階で引っ込めるよーな中途半端なことはしておらず、1階の売り場とそれから2階の売り場にそれぞれ、ラックに積まれて室伏広治銀メダル獲得記念Tシャツは売られてた。買っていく人の姿はなかったけど。「東京スポーツ」によるとミズノは金メダルバージョンの製造も考えているそーなんでそっちが出たら買って銀メダルと並べて飾ろう。まさか銀メダルバージョンの上にシールを貼って終わりにするんじゃなかろーな。

 政治とや経済とかいったお堅い記事でそれなりに評判は得ていたものの景気の低迷で売り上げが鈍った某月刊誌。これはもう先はなさそーと一気に軟派な雑誌へと切り替え音楽芸能映画にスポーツといった記事も増やして乗り切ろうとしたんだけど、どこかに硬派へのこだわりも残っていて開き直れないことと、それから軟派に通じた人材のまるでいなかったこともあって出来上がった紙面はどっちつかずで明後日の方ばかりを向いた記事ばかり。内輪ではそれなりに満足感を得ていても外では誰も手に取り読もうとはせずまた、それまで硬派な内容を指示していた人までもが愛想を尽かして読むのを止めようとしている。

 これはまずいと思って編集長、路線をもとに戻すかと思いきやよりパワフルに大衆受けを狙おうとしてヘアヌードを載せることを決定。なおかつそれで一気に売り上げを伸ばせるからと月刊だったものを週刊にしよーとしたから困ったのは編集部員で、月刊でもどうにか回していた人数をやりくりし、できない所は倍、とゆーかすでに他の雑誌の3倍は働いていた訳だから6倍12倍といった過剰な労働を強いられることを覚悟で、来るグラビア週刊誌化の下準備をスタートさせた。

 実施は数ヶ月先ながら、硬派な月刊誌がいきなりヘアヌード満載の週刊誌になっては読者も戸惑うってことで月刊の時点で一部編成を代え、ヌードまではいかないまでもそれなりの女性のグラビアを掲載しつつアイドルを抱えるプロダクションとも話をし、さあいよいよ来月からと迫って突然、ヘアヌードの掲載が取りやめとなってしまった。公序良俗に反するから、ってんなら聞こえは良いけど理由はヘアヌードは一種の最終兵器、最期の最期で切る札だから今はまだ温存したいってことらしー。

 まさに今がその最期なんじゃないかと店頭に山積みとなったまま減らない雑誌を目にする度に編集部員は思っていても、外を出歩かない編集長にそーした不安は伝わらない。今はまだ切り札を切るべき時ではないって思い立ったんだろー。もっとも編集部員が驚いたのはそんな右往左往する編集方針じゃない。そんなものは誌面刷新以来の日常茶飯事だから呆然となりつつも諾々と従ってこなしていたんだけど、今回は予定していたヘアヌード掲載が中止になってにも関わらず、週刊化は予定どおり行うってことになったから吃驚たまげた。

 代わりに載せる企画がない。割くべき人間も集まらない。月刊誌のページを減らして4分割するから大丈夫、って言うけれどそれは注ぎ込まれるエネルギーがただ分散するだけで、なおかつ月刊ペースだったらある程度は見込めた熟成が、週刊ペースではまるで不可能となったまま行き当たりばったりの企画が毎週のよーに誌面をただ埋めていく。そんなものが売れるはずがない。

 読めば瞭然の薄い内容に改革後もどうにかついて来てくれていた古くからのファンは離れ新しく読み始めた人も呆れ離れていく。グラビア雑誌化を見込んで協力を依頼していた事務所からは約束違反を笑われ、その及び腰ぶりは業界へと広まり再び仮に本格的なグラビア雑誌化をめざそうとしても再び腰が引けるんじゃないかと思われどこも協力しなくなってしまう。切り札は切り札でなくなりかくして週刊誌はもろくも数週間で廃刊の憂き目を見ることになった。

 とゆー出版界をテーマにしたこんなフィクションが面白いかどーかはともかく、例え散るにしても勝負のしどころは大事かもって思う今日この頃。秘密兵器があるからと行って集められ最前線へと兵士たちが送り込まれる。秘密兵器があるんだからと兵士たちは日夜奮闘する。ところが参謀本部は秘密兵器を今使っては後が続かないってことではるか後方に温存したまま。かくして最前線へと送り込まれた兵士は秘密兵器の支援を受けられないまま、物量豊富な敵の機動兵器に蹂躙されて死んでいく。人員は損耗し資源は失われ気が付いた時には丸裸。倉庫に眠る秘密兵器を動かす燃料もないまま参謀本部は首都の地下壕で降り注ぐ爆撃に怯え、それでも「勝つぞ勝てるぞ」と声だけは勇ましかった、どこかの帝国の末路を彷彿とさせる場面が、戦争映画でも、戦記物の小説でもないこの現代で再現されたとしたら、それはひとつのドラマになりそーな気がするんだけど。書いてみるか小説に。


【8月27日】 畑違いにも五輪報道に邁進する社内を盛り上げるべく続けてきた五輪関連ファッションでの出勤もラストスパート。そろそろ出始めたメダル獲得関連商品なんかを求めて神田にあるミズノのショップへと出向いて話題の室伏広治銀メダル獲得記念Tシャツを買う。話題ってのはつまりアテネ五輪で金メダルを獲得したアヌシュ選手がドーピングの再検査を拒否して金メダルを剥奪されるかもしれないってことで、そーなると銀メダルの室伏選手が金へと繰り上がってしまう。

 27日時点では店の入り口横にラックが置かれてそこに積まれていたけれど、レジで「どうなるの」と聞くと「どうなるんでしょう」と店員さんも取扱に困っている様子。「金メダルが決まったら引っ込めてしまうことになるんでしょう」とも言っていたから、そのまま売り続けるってことはなさそーで、仮に金メダルとなった場合は即座に引っ込めてしまう可能性が大。買ってから後、報道の推移なんかを見るとどーも本格的に検査を拒否している節があるんで室伏選手の金昇格の可能性は高く、そーなるとTシャツも”幻の逸品”としてお宝になってしまうのかも。もっと買い占めておけば良かった。明日も間に合うかな。

 こう言うと既得権益を縦にとって新規参入を妨げているように聞こえるかもしれないけれど、既存メディアのどうしようもなさに日々接している身としては新しいメディアの登場は大歓迎したいところだし、メディアであろーと個人であろーと無関係に、情報にアクセスできる権利が与えられてしかるべきって考えているんで、1つの大きな風穴になるって期待も極めて高い。

 ただそれ故に、そうした期待があるが故に現実問題として、そういった新しいメディアが登場し得るか否かを考えた時に、突き当たる壁が幾つもいくつも感じられて仕方がなく、彼らが果たしてそういった障壁を、どう乗り越えていくのかそれとも既に乗り越える現実的な算段を行っているのかが、今現在はとても気になっている。ライブドアが報道部門を設置するって話ね。

 求人なんかを見ると「財務省や金融庁など主要経済官庁、財界、日銀、経済統計……」といったものや「国会、自民党、官邸など」を取材対象にしているんだけどこういった所にはそれぞれに「記者クラブ」ってものがあってそこに所属していることがまず、真っ先に情報にアクセスする上での条件になる。なるほど最近は外国のメディアを中心に新しいメディアもどんどんと入ってこれるようになっているけれど、それらはいずれも海外報道機関の集まりなんかで認知された新聞やテレビや通信社で、ネット専門のメディアってのにはまだお目にかかったことがない。

 発表された統計資料やプレスリリースにだったら、誰でも同時にアクセスできるようになっているかもしれないし、発表者側も公平の原則に立ってアクセスできるようにしようとしている節はある。東京証券取引所に投函される情報は今、すべてが投函と同時にネットのもリリースがPDFでアップされるようになっていて、それを見るだけなら大手のメディアと同じスタートラインに立てる。ただそうした案件に関してレクチャーが付く場合、例えば東京証券取引所で行われる決算数字の説明とか、合併の会見とかだった場合、聞けるのはそこに詰めているメディアの記者と認められた通信社の記者くらい。独立系の新興ネットメディアにはあまり(というかまったく)お目にかかれない。

 それでもネットにリリースが流れたり、別にホテルなんかに会見場を設けて開かれる企業の発表会だったらまだ情報にアクセスできる余地はある。「国会、自民党、官邸」。ここはおそらくそうはいかない。役所だったら身分証があればまだ入れないこともないけれど、国会はバッジが必要だし官邸は特別なカードが確か必要。自民党は入ったことがないから分からないけどさらに狭い範囲にしか常態でのアクセスが認められていないんだろー。

 これだけネットが発達しているんだからネット専門メディアだって出てきて不思議はない、って意見は道理。問題はそうした存在の是非論じゃなくって情報に常態的にアクセス可能になるかどうかって所なんだけど、1番手っ取り早い「記者クラブ加盟」は国内だったら「日本新聞協会」「日本専門紙協会」といった団体への加盟がまず先決と言われてハネられる可能性が強く”参入障壁”と騒いでも一朝一夕で解決はしない。「ニューズウィーク」が書いたって変わらないんだから仕方がない。一方で物理的に「記者クラブ」所属の人だけで会見場は満杯になり廊下も人で埋まる状況に、勃興するネットメディアをあまねく許容する余地がない。

 それは発表者側の事情であって求めるメディアがあればすべてに答えるべき、って原則論をかざすのは自由だし、そういう権利は誰にでもある。というより新聞やテレビと並んで”報道”に積極的な雑誌が長くそうした権利を求めて戦って来ているけれど、認められたという話はあまり聞かない。地方で残酷な事件が起こって警察におかれた捜査本部の会見を聞こうとしたけど雑誌は排除されたって話を上げれば枚挙にいとまはない。物理的に対応仕切れなくなるという正の解釈。批判的なメディアを排除したいという負の解釈。裏表のような理由が合わさり混じって情報源から新興メディアを遠ざける。ライブドアの立ち上げる報道部門ってのはそこをまず、超えないと他とはイーブンに立てない。

 大手新聞社とかいった既存のメディアから受けるニュース記事の配信をこれからも続けるって所も微妙。どこにでも情報を出す通信社は別にして、自前でニュースを作り売ってる新聞なんかが、別にニュース部門を立ち上げライバルとなる会社に、それまでお得意さまだったからって、記事を提供し続けるんだろーかどーなんだろーか。時事通信に情報を共同通信が配信するなんて構図、読売新聞に朝日新聞の記事が掲載される構図、ちょっと考えられない。「立ち上げたんなら独自でおやりなさい」と言われる可能性だってある。

 とはいえそーした問題なんて営々、言われ続けてきたことで、にもかかわらずこのタイミングで発表したってことは、手当する算段もきっと出来ているんだろー。間際の時期にいくら”参入障壁”を訴えたって、そうそう簡単に改められる仕組みじゃ「記者クラブ制度」はない。当たりを付けて良い感触を得ているのかもしれないし、すでにそーした情報へのアクセスの既得権益を持ったメディアに目を付けて、居抜きで引っこ抜くとか”商権”みたいなものを引き受けるとかいった計画が、水面下で進んでいたりするのかも。後者だとしたら相手がどこなのかに興味津々。瀬戸際にあって出した改革案を二転三転させては実施を先延ばしにして、社員のモチベーション低下を招いている新聞社が相手ってことはなさそーだけど。ある意味残念。


【8月26日】 「週刊サッカーマガジン」「週刊サッカーダイジェスト」とも2004年9月7日号は”なでしこジャパン”(これもすっかり定着した感があるなあ、100編言い続ければ何だって本当になるってことで。JリーグだってJビーフだってIカップだって)のアメリカ戦の選評に総評が掲載されててともに高評価。やるべきことをやった上でなお届かなかった部分、改善すべき部分を抽出できたって意味で「サカダイ」の言う「未来へとつながる敗戦」だったって言えだろー。セルジオ越後さん流では「よくがんばりました」って所か。

 ただその差のうち体格の差は1年2年で今の選手層を鍛えたところで大きく高くなるものではなく、今回の活躍を見て憧れた身長180センチとかのバレー少女なりバスケット少女なりが道をサッカーへと切り替えて、続々と入ってきてくれれば面白いかも。サイドからの正確な川上直子選手のクロスに180センチのツインタワーが飛び込めば得点なんて取り放題だ。9月中旬再開の「L・リーグ」にそんな転向希望のスポーツ少女がわんさと押し掛け盛況になることを願おう。でもって僕はそーゆー観客を観察すると。四王寺五条の気持ちがよく分かる。

 アメリカ戦の「サカダイ」の選評は酒井與惠選手が山本絵美選手、澤穂希選手に下小鶴綾選手と並んで最高点、とゆーか標準点の6点をつけられていて目立ってはなかったけどしっかり仕事をしていたことを、ちゃんと専門メディアは見ていた模様。でも写真は掲載されていない。縁の下の力持ちのこれが宿命って奴か。フィギュアもまだ余ってるみたいだし……。買い増すか。

 「サカダイ」はあと川上選手のアテネ五輪日記。川上選手と丸山選手と小林選手に囲まれたオランダ代表監督、マルコ=ファン・バステン氏の笑顔が張り付いているのは嬉しいからかそれとも寄り添った川上選手の胸が体に当たっているからか。小林選手は破顔一笑。見るとシアワセになれる笑顔。出すのはピースサイン。それも甲をこちらに向ける現代ふうの奴。現代っ娘だったんだなあ。丸山選手は母親譲り(モデルとか)の美貌が光る。これで活躍しまくってればどっかのビジネス紙もすぐに「広告価値云々」って飛びつくのに。広告価値? あんなものみせかけですよ。偉い人にはわからんのですよ。はっきりと言う。気にいらんな。来なくていいよ。嗚呼会社員残酷物語。

 ともあれ女子サッカーへの関心を高めるってゆー1つの、そしてとっても役目を果たした”なでしこジャパン”1期生。こんな素晴らしい代表チームがしばらくは見られなくなるのは残念至極。次の大会が何になるのかは知らないけれど関心が集まっている今を逃さず協会の人には、3年後の「ワールドカップ」なり2年後の「アジア大会」なりを見据えた強化策を打ち出しそれに沿った親善試合とかを是非に、開催してやって頂きたいもの。今なら1万人くらいならすぐに集まるだろーし。でも7000円は取れないか。1000円がやっとか。アイドルみたく1000人限定試合とかやっておみやげに写真集(プライベート含)とか着けてくれたら1万円だって行くなあ。でもってゴール裏で法被に鉢巻きにペンライトだかサイリウムだかを持った親衛隊が結集し、掛け声とともに激しくジャンプする応援が繰り広げられると。君が代は桃井はること。ハーフタイムには「エンジェル隊」のライブがあると。女性ファンのために「P.K.O.」のライブもあると。たのむ電通やってくれ。

 ハクションから毎年恒例のルネッサンスジェネレーションの案内が届く。今年のテーマは「前頭葉 決断の一瞬」でタナカノリユキさん下條信輔の監修者の元に今年は川人光男・国際電気通信基礎技術研究所ATRフェローで「計算脳プロジェクト」なんかをやってるらしー人とそれから、東京大学大学院医学系研究科助教授で認知神経科学の坂井克之さんが登場の予定。メカメカしくなくって何だか行くと脳味噌をぐらんぐらんされそーな内容だけに行くかどーか迷うところだけど「私たちは常に判断を強要されながら暮らしている。その一方で判断を拒否する、おたく的なコレクションに生きる、という態度が若者の間に蔓延している」「今年は引き続き問題の真相にメスを入れ、判断と意志決定のメカニズムをさぐりたい」って内容は優柔不断な僕にあるいはピッタリかも。決断するための方法を行って教えてもらうか。それより以前に否応なしに決断させられてる可能性もあったりして。


【8月25日】 一部のラジオとかを除いて、ほかのどのメディアも触れている所を見なかった日テレ・ベレーザに所属する五輪代表選手(含むバックアップ)6人のフィギュアに関する記事が「東京スポーツ」の8月26日号によーやく掲載。「バカ売れ荒川フィギュア」って見だして最初のスウェーデン戦にゴールを決めて勝利に貢献した荒川理恵子選手のフィギュアを含めた6体のほとんどが品切れになってるって内容で、それに加えてチームも追加販売の検討に入ったって嬉しい情報も載っている。

 ここで気になるのが荒川選手の”なでしこボンバー”(命名は元祖ボンバーの中澤佑二選手らしー)がどうなるのかってことで、フィギュアが作られた当時はおばパーマだったものを五輪に向けてボンバーにしてしまったから、現時点では顔はそっくになのに髪型だけが似ていないフィギュアになってしまっている。記事によるとこれを手直ししてボンバーなフィギュアにするそーで、「L・リーグ」の許可も得て9月中旬には販売したいとか。荒川フィギュアはすでに持っているけれど、バージョン違いとなれば是非にも手に入れておきたいもの。買い逃していた澤穂希選手のものも含めて全種類コンプリートのためにも再開される「L・リーグ」には頑張って通おう。

 1つの組織がおかしくなっていくプロセスってものを考える。例えば親会社から送り込まれた偉い人の天衣無縫な経営が祟って売り上げがダウンし、半ば潰れた会社に乗り込んで来た、やっぱり親会社から派遣された再建担当者が、1度潰れた会社なんだから黙って自分の言うことを聞けと言う。

 1度は失敗してものの流石に2度は失敗はさせないだろーとゆー期待もこれありで、ならばと子会社の人たちが黙ってついて行ってみればこれが、先代以上に未来を見ず、現状も把握できないで思うがままに突っ走ったからもう大変。新製品の開発に不可欠なマーケティングリサーチもコスト計算もないから市場とズレが出ている上に、余計なコストがかかって無駄に突出した性能を持ったいびつなものに仕上がった。

 とりあえずは新製品ってことで、ご祝儀相場の中で売り込みにひとまず成功するものの、マーケティングリサーチもコスト計算もないものだからご祝儀が剥がれ落ちようとした時にそれを止められない。リソース不足に伴う自転車操業が工場の従業員の疲弊を招き、スタート時に約束していたスペックが出せなくなっているにも関わらず、約束を違えた反省はなくなおいっそうに自転車操業を繰り返してはなおいっそうの疲弊を招く。

 いつか来た道同じ道じ道を今まさに歩んでいて、たどり着く終末がどーなるかは明々白々だろーにも関わらず、決定には諾々と従い緩慢な自殺への道をひた走る組織の傍目から見た不思議さが、内ではまったくといって良いほど議論されない。まあこれは、内向きで上向きになった挙げ句に内輪の楽しさに拘泥し、市場を見ず働く社員の幸福も考えないまま弱体化していく組織の辿るプロセスを想像してみただけなんで、そんな組織が実際に存在するとか、なおかつそんな組織が経営を他人様に説いてお金を頂くコンサルティングみたいな所とかってゆーことはありません。あり得るもんか。

 目の前でゲキテイを見られる幸せ。「サクラ大戦V」の製作発表会があるってんで六本木にあるクラブに出かけたら入り口に桜の木が1本、立てられていてセガのタイトルに対する入れ込みようが伺える。発表会では横山智佐さんが司会役を務めては広井王子さん田中公平さんあかほりさとるさんとプロデューサーの大場さんを紹介してさあ、いよいよ登場するは花組の面々。まずは「帝国歌劇団」から引退してしまった神崎すみれさんを除くメンバーが登壇してはその、その、その……ベテランとしての貫禄を見せてくれて10年とゆー月日が経った「サクラ大戦」ってタイトルの重みを目の当たりに見せつけてくれる。

 続く「巴里歌劇団」もタッチな日高のり子さんに魔子ちゃんでユリでしのぶな島津冴子さんが20年前を変わらない美声を、そう美声を聞かせてくれてその足元に身を投げ出したい気にさせられる。小桜エツ子さんは相変わらずのエッちゃんでした。さてトリを飾るのは「V」に向けて結成された「紐育歌劇団」のメンバーたちで、全員が白いシャツに黒いジーンズとゆー扮装(普段着?)で登場したんだけど声優さんに1人も知った名前がなくって己が知識の乏しさに愕然とする。「3」ではコクリコが担ったちっちゃい系のメンバーに当たるっぽいリカエッタ・アリエスを演る斎藤彩夏さん。喋りの珍妙さにいっぺんでファンになったけど調べたら「青の六号」でソナーをやってた女の子のホァン役で、最近だと「十兵衛ちゃん2」の小田豪鮎之助役だったみたい。なーるほど。

 主役のジェミニ・サンライズ役の小林沙苗さんも名前で明確には認識してなかったけど、いろいろやってる人みたいで聞いたことのあるものもあって納得。声優チェックに関しては頭が「天地無用」「新世紀エヴァンゲリオン」あたりで止まってたんでこれを機会に再び勉強し直してみよー。皆川純子さんは「テニスの王子様」の越前リョーマかあ。人気者。園崎未恵さんは「HAPPY☆LESSON」の八桜はづきか。大食いには見えなかったなあ。松谷彼哉さんは……チェーホフっすか。子供からおっさんまで含めて誰でも知ってるって感じの派手さはないけど(ルフィの田中真弓さんが「1」にはいるからなあ)、実力者揃いって感じでこれを機会に超メジャーになって下さいな。

 締めはやっぱり「ゲキテイ」ってことで「1」の面々が揃って唄ってフリを見せれば「2」からも揃って歌を唄いそして期待の「3」。その名も「地上の戦士」は田中公平さんが広井さんからホームランを打てと言われたも同然の「ゲキテイ、超えて」とゆー要求にしっかり応えたテンポ良しノリ良しの作品に仕上がっていて、レビューとかやったらエンディングなかで超盛り上がりそー。全体にスタイルも良い人たちが揃っているから扮装しても格好良さそー。期待だ。でもそれがあるのは「V」が発売される来年夏以降、なんだよなー。会社、保つかならー。セガのことじゃないよ。セガは全然大丈夫。心配なのはこっちの話。保ってくれないと買えないし行けないからなー。


【8月24日】 戦後それほど経ってない時代に生まれた50代とか40代後半といった人たちの、学園紛争の中で育ち高度成長の中で育まれた上昇志向を背景に持ち、趣味とか娯楽といったものに目をくれることもなく走り続けた関係もあって、極めて特徴的で限定的だったりする、世の消費の中心を占める20代や30代の人間が持っているものとは一線を画した感性を、内的な葛藤もなければ外的な影響も考慮しないで、直感的に繰り出したテーマをそのまま真に受けて、野球はともかくサッカーはもちろんレスリングもホッケーもラクロスもレスリングも柔道も、およそアマチュアスポーツを呼ばれるものに触れたこともなければプレーしたことは皆無で、「ナンバー」や「スポーツヤア」といった雑誌も定常的には読んでいない人間が、アテネ五輪の記事を書くとゆーこの異例さ。

 それも多くは過去の雑誌や新聞の記事を”参考”にし、テレビで放映されているインタビューやエピソードなども即座に取り入れ、1本のストーリーに練り上げたもの。そんなオリンピックの記事が掲載されたビジネス紙(オリンピックの記事がどーしてビジネス紙に載るのかってゆー疑問は無視だ)が、この世の中に本当に存在しているのかってゆーと、ジャーナリズム的な観点からあり得ないと考えるのが妥当であって、なるほど周囲をぐるりと窺った限りにおいては、ジャーナリストが過去営々として積み上げてきたジャーナリズムに極めて挑戦的で、スポーツに対する敬意って面からもビジネスへの指針って意味からも、利用に迷い判断に苦しむ記事が紙面をごてごてと飾り立ててる新聞が世に登場している様子はなさそー。灯台もと暗しって警句の意味は知らない。

 とは言え細かいバリューの判断となると、既存のジャーナリズムの事大主義に中央集権的体質は完璧には抜けきっていない模様。昨日から今朝にかけて行われたアテネ五輪でのレスリング女子は、4人いるうちの3人を占めている中京女子大から参加した吉田沙保里選手と伊調馨選手が金メダルを獲得し、伊調千春選手が銀メダルを獲得したんだけど、今朝方のワイドショーなんかはメインが唯一決勝に進めなかった浜口京子選手で、それも準決勝の試合で判定にミスがあって敗れたってトーンで番組が作られていてちょっとがっかりする。

 なるほど表示にミスがあったことはあったけど、試合の最中でローリングとか決められていた浜口選手が、たとえ掲示が違っていても自分が劣勢にあることくらいは分かっていたはず。表示が自分にそれほど不利じゃないからといって、闘いを止める性分でもないだろーから、表示ミスが金メダル獲得を妨害した、なんて陰謀論めいたニュースを作られて嬉しいとは思えない。父親のアニマル浜口さんが表示ミスを指摘し嘆くの様は絵になるけれど、おそらくは浜口さんだって見て劣勢だったことは認識していただろー。それでも現場で大騒ぎしたのは、父親としのて情とあと、パフォーマーとしての血が騒いだからだったりするのかもしれない。

 メディアが問題にすべきは決勝の最初の試合で、伊調千春選手が相手とのクリンチ場面で合図が出る前に相手に動かれ技をしかけられた場面とそして、試合終了間際に伊調選手がかけた技が、それなりのポイントをもらえて不思議じゃないものだったにも関わらず無視された場面。2対2で1ポイントを選手した方が勝ちってゆー、延長戦での超シビアな場面でもしも表示にミスがあって選手の闘いに影響を与えたとしたら、もっと問題にして良いだろー。

 にも関わらずワイドショー的には浜口選手の方へと関心の矛先が集中する。有名人の父親を持ち活躍している場所も地元東京ってことで、深い取材をきっとメディアもやっていたんだろー。そーした素材を無駄にしないためにも、完璧な勝利を得た中京女子大の面々ではなく、浜口選手を取り上げたんだって思って思えないこともない。そーした事情を忖度し、意識してフレームアップをやっているか、無意識的に浜口選手は何があっても4人のトップと思い込んで反射的にフレームアップしているのかまでは知らない。メディアの近況から窺うに、後者の可能性の方が高いかもしれないけれど。

 ちなみにいわゆるビジネス紙がどーゆー切り口でもってレスリング女子を伝えたかは不明。スポーツ的に秀でていた中京女子大の3人を半ば無視して、企業に務めているからってことだけどよりどころに、浜口選手1人だけをフレームアップして見せた過去を鑑みるにやっぱり、スポンサーになっている時計メーカーへの影響なんかも鑑みつつ、ポイントの表示ミスをつっついた可能性が大きそー。あるいは相も変わらず広告的な価値がどうとかっていったワンパターンな切り口か。

 レスリング市場が盛り上がる? 人口が増えてもそれで何百億円に達する市場かってーの。スーパーが1軒、店を出す方がよほど地域に与える影響として金額的として大きいんだけど、そーゆー産業紙的な発想はどーもあんまりオサレではないらしい。ともあれアテネ五輪が始まって約10日。まるごとビジネス紙とか言われて読み始めた人にとって、この間の肩すかしを食らいうっちゃりをかけられたに等しい”スポーツ紙化”がどう思われているのか知りたいところだけど、ネットとかでまるで反響、出てないんだよね、これが文句はないってことだとしたら素晴らしい。一切の異論もないってことで、紙面はこのままパラリンピックだ、愛知万博だと特集主義で突っ走ろー。


【8月23日】 後ろにヌデレバ選手がびたっと付いていて、真正面からだと距離も分からず目分量で30メートルくらいしか離れていないよーに見えて、いつ抜かれるんじゃないかとハラハラしながら見守っていたけど上から写した画面では結構な距離があるみたいで、それでもスタジアムでのトラック勝負でやられるんじゃないかと心配したものの、そこはさすがに高橋尚子選手を差し置きマラソン女子の日本代表に選ばれた野口みずき選手。最後まで歩を緩めることなく走り抜いては真っ先にテープを切って前回のシドニー五輪での高橋選手に続いて、マラソン女子で金メダルを獲得した。

 世界最高記録を持つラドクリフ選手が途中でふらふらになってリタイアするくらいに過酷なレースを、途中から1人抜け出しリードしたまま走り抜く肉体的・精神的な強靱さにまず感心。ゴールした後に多少の体調の崩れがあったみたいだけど程なく立ち直って、日本で明けた朝のワイドショーに出てインタビューに応えている姿からは、いかに素材としてすごい選手だったのかが改めて見てとれた。高橋選手じゃなかったらメダルは取れないなんて言った人は今、きっと強く反省しているだろーなー。

 1人抜け出し独走気味だったシドニーの高橋選手と比べて、ヌデレバ選手が最後までチラついていただけに、受けるプレッシャーは半端じゃなかっただろーって想像したけど当人、インタビューなんかで後ろなんて気にしてなかったった模様。それだけ自分の走りに集中してたってことなんだろー。もしも高橋選手が出てたらどんな試合運びになったんだろーかにちょっと興味。野口選手とデッドヒートを繰り広げたのかな。それともやっぱり1人走り抜けて圧倒的な強さを見せつけた?

 届いた新聞によると地元の宇治山田とか伊勢あたりでは大騒ぎをしたみたいだけど、所属するグローバリーって会社がどんな応援をしたのかまるで伝えられてないのが不思議と言えば不思議。それならばとグローバリーの本社がある千種まで出向いて観察すると、壁面に巨大なシートが貼られてそこに野口選手の金メダル獲得をお祝いする言葉が並んでた。写真は五輪で走っている場面とは違うから事前に作っておいたんだろー。それだけ期待してたってことか。ちなみにグローバリーは商品先物取引の会社。野口選手を獲得したのは1999年だから5年も先の”金”の上昇を予想して先物買いしてたってことになるんだろー。会社のイメージアップにも繋がったかな。イメージが上がり過ぎても困る業種じゃないし。

 それにしても見渡すと”名古屋オリンピック”だったなあという感想で、1988年のリベンジを今遂げているって印象。何をイキナリと言うことなかれ。野口選手が勤務する会社が名古屋にあるし、ハンマー投げで銀メダルを獲得した室伏幸司選手は中京大学出身だからまあ名古屋。レスリングで決勝に残った3人はいずれも中京女子大学の所属でやっぱり名古屋近郊だし、さらに言うなら柔道で2連覇を成し遂げた谷亮子選手はトヨタ自動車所属とやっぱり名古屋に縁がある。決して名古屋に帰っているから情が移って持ち上げている訳じゃない。

 景気も全国的に低迷が続く中で名古屋だけが好調だったりする訳で、優勝間違いない中日ドラゴンズも含めて、スポーツもやっぱり名古屋が1番だったってことで、遠からず名古屋が政治的にもトップに躍り出るだろーことをここに断言しておこー。つまりは内閣総理大臣に甦った織田信長が就任するってことで。一つ名古屋グランパスエイトが相変わらず微妙な闘いぶりを晒してくれているけれど、これも多分これからでしょー。ピクシーだって名古屋に復帰するためにセルビア・モンテネグロのサッカー協会会長を降りたよーだし(降りてません)。

 知らない間に出来ていた「パルコ」の南館を見物したり、上前津の古書店群をのぞいたりして午後の時間を散策。なぜかアイドルの写真集の安売りコーナーに写真家で木村伊兵衛賞受賞者でもある長島有里枝さんのセルフポートレート集「長島有里枝写真集」(風雅書房)が500円で出ていてラッキー。店によってはちょい安いくらいで高いと5000円くらいする写真集なんだけど、店の人は無名のモデルのヌード写真集のそれもあんまり興奮させられない失敗作と思ったのかもしれない。サンリオのSF文庫を良い値段で売ってるくらいには知っている店だけど写真には弱かったか。

 「めぐりくるはる」辺りから漫画家としての物語作りの特質と絵の抜けっぷりに惹かれ関心を抱きその後に大判の画集とか漫画作品とかが出てその凄まじい画力に圧倒されっ放しだったOKAMAさんだけど、一般性を持つにはやっぱり独特過ぎるかなって思っていたら知らない間に「ウルトラジャンプ」で連載を始めていたよーで、いよいよそれが単行本として登場。「クロスロオド」(集英社、619円)ってタイトルの作品はナノテクが発達してウェアラブルコンピューティングも普通になった未来、ドレスは人の能力を拡張するどころか人に新たなパワーを与える存在となり、それを作るデザイナーとそれをまとうモデルはともに時代の最先端を行くエリートであり世間の注目を集めるスターと目されるよーになっていた。

 世界は7つの服飾メーカーによって支配され貧富の差も激しくなった社会で下層の人々は、二流三流のモデルがやっぱり二流三流のデザイナーの作った衣装をまとい闘う「WOR−KING」を見て金をかけて憂さを晴らしていた。そんな社会で飲んだくれの親方の下、デザイナーの勉強をしながら「WOR−KING」で三流モデルのために服を作っていたファーガスは、いつか底辺を抜け出し一流デザイナーになる日を夢見ていたが、突然の病にたおれた親方のために莫大な医療費が必要となってしまい絶望する。そんな彼の前に現れたのが、赤ん坊の頃に離ればなれになったというジェニファーという名の双子の妹。楽天家なのか物知らずなのか、自分がモデルとなって「WOR−KING」に出ると言い出した。

 服をナノテクで最先端にするくらいならほかの様々ななものを高度化して暮らしを便利にした方がよさそうなものだけど、社会が発展していく段階で服飾メーカーが利権を獲得していくプロセスがあったんだとまずは理解。紙使いと図書館員が世界を牛耳る「R.O.D」の倉田英之さんが脚本を担当しているんできっと綿密な裏設定があるんだろー。そーした設定に加えて相変わらずに美麗にしてパワフル、可愛くってスピーディーとゆー不思議な魅力にあふれたOKAMAさんの絵によるキャラクターの描写があって、「クロスロオド」をとっても楽しい作品にしている。何事にもひるまず負けないで突っ走り続けるジェニファーってキャラが気持ちをハッピーにしてくれるのが良い。「ウルトラジャンプ」の読者にどこまで人気になっているかは不明だけど以前から追っかけて来た人間は納得の逸品。メディアミックス化されないかな。


【8月22日】 10年とか前に「ヤングアニマル」に連載されていた志野靖史さん「内閣総理大臣織田信長」って漫画があってこれがまた傑作で、戦国時代において第六天魔王と呼ばれ破天荒にして超合理的な志向でもって次々に画期的革命的な施策を繰り出し、日本を大激変させた織田信長が説明を抜きにして平成の夜に一族郎党ともども存在しては、政党を作り政権を取って総理大臣として合理的ではあるけどでもやっぱり破天荒な施策を繰り出し、日本を混乱ではない方向へとまとめ上げてしまうストーリーに、優柔不断とか欺瞞とかに溢れ、人気取りに揺れる今時の日本の政治家たちを思いっきり嘲笑していて爆笑のうちに溜飲を下げさせられた。

 欺瞞の度合いはさらに高まり、中身の伴わないまま世間受けする言説を繰り出す獅子の面に蚤の心臓首相の虚勢ばかりが跋扈する今にこそ、相応しい漫画だと思うんだけどどーでも良い漫画が続々と文庫になって復刊されても、この作品が単行本のまま残っていないどころかオール絶版で、且つ文庫としても刊行されてるって話を聞かない。どーしてなんだ? って思うけどこれはあるいは、本が浮き彫りにする現代の政治と政治家の間抜けさが、極めて明確に真実を指摘していて国家機密の暴露を恐れる政権なりから圧力がかけられているのかも、なんて想像してしまう。

 つまりはそれくらいに面白い漫画なんだってことだけど、読むことかなわない現代っ子たちに叶わない夢ならば、代わりと言って良いのかそれともより強力な作品だと言うべきかはともかく、「内閣総理大臣織田信長」が溜飲を下げさせたのと同じくらいの喜びを、与えてくれる小説が登場したので漫画を差がして叶わなかった人も、現代の政治の至らなさをただ憂いている人も、勝って読んでその内容の楽しさに腹を抱えてベッドの上をのたうち回ろう。「第3回スーパーダッシュ小説新人賞」の受賞作にして福田政雄さんが書くところの小説「殿がくる!」(集英社、629円)のことね。

 内容はタイトルもそのままに時空を越えて”殿”、すなわち織田上総介信長が「本能寺の変」より1年程前に突然420年後の現代へと飛ばされ、丹羽新一郎って信長家臣の丹羽長秀の末裔と出会い居候する話。あたかも日本は表面上は繁栄をおう歌しているよーに見えても経済は停滞し自殺者は大量に発生し、発行した国債は積み上がり財政はにっちもさっちもいかなくなっている。加えて外交面では近隣諸国との緊張感が増していて、米国との関係を強めなくてはいけないって意見が主流になって来ていた、そんな最中にやって来た信長は新一郎をいじめていたチンピラが所属していたヤクザの組を事務所ごと壊滅に追い込むのみならず、世間の変わり様を知り嘆いて政権の奪取へと向かい始める。

 力が強いのは当たり前として頭も良く理解力も高い信長公。株とギャンブルで財産を確保し現代で生きていくだけの基盤を築き、そこから冴えた頭でネットも駆使して情報を集め、またランボルギーニ・カウンタックを馬の如く操り夜の首都高を疾走し、むらがる敵を撃破し来なければ出向いて粉砕する。そんな信長の存在を知らず政府が持ち出した過去に類を見ない施策に怒り心頭した信長が、本格的に動き出して後に繰り広げられるアクションの格好良さ、そして信長が吐く言説の確かさは今まさに日本が必要としているもので、読んだ人のおそあらくは99%が、信長公の時空を到来を心より願うことになりそー。現実問題こんな信長の10分の1でも破天荒で且つ正しい政治家がいれば日本にも期待が持てるのに。ともあれ登場した新人の新作の、続きが有るのかは分からないし、この内容に期待したくなる政治が続くってのも残念な話なんだけど、圧倒的な面白さを感じさせてくれたって意味で是非にでも続編の欲しい所。期待して様子を窺おう。

「グインサーガ」が映画になれば5時間あってもショートショート  そーか文庫であの巻数をデフォルトで読み込んでいるSF者には3時間とかある映画もしょせんは「短編」だったか。昨日発表となった「星雲賞」でメディア部門を受賞したって発表された「ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔」が表彰状によれば実は「海外短編部門」を受賞していたことが判明。2日目の「SF大会」で公表された表彰状にはなるほどしっかりとその旨が書かれてあってこれをもらったとしたらピーター・ジャクスン、何時間もある頂戴な映画を作りやがって興行を損ねる気かよと非難囂々だったりした中で、かくも膨大な原作をコンパクトにまとめ上げた手腕を日本人には分かってもらえたことに大喜びするんではなかろーか。提灯ともども届く時が楽しみ。でも提灯にはちゃんと「メディア部門」って書いてある。どっちやねん(どっちじゃねーよ)。

 そんな「SF大会」の2日目は午前10時から企画企画と続いて中身的にはまあ満足。三村美衣さんが「クイズヘキサゴン」を元にして立ち上げた「SFクイズヘキサゴン」はテレビと同じルールながらも回答者に常識よりは非常識を重んじる傾向の極めて高いSF関係者ばかりを揃えた内容で、そんなSF関係者にSF的な知識を競い合ってもらったり、逆に一般常識を間違えてもらって世間知らずぶりを見てもらったりってゆー、ギャップを楽しむ企画になっていたんだけどそれに加えて属性別に分けられ正答率が書かれた設問にも仕掛けがあって楽しめた。

 分かりやすいのが江戸川の花火大会で聞いてそれの正答率が高かったって設問だけど、出しか内容は「小美人がいた島」で、そんな質問にどーして高い正答率があったのか、考えればつまりはその花火大会で聞いた相手が、SF関係者ばかりだったってことになる。飯田橋と神田のサラリーマンってのも同様。きっと出版関係者、それもSF系の出版社の関係者に違いない。もちろん回答席に座った笹本祐一さんも長谷川裕一さんも北野勇作さんも久美沙織さんも小川一水さんもとり・みきさんも、そんなことを知らないから一般常識問題だろーと思い花火大会参加者の8割が正解とかって質問を回答者は分からないだろーと思い選んで出して正答を浴びせかけられ玉砕の憂き目に遭う。

ふりひらのドレスにティアラで「暗黒星雲賞」の登りを振るこの得体の知れない女性は誰だと岐阜で大評判になった、かな?  そんな仕掛けが軽妙な司会者のいじり、参加者の役割意識とも相まって本番以上の面白さを集まった人に感じさせてくれた。「暗黒星雲賞」で企画を対象にした賞でこの企画が選ばれたのもまあ当然か。ちなみに「星雲賞」が副賞が巨大な岐阜提灯だったのに対抗したのかしないのか、「暗黒星雲賞」の副賞は巨大なのぼりで迷惑度高し。ゲストを対象にした賞で「星雲賞」に続いて受賞した小川一水さんいとってはダブルの迷惑で、前日にどーやって提灯を持ち帰ったのかは知らないけれどきっと上りはバイクに差して、族さながらの格好で帰っていったに違いない。捕まって何かを聞かれて「暗黒星雲賞だ」と言って警察が何を思うか知りたいところ。「暗黒星雲賞とは何だ」「SFの大会で云々」「SFぅ?……」と薄気味悪がられ釈放されるかそれとも危険な思想をとられ永久の拘束に遭うか。小川さんはどっちかを身をもって実践したのかな。

 ちなみに「クイズヘキサゴン」企画に与えられたのぼりはクイズで最後までを勝ち抜け女王となった久美沙織さんが持って帰った模様。どこに飾るんだろう? やっぱり応援している坂田大輔選手が所属の「横浜F・マリノス」の試合会場かな。横断幕に混じって翻る「暗黒星雲賞」は目立って相手を気味悪がらせて勝利を呼び込む良いアイテムになりそーだけど。ほかに企画はゲストの元セガ社員がおそらくはイベントだか何かで来られなかった「セガを語ろう」とか、表紙絵を描きたい新人が出版社にイラストを持ち込む時はどうすればいいのか、どんな絵を持っていけば良いのかを教える企画を見物。それはそれなりに役だったけど、2日間を通して見た企画で「SF作家」と呼べる人が「クイズヘキサゴン」に集中しちるのは自分のSFへの愛の足りなさを示したものか、それともイベント自体がゴージャスの対極を行くものだったのか、その微妙な感情の原因をしばらくの間考えてみたい。来年は横浜なんできっとゴージャス極まりないものになるでしょー。星新一さんとかも参加して(それはゴージャスじゃなくってゴースト)。


【8月21日】 悲しいけれども存分にアピールできてこれからにつなげることがきっと出来た”なでしこジャパン”の活躍に興奮して眠れない、かとゆーと割りにあっさり眠った明け方をすぐさま目覚めて地下鉄から名鉄を乗り継ぎ新岐阜からバスに乗って長良川国際会議場で始まる「第43回日本SF大会」へと向かう。岐阜へは前の会社で岐阜県の会社をあれこれ担当していた時からその後しばらくたって、93年だか4年に大学時代の同級生が金華山の麓にある神社で結婚式を挙げたのを見物に来ていらいだから軽く10年以上ぶりってことになるのかな。その時に結婚した男の子供もそろそろ10歳近いってことでそういう係累を持たない身との差を感じてちょっぴり立ちすくむ。まあ良い娘だったらあと10年待って頂きに行けば良いんだし(そう来たか)。

 もっとも400年を越える時が経ってもそこに鎮座まします稲葉山の形は変わらず流れる長良川もしっかりとあって、この2つがある限りはいくら細かい開発が進んでも、岐阜はやっぱり岐阜であり続けてくれている。名古屋駅の前がツインタワーでまるで変貌しているのと比べると、名鉄の駅を降りた感じもそんなに変わってなかったし、近隣とはいえ彼我の差はそのまま景気の差となって、地場産業たるアパレル関係の落ち込みなんかを招いていたりするのかも、なんて32ページまるごとビジネス紙の人間として考える、かってゆーと最近はまるごとスポーツ紙になっているんでまるで想像も及ばなかったよ。今朝も載ってたなあ、女子サッカーの記事が。いや書くのは大好きなんだけど。

カーテンの裏側に作られた洞のよーな喫煙スペースに押し込められてた2人の内心には受賞の歓喜が燃えていたのでした  確か1989年に拓かれた「ぎふ未来博」の時に出来たドームの側にグラウンドなんかとともに整備されたんだと思う国際会議場の前でしばし行列してから受け付け。したけどオープニングが始まるまでそれから2時間もあったことにスケジュール表を読んで気が付きこれならちょっぴり寄り道をして、ルドンなんかが置かれていることで知られる「岐阜県美術館」に顔を出せば良かったと後悔。仕事に岐阜で通っていた時は空いた時間をよく立ち寄って常設のルドンを眺めていたなあ。あの頃はお金はなかったけど暇だけは存分にあった。今はどっちもないんだよ。どうしたもんだか。自分ではどうにもならないけれど。ってかこのまま行けば自分とは関係なくどうにかなってしまいそうだけど。

 待っている間を会場見物して時間をつぶしていると、なにやらカーテンで仕切られた得体の知れないスペースがあったんで入ると喫煙コーナーだった。空気清浄機でも置かれているかと思いきや、灰皿が置かれてあるだけのコンクリート打ちっ放しのスペースに、漂流してもヘリコプターや潜水艦に救助してもらえないくらいに”世界の敵”と化している喫煙者の哀しみを見る。もっともそこのいた人が哀しいかってゆーとさにあらず。1人の1本歯な塩澤快浩・SFマガジン編集長は1本歯がキャラクターとなって西島大介さんの作品に登場するみたいだしその西島さんは「星雲賞」でアート部門を張れて受賞。おそらくは「SFマガジン」での活動とそして「凹村戦争」のヒットがバックにあったよーで、担当からの栄えある「星雲賞」受賞者を出して哀しいはずがない。

 さらにさらに「星雲賞」の日本人長編部門に輝いたのは、哀しみの喫煙ルームで一服していた小川一水さんの「第六大陸」。これまた塩澤編集長の手掛けた作品でつまりは打ちっ放しの喫煙ルームは哀しみどころかその後の喜びを生み出す幸運のスペースだったってことになる。こいつは縁が良い。ってことで未来の「星雲賞」を狙いたい人は明日でも間に合うからホール脇のカーテンで仕切られた喫煙ルームへと籠もり煙草を1箱開け切ろー。きっとクラクラとした気持ちになれるから。せめて天井にぐるぐる回る換気扇くらい置いて欲しいよね。

 そんな「星雲賞」の授賞式で先陣を切って発表された「自由部門」に輝いたのは食玩「王立科学博物館」で受賞式には東京から企画した岡田斗司夫さんが直々に登場。「これを作ったのはSFの普及のためなんだ。宇宙開発の普及というのは表向き」とかいったよーなことを言い喝采を浴びていた。さらには来年春の第3弾発売に向けて数日のうちにラインアップを揃えて9月中には原型をアップしなくちゃいけないって話をして後で会議室で意見を募るからと言って降壇。そのとおりに後刻始まったセッションでは「王立」に関わった人が過去の苦労話をしつつ食玩のアソートの機微、コンビニが販売窓口になることに寄って生じるビジネス上のシビアさについても披露しつつ、次に何を揃えれば良いのかいろいろ意見を募る。候補がいろいろ挙がる。

 けどそれの具体的な形がまるで思い浮かばないのが個人的にはちょっと残念。宇宙属性を鍛えておくべきだった。いろいろ載っているっぽい同人誌を買えば良かったけどホテルの会議室では勝手に物販をしちゃいけないみたいで寄ってきたスタッフの人が「ホテルの許可は」「事務局の許可は」といささか事務的なトーンで事情を聞いててそのままとりあえず物販をやめさせてしまって買えず。手続きとしては正しいし運営を滞りなく収めるには仕方がないんだけど、何でもありなのがSF大会って気分に浸りたかった身には現実の厳しさが垣間見えて背筋がぴぴっと立ってしまった。SFといえども一般良識からは逃れられないのだなあ。世知辛いなあ。

 ところで「星雲賞」と言えば気になるのは工夫のこらされた副賞で、今回は地元にちなんで生きた鵜が……与えられても困ってしまうし「さるぼぼ」では九州からの参加者なり受賞者がいたらとまどってしまうってこともあったのか、地元の名産、岐阜提灯の2つにそれぞれタイトルと受賞者名を入れ贈ることに。畳めば小さくはなるとは言ってもそれなりにかさばる副賞に、もらって岡田さんは内心あれこれ考えるところがあった模様。岡田さんと言えばかつて「DAICON」なんかを仕掛けて「3」だったっけ、かわら煎餅を副賞にあげたって記憶があるけれど、あれも奇妙は奇妙とは言えかさばるようなら食べてしまえば良かった訳だから、迷惑度のベクトルは提灯とは正反対なのかも。小川さんはスクーターで来ていてやっぱりどーやって持ち帰るか悩んでいた様子。小川さんも含めて受賞者がどーやって持ち帰ったのかリポート希望。

提灯持ちでも喜ばせるのは読者です。カジシンとっても嬉しそう。作家はやっぱり書いてこそ。  迷惑っぽい表情を見せる人の多いなかで日本短編部門を「黄泉びとかえらず」で受賞した梶尾真治さんは両手に提灯を抱えたままスピーチの間も離さず大歓喜の表情。「ちょっと前までは社長をしていてたいこもちをしていたけれど、今は専業作家になって提灯持ちをしています」と軽くジャブを放ちつつそれなりな年齢に達したその身を意識しつつこれからの時間を頑張って作家として作品を発表していくと宣言して会場からやんやの喝采を浴びる。熊本のガソリンスタンドチェーンの社長をまだやっていたって思っていただけに専業作家宣言にはちょっとびっくり。なるほどだから最近いっぱい新作が出てるんだな。もしも提灯じゃなく「さるぼぼ」が副賞だったら梶尾さん、何を言っただろ?

 残る星雲賞はノンフィクション部門が笹本祐一さんの「宇宙へのパスポート2」でコミック部門はひかわきょうこさん「彼方から」、メディア部門は「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔」で海外短編部門はグレッグ・イーガンではなくテッド・チャンと訳者の古沢嘉通さん「地球とは神の不在なり」、海外長編部門はデビッド・ブリンと訳者の酒井昭伸さんによる「星海の楽園」。毎年山ほどの作品が生まれ単行本が発表される漫画の世界だけに、その中でアニメ化とかされてもいないにも関わらずひかわさんの作品が受賞したことが意外といえば意外だったけど、10年とかの期間を描き継がれた作品のようやくの完結ってことでまあ仕方がない。「なるたる」とかに取って欲しいんだけどなあ。入っていたとしたら今年だったのかな。来年に振り向けられるのかな。

 来年を想像するなら日本の長編部門に小川さんの「導きの星」かあるいは「復活の地」が絡んで来ることは確実で、一時の野尻抱介さんみたく連覇三連覇って人気を小川さんが獲得していく可能性も結構高そー。もっとも「星雲賞」を連覇してもご飯に直結しないのがジャンル小説の特質って奴で、「復活の地」なんかが持つポリティカルフィクション的な部分を現実の社会への警句なんかと見る向きが引っ張って、一般人へと人気が広がっていって欲しいもの。とか考えつつ「はっぴいえんど」の部屋で米澤嘉博さんほかに漫画だけじゃない音楽のとりわけ大瀧詠一さんに対する愛の深さなんかを見つつ久々のとり・みきさんの尊顔を遠目に拝見しつつ過ごしコスプレの部屋でエル・ドライバーばりの金髪血まみれナースと地獄坊主のツーショットにおびえつつも、眠いんで早々と退散する。明日は午前10時から普通に企画がスタートの予定。眠いけど頑張って出かけよう。昼から(ダメじゃん)。


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