破滅の義眼と終末を望む乙女 〈方舟〉争奪戦

 出てくるほとんど全員がイカれてまともじゃなかった「キリングメンバー 〜遥か彼方と冬の音」(電撃文庫、630円)の秋月陽澄なら、これくらいのクールでハードでグロテスクでもある物語を書けて当然か。

 「破滅の義眼と終末を望む乙女  〈方舟〉争奪戦」(電撃文庫、630円)はどこからともなくわき出て来るという装飾具の『レヴェリー』に触れ、異能を発動させる人が誕生するようになっている日本が舞台。5年前に両親と妹を目の前で斬首されて殺された経験を持つ少年の一ノ瀬唯兎は、レヴェリーとの適合が認められ、今は協会という組織に所属して、レヴェリー適合者たちが問題を起こした場合に捕まえて排除する仕事を請け負っている。

 レヴェリーは異能を人に与える代償として生命力を要求するため、使い続けていればいつかは命が尽きて死んでしまう。唯兎も同僚の遠峰綺月という少女、遥邑久狼という青年も、もうすぐ限界が来ることは確実。そうした中でも仕事は与えられ、「方舟」という世界を激変しかねない特別なレヴェリーの適合者を守ることを求められる。

 そして現れた「方舟」の適合者が、唯兎の隣家に住んでいて、唯兎の家族が惨殺された日にたまたま家に遊びに来ていて、事件の前に唯兎が送り届けた幼なじみの少女、橙迎恋理だった。

 唯兎たち協会のメンバーは、彼女をレヴェリーに触れさせ適合者とした上で「方舟」を発動させ、世界を“平和”にしようとしていた。それがどうして拙いのか。誰しもが持つ自由であり自律といった状態を奪われることを意味していたからだ。だから唯兎たち<協会>の対跡官たちは、対立する勢力から彼女を守ることになる。とはいえ、異能を使えば消耗を死ぬばかり。飽和攻撃でもされたら堪らないところにとてつもない事態が起こって、唯兎は身近にあって最強に近い敵と戦うことを強いられる。

 その過程で転がる首2つ。それは、唯兎の家族が殺された時とも重なるシチュエーション。そのうちのひとつは、吸血鬼なんだから首くらい落とされたって生きていそうな気がするけれど、どうもそうはならないらしい。甦ったりしない不可逆性が残酷さを醸し出し、ほとんど全員が殺人者だった「キリングメンバー」の異常さを思い出させる。江波光則やオキシタケヒコを擁するガガガ文庫を除くライトノベルレーベルにあって、今となっては珍しい書き手かもしれない。

 未来を完全なまでに予見してしまえる「天網書架」という本名不詳の女性らしい能力者が別にいて、その「天網書架」が簡単に滅びるのが嫌だと運命を変える助言をしなくなれば、世界はいつでもあっさりと滅びてしまう。唯兎たちの行動、というより物語を服滅多世界全体が、その手のひらの上で躍らされている感じもあったりする。

 なおかつ使えば使うほど生命力を削られるという制約もある中、それでも戦い続けなくてはならない苦悩があり、自由や意思を奪われたとしても、それで世界が平和になるという可能性を拒絶して戦わなくてはならない苦衷もあってと、単純な異能バトルには止まらない思索を求められる。

 その異能バトル自体も複雑だ。唯兎の場合はレヴェリーが両目に埋め込まれていて、2つの異能を発動可能に見せかけて、実はもうちょっと発動できたりするし、敵も単純にひとつふたつの異能を発揮できるだけではないところに、裏を読んだり上を行ったりする戦い方の工夫が求められるのも展開に深みを出す。

 世界をひっくり返す力を持った少女を守る必要があり、そして予見された未来を回避するために戦うといった設定は、オキシタケヒコの「筺底のエルピス」にも重なったりするところがある、そんな殺伐系異能バトルの新シリーズ。生き延びた敵とかろうじて生きている唯兎、そして守るべき少女による戦いの行方は? 壊滅した組織の立て直しに登場する新キャラは? いろいろと気になるので続きを早く。


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