湯川 豊著作のページ


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38年新潟県新潟市生、慶應義塾大学文学部卒。同年文芸春秋に入社。「文学界」編集長、同社取締役等を経て、東海大学教授、京都造形芸術大学教授を歴任。


1.須賀敦子を読む

2.海坂藩に吹く風

 


             

1.

「須賀敦子を読む」 ★★

  
須賀敦子を読む

 
2009年05月
新潮社

(1600円+税)



2009
/06/12



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元編集担当者が語る、須賀敦子さんの著作への貴重な案内書。

1998年の死去から10年、時間をおき、読み返すうちに見えてきたものがあると言う。
私が読んだ須賀敦子さんの著作は僅か2冊のみ。かなり評判になっていたから読んでみたというだけで、読みこなしているとはとても言い難い。
その須賀さんについては、大きく2つの疑問があります。
一つは一般的なものですが、何故60代になってから急に書き出したのか、ということ。
もう一つは個人的なもので、何故あれだけ評判になり、今なお高い評価を継続して得ているのだとうか、ということ。
その疑問を明らかにすることができればと、手に取った一冊。

まず第1章で取り上げられる「コルシア書店の仲間たち」
単なる回想でなく、書くことを通じてもう一度あの日々を「生き直す」ということに意味があったのではないか、と湯川さんは語ります。
だからこそ、コルシア書店で関わり合った人々のことが、まるで今現在のことのように色濃く書かれているのだろうと。
そして、須賀さんの生前に刊行された5冊について1章ずつ順々に、最後は未定稿のまま残された小説と思われる「アルザスの曲がりくねった道」まで、各々の作品の意味合いと、須賀敦子という女性の軌跡が語られていきます。

須賀敦子さんの著作を片手に、筆者を案内人として頼みながら、もう一度その描かれた世界の中に足を踏み入れようとする。
私にとって本書は、そんな一冊です。

もう一度、コルシア書店を生きる−−「コルシア書店の仲間たち」/
霧の向うの「失われた時」−−「ミラノ霧の風景」/
父と娘のヨーロッパ−−「ヴェネツィアの宿」/
精神の遍歴−−「ユルスナールの靴」/
家族の肖像−−「トリエステの坂道」/
進行と文学のあいだ−−「アルザスの曲がりくねった道」

       

2.

「海坂藩に吹く風−藤沢周平を読む− ★★   


海坂藩に吹く風

2021年12月
文芸春秋

(1800円+税)



2022/02/10



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目次を読んでも感じられることですが、藤沢周平さんの主だった作品を分析・整理し、的確に語った、という印象の一冊。

“海坂藩“もの、青春小説としての「蝉しぐれ」、そして「三屋清左衛門残日録」
藤沢周平作品に登場する女性たち、その姿の美しさは自制心、“つつましさ”にあるという意見には同感です。私の中では、本書で語られる“隠し剣”シリーズの一篇
「女人剣さざ波」邦江、本書では語られませんでしたが「橋ものがたり」の一篇「思い違い」おゆうの姿が忘れられません。

こうして藤沢周平作品を通して語られると、私の中でも藤沢周平作品への記憶がきちんと整理されますし、また読みたいという気持ちがじわじわ込み上げてきます。まぁ元々、定年退職後の楽しみにしておこうと思っていたのですが。

藤沢周平作品に共通する良さ、魅力は、人間が描かれている、という点にあると思います。複雑だったり、屈折していたり、どこにでもいる人間であって様々な一面をもっているものとして。
たしか藤沢周平さん自身、時代小説を書いているつもりはなく、ただ舞台設定が江戸時代というだけで、現代小説のつもりで書いていると、どこかで語られていた、と思いますし。

“獄医立花登手控え”シリーズのことが語られていなかったことが残念です。

第一章 海坂藩に吹く風
1.その風の色は/2.そして青春小説が残った−「蝉しぐれ」を読む/3.新しい文学の出現−「三屋清左衛門残日録」を読む/4.懐かしい光−短篇を読む/5.海坂の食をもとめて
第二章 剣が閃くとき
1.剣とは何か/2.青江又八郎が見たもの/3.生きている流派
第三章 つつましく、つややかに−武家の女たち
1.自制心がもたらすもの/2.剣をつかう女たち/3.勇気ということ
第四章 市井に生きる
1.「橋ものがたり」の普遍性/2.「本所しぐれ町物語」と「日暮れ竹仮河岸」/3.江戸版ハードボイルド小説/4.「春秋山伏記」の世界
第五章 歴史のなかの人間
1.歴史小説とは何か/2.「長門守一件」/3.政治小説の達成−「義民が駆ける」/4.信長、秀吉、家康/5.上杉鷹山
第六章 伝記の達成
1.寄り添うように書く−「白き瓶 小説 長塚節」/2.不思議の肖像画−「一茶」
付録 「自然」からの出発−「藤沢周平句集」解説
 藤沢周平 年譜・作品リスト

      


  

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