須賀敦子著作のページ


1929年大阪府大阪市生、聖心女子大学文学部外国語外国文学科卒。60年ミラノにあるコルシア書店の手伝いを始め、61年書店メンバーの一人ジュゼッペ(ベッピーノ)・リッカと結婚するが、67年ベッピーノ死去。72年慶應義塾大学外国語学校講師、89年上智大学比較文化学部教授。89年「マンゾーニ家の人々」の翻訳で第12回マルコ・ポーロ賞、91年「ミラノ霧の風景」にて女流文学賞および講談社エッセイ賞を受賞。98年没、享年69歳。

1.ミラノ 霧の風景

2.コルシア書店の仲間たち

 


    

1.

●「ミラノ 霧の風景」● ★★       講談社エッセイ賞・女流文学賞




1990年
白水社刊


2001年11月
白水社
Uブックス
(870円+税)

  

2002/08/10

コルシア書店の仲間たちに遡る本。
須賀さんがイタリアで生活するきっかけを彩った、懐かしい人々への深い思いを語ったエッセイ、と言えるでしょう。
ただ、須賀さんが親しく交際した彼らが、イタリアで順調な生活に終始したかというと、決してそうではありません。普通以上に浮き沈みがあった人たち、人生の厳しさ、悲哀を感じさせてくれた人たち、と思います。
それらのことを、須賀さんは事実ありのままに、なんら飾ることなく淡々と語っていきます。その硬質な文章が「コルシア書店」と同様に印象的。いつしか惹きこまれている、という魅力があります。
そのうえで「コルシア書店」に比較すると、書店仲間という限られた範囲に限定されていない分、本書の方が気軽に楽しんで読める気がします。
本書の中に、ヴェネツィアを訪れた時の思い出を語るエッセイがありますが、その中で須賀さんは「ヴェネツィアという島全体が、たえず興行中のひとつの大きな演劇空間に他ならない」と語っています。まことに慧眼、須賀さんの真骨頂を表す部分だろうと思います。
本書は、須賀さんの原点と言えるエッセイ本。

遠い霧の匂い/チェデルナのミラノ、私のミラノ/プロシュッティ先生のパスコリ/「ナポリを見て死ね」/セルジュ・モランドの友人たち/ガッティの背中/さくらんぼと運河とブリアンツァ/マリア・ボットーニの長い旅/きらめく海のトリエステ/鉄道員の家/舞台のうえのヴェネツィア/アントニオの大聖堂/あとがき

 

2.

●「コルシア書店の仲間たち」● ★★




1992年
文芸春秋刊


2001年10月
白水社
Uブックス
(880円+税)

 

2002/05/11

初めて読んだ須賀敦子さんの著作。
近時評判が高い著者だけに、いずれ読んでおこうと思っていたのですが、最初に読む本として良かったのかどうか。
「淡々とした」という表現を超えて、須賀さんという女性があまり感じ取れないことが、とても印象的です(批判している意味ではありません)。

本書は、須賀さんのミラノ生活の中心であったコルシア・デイ・セルヴィ書店と、その書店で働いた故に知り合った人々を描いた一冊です。
そのコルシア書店は、普通の書店と違い、カトリック左派の活動拠点ともなった小さな書店。詩人でもあり、司祭でもあったダヴィデ・マリア・トゥロルドが、サン・カルロ教会の軒先を借りて創設したとのこと。それだけに、書店とその仲間たちを通じて須賀さんが知り合った人々は、貴族から貧しい人々、さらに国籍離脱者までと、驚くほど幅が広い。
書店仲間の一人ベッピーノ氏と結婚したことにより、須賀さんとコルシア書店の関わりは更に深まります。各章に登場する人物たちは、観光あるいは一時的な滞在で知り合う人々とは、まったく色合いを異にします。
本書では、須賀さんのとても平明、かつ均質な文章に目を見張ります。
読んですぐ面白いと感じるような本ではありません。しかし、人生途上におけるミラノ=コルシア書店時代、その時代に知り合った人々を、貴重な財産として愛おしく胸に抱く須賀さんの思いが、徐々に染み出てくるような気がします。味わい深い一冊。
なお、私にとっては、冒頭に登場する老婦人、ツィア・テレーサが一番印象深い人物です。

入り口のそばの椅子/銀の夜/街/夜の会話/大通りの夢芝居/家族/小さい妹/女ともだち/オリーヴ林のなかの家/不運/ふつうの重荷/ダヴィデに

    
※ 湯川 豊「須賀敦子を読む」(新潮社)
  


   

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