竹内久美子著作のページ


1956年生。京都大学理学部卒業後同大学院に進み、博士課程を経て著述業。専攻は動物行動学。92年「そんなバカな!」(文芸春秋)にて講談社出版文化賞を受賞。


1.浮気人類進化論

2.そんなバカな!

3.小さな悪魔の背中の窪み

4.パラサイト日本人論

5.もっとウソを!

6.BC!な話(文春文庫改題:あなたの知らない精子競争

7.浮気で産みたい女たち旧題:三人目の子にご用心!)

8.シンメトリーな男

9.「私が、答えます」(文庫改題:遺伝子が解く!男の指のひみつ

10.小顔・小アゴ・プルプル唇(文庫改題:遺伝子が解く!女の唇のひみつ

 


 

1.

●「浮気人類進化論−きびしい社会といいかげんな社会−」● ★★




1988年05月
晶文社刊

1998年11月
文春文庫
(486円+税)

 

2000/02/08

何故人間は言語能力を発達させたのか? 通説では、集団で狩りをするための必要性ということなのですが、この点についての竹内さんの主張は明快です。狩りをする上での必要性も一因であるけれども、もっと大きな要因であったのは、浮気をするためである!とのこと。
即ち、オスが妻以外のメスと交尾するためには、口説く必要があり、また家に帰ってから言い訳をする必要があった。一方、メスにおいては、オスに浮気をさせないためにメス同士で情報交換、連携をとる必要があった、つまり井戸端会議。人間のメスがオス以上の言語能力(つまりおしゃべり)を獲得した理由は、狩りでは説明できない。浮気こそが最大の要因であるとのことです。
まるで思いもよらない解説であり、面喰うどころが愉快になってしまいます。そこが、竹内さんの本の魅力あるところです。
「浮気進化論」は本書の冒頭だけですが、あとは昆虫、類人猿等、如何にオスはメスの浮気を防ぎつつ自分の遺伝子を後世に残すか、また、哺乳類のメスは如何に子をオスに殺されないようにするか、の戦略について、生物学的な実例が次々と紹介されています。
オスに子を殺されないための究極的な戦略は、メスがいつも発情可能であることだそうです。ちなみに、これを成し得たのは人間とピグミーチンバンジーだけだとか。

人間の起源/さまざまな結婚/きびしい社会/いいかげんな社会/エピローグ

 

2.

●「そんなバカな!−遺伝子と神について−」● ★★   講談社出版文化賞受賞

 

1991年03月
文芸春秋刊

 
1994年03月
文春文庫
(438円+税)

 

1999/11/25

竹内さんの本は、いつも楽しく読めます。
人間を動物学的立場から扱った本を私が初めて読んだのは、デズモンド・モリス「裸のサル」でした。本書の中でもこの本について 触れられていますが、キリスト教社会である西欧においては、当時として画期的な著作だったということです。
ところで、自分たち人間を動物学的に説明されて面白がっているというのは、自虐的な喜びなのでしょうか?   いえいえ、あくまで客観的に楽しんでいるだけ、と私は思っているのですが。
最初は、いつものように昆虫や動物たちの特徴ある生態から説明が始まり、フムフムと、面白く読み進みます。すると、俄かに一転、ころがり落ちるように人間のことへと話が入り込みます。このアレヨアレヨという間に竹内理論の中に取り込まれてしまう、この罠に嵌ったような感覚が、正直言って楽しいのです。
本書で語られるのは遺伝子学。「利己的遺伝子の陰謀を暴く」の章に進むと、まさしく佳境に入ってきます。そして一気に、姑の嫁いびり、ケチ男ならびにバクチ男の結婚破綻が、利己的遺伝子による“反復的繁殖戦略”のなせる業と論述が進むと、 ゾクゾクするような面白さがこみあげてきます。この辺りが、竹内動物学エッセイの、尽きることない魅力の所以です。
もう一冊読んで見よう、竹内さんの本を読んだ後、いつも思うことです。
※本書では、エピローグ、あとがき、紫門ふみさんのコメントも、充分に楽しめます。 まさにシッポまでアンコがたっぷり。

すべては遺伝子から始まった/我々は乗り物である/利己的遺伝子の陰謀を暴く /利己的遺伝子のさらなる陰謀/美人論(おまけ)

 

3.

●「小さな悪魔の背中の窪み血液型・病気・恋愛の真実−」● ★★

 

1994年04月
新潮社刊

1999年02月
新潮文庫
(400円+税)

 

1999/07/31

副題のとおり、本書の半分くらいを血液型についての話が占めています。でも、一般に信じられている、血液型→性格分析という認識を、思いっきりひっくり返している本です。
即ち、血液型は先天的性格に何の関係もない。但し、血液型によって病気に強い、弱いという傾向がある。その結果として、楽観的あるいは積極的という傾向は生まれ得る、ということです。
また、何故足の長い男性がもてるのか、何故色白で、腰の細い女性がもてるのか。竹内さんはそれを大胆にパラサイト(寄生虫)仮説で推論してみせます。
科学的なことを、理解し易く、かつ薄くまとめている本をお求めの方には、恰好の本です。

血液型とは実は何か /血液型と性格の謎に迫る/美の起源/他者の中に自己をみつける

 

4.

●「パラサイト日本人論ウィルスが作った日本のこころ−」● ★★




1995年10月
文芸春秋刊

1999年06月
文春文庫
(429円+税)

1999/09/04

日本人の起源を、縄文人と弥生人、つまりは古モンゴロイドと新モンゴロイドの混合と位置付け、地域的な日本人の違いを説明するかと思えば、更に談話はパラサイト(寄生者)にまで遡ります。
つまり、縄文人をして縄文人らしくしているのは、パラサイトつまりはウィルスの所為だと竹内さんは説明するのです。
日本人論などは昔から数多くありますけれど、端的にウィルスの所為だと聞かされると、なにやら愉快な気持ちになってしまいます。
尾羽の長いツバメ程浮気にも成功する、という実証論から、一夫多妻制と一夫一婦制の必然性、果ては日本人の死生観、浄土真宗と日蓮宗の話まで。
竹内靖雄氏の解説によると「目からウロコが落ち、脳細胞が一つ一つ笑い出しそうな気分に襲われる」とありますが、まさにぴったりの表現です。

二つのルーツを持つ日本人/男と女のパラサイト/日本人の死生観 /ウイルスがつくった日本のこころ

   

5.

●「もっとウソを−男と女の科学の悦楽−(日高敏隆共著)● 

 

 
1997年01月
文芸春秋刊

2000年07月
文春文庫

(448円+税)

  
2001/06/01

日高・竹内お2人の師弟コンビによる対談6篇を収録。
竹内さんの他の著書(浮気人類進化論)のことや、科学に対するお2人の基本的な考え方が紹介されているので、竹内さんの著書を読む際の副読本として最適な1冊だと思います。対談なので、読み易く、理解し易いのが有り難いところです。
お2人が強く主張しているのは、一般的に科学というと難しく、面白くないものにされてしまっているけれど、実はとても面白いものなんだ。そして、突拍子も無い、面白い発想こそが実は科学にとって価値があるんだ、ということです。
そのエッセンスが詰まっているのが、第3章「科学とはウソをつくことである」であり、具体的に奇人としか思えない有名な科学者たちを紹介しているのが、第5章「かくも素敵な奇人たち」です。
本書を読めば、もっと竹内さんの本を読みたくなること、請け合いです。

「赤の女王」と性の進化/若い女はなぜダイエットに走るのか?/科学とはウソをつくことである/浮気人類進化論の誕生/かくも素敵な奇人たち/男の思想はどうして決まる?

 

6.

●「BC!な話あなたの知らない精子競争」● ★★★



1997年03月
新潮社刊

(1300円+税)

2000年01月
新潮文庫化

2006年08月
文春文庫化

1997/03/27

題名の「BC」とは、Biologically Correct の略で、生物学的に正しい、という意味。
一見堅苦しそうな、書名ですが、中味は痛快な面白さに充ちていました!
文中に、チャールズ二世サニュエル・ピープスという歴史上の人物も登場するし、また、「マディソン郡の橋」から現代ギャル、三浦百恵さんまで話題に登場する始末。さらには、この本を読んだ後にパトリシア・コーンウエルの検屍官シリーズなどを読むならば、 随分と印象が変わるのではないかと思う次第です。

こういう類の本の欠点としては、学説の主として登場する学者たちが無味乾燥なことですが、本書を見る限り、それぞれが顔を持っています。つまり、個性、人間性が感じられるとともに、どこかユーモラスに紹介されているのです。
私と同世代の女性である著者によって、あっけらかんと分かり易く生物学が説明されているところが、とても愉快でした。

精子競争/精子の争いここにあり /形と大きさの進化論/男と女の来し方、行く末

  

7.

●「浮気で産みたい女たち 新展開! 浮気人類進化論 」●  ★☆
  旧題:「三人目の子にご用心!−男は睾丸、女は産み分け−




1998年08月
文芸春秋刊

2001年7月
文春文庫
-改題-
(448円+税)

 

2002/02/12

本書は、「浮気人類進化論」に続き、“浮気(EPC)”を主題にした一冊。 
キリスト教の教えに従えば浮気は罪悪なのですが、動物行動学から考えると、浮気は必然的、正しいもの?? 
何やら、浮気を堂々と鼓舞されているようです。読んでいる内に浮気するのは当たり前、と思えてくるのが本書の楽しいところ。
しかし、竹内さん曰く、「女(メス)がいかに巧妙に、かつ既成事実のうえに立った万全の構えで浮気を実行していることか!」
となると、はたして喜ぶべきことなのか、それとも悩む(疑う)べきことなのか。気持ちは揺れます。

竹内エッセイを多く読んでいるなら、内容はとくに目新しいものではありません。しかし、最終講の、トレンディドラマへに対する竹内さんの考察は、一読の価値あり。 
薬師丸ひろ子演じる人妻は、結婚後6年経つのに子供に恵まれない。そうこうする内に夫が浮気、そして彼女自身にも愛人ができる。その結果、何と彼女が妊娠。果たして子供は夫の子か、それとも愛人の子か? そして、彼女と夫は、それぞれどう行動するのか。 
竹内さんの推論は、思わず唸ってしまう程ユニーク。こんな見方ができるのなら、不倫ドラマも面白そうです。(笑)

 ※EPCとは:extra-pair copulation (ペア外交尾)

1.男についての?まずは男と女を分類しよう
2.浮気で生まれるのは男の子、女の子?
3.女の浮気には深いわけがある
4.女は浮気をするため結婚する!?(クリスマスで、大停電で、SMで/
妻が浮気をして初めて子ができる男/女が浮気するとき)

  

8.

●「シンメトリーな男」● ★★☆




2000年01月
新潮社刊

(1400円+税)

2002年09月
新潮文庫化

2010年02月
文春文庫化

   

2000/01/29

 

amazon.co.jp

“シンメトリー”とは左右対称のこと。90 年代の動物行動学における一大トレンドなのだそうです。
初めはツバメ、シリアゲムシのこと。オスがシンメトリーなほど、メスとの交尾・浮気の機会は多い、つまりモテルのだとか。その理由はといえば、パラサイト(寄生者)に対する抵抗力の強さの表れだからだそうです。
さて一転、人間のことに話が及ぶと、身を乗り出して読まずにはいられない、という感じです。話の内容が他人事ではない!
それから読む内容は、すべて、目からウロコ!
男性が女性の容姿で一番惹かれる部分は脚なのだそうです。(ヨカッタ、私は正常ダ!) 竹内さん自身は男性の指に惹かれるのだとか。何故か? 生殖器と手足をつかさどる遺伝子は同一のものなのだそうです。昔の中国における纏足の風習は、科学的に根拠のあるものだったのです。な〜るほどぉ!
エッセイストの酒井順子 さんも、本書を読んでご自分の男性の手に執着する傾向に そうだったのかーっ! と合点がいったとか。
本書は、目次を読んだだけでも興味津々、刺激的です。
シンメトリーな男は女をよく「いか」せる・・・男はやっぱり体が第一」、「女の脚は性器である!?・・・外見で中身を判断せよ!」
おっと、本書を誤解してはいけません。本書はあくまで真面目な科学の本なのです。そして、内容は、多数の男女を対象にした研究データから導き出された科学的真実なのです。ウムムム...
読了後暫くの間、女性を見るとシンメトリーかどうか、○○○かと、知らず知らずに妄想は膨らんでしまうのです。

結局重要なのはシンメトリーだった/シンメトリー研究が急展開/匂いの魔術/顔は何をアピールしているか

   

9.

●「私が、答えます−動物行動学でギモン解決!−」● 
 (文庫改題:「遺伝子が解く!男の指のひみつ」)

 


2001年10月
文芸春秋刊
(1333円+税)

2004年07月
文春文庫化

 
2002/02/06

 今まで書き下ろし一辺倒だった竹内さんにとって、初めて雑誌連載を行ったのが、この“Q&A”だそうです。
読者から寄せられた、男女のSEX、あるいは家族に関する疑問に、竹内さんが動物行動学の立場から回答していくという趣向の一冊。 
読み易くはありますが、内容としては過去の著作ですでに語られたものが殆ど。とくに前半は、近著であるBC!な話」「シンメトリーな男との重複が多いようです。 
どちらかというと、新たな竹内ファン開拓を狙った本、と言えます。
ですから、竹内さんの従来からの愛読者としては、物足りなさを感じます。新しく刺激される内容が、あまり無い。
また、Q&A方式は判り易い面があるものの、順序立てて説明を進めるという面は制約されますから、その点でも物足りず。 
竹内エッセイ愛読者には物足りないものの、竹内さんの愛読者を増やすには役立つかもしれない、という一冊。

男についての?/女についての?/みんなにとっての?/家族についての?

      

10.

●「小顔・小アゴ・プルプル唇−「私が、答えます」2」● 
 (文庫改題:「遺伝子が解く!女の唇のひみつ」)

 

 
2002年10月
文芸春秋刊
(1286円+税)

2005年09月
文春文庫化

2003/02/16

私が、答えますの第2弾! Q&A形式による動物行動学セッセイの続編です。
基本にあるのは、パラサイト理論シンメトリーの重要性ですから、本書内容は既に竹内さんの著書で読了済み。角度を変えた見方、新たな現象の説明があるというものの、基本的に目新しさというものはありません。
浮気で産みたい女たち」「シンメトリーな男等々
ただ、時々面白いQ&Aが見られます。そこが本書のミス、と言えるでしょう。

面白いQ&Aとしては、ペニスにピアスするその理由は?、何故鳥類の一部にはペニスがあるのか?、本屋に行くと何故○を催すという人が多いのか?、という辺り。

性は進化し続ける/みんなの繁殖問題/ドライブする食べもの/本音で生きる動物たちキテレツ科学者と一緒に

      


 

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