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●「永井荷風の見たあめりか」● ★★★ |
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1998/01/31
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永井荷風は、私にとって内田百と並ぶ、興味つきない異色の作家です。本書は、その作家としての在り方の源泉を「あめりか物語」の中に求めながら、荷風のアメリカ生活における足跡を辿るものです。 ニューヨークにおいて自由の女神像を見、そこに体現されているアメリカの精神、思想に感激する一方、黒人とくに女性らに対する不平等、日本人・中国人町において売春が社会に不可欠なものとして定着しているという、アメリカ社会の矛盾を荷風は実地に見聞していきます。 「あめりか物語」は、言語の全く違う外国にて生活をしながら「書く」ことに出会っっていった、流離と出会いの物語であると筆者は語っています。娼婦イデス、清純なロザリンとの恋愛を切り捨てて書くことを選んだからには、荷風に残された道は書くことしかなかった、ということなのでしょうか。帰国後に書いた「ふらんす物語」が発売禁止処分を受けた後に荷風が選んだ手段は、書き続けること、弾圧に対しては徹底的な無視・無関心を貫くことではなかったか、それは「断腸亭日乗」に繋がるものではなかったか、と筆者は説いています。 荷風が好きかどうかを問わず、興味深く読める一冊です。 |