保阪正康著作のページ


1939年北海道札幌市生、同志社大学文学部社会学科卒。出版社勤務を経て著述活動入り。現在、個人誌「昭和史講座」を主宰。評論家・ノンフィクション作家。2004年一貫した昭和史研究の仕事に対して第52回菊池寛賞を受賞。

 
1.
あの戦争は何だったのか

2.昭和天皇

    


    

1.

●「あの戦争は何だったのか 大人のための歴史教科書」● ★★


あの戦争は何だったのか画像

2005年07月
新潮選書刊
(720円+税)

    

2007/01/16

 

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第二次世界大戦での日本の敗因(そもそも始める前から敗戦必須だった訳ですが)を客観的に整理、分析した本。
阿川弘之氏の海軍三部作(米内光政、山本五十六、井上成美)を読んでいると当時の状況が自ずと知れるのですが、本書はそれを明瞭に整理してくれた、と言えます。

何故日本は負けたのか。情報を重視し、願望的予想を廃して自らを客観的に分析することの重要さをこれ以上教えられる歴史上の好事例はないと思うのですが、それなのに日本の学校ではこの部分がいつも省かれてしまう。歴史上の事件というにとどまらず、現在の企業経営にも通じる問題だと思うのですが。
学校で教えてくれないのなら、せめて自分で勉強しておくという点で本書は格好の一冊だと思います。
また、現在の北朝鮮と、過去の日本がどんなに似ているか、ということも本書からはっきり見えてきます。

それにしても、確たる勝利の指標もなく、かつなんら戦略さえないままに一部のエリート軍人による机上の児戯にも等しい思い込みだけであの戦争が繰り広げられてしまったのですから、本書題名どおり「あの戦争は何だったのか」と私も思わざるを得ないのです。

旧日本軍のメカニズム/開戦に至るまでのターニングポイント/快進撃から泥沼へ/敗戦へ−「負け方」の研究/八月十五日は「終戦記念日」ではない−戦後の日本

    

2.

●「昭和天皇」● ★★☆


昭和天皇画像

2005年11月
中央公論新社
(3200円+税)

   

2006/02/12

 

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昭和天皇の生誕から崩御まで、昭和天皇の生涯を辿りながら、昭和という時代、天皇制の意味を浮き彫りにした書。

“昭和”という時代は私の人生でも半分を占めていますから、折に触れて昭和という時代を振り返ってみたいという思いは常にあります。そして“昭和”という時代を語るにおいて昭和天皇という存在を無視することは出来ない。
その意味で、本書は私にとって待ち望んでいたような一冊と言えます。読み応え、そして充足感、余りある書でした。

皇太子時代にヨーロッパを外遊し、英国王室に家族のような親しみをもったほか、ジョージ五世から立憲君主の在り方について大きな影響を受けた辺りは、青年皇太子としての高揚感を感じることができます。
それにもかかわらず、昭和天皇が即位した時は既に軍部が力を増し、“統帥権(軍部)”が“統治権(政治)”を上回った時代。
天皇の生物学研究まで制約しようとするばかりか、事変の拡大等ことごとく天皇の意に反することばかりを行い遂には太平洋戦争にまで突入してしまった事実。立憲君主としての懊悩は、一般人が想像もつかないような深いものではなかったかと思われます。
戦後は“象徴天皇”となるわけですが、昭和天皇の気持ちは立憲君主時代と何ら変わるものではなかった。常に国民と共に在りたいというその心の深さには感動を覚えます。
本書を読んで、改めて“象徴”という位置づけがいかに天皇制度に相応しいものかと思います。徳川期以降、統治権をもった明治時代がむしろ異例だったと考えると、腑に落ちます。
昨今、皇位継承権問題に端を発した皇室典範改正が話題となっていますが、それを考えるにはまず天皇制を考える必要があるのは自明のこと。その点でも本書は意義の大きい著作と思います。

プロローグ(崩御のとき−昭和64年1月)/帝王教育とヨーロッパ外遊/軍部暴走の時代/日米戦争突入へ/終戦、国民とともに/皇太子結婚と経済成長/ヨーロッパ再訪とアメリカ訪問/天皇と経済大国日本/寡黙な当事者/エピローグ(平成新時代の幕開け)

※本書中で度々引用されている著作
・波多野勝「裕仁皇太子ヨーロッパ外遊記
・寺崎英成他編「昭和天皇独白録」(↓)

  

※寺崎英成、マリコ・テラサキ・ミラー編
 「昭和天皇独白録・寺崎英成御用係日記」(文芸春秋)

歴史の裏側には実にいろいろな人々の働きがある、と改めて感じさせられた一冊。
元外交官で、天皇とGHQの間に立って、両者の意思疎通のため他も認める功績のあった寺崎氏。しかし、そのグエン夫人と娘のマリコは、アメリカに帰ってから母親がデパートの売り子をするなど赤貧を洗うがごとき生活を何故送らなければならなかったのか。
現実の理不尽さを感じます。それでも娘をアメリカで一貫した教育を受けさせたという寺崎氏の判断は正しかったのかもしれない。 (1991/05/07)

  


 

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