遠藤展子著作のページ


1963年東京生。藤沢周平(本名:小菅留治)
の長女。西武百貨店書籍部勤務の後、88年遠藤正氏と結婚。現在、山形県鶴岡市に建設予定の「藤沢周平記念館」(仮称)開設に向けての準備等、父・藤沢周平に関わる仕事に携わっている。
 
1.藤沢周平−父の周辺

2.父・藤沢周平との暮し

 


   

1.

●「藤沢周平 父の周辺」● ★★




2006年09月
文芸春秋刊
(1333円+税)

2010年01月
文春文庫化

   

2006/11/17

 

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ひとり娘である展子さんが、父親としての藤沢周平こと小菅留治氏を語ったエッセイ本。
筆者が文筆を生業としている人ではないだけに、素朴に愛する父親を語っているという雰囲気が伝わってきて、読んでいて気持ちの温まる思いがします。
藤沢周平さんというと、作品やその写真から端整でもの静かな印象を受けるのですが、家庭の中にあって一家の主人としてみるとまた違った姿があるようです。考えてみれば当然のことなのですが、そう思わせない外観の良さが藤沢さんにはあったように今にして感じられます。
無口で人に対して不器用な人。いくら幼くして実母を亡くした娘のためとはいえ、再婚相手である和子夫人に対しては随分と酷な条件付けをしたものです。それでもその全てを呑み込んで不平も言わず、夫と義理の娘のために尽くしてきた和子夫人には頭が下がります。よくもまぁこうした人と再婚できたものだと、その点藤沢さんは果報者でしたよね、と思います。
無口でやや自分勝手なところもありますけれど、暴君ではなかったし、家庭人としての藤沢さんの好ましい横顔を見ることができる、本書は藤沢ファンとしては嬉しい一冊です。
写真を見る限り痩せて彫りの深い藤沢さんと正反対に展子さんは丸顔。それに加え無口とおしゃべり(ご本人曰く)と、まるで似てない父娘という具合なのですけれど、夢中でTVを見ていたときの恰好、歯医者嫌いなところとか、そこはそれで父娘らしく似るところも随分とあるようです。そんなエピソードも面白く、楽しい。
藤沢さんの展子さんに対する愛情の深さは、読み進むに連れより強く感じられること。
藤沢さんという人の温かさが伝わってくるような、ファンにはお薦めの一冊です。

※作品を読んで折々の藤沢さんとの会話を思い出すなんて、何と羨ましい楽しみであることか。これはもう家族の特権ですね。

幼い日の思い出/娘時代/鶴岡/父の日常/生と死と

 

2.

●「父・藤沢周平との暮し」● ★★




2007年01月
新潮社刊
(1300円+税)

2009年10月
新潮文庫化

   

2007/02/19

 

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藤沢周平さんの娘・展子さんによる、父親を語るエッセイの2作目。
既に父の周辺を読んでいるので本書については落ち着いた気持ちで読めましたが、何より印象に残るのは本書の表紙。 
展子さんが小学校の高学年の頃でしょうか。公園らしいところで展子さんを横から藤沢さんが見守る構図。その藤沢さんの父親らしいまなざしがとても優しい。慈しんで育ててきたひとり娘に対する心からの愛情と満足が、強く感じられる写真です。
この写真からだけで、本書の内容の半分くらいを感じ取ることができる、そんな気持ちがします。
作家と娘との写真ということでは、阿川佐和子さん、壇ふみさんのエッセイ本の中でも見たことがありますが、それらと比べてもこの表紙の写真は格別。生後僅か8ヶ月で妻・生母を亡くし、父娘だけで生きてきた(再婚するまで)という2人の緊密な関係が現れていると思うのです。

「父の周辺」では、父=藤沢周平、父の再婚によって得た母親=和子夫人との思い出が思いつくままに語り出されたという印象が強いのですが、本書は2冊目の所為かきちんと整理され、順々に語り出されているという印象を受けます。なお、母親の和子夫人に関する部分は少なく、本書では父娘の分かち難い関係が主体になっているようです。
そのため、本書ではとくに藤沢周平さんの父親・小菅留治としての横顔がより深く感じられ、気持ち良く読むことができました。

※なお、藤沢さんはTVの洋画劇場や「鬼警部アイアンサイド」が好きだったとか。洋画劇場や「アイサンサイド」は当時私も大好きだった番組で、好きな作家との共通点を見い出せるのはとても嬉しいことです。

男手ひとつ・父の奮闘/父と母のいる家庭の幸せ/私の転機・父の一言/作家・藤沢周平/家族の情景

 


     

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