|
|
1.名も無き世界のエンドロール 2.僕らだって扉くらい開けられる 3.本日のメニューは。 4.KILLTASK 5.明日、世界がこのままだったら |
「名も無き世界のエンドロール」 ★★☆ 小説すばる新人賞 | |
2015年02月
|
毎度毎度巧妙な仕掛けを施して主人公をドッキリさせる、ドッキリストのマコト。毎度毎度用心しながらもいつもドッキリさせられ、ビビりまくるのが常である主人公。 小学生の頃から親友同士だった2人の掛け合い漫才のようにストーリィは進んでいくのですが、各章の時間設定が目まぐるしい。 半年前、13年前、 7年前、10年前等々と現在の間をストーリィは常に行き来し、まるで時間の渦巻きに乗ってぐるぐると回っているような気分になってきます。一体どうストーリィが展開していくのか、全く見当も尽きません。 それでもぐるぐる回っていれば、いつかは渦の中心に近づき、やがてストーリィの意味が明らかになってくるのではないかと期待してきます。 途中判ってきたことは、金持ちの娘でファッションモデルというゴージャスな美女=リサと偶然出会ったマコトが、一目でリサに引き付けられ「プロポーズ大作戦」を展開し、どうやら成功しつつあること。 一方、主人公とマコトが小学5年になったときヨッチという女子が転校して来て、3人とも親に見捨てられたという共通点があるためにすっかり仲良くなったという、学生時代の思い出が一方で語られます。 プロポーズ大作戦と友情物語、ひとつの物語のその2つが一体どう絡むというのか。 最後、全てが明らかになった時はもう驚天動地! こんなストーリィがあるものか!と絶句するのみでした。 3人の友情がとても愛おしく、そして主人公とマコトの辿った道の何と遥かなるものだったことか。 趣向の見事さ、驚愕すべき仕掛けには、ただ魅了されるのみ。 なお、本作品のキーワードは「一日あれば、世界は変わる」。読み終えた後振り返ると、何と意味深な言葉かと思うばかりです。 |
2. | |
「僕らだって扉くらい開けられる」 ★★ |
|
2021年01月
|
ちょっとした超能力が芽生えた者たちによる、ドタバタ的にコミカル、かつ愉快な冒険譚。 10cmだけ右にだけ物を動かせる超能力、相手を金縛りにできるけれどその都度髪の毛が抜ける、自分でコントロールできない発火能力や読心能力・・・・そんな超能力があったら、嬉しいというよりむしろ厄介だろうなぁ、と思います。 連作リレー式に、そんな超能力者たちの悩みと、けれどもちょっと役に立ったかもという顛末を描いた連作ストーリィ。 どの超能力者たちも、その肩書に相応しいような猛者ではありません。だからこそコミカル。 しかも、それぞれ単独ドラマかと思いきや、登場人物が絡み合っていくところが楽しい。 そのどこに共通点があるかといったら、ある町? もしかすると各自が持つに至った超能力もそこに原因があったのかも・・・。 各章に登場する超能力者たちは、 ・「テレキネシスの使い方」:会社員、念動力。 ・「パラライザー金田」:会社員、金縛り。 ・「バイロキネシスはピッツァを焼けるか」:主婦、発火能力。 ・「ドキドキ・サイコメトリー」:女子高生、残留思念読取り。 ・「目は口ほどにものを言う」:元教師、読心能力。 ・「僕らだって扉くらい開けられる」:幼女、テレパシー。 最後の章は、まさに題名とおりの内容であるところが愉快。 身近で等身大の超能力ストーリィ。お見事です。 ※超能力=発火能力で思い出すのは、宮部みゆき「鳩笛草」「クロスファイア」。今思い出しても鮮烈なストーリィでした。 1.テレキネシスの使い方/2.パラライザー金田/3.バイロキネシスはピッツァを焼けるか/4.ドキドキ・サイコメトリー/5.目は口ほどにものを言う/6.僕らだって扉くらい開けられる |
3. | |
「本日のメニューは。」 ★★ |
|
|
グルメブームでレストラン、カフェ等を舞台にした小説、シリーズものが増えていますが、本作はそれらとちょっと違う印象。 というのは格別美味しいレストラン、評判を得ているレストランを舞台にしてはいないのです。 美味しい、美味しいと言ってもそこは庶民の味、庶民の店。 「四分間出前大作戦」は今や親父一人でやっている中華そばや、「おむすび狂詩曲」は中年女性が一人で営んでいるおにぎり店、「闘え!マンプク食堂」は大盛定食が売りの大衆食堂、 「或る洋食屋の一日」は地元洋食店、 「ロコ・モーション」はブラック企業を退職してキッチンカー商売を始めたところ、という具合です。 各篇それぞれに趣向も異なっており、そこが楽しい。 「四分間」はスリル満点ですし、「おむすび」ではSNSのため見映えばかりの弁当を作り続ける母親をもった女子高生の嘆きには心から同情するばかりです。 「闘え!」は私に縁のない話ですが、「或る洋食屋」とは同じ商店街で、同じように夫婦で営んできた店という点で共通します。 「ロコ」は応援したくなる話で、つい力が入ってしまいます。 夫婦愛、友情、ベテランシェフから新人へのエール、という要素があって嬉しい。 最後を締めるには真、相応しい一篇です。 四分間出前大作戦/おむすび狂詩曲/闘え!マンプク食堂/或る洋食屋の一日/ロコ・モーション |
4. | |
「KILLTASK(キルタスク)」 ★☆ |
|
|
平凡な人生を送っていた主人公の人生を狂わせたのは、ほんの一日の出来事。 その日、主人公は思いも寄らぬ行動をすることになり、一方で両親と姉を殺害した被疑者に仕立てられていた。 追い詰められた主人公を助け出したのは、それぞれ「悪魔」「天使」という異名で呼ばれる2人の殺し屋(エージェント)、辰巳と伊野尾。 そしてその2人に付き、主人公は殺し屋見習いとして、スナイパー修業をすることになります。 ストーリィの鍵となるのは、2つの一家殺害事件。 ひとつは主人公の家族、そしてもう一つは警視庁幹部の家族。そしてただ一人に殺し屋から見逃された娘=臼井理子は今、24歳で刑事部捜査第一課の刑事となり、真相を追おうとします。 ストーリィは時間を前後して語られていきます。それと同時に、殺し屋仕事の如何、その中で辰巳らとは別の殺し屋の影が描き出されていく。 名前を失くし、顔も整形で別人となった主人公が置かれたのは、表社会と一線を画す“裏の世界”。 ある意味、本作は裏世界で生きることになった主人公の、殺し屋としての成長ストーリィと言えます。 その中に、友情や、先輩後輩といった仲間意識が混じっている処が楽しい哉。 一方、頁を繰るにつれ、いつしか2つの事件の真相が明らかになっていくという、ミステリ要素も楽しめます。 冷酷な殺し屋世界、まるで誉田哲也さんが描きそうなストーリィですが、2人の殺し屋の人の好さや、殺害風景等々でもうひとつ冷酷、残虐になり切っていない処が誉田作品とは異なる処。 今一つ得心できない処もありますが、目まぐるしい展開もあり、それなりに楽しめました。 0.Who am I?/1.Nobody Knows/2.Jumping Jack/3.Shoulder Angel/4.Aip the Lip/5.Adam's Apple/6.Paradise Lost/7.Forbidden Fruit/8.Carrot and Stick/9.Goose Bumps/10.Pole Shift/11.Spilled Milk/12.Bullshit/13.Pandora's Box/14.Judgment Day |
5. | |
「明日、世界がこのままだったら」 ★★ |
|
|
会ったこともなかった若い2人の男女=ワタルとサチが目覚めたのは、思いもよらぬ世界。 2人がそれまで住んでいた単身アパート、家族で暮らしていたタワーマンションの自部屋がいびつに繋がり、必然的に2人は出会うのですが、この世界にいるのは2人だけ。 外に出れば今までどおり様々な店はあるのですが、他の人の姿はまるでなく、望めばその品物が目の前にいきなり姿を現す、という具合。 そして2人の前に姿を現した“美人管理人”と自称するサカキという女性から、ここは生と死の中間にある<狭間の世界>だと告げられる。 父親が筋萎縮側索硬化症を患い、仕事と介護に疲れ果てた母親から伊達亘は、東京での美容師仕事を辞めて帰郷するよう命じられていた。 一方、久遠幸は、両親が敷いたレールどおりに生きて来た自分に疑問を感じていた。 死を迎えるまでのかりそめの時間、2人はそれなりに共同生活を楽しんでいたのですが、管理人サカキから、実は手違いがあったとして、2人は究極の選択を迫られることになります。 そこから先について云々するのは、野暮というものでしょう。 是非ご自身で読んで、2人の行動とその結果を確認してみてください。 自分の意志で決めた次の展開、結果はどうあれ、気持ち良さが心に残ります。 なお、ストーリィは、狭間世界での2人の共同生活、各自のそれまでの生活が、交互に綴られるという構成です。 狭間の空間(1)〜(16) 伊達亘−傲慢/憤怒/暴食/嫉妬/怠惰/色欲/貪欲/救済 久遠幸−傲慢/憤怒/暴食/嫉妬/怠惰/色欲/貪欲/救済 |