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1.バージンパンケーキ国分寺 2.恋シタイヨウ系 3.パラダスィー8 4.緑と楯 |
「バージンパンケーキ国分寺」 ★☆ | |
2019年01月
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幼なじみの男の子と親友である女の子が付き合い始め、微妙な三角関係に心揺れる女子高生のみほ、そのみほが見つけバイトすることになった、様々なパンケーキをお客に提供するが中々場所を見つけられないというちょっと風変わりな店を舞台にした、連作短篇風のストーリィ。 明日太郎とは幼馴染ならではの親しさ。でもそれは友情なのか恋なのか。明日太郎と久美、みほという三人の関係をこのまま維持することはできないのか。 驚いたのは、題名であり店の名前である“バージン”が示す、本ストーリィにおける一面。どう受け止めたらいいのか、少々戸惑うところもあります。 みほと久美/みほと明日太郎/リトフェットとロイリチカ/シスター・マーブルと盛/陽炎子と虹輔わるつ/みほと久美と明日太郎、そしてバージンパンケーキ |
「恋シタイヨウ系」 ★☆ |
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題名から感じ取れるように、タイヨウ系の惑星をそれぞれの舞台にして恋人たちの様子を描く、連作ストーリィ。 そして各篇、冒頭に内容を反映した<和歌>付き。 ただし、タイヨウ系といっても我々が住む太陽系ではなく、似た恒星系という設定のようです。 なお、恋人たちを描くといってもよく見かけるような恋愛ドラマがある訳ではなく、恋人たちが共に人生を過ごすため地球を離れて別の星へやってきたというもの。ちなみに恋人たちはいずれも同性カップルという訳。 ほんのサワリだけで終わってしまうようなショートストーリィ。少々掴みどころがないように感じていましたが、読み進んでいくといつしかそのフワフワした雰囲気に取り込まれ、その居心地の良さをたっぷり楽しんでいるという風。 現実の太陽系にある惑星では居住など思いもよらぬ処が多いのですが、惑星間旅行が当たり前のように行われ、どの惑星にも住める場所があるというのが楽しい。 恋人気分も楽しいですが、それ以上に惑星間旅行をしているような気分を味わえるところが魅力。 9篇の内、私のお気に入りは、「月」と「火星・太陽」、そして二足歩行の有袋という木星猫が登場する「木星」の3篇。 月/水星/金星/火星・太陽/木星/土星/天王星/海王星/冥王星 |
「パラダイスィー8 Paradisy8」 ★★ |
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少し不思議な生活、世界を描く短篇集、6篇。 SFでもなく、ホラーでもなく、不思議な感覚なのです。 でもカラッと明るくて、気分の良い明るさがこの短篇集にはあります。そこが魅力。 “失恋給付”とか“睡眠士”という言葉から、三崎亜記さんの世界に近いものを感じますが、三崎作品が不条理をテーマにしているのと対照的に、本作は実際に手にできないような“幸せ”を描き出しているように感じます。 何やら手に捉えがたいフワフワした感じですが、それもまた嬉しく、楽しき哉。幸せとはそんなものかもしれませんね。 ・「失恋給付マジカルタイム」:役所で失恋給付係を担当している瀬戸百田里(ももたり)が主人公。インターン学生を迎えて、姉の萬田里を含めた幸せの輪が広がる感じ。 ・「キッチン・ダンス」:人と繋がる幸せを知った瑞の話。 ・「おやすみ僕の睡眠士」:かつての親からも能無し扱いされていた耳内あかりは、今や優秀な睡眠士・・・。 ・「ちしゃの旅」:これって、誕生からさなぎになるまでの青虫の話? 結構、楽しめます。 ・「パラダイスィー8」:弱は寝る度に、先月病死した妻の麗とあちら側の世界で時間を共にします。麗のサポートを受けて弱が踏み出した新しい活動は・・・。 ・「愛たちとれいん」:朝仕事に出掛けた恋人を、後から迎えに行くだけの話なのですが、幸せ感がいっぱい。 失恋給付マジカルタイム/キッチン・ダンス/ちしゃの旅/おやすみ僕の睡眠士/パラダイスィー8/愛たいとれいん |
「緑と楯−ハイスクール・デイズ− High School Days」 ★☆ | |
2020年11月
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高校生2人を主役とした、すこぶる純粋な恋愛ストーリィ。 ただし、その2人、男子生徒同士。 学業極めて優秀、しかし孤立的。それが主人公の兼子緑。 その緑、何故か同級生の荻原楯を嫌い、近づかないようにしていたらしい。 その荻原楯は、緑と対照的に人気者。美少年であるため、いつも彼の周りには女子たちが絶えず、楯はそれを厭うことなく気持ちよく付き合っている。 その楯が疱瘡にかかって学校を数日間休み、緑が担任教師から欠席中の勉強を伝えるよう依頼されます。 それによって緑と楯に接点が生まれ、そこから本ストーリィが始まります。 緑が楯との関わりを嫌がっていたのは、そうか、そういう理由だったのか。 男子生徒同士というと穿った見方をする向きがあるかもしれませんが、それを気にしなければ、どこまでも純粋な恋愛小説です。 相手の様子に一喜一憂、自分のものにしたいという独占欲、相手が自分をどう思っているのかという不安、初恋における心理という点では何も変わりません。 その点では、分るなぁ、そうだよなぁ、と感じる処多々あり。 2人のキャラクターが対照的であるという他、それぞれの家庭状況も対照的。ただし、陰湿にならず、どこかさらっとした印象があるのは、舞台が近未来に設定されているからでしょうか。 最後は、高校生ストーリィらしい幕切れ。 高校時代の終わりと、これからの新生活への旅立ちを感じさせられ、ふとフォークソングの名曲「なごり雪」を連想しました。 |