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21.夜明けの雷鳴 22.島抜け 23.敵討 24.見えない橋 25.大黒屋光太夫 26.彰義隊 27.死顔 28.回り灯籠 29.ひとり旅 30.三陸海岸大津波 |
【作家歴】、星への旅、戦艦武蔵、大本営が震えた日、漂流、高熱隧道、ふぉん・しいほるとの娘、ポーツマスの旗、破船、破獄、冷い夏熱い夏 |
仮釈放、桜田門外ノ変、白い航跡、私の文学漂流、天狗騒乱、彦九郎山河、プリズンの満月、生麦事件、天に遊ぶ、アメリカ彦蔵 |
●「夜明けの雷鳴」● ★☆ |
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2003年01月
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幕末から明治にかけて、西洋医療の実践に尽くした医師・高松凌雲を描く歴史長編。 |
●「島抜け」● ★ |
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2002年10月
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収録作品は、中篇1+短篇2。 「欠けた椀」は、吉村さんの歴史小説には珍しいフィクションもの。そのため、ずっと単行本に収録されずに来た作品とのことです。飢饉にあい、流民となった百姓夫婦を描いた小品ですが、胸詰まる思いにかられます。 島抜け/欠けた椀/梅の刺青 |
●「敵 討」● ★☆ |
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2003年12月
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幕末・明治と、明治維新をまたがった2つの敵討事件を扱った作品です。いずれも実際にあったこと。 「最後の仇討」は、幕末に殺された父親の仇を明治13年に秋月藩士族・臼井六郎が討ち果たした事件ですが、明治6年の仇討禁止令が発せられた後のこと。しかし、一般にはあまり知られておらず、六郎の事件も世間には讃美する声の方が多かった由。結局六郎は終身刑となりますが、後に恩赦により服役10年にて出所します。人の怨念は、決して法律で簡単に割り切れるものではない、ということが当時の風潮からも、強く感じられます。 敵討/最後の仇討 |
●「見えない橋」● ★ |
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2005年07月
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人生のヒトコマを静かに、穏やかな語り口で綴った短篇集。 冒頭の3篇は、一人での静かな死を描いていて印象的。 「時間」は事実を基にした作品で、「大本営が震える日」に関わるストーリィ。 見えない橋/都会/漁火/消えた町/夜光虫/時間/夜の道 |
●「大黒屋光太夫」● ★★ |
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2005年06月
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伊勢で廻船の沖船頭を務める大黒屋光太夫を主人公とする、新たな漂流民譚。 吉村さんは江戸期の廻船・漂流記に深い関心を抱いていて、小説としては本書が6作目になるとのこと(既読では「漂流」「アメリカ彦蔵」あり)。 シケにあって17名が7ヶ月間漂流。漸く漂着した島は、ロシア勢力下にある孤島。漸くロシア本土に渡った時には7名が死去し、10名に減っていた。しかし、光太夫たちの苦闘はそれから後にあったと言っても過言ではありません。 これまでの吉村作品以上に淡々とした文章が印象的。 |
●「彰義隊」● ★★ |
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2009年01月
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久しぶりに読む吉村さんの幕末歴史もの。 それだけで読もうという気分になりますが、よく知らなかった彰義隊が題名となれば、なおのこと関心を引かれます。 本書は戊辰戦争において、皇族ながら唯一人“朝敵”となった輪王寺宮能久親王の軌跡を描いた歴史長篇。 明治天皇の叔父にあたる輪王寺宮は戊辰戦争当時、上野寛永寺の山主。 輪王寺宮の辿った軌跡は、特に大きな事件でもドラマチックな物語ではありません。しかし、その宮の軌跡を追うことによって戊辰戦争・明治維新のもうひとつの姿が見えてくると言って過言ではありません。 輪王寺宮を象徴的な人物として、心ならずも“朝敵”という立場に追い込まれた人々の苦衷、無念な思いが切々として染み透ってくる気がします。本書ではそのことが印象的。 |
●「死 顔」● ★★ |
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2009年07月
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平成18年 7月膵臓癌により亡くなった吉村さんの遺作となる作品集。 収録された作品はどれも吉村さんらしいもので、これまでの吉村さんの作家としての足取りを感じさせてくれます。 「ひとすじの煙」は、若い頃結核治療の手術後に療養のため滞在していた温泉宿で遭遇した、若い母親の死の話。同じ温泉宿に辿り着いたのに、一方は死を選び、自分は健康を取り戻して宿を去る。その対比の中に死の冷厳さを感じる一篇です。 「二人」と「死顔」の2篇は次兄の死の前後を描いた篇で、内容の殆どが重複しています。この2篇を読む前には是非「冷い夏、熱い夏」を読んでおきたい。そうすれば、如何に今回の兄弟の死を主人公が横浜の兄とともに平静な気持ちで迎えたか、感じられることでしょう。 「クレイスロック号遭難」は未定稿ですが、「ポーツマスの旗」等の作品と並んで明治期の条約改正に関わる重要な作品と考えられたことから、津村節子氏が題名を付して収録された篇です。 夫人である津村節子氏の後書きは僅か7頁程のものですが、吉村ファンにとっては忘れ難い文章になる、と言って誤りではないでしょう。 ひとすじの煙/二人/山茶花/クレイスロック号遭難/死顔 |
●「回り灯籠」● ★★ |
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吉村さんらしい、実直にして剛健、という印象のエッセイ集。 小説を書くことに関して自分を厳しく律してきた作家であるだけに、エッセイのネタもご自身の作品に関わるエピソードが多く、ファンとしては嬉しい次第です。 「大黒屋光太夫」「戦艦武蔵」「零式戦闘機」「高熱隧道」「アメリカ彦蔵」「天狗争乱」「彰義隊」「生麦事件」「長英逃亡」「破船」「桜田門外の変」等々。 「大黒屋光太夫」の出版に際しては、「書き終えるまで死にたくないと、何度も思った」という言葉が広告文として使われたとのこと。 本エッセイ集は、改めて吉村さんの人柄を偲ぶことができるという味わいがありますが、それに加えて(僅かな部分ではあるものの)夫人の津村節子さんとのおしどり夫婦ぶりを感じることのできる箇所が幾つかあるところが嬉しい(「妻と佐渡」「高野長英逃亡の道」)。 回り灯籠/新潟旅日記/きみの流儀・ぼくの流儀(対談:吉村昭・城山三郎) |
●「ひとり旅」● ★★ |
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2010年03月
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夫人である作家の津村節子さんの序によると、本書が「とうとう吉村昭の最後の著作物になった」とのこと。
吉村さんを語る代名詞ともなった“記録文学”に連なる作品、本書にはそれら作品を執筆するにあたっての数々のエピソードが収録されており、愛読者としては改めて吉村作品の魅力を味わえる観があります。とくに戦記作品、幕末歴史作品について多く語っている「月日あれこれ」が味わい深い。 「井の頭だより」は吉村さんの日常生活に関わるエッセイ、そして「歴史の大海原」で再び歴史小説に戻り、漂流もの作品や「彰義隊」を初めとして、「桜田門外ノ変」「生麦事件」の創作ノート等についても語られています。 また、長崎には取材のため 108回も訪れたとのことで、長崎に対する吉村さんの愛着が知られ、微笑ましい。 序:津村節子/「月日あれこれ」から/「井の頭だより」から/歴史の大海原を行く/日々の暮しの中で/対談〔小沢昭一・吉村昭〕なつかしの名人上手たち |
●「三陸海岸大津波(原題:海の壁)」● ★ |
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1994年08月 2004年03月
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平成23年03月11日に起きた東日本大震災、三陸海岸地域を襲った大津波による大被害がなければ、おそらく読むことはなかっただろう、一冊。 三陸海岸近くで起きた地震により起きた、明治29年・昭和08年の二度にわたる大津波による大被害、地球の裏側であるチリで起きた地震のために起きた昭和35年の津波による被害の惨状を記した、実録というべき作品。 明治29年津波による死者は26,360名、昭和08年は 2,995名、昭和35年は 105名だったとのこと。 今回の被害を思うと、過去の被害から教訓を学んでいたのか、学んでいなかったのではないか、と叫びたいような気持になります。 津波の記録、そして大津波の恐ろしさを体験した人々の手記、さらに大津波によって孤児となった子供等による作文・・・。 次の2つの言葉が強く残ります。 ひとつは吉村さん自身の「津波は自然現象である。ということは、今後も果てなく反復されることを意味している」という言葉。 もうひとつは、3つの大津波を全て経験したという早野幸太郎氏の「津波は時世が変わってもなくならない、必ず今後も襲ってくる。しかし、今の人たちは色々な方法で十分警戒しているから、死ぬ人はめったにないと思う」という言葉。 それなのに、何故今回のような大被害が起きたのでしょうか。そこに人間の奢り、油断、教訓を都合よく忘れる、ということはなかったのか。 2度とこのような被災をくり返してほしくない、と願います。 明治29年の津波/昭和8年の津波/チリ地震津波 |