吉川英梨(えり)作品のページ


1977年埼玉県生。2008年「私の結婚に関する予言38」にて第3回日本ラブストーリー大賞エンタテインメント特別賞を受賞し作家デビュー。


1.海蝶−海を護るミューズ−

2.海蝶−鎮魂のダイブ−

3.海の教場 

 


                   

1.
「海 蝶 ★☆
 (文庫改題:海蝶−海を護るミューズ−)


海蝶

2020年09月
講談社

(1600円+税)

2022年04月
講談社文庫



2020/10/04



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海上保安庁初の女性潜水士となった忍海(おしみ)愛・25歳の挑戦と覚悟、そして海難事故をめぐるミステリ・サスペンスを描くストーリィ。

父親(
正義)は今も現役のベテラン潜水士、5歳上の兄()も特殊救難隊に所属する潜水士。家族が揃ってそうだからと愛がこの道を選んだものではなく、潜水士になると決めたのは9年前の東日本大震災で母の命を救えなかったという悔いから。

しかし、危険と隣り合わせ、勇気だけでなく体力も腕力も必須だからこそ男ばかりの世界であった潜水士の世界に女性が入り込んでくるというのは、感情的な反発だけでなく、やり難いことが多々あるという困惑も男性側潜水士にはあるようです。
その辺りの事情が冒頭、リアルに描かれます。

そして潜水士として初めて向かう海難事故現場は、八丈島沖。
救助を要請してきた女性を保護するものの、もう一人の男性を発見することはできず。
しかし、救助されたその女性の行動には不可解なものが・・・。

後半は、上記海難事故をめぐるミステリ、そしてサスペンス。
初めての現場で大きな危機、試練にぶつかった愛が、どう覚悟を決め、再び潜水士の仕事に向かうのか、そこに読み応えがあります。

海上保安庁の潜水士といえば、映画「海猿」で注目を集めた仕事。しかし、実際の業務はあんなに格好良くも感動的なものでもないと、何度も警告されます。
男性潜水士を象徴する
“海猿”に対し、女性潜水士なら“海蝶”だろうと長官が命名した、というのが本書題名の所以。

お仕事小説気分で読み始めたのですが、そこは吉川愛梨さんらしく、ミステリ・サスペンス系のストーリィになっていました。


序/1.出航/2.海難/3.ブラックアウト/4.フラワーマーメイド号事件/東日本大震災/5.家族

                

2.
「海 蝶−鎮魂のダイブ− Kaicho Requiescats Dive ★★


海蝶 鎮魂のダイブ

2022年04月
講談社

(1700円+税)



2022/06/01



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海上保安庁唯一人の女性潜水士=忍海愛を主人公とする海蝶第2弾。
このシリーズ、東日本大震災がもたらした悲劇から中々無縁ではいられないようで、冒頭から震災時の出来事が描かれます。

それから11年後、船上で行われた友人の結婚式に出席した愛は、震災時に自分の命を救ってくれた気仙沼海上保安署の海上保安官だった
佐崎純平と偶然に再会します。
その純平、海保を既に退職していて今は民間船の一等航海士。
愛、その純平と当然の如く恋人関係になりますが、純平が海保を辞めた事情が愛にも影響することとなり、愛は訓練でもすっかり不調となってしまう。

その愛が休暇を取って純平と乗り込んだ北海道行きのフェリー船内で、恐るべき事態が発生します。
船長が行方不明となった中、海上保安官である愛に、船の指揮権が委ねられますが・・・。

前半と後半、二つの物語から成る一冊、と思っていた方が読みやすいと思います。
前半は、女性潜水士である忍海愛個人にまつわる物語。そして後半は、パニック映画さながらのサスペンス。
この後半部分が、本当に面白い。頁を繰るのがじれったい程。
ミステリがあり、スリルに溢れ、しかも愛の葛藤あり、というてんこ盛りですから、面白いのも当然でしょう。

ふと、
五十嵐貴久「怒涛の城を思い出しました。
本作の舞台がフェリー船、主人公は女性海上保安官であるのに対し、同作は豪華クルーズ船、そして主人公は女性消防士。

でも本作は、“海蝶”という存在があるからの魅力。
シリーズ化に期待、です。


3・11(2011年)/1.海のいいわけ/2.分断/3.フェリーきたはくば号事件/3・11(2023年)

              

3.
「海の教場 ★★☆


海の教場

2022年07月
角川書店

(1800円+税)



2022/07/31



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海上保安庁、舞鶴にある海上保安学校を舞台に、海上保安官たちの姿、その職務の実態と共に生命のかけがえのなさを描いた熱いストーリィ。

主人公の
桃地政念は、海上保安庁主計課の専門官、独身・45歳。
その桃地を、同期のマドンナであり、今はシングルマザーかつ女性ヘリ操縦士として草分け的な存在でもある
高浜彩子が訪ねてきて、2人は15年ぶりに再会します。
実はこの二人、過去に色々な経緯があった関係。
その彩子が桃地に告げたのは、肝臓がんで余命1年というショッキングな事実。
舞鶴の海上保安学校に入学する筈の息子=
悠希のため、舞鶴の総合病院に入院するという彩子を追って、桃地は異動を懇願、本庁から海上保安学校に教官として赴任します。

女性のためにという理由で、責任の重い教官職に経験も自覚もない桃地が就くことが許されるのか、いや大丈夫なのか?
しかも、桃地の担任クラスは、自殺者を出したばかり・・・。

いざ教官になってみると桃地、生徒たちそれぞれが様々な問題を抱えていることに気付かされます。その都度、生徒一人一人に寄り添い、一緒になって問題を解決していこうとする桃地の姿には人間味が感じられて好感。
そして、問題のいずれも、海上保安官を目指すからこそのこと。生徒一人一人の問題に向き合うことから、海上保安官という職務の厳しさ、重さもまた描き出されていきます。
一方、彩子を何とかして救いたい、彩子の一人息子である
悠希から恨まれ嫌われてしまった関係を改善したいという、桃地の思いの強さも描かれていきます。

当初はメタボで、いい加減な処があるという印象だった桃地が、担任生徒たちと共に刻々と変わっていく姿、生徒たちに信頼され慕われる教官になっていく展開が圧巻、読み応えたっぷりです。

多くの人からよく知られないながらも、こうした人たちが国を、そして国民を救う仕事に邁進しているのかと思うと、感動と共に感謝の念で一杯になります。
海上保安庁の仕事を知ることができるという意味でも、お薦め!


1.余命宣告/2.スノーマン/3.国境/4.死んだ者たちへ/5.溺れる猿/6.夜明け前/7.手紙

       


   

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