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【作家歴】、笑う招き猫、はなうた日和、凸凹デイズ、幸福ロケット、男は敵女はもっと敵、美晴さんランナウェイ、渋谷に里帰り、カイシャデイズ、ある日アヒルバス、シングルベル |
床屋さんへちょっと、愛は苦手、失恋延長戦、ヤングアダルトパパ、パパは今日運動会、寿フォーエバー、一匹羊、GO!GO!アリゲーターズ、東京ローカルサイキック、展覧会いまだ準備中 |
幸福トラベラー、ジンリキシャングリラ、芸者でGO!、店長がいっぱい、誰がために鐘を鳴らす 、天晴れアヒルバス、ふたりみち、あたしの拳が吼えるんだ、神様には負けられない、マイ・ダディ |
31. | |
「人形姫」 ★☆ |
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伝統的な人形作りの街、鐘撞市で 創業180年の<森岡人形>を中心としたアットホームなストーリィ。 主人公の森岡恭平は37歳、独身にして森岡人形の社長。創業から数えて八代目。 人のためには労苦を厭わず一生懸命になるのですが、自分のこととなると鈍いというか、ボケッとしているところがあって、周囲の方がヤキモキしているという風。 27歳の時に七代目であった父親が急死、修業十分でないまま当然のこととして会社を継いだだけ、独身のくせに結婚について積極的に動くこともない。 そのくせ、鐘撞高校時代にボート部主将でインターハイにも出場した実績者。他に引き受ける人がいないからという理由で、ボート部のコーチをボランティアで引き受けている。 そうした折、小中高の同級生だった甲冑師の娘=溝口寿々花が離婚して幼い娘のモモを連れ鐘撞市に戻ってきたことから、周囲は格好の相手と勧めますし、またお互いに好意を持っているらしいのですが、積極的な行動に出られない。 一方、地元フィリッピンパブで働くクリシア・24歳が、人形作りを学びたい、弟子にして欲しいと押しかけてきて・・・。 まず、雛人形作りの仕組みを知ることができるのが、楽しみの一つ。 頭師(恭平も)、着付師、髪付師、小道具師、手足師という分業体制や、細かいその作業も紹介されていて、為になります。 やらなければならないことをやっているだけ、という無欲な恭平ですが、誠実で裏表のない人物ぶりが、少しずつ周囲を動かしていく、そんな展開は穏やかで気持ち良いものですが、どこかインパクトを欠いている、と言いたくなる処もあります。 ただ、やたら職人ぶるだけで業界衰退に何ら有効な手を打っていない年輩男性たちに対して、女性たちの勢い、積極さは目覚ましい。 クリシア、寿々花、小道具師の阿波須磨子、等々。 実はその点こそが、本ストーリィの読み処なのかもしれません。 |
32. | |
「花屋さんが言うことには」 ★★ |
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2024年03月
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君名紀久子・25歳、美大デザイン科を卒業して就職した会社はこてこてのブラック企業。2年間勤めようやく退職届を出したものの、元上司から押し戻されそうになったところを救ってくれたのが外島李多(とじま・りた)。 その李多から勧められるままに、彼女の経営する<川原崎花店>でバイト勤務を始めます。 花屋さんを舞台にしたお仕事小説として、最初はまあまあの面白さと思って読んでいたのですが、次第に面白くなっていくのはさすがに山本幸久さんらしいところ。 どこに魅力があるのかというと、様々な人との出会いがあり、そのいずれもが楽しく、そして個性的かつ魅力的な登場人物が多いこと。 さらに、新たな出会いが紀久子の再スタートに繋がっていく処が嬉しい。 ベテランパートで元高校の国語教師だったという光代さん(古典文学に詳しい)、大学助手だけれどずっとバイトを続けているという芳賀くん(作るカレーが美味しい)、そして店主の李多をはじめ、来店客たちもそれぞれ楽しいのですが、常連客である6歳の男の子=蘭くんの存在感が際立っている処が抜群。 各章の最後には、花言葉が添えられています。 その章のストーリィを総括するような花言葉で、心が弾む思いがします。楽しいですよ。 ・「泰山木」:紀久子と李多の出会い。 ・「向日葵」:男子中学生のプレゼント用花選び。 ・「菊」:年齢差を越えた友情? ・「クリスマスローズ」:バツイチ女性の想いは? ・「ミモザ」:芳賀が秘めていた愛・・・。 ・「桜」:紀久子、草花染の女性と出会う。 ・「スズラン」:李多の母親=莉香が紀久子の前に登場。 ・「カーネーション」:それぞれの新たなスタート。 1.泰山木/2.向日葵/3.菊/4.クリスマスローズ/5.ミモザ/6.桜/7.スズラン/8.カーネーション |
33. | |
「おでんオデッセイ」 ★★ |
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主人公の有野静香は33歳。東京の総合商社で総合職として働いていましたが、激務に身体を壊して退職。 母親が練物屋<有野練物>を営む実家に戻ったところ、町おこし事業の“伊竹市活き活きプロジェクト”を知って応募、採用されて伊竹市銀座商店街の一角でおでん屋台<かいっちゃん>を開業します。 といっても、採算を取るのは中々難しい。それでも常連客や練物店の学生バイト等々、親しい知り合いが増えていくに連れ、静香の周辺は賑やかになっていきます。 そこは山本幸久作品らしく、個性的な登場人物が目白押し。 そこが楽しい。 常連客の漫才コンビ、美術館学芸員の“つみれさん”。ゲーム作りに挑んでいる学生バイトの早咲ちゃん、幼稚園児の守くん、大手百貨店の食料品バイヤー、等々。 なお、総じて、女性たちは老若無関係に元気が良く、一方の中年男性たちはあれこれ欠点が多く、女性たちから批判されるばかりという傾向は、現在の風潮どおりでしょうか。 なお、その中で気になるのは、静香の高校時代の元カレで、現在はイケメンのDJポリスとして評判になっている辺根六平太。 再会による展開はあるのかどうか。 冒頭登場した漫才コンビが熱心に聞いているラジオが、ベテラン漫才師の<アカコとヒトミ>のトーク番組。 デビュー作「笑う招き猫」の主人公だったアカコとヒトミももうベテラン芸人かと思うと、感慨があります。もう20年経ちますからベテランになったのも当然という次第。 山本幸久作品の特徴は、明るく楽しく、先に希望が持てること。 それは本作でも変わらず。 また、いろいろな練り物、おでんネタが登場しますので、それらをきっと食べてみたくなること、請け合いです。 1.ちくわぶ/2.こんにゃく/3.がんもどき/4.餃子巻/5.東京揚げ/6.大根/7.さつま揚げ |
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