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2.わらの人 3.ひろいもの 4.ひなた弁当 5.俺は駄目じゃない 6.ひかりの魔女 7.つめ 8.ひなたストア(改題前:がんこスーパー) |
迷犬マジック、迷犬マジック2、民宿ひなた屋、迷犬マジック3、迷犬マジック4 |
1. | |
「か び」 ★ |
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2006年07月
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出版社の宣伝文によると、“巻き込まれ型小説”の傑作との由。 「つめ」が案外面白かったので、旅行中に読むには格好かなと読んでみた次第。 主人公は、平凡な会社員の専業主婦=伊崎友希江。 残業ばかりでいつも深夜帰宅、会話もほとんどないマザコンの夫、自分の気分次第でいろいろ口を出し孫の理沙を甘やかす義母、理沙が通う幼稚園でのいざこざ等々、ストレスばかり。それでも友希江は、ことを荒立てないよう我慢するのが常。 しかし、勤務中に脳梗塞で病院に担ぎ込まれ、麻痺を起こした夫の姿を目にする一方、問題を会社ではなく夫個人の健康管理問題としてケリをつけよう、友希江にそう認めさせようとする会社の露骨な姿勢に、ついに怒りを爆発させます。 その会社、友希江もかつて勤めていたヤサカ株式会社の非道な対応の仕方は、今回に留まらず、ずっと続けられていたこと。 友希江の行動によりそれが明らかになり、ヤサカが社会から糾弾されるという展開は胸のすくところがありますが、問題なのは友希江のとった行動。 いくら怒りから始まったことだとはいえ、ヤサカの問題点を明らかにするという正義の行動ではなく、なりふり構わない、犯罪行為とも言える嫌がらせ、復讐となるとなぁ。 後味の悪さが残り、読了感はイマイチ。 |
「わらの人」 ★★ |
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2009年12月
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大人しい性格の人間としては、ちょっとスカッとするような小ストーリィからなる連作短篇集。 ふと初めて入った理容室。年の頃は30歳前後と思われるその女理容師は、おしゃべりだけれどマッサージがとても上手。つい気持ち良さにウトウトして女理容師に髪型を任せてしまったら、目覚めてビックリ。なんでこんな髪型に!?と思うものの、女理容師から似合う、似合うと言われ、自分もちゃんと頷いていたと言われれば、それ以上文句も言える訳もなく。 残念なのは、そのおしゃべりでマッサージが上手くて、アッ!という髪型に仕上げてしまう女理容師、本当に客に良かれと思ってやっているのか、わざと眠りこませて意図的に好き放題しているのか、その辺りが書かれないままに終わっているところです。 眉の巻/黒の巻/花の巻/道の巻/犬の巻/守の巻 |
「ひろいもの」 ★★☆ |
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それほど期待していなかったのですが、予想外に良かった連作短篇集。 ・対人関係に自信のないバイト店員が拾ったのは、高級セカンドバック。 5篇の中では、冒頭の「セカンドバッグ」が私は一番好きです。 セカンドバッグ/サングラス/バッヂ/ハンドグリップ/ウォッチ |
「ひなた弁当」 ★☆ |
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2011年09月 2017年02月
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突然会社をリストラされた中年サラリーマンの再生物語。 49歳のサラリーマンである主人公、上司の言葉を信じたばかりにあっけなくリストラされ、失職。 題名から推測つくかもしれませんが、主人公が始めたのは路上販売の弁当屋。 温かくてユーモラス、元気を取り戻すことのできるストーリィ。 |
5. | |
「俺は駄目じゃない」 ★★ |
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2016年08月
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主人公は35歳の独身男、名井等(みょうい・ひとし)。 彼が下着泥棒と間違えられ、県警に誤認逮捕されたところから本ストーリィは始まります。 一晩明けて警察から釈放されたものの、その時には既に逮捕のことを言いふらした人間がいて、勤務先からは即クビにされ、居場所を失います。 そんな名井に取材したい、応援したいと声を掛けてきたのは、地元新聞社の記者である本山、そして市民オンブズマン「警察を見守る市民の会」副代表の久保という中年女性、会に協力しているという新川弁護士ら。 新川弁護士の紹介で新しい勤務先を得た名井、一方で久保らに勧められて誤認逮捕の経緯を綴ったブログを立ち上げます。 ブログ名は「俺は何もやってません」、名前は「エンザイ男」。 ところが、そのブログから思わぬ展開が・・・・。 名井自身が何か行動したという訳でもないのに、淡々と事実を語っただけのブログがかえって信頼を得たのか、投稿された書き込みによって警察の不祥事が次々と明らかになるという展開は、やはり“巻き込まれ型”ストーリィと言うべきなのか。 おかげで名井を見る人の目が変わり、それに応じて名井自身の気持ちも行動も変わっていく、というところが楽しく読める処。 全てうまく行き過ぎとも思いますが、無欲でこつこつと真面目に行動しているからこそ恩恵も得られたのだと思えば、救われる思いがします。 この後も、どうぞ名井等に幸せが待っていますように。 |
6. | |
「ひかりの魔女」 ★★☆ | |
2016年10月
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同居していた伯父が死去し、ばあちゃんはその家を引き払って主人公の家に同居することになります。 怪我されて呆けられたらなお大変と、母親は光一に、ばあちゃんが外出する際には必ずお供をせよと命じます。 「魔女」という表題ではあっても、ばあちゃん(真崎ひかり)はごく普通の老女・・・・・なのかどうか。 一体ばあちゃんがどんな活躍を見せるのやら。 ユーモラスでハートフルなストーリィ、気持ち良いことこの上なし。 |
7. | |
「つ め」 ★☆ |
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2020年07月
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主人公の真野朱音はファーストフードのうどん屋でパート勤め。2年前に子連れの中学同級生と結婚しましたが、その夫が単身赴任中とあって、現在は小学5年生になる義理の息子=裕也と2人暮らし。 「朱音さん」「裕也くん」と呼び方は他人行儀であるものの、それなりに順調な関係。 ところが、子供たちが遊ぶ公園の金網フェンスに隣家のイバラが絡み付いていて危ないと、朱音が子ども会を代表して何とかしてほしいと交渉にいったところ、けんもほろろに追い返されます。 その50代の女性=南郷は、飼っているドーベルマンを遊んでいる子供にけしかけたりと、とかく評判の悪い人物。 市役所の担当者がロープを張り注意板を設置してくれたものの、南郷は朱音を恨んだのか、それ以降性質の悪い嫌がらせを執拗に仕掛けてきます。つい朱音もそれらに怒りを募らせ・・・。 やられたらやり返せ、というのが朱音のモットー。 それに対し、学校でイジメを受けているらしい裕也は、ガンジーを尊敬していて、身体を鍛え非暴力不服従で対抗しようとしているらしい。 朱音と南郷、壮絶なバトルを繰り広げる訳ですが、やはり「やり返し」は良くないよなぁ、と感じます。報復リスクという以上に自分を相手のレベルに落してしまう、ということですから。 一方、朱音と裕也という義理の母子関係も読み処。 それなりに面白く読めるストーリィ。最後の大団円はお約束事という感じですが、きれいに納めています。 |
8. | |
「ひなたストア」 ★★ |
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2020年02月
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中年サラリーマンの再生ストーリィ。 刊行時は「がんこスーパー」という題名でしたが、同じ中年サラリーマンの再生を描いた「ひなた弁当」と併せて読んでもらいたいという思いから、「ひなたストア」へ改題したとのこと。 主人公はワタミキ食品に勤める青葉一成。 ワンマン社長の資産運用失敗のため、会社が管理職社員に退職勧奨。ちょうど友人から転職の誘いを受けていたことから潔く退職して転職したものの、転職先のグリップグループ(小規模スーパーの連合体)の社長が交替。 元々前社長と対立していた新社長、青葉をも敵視し、開発課長という役職は容認したものの即座に研修名目で、潰れかけているスーパーに副店長として出向させられます。その先が<ひなたストア>。 しかし、店長である吉野は最初から青葉を警戒し、粗末に扱う姿勢。妻と娘からもさっさと辞めた方が良いと言われた青葉一成、さぁどうする? 主人公の提案によってひなたストアの状況(スタッフの雰囲気、独自商品等)が変わっていく、それに伴い主人公の働き甲斐も生まれていく、といった再生ストーリィ。 その中で特に気持ちが良いのは、それらの変化を主人公が自分の功績としていないことです。 自分は決して特別な能力を持っている人間ではない、他の店がやってうまく行っていることを真似しているだけ、自分だから出来たことではなくいずれ誰かが気付いて提案するようなことに過ぎないと、謙虚な姿勢に終始しています。 組織を活性化していくこと、皆が力を発揮していくためには、こうしたことこそ大事なことと思います。 全てが都合よく回り過ぎ、という面がなきにしもあらずですが、極めて気持ちの良いストーリィになっています。 仕事が辛くなったような時の気分転換に、是非お薦め。 |
9. | |
「ひかりの魔女−にゅうめんの巻−」 ★★☆ |
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皆を幸せにする魔女?のおばあちゃん=真崎ひかりを中心とした連作ストーリィ、「ひかりの魔女」第2弾。 頭に白い手拭を姉さんかぶり、作務衣らしき紺の服の上に割烹着エプロンに、足元は紺の地下足袋? というのが本作品の中心人物であるおばあちゃん=真崎ひかりの常なる姿。 読めば、ホント、幸せな気分になれるストーリィだなぁ。 魔法のコツは、上手に褒めること。 相手に褒められて幸せな気分になり、また褒められたいとヤル気が起きる。そこから新しい可能性が生まれる、という次第。 真崎ひかりおばあちゃんと縁が出来るや否や、ひかり先生は自分の恩人、自分こそひかり先生に特別に目を掛けてもらったと名乗る人たちが次々と各篇主人公の元にやってきます。 そして、弟子となのるどの人物も同じセリフを口にし、ひかり先生の知り合いのためなら是非手伝いをしたいと、名乗り出てくれる。おかげで窮状にあったというのに、とんとんと道が開けていきます。 わぁ、楽しい、嬉しい、これこそ幸せ、と言いたくなります。 まさに魔法と言うべき哉。 ひかりおばあちゃん、是非長生きしてもらい、続編を乞う! ・「春」:漫画家の夢を諦め、母親からさびれた商店街にある喫茶店を引き継いだ鳥海結衣が主人公。 このままではいずれ閉店と覚悟したところ、幼馴染の祖父に線香をあげたいと訪れて来たのが、真崎ひかりという老女。 ・「夏」:クーデターにより社長の座から追い出され、今はマンションで一人住まいの東郷丈志。臨時の家政婦を務めてくれた真崎という老女の作った食事が美味しくて、ついその正体をつきとめようと・・・・。 ・「秋」:仕事が減り厳しい状況に至っている金属加工の田野上工業。雨宿りをしていた真崎ひかりという老女と知り合ったところ、後日その孫娘だというミツキが一緒にやって来て・・・。 ・「冬」:ラーメン店を潰してしまい、形式上妻と離婚し、妻・娘と別居、車中暮らしという湯崎弘司が主人公。自転車のまま転倒した真崎ナツミという中年女性を助けたところ、翌朝真崎ひかりという老女が訪ねてきて・・・。 春/夏/秋/冬 |
10. | |
「ひかりの魔女−さっちゃんの巻−」 ★★☆ |
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“ひかりの魔女”シリーズ第3弾。 このシリーズ、読んでいて本当に楽しい。 温かくて優しくて、気持ち良く明るい気分になってきます。 読み始めると、次は何?とワクワクする気持ちが抑えきれず、読み出したらもう頁をめくる手が止まらない、という風です。 本巻の主人公は、小五の少女=重ノ木さち。 イジメに遭って不登校となり、現在は「くすのきクラブ」というフリースクールに通う日々。 家族は、定年退職済の祖父とタクシードライバーとして働く母、という3人暮らし。 そのくすのきクラブに、新たなボランティアとして真崎ひかりさんというおばあさんが現れた時から、さちの毎日がどんどん変わっていきます。 ひかりおばあさんの魔女ぶりは、前2作どおり。いや、相手が小学生だけにこれまで以上と言うべきかもしれません。 無理押しではなく、さりげなく語り掛けられる言葉についつい乗せられ、さちは少しずつ色々なことに挑戦することになります。 その結果、自信が生まれ積極的な心持ちになっていく。 灰色だった日々が、徐々に彩鮮やかな日々へと変わっていく、と言ったところでしょうか。 孫だというミツキや、「真崎ひかりさんは恩人」と明言する何人もの人とも出会い、さちの世界はどんどん広がっていきます。 さちだけではありません、人の悪口ばかりの祖父や、不機嫌なことの多かった母親まで、いつの間にかひかりさんのおかげですっかり変わってしまうのですから。 さらにさらに、ご近所まで変化が生じる、といった具合。 いやー、とにかく楽しい。楽しくって堪りません。お薦め! ※なお主人公のさち、「ひかりの魔女」第一作にすでに登場していた少女でした。 |