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21.再婚生活 22.アカペラ 23.カウントダウン 24.なぎさ 25.自転しながら公転する 26.無人島のふたり |
【作家歴】、パイナップルの彼方、ブルーもしくはブルー、きっと君は泣く、 あなたには帰る家がある、眠れるラプンツェル、ブラック・ティー、絶対泣かない、群青の夜の羽毛布、 みんないってしまう、そして私はひとりになった |
シュガーレス・ラヴ、紙婚式、恋愛中毒、落下流水、チェリーブラッサム、ココナッツ、結婚願望、プラナリア、ファースト・プライオリティー、日々是作文 |
●「再婚生活」● ★★ |
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2009年10月
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新しい本が刊行になる度読んでいた山本文緒さんの新作が絶えていることに気づいたのは何時の頃だったでしょうか。 ネットで様子を調べてみたら病気のため休筆中であることを知りました。 ゆっくり待っていたところ漸く刊行されたのが本書。うつ病となり、入院もしたりした後、仕事復帰第一弾として連載を始めたのが日記エッセイだそうです。 「再婚生活」という題名からこうした山本さんの状況を想像ことは到底無理であって、いきなり読んで知るより、事前にそうした事情を知っておいた方が読み易いと思います。 退院し仕事を再開したものの、依然として状況は万全ではなく、苦しいこと多い不安もいっぱいだったという。 ところで、作家という仕事はうつ病にどうなのでしょう?(北杜夫さんという先人はいますが、北さんの場合極端過ぎて比較になりません)。締め切りに追われるというシンドさがあるのでしょうけれど、これまでの蓄えに依存してマイペースで仕事ができるなら、会社勤めより自由が利く分適応し易いのかもしれません。 初出「野性時代」2003年12月〜04年04月/06年08月〜11月/07年01〜02月 |
●「アカペラ a cappella」● ★★ |
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2011年08月
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6年ぶりとなる小説集。ただし、「アカペラ」は直木賞受賞直後の2002年執筆作品で、残る2篇が07年・08年と最近の作品。
いずれの3篇も、健気な女の子たちの存在感が魅力的。それぞれ一途で、前向きな気持ちを失うことがない。 「ソリチュード」は、家出して以来20年ぶり、父親の死を機に実家に帰ってきた春一が主人公。彼を迎えるのは、母親、元恋人の美緒、その娘の一花。 「ネロリ」は、外に出て働けない39歳の弟を守って地味に生きてきた49歳の姉と、同棲中の恋人からDVを受けているココアの2人が交互に第一人称で語るストーリィ。 ちょっと風変わりだけれど、その前向きな姿勢は極めて真っ当という、健気な女の子たち。元気な頃の文緒さんらしさが感じられて、ファンとしては嬉しい作品集です。 アカペラ/ソリチュード/ネロリ |
●「カウントダウン」● ★☆ |
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2010年10月 2010/11/15 |
お笑い芸人をめざす男子高校生=岡花小春の、お笑い青春ストーリィ。 久々の山本文緒さん新作かと思ったのですが、デビュー2年目、91年に集英社コバルト文庫から刊行された「シェイクダンスを踊れ」の加筆・修正+改題だそうです。 漫才コンビで芸能界デビューを目指す2人の青春記というと、山本幸久「笑う招き猫」を思い出しますが、刊行時期としては本作品の方がはるかに前。 高校生が主人公、コバルト文庫ということもあって本作品、いかにも高校生向きノベル、という感じです。 ストーリィはかなり粗いし、突拍子もない展開。そればかりか、幾らなんでもそれはありえないだろーという部分も度々なのですが、その分若さに任せての勢いがある、という印象。 その勢いの良さは、結構、快感です。 昔の気分に返って、山本文緒さんの初期作品を楽しむことにしよう、という方にはお薦め。 |
24. | |
「なぎさ」 ★★☆ | |
2016年06月
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新作の発表が途絶えていた山本文緒さんの、15年ぶりとなる長編小説。 登場人物それぞれが心の底に何かを抱えていながら、それが何かははっきりと示されず、何処へ向かうとも分からないまま混迷を深めていくという展開は、いかにも山本文緒さんらしいと感じます。 |
「自転しながら公転する Spinning Around My Whirl」 ★★ 島清恋愛文学賞・中央公論文芸賞 |
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2022年11月
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山本文緒作品は熱心に読んできたつもりですが、新刊の間が空いてしまった間に何時のまにか気持ちが離れてしまっていたため、本作が刊行されても気持ちが動かなかったのですが、評判が高いらしいと知って改めて読んだ次第です。 ひとり娘、非正規社員としての仕事、30代となり結婚・出産という選択、親の体調不良と介護問題、先行きへの不安、さらにセクハラもという、現代社会における30代女性の多くが抱えるであろう問題を、リアルに描いた長編ストーリィ。 主人公は、牛久にあるアウトレットのアパレル店で契約社員として働く与野都、32歳。東京のアパレル店に務めていたが、母親が重い更年期障害に悩まされ、父親に言われて実家に戻ったという状況。 その都が出会ったのは、同じモールにある寿司店で働いていた2歳下の羽島貫一。貫一のどっしりした雰囲気に惹かれて、都は何となく付き合いだしてしまうという展開。 この貫一、店がすぐ閉店となり無職となってしまうのですが、とくに就活を焦るでもなく、平然とした風。 この2人が主軸となってストーリィは展開していくのですが、貫一のペースに都は振り回され、仕事にも支障を来すようになります。その一方で、本社社員からセクハラを受けるという展開。 誰しも貫一のような男に引っかかってしまってはダメ、悪い男にハマってしまったと思うばかり。したがって、それでも貫一に引きずられている一方の都に、苛々するところもあります。 後半に至り、ようやく2人それぞれの問題が見えてきます。 都は、自分に自信が持てずにいる女性。一方、貫一は中卒という経歴に自虐し、先への可能性を諦めている男性。 都が貫一を前にして、初めてと言っていい程感情を爆発させる場面は、真に圧巻! ようやく本音を聞けた、という部分です。 また、都の両親もそれまでの考え方を改める、という場面があるのですが、両親と同じ年代から見ると、こちらの部分にこそ色々と考えさせられるところがあります。 結末はどっちに転んでも不思議ないストーリィですから、「終わりよければすべてよし」と言う処でしょうか。 |
「無人島のふたり−120日以上生きなくちゃ日記−」 ★★ | |
2024年10月
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2021年 4月、突然に膵臓がん、既にステージ4と診断され、余命4ヶ月と宣告を受けた後、半年に亘る日々を綴った日記。 題名の「無人島のふたり」とは、山本文緒さんご自身と旦那さんお二人のこと。 余命宣告をされたショック、体調の波や悪化、様々な思いがあるのは当然のことでしょうけれど、こうしてリアルタイムで綴られた日記を読むと、その日々を山本文緒さんと一緒に過ごしたような気持ちになります。 時間を引き延ばすためだけの抗がん剤治療を止め、緩和ケアに切り替えたのは、それが自分の身に起きたことであったとしても、正解だと思います。少しでも自分らしく生きるためには。 そうした中で日記を綴り続ける(刊行を前提に)というのは大変なことであったでしょうけれど、それはご本人にとって幸せなことではなかったかと思います。 書くということは、前向きに生きようとすることでもあるでしょうから。 10月 4日、最後となった日記ページの次は、山本文緒さんの永眠を記載したページとなっています。 全てが終わった、という思いと共に、山本文緒作品と共に歩んだ時間、それは充実した時間だったという思いに満たされます。 山本文緒作品は今も変わらず私たちの前にある、それは我々読者にとっても幸せなことだと思います。 1.5月24日〜6月31日/2.6月28日〜8月26日/3.9月2日〜9月21日/4.9月27日〜 |
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