若竹七海
(ななみ)作品のページ No.1


1963年東京生、立教大学文学部史学科卒。在学中はミステリクラブ所属。5年間のOL生活(編集プロダクション、アクセサリー会社、業界紙等)を経て、91年「ぼくのミステリな日常」にてデビュー、逢坂剛氏の賞賛を得る。


1.
ぼくのミステリな日常

2.水上音楽堂の冒険

3.火天風神

4.マレー半島すちゃらか紀行

5.プレゼント

6.スクランブル

7.名探偵は密航中

8.依頼人は死んだ

9.悪いうさぎ

10.親切なおばけ

 

プラスマイナスゼロ、みんなのふこう

 → 若竹七海作品のページ No.2

   


    

1.

●「ぼくのミステリな日常」● 

 
ぼくのミステリアスな日常画像

1991年
東京創元社刊

1996年12月
創元推理文庫

(620円+税)


1999/03/06

突然社内報の編集長に抜擢されたOL・若竹七海
しかも、その月刊「ルネッサンス」に短篇小説を載せろとのお達し。かくして大学の先輩から紹介された匿名作家による12篇が連載されることになった、というのが本書の設定。

日常ミステリあり、ホラー話あり、学園小説的なノリあり、そしてまた犯罪もあり、とまさに玉石混交という感じの連作短篇集。
いいなあ、と思う部分もある一方で、余計かつわざとらしい仕掛けを感じる部分もあります。総じてスパイスがやや不足している、というのが私の印象です。
編集後記にて追加的ストーリィが用意されていますが、折角の工夫の割に迫力不足・説得力不足。ちょっと散漫だったなあ。

配達された三通の手紙
桜嫌い/鬼/あっという間に/箱の虫/消滅する希望/吉祥果夢/ラビット・ダンス・イン・オータム/写し絵の景色/内気なクリスマス・ケーキ/お正月探偵/バレンタイン・バレンタイン/吉凶春神籤
ちょっと長めの編集後記 配達された最後の手紙

   

2.

●「水上音楽堂の冒険」● 

水上音楽堂の冒険画像

1992年05月
東京創元社刊
(1600円+税)

  
1999/03/09

高校を舞台にした長編ミステリ。
主要登場人物は、幼馴染の荒井冬彦、中村真魚、坂上静馬の3人。
恒例となっている水上音楽堂での卒業コンサート、その直前に女子生徒が殺害されるという事件が発生。3人のひとりが容疑者となり、残り2人が探偵役となります。
主役の人物像が明確であること、3人の仲の良さも楽しく、軽快にストーリィが展開するという印象です。そして、事件の鍵となるのは、以前頭を強く打った後記憶に混乱が生じている冬彦自身、という設定。
ただ、読後振り返ってみると、こんなことでこんな結果が生じて良いのかという疑問、そして私としては後味の悪さが残ります。
その一方、この高校、フリー・セックスなのでは? と思わせるところがあり、そんな雰囲気が索漠としたものになりがちな読後感を相殺しています。でも、それで良いのだろうか。

  

3.

●「火天風神」● 

火天風神画像

1994年10月
新潮社刊

2000年05月
新潮文庫化

2006年08月
光文社文庫化

1999/03/24

三浦半島にある一棟だけ建つリゾートマンション。それぞれの問題を抱えながら短期滞在しに来た登場人物らが大型台風の直撃を受け、想像もし難い状況下に追い込まれるというパニック・ストーリィ。

実際読み進むと、これでもかこれでもかという程のストーリィが早いテンポで展開されます。かなり迫真的ですが、現実感という面では差は開くばかり、という気もします。
登場人物それぞれに多少のドラマもあるのですが、どちらかと言うと奥行き不足という印象です。
ただ、この作品を読書中、新規購入したPCへのアプリ・インストール中にミスをしてしまい、Win98 を再インストールするという羽目に陥りました。そのため、登場人物に負けず劣らずパニック状態、楽しむなどという余裕は全くなく、読了およびPC復旧を終わってヤレヤレというのが正直な心中。本書の評価にもその影響があるのかもしれません。

    

4.

●「マレー半島すちゃらか紀行」(加門七海・高野宣李と共著)● 

   

1995年07月
新潮社刊

1998年10月
新潮文庫
(476円+税)

   

1999/08/21

女3人のマレー半島旅行。3人で代わる代わるに綴っていく形式の紀行文。
そしてこの紀行の持ち味といえば、若竹さん言うところのネコブル(トラブルの軽度なもの)が性懲りもなく起きる、ということでしょう。
読みながらも、よくもまあこれだけトラブルを引き起こしている、いやトラブルのタネを拾うものだと、呆れかえる思いがします。
なかなか読者では経験できないようなネコブルづくしを、疑似体験する楽しみ、というのが本書の読みどころかもしれません。
ネコブルの本当の理由は、通り一遍の観光旅行に飽き足らず、ジャングルの奥へも平気で入りこんでいく実行力にあるのだろうと思います。
本書を手に取ったら、まず、カバー裏の3人の旅行姿をひとめみてください。きっと不気味な感じにとらわれるでしょう。でも、中味を読んだ限り、3人とも比較的、普通の人です。

    

5.

●「プレゼント」● 

   
1996年05月
中央公論社刊

1998年12月
中公文庫化

  

1999/03/07

フリーター・葉村晶と警部補・小林舜太郎が交互に探偵役となる連作8篇。

ストーリィは日常ミステリではなく、本当の事件。
文庫の裏表紙には「間抜けだが悪気のない隣人たちがひき起こす騒動はいつも危険すぎる!」とありますが、ちょっと違うなあ。でも、事件の発生、犯人の行動が愚かしいの事実。
無関係な2人が交互に探偵役になっている理由もよくわからないし、葉村晶はともかく、小林舜太郎は没個性。もっと面白くなって良い本のように思うのに、充たされない思いが残ります。

海の底/物語/ロバの穴/殺人工作/あんたのせいよ/プレゼント/再生/トラブル・メイカー

  

6.

●「スクランブル」● 

 
スクランブル画像

1997年12月
集英社刊
(1600円+税)

2000年07月
集英社文庫化


1999/03/17

「80年代を背景に描く渾身の学園ミステリ」というのが帯の文句。
1995年友人の結婚披露宴に出席した「私」は、15年前に女子高校内で起きた殺人事件の犯人が、今金屏風の前に座っている人物と突如気づく。そこから幾度も過去に遡り、ストーリィが展開されていきます。

主要な登場人物は、当時の文芸部仲間、彦坂夏見、貝原マナミ、五十嵐洋子、沢渡静子、飛鳥しのぶ、宇佐春美の面々。
各章、それぞれ彼女らの内の一人に主役を変えながら、各自の物語として語られていきます。
本書の面白みは、クロスワード的なミステリ構成と、それに増して彼女らの個性的な高校生活ぶりにあります。とにかく、学園生活のその部分、彼女らのアウトローぶりを読んでいるだけでとても楽しい。
また、ミステリ・ファンである彼女らの、独り善がりの推理がズッコケる場面は、なかなかの見せ場(?)になっています。
それに比べると、最後に謎解きの逆転があるものの、正直言って事件そのものはつまらない、というのが感想です。

スクランブル/ボイルド/サニーサイド・アップ/ココット/フライド/オムレット

   

7.

●「名探偵は密航中」● ★☆   画:杉田比呂美


名探偵は密航中画像

2000年03月
光文社刊

2003年03月
光文社文庫

(590円+税)

 
2003/12/09

昭和5年、倫敦へ向かう豪華客船・箱根丸
欧州までの長い船旅中、船中で起きた事件の数々をオムニバス形式で描いたミステリ。
題名からすると、特定の名探偵が乗船しているのかと思うのですが、そうではない。もっと楽しいことに、事件の都度、探偵役も入れ替わるという構成。
飼い猫さえも探偵役をこなす「猫は航海中」などは、圧巻と言えるでしょう。
一口に事件といっても、殺人事件はもちろんあるにしろ、逃亡を阻止する緻密な妨害工作、巧妙な無賃乗船から、満を持しての復讐譚と様々。若竹さんとしてはかなり凝った作品です。

今頃、何でまた昭和期初頭が舞台?と思ったのですが、長い船旅だからこそのミステリ。
欧州渡航という船旅情緒もたっぷりに、それぞれ個性的な乗客の顔ぶれが面白く、楽しさ満喫できるミステリです。
(※個人的には、汽車好きの令嬢・岡本裕子と、とぼけた味の老僧・荒谷三蔵に惹かれました)

船は錨をあげる(プロローグ)/殺人者出帆/お嬢様乗船/猫は航海中/名探偵は密航中/幽霊船出現/船上の悪女/別れの汽笛/船は錨をおろす(エピローグ)

    

8.

●「依頼人は死んだ」●    画:杉田比呂美

 
依頼人は死んだ画像
 
2000年05月
文芸春秋刊
(1762円+税)

2003年06月
文春文庫化

  
2000/10/31

連作短篇ミステリプレゼントで初登場した、葉村晶を主人公とするミステリ短篇集。

「プレゼント」では長谷川探偵調査所というところに勤めていたことから、その縁で探偵役を務めた葉村晶でしたが、今回登場時点では調査所を退職済。職に就かずぶらぶらしていたところを、長谷川所長から声をかけられ、人手が足りない時だけ応援する契約探偵という立場で探偵業に復帰します。
この本を読んだのは、葉村晶というキャラクターの魅力にあります。訳あってずっと職を転々としてきた経歴、とくに美人でも愛敬があるわけでもない、もうすぐ29歳。他に仕事もないから引き受けているという探偵稼業。しかし、一度関わりをもつと最後まで筋を通さずにはいられない、という性格。その辺りに親近感を抱きます。
そうした主人公の魅力の割にというか、それなりにというか、ミステリの内容自体はとくに面白いという程のことはありません。葉村晶がむしろ脇役に回ることもあれば、ストーリィ展開にヒネリを加えて読者の目をくらますというものもあります。いろいろな工夫をしているけれども、その割に切れ味は良くない、という印象を受けます。まあまあの出来、というところでしょうか。

濃紺の悪魔/詩人の死/たぶん、暑かったから/鉄格子の女/アヴェ・マリア/依頼人は死んだ/女探偵の夏休み/わたしの調査に手加減はない/都合のいい地獄

     

9.

●「悪いうさぎ」●    画:杉田比呂美


悪いうさぎ画像
 
2001年10月
文芸春秋刊

(1810円+税)

2004年7月
文春文庫化

   

2001/12/17

フリーター調査員・葉村晶が活躍する3作目にして、初の長篇ミステリ。

今回葉村晶が依頼を受けた仕事は、家出した女子高生ミチルを連れ戻すというもの。しかし、いざ現場に至ると、晶はとんでもない目にあいます。しかも、それを契機に、ミチルの友人たちが次々と行方不明になっている事件の調査を請け負うことになります。腹をさされた傷をかばい、腫れ上がった脚を引きずりつつ、晶は事件を追っていきます。
本来フリーター程度に始めた調査員の仕事で、いつしか葉村晶は本職並に調査員らしくなり、自分自身に呆れながらも事件解明にこだわります。そんなところが、この葉村晶の魅力です。
ストーリィは女子高生の失踪で始まることから、女子高生をうさぎに例えたユーモアミステリの類かと思って読み始めましたが、とんだ大違い。結構陰惨な結末が待ち受けています。そして、“うさぎ”が重要なキーになっています。
ただし、ミステリとしてのストーリィは、それ程のものとは思いません。本書の魅力は、あくまで葉村晶という女調査員にあり、葉村晶の行動ストーリィ故の面白さと言えます。葉村晶ファンがいたら、本書はお薦めしたいところです。

乃南アサさんののバツイチ刑事・音道貴子と比べてみるのも面白そうです。(似ていないようで似ている)

         

10.

●「親切なおばけ」●(文・若竹七海、絵・杉田比呂美) ★☆


親切なおばけ画像
 
2006年12月
光文社刊

(1100円+税)

   

2007/02/24

 

amazon.co.jp

杉田比呂美さんの絵は以前から大好きなので、杉田さんが絵を描いての絵本となれば手がでるのは私にとっては当然のこと。
その本書、子供向け絵本というより、大人も子供も楽しめる大人向け絵本といった作品だろうと思います。

ストーリィもなかなかしっかりしています。それでいて子供の世界だからこそあり得るだろう、コミカルな結末。

主人公のノノコちゃんという女の子が両親、祖父とともに暮らしている一軒家はとても古くて家の中が傾いている程。
近所の子供たちからは「おばけやしき」と言われ、そこに住んでいるノノコはおばけだから遊んでやらないよ、と仲間外れにされています。
それでもおばけなんてあたしきり、とノノコは強がりますが、おじいさんはそれなら人のために頑張る、優しい“親切なおばけ”にならないとねと励ましてくれます。
そんなおじいさんが亡くなって葬式が営まれますが、親切なおばけになろうとおじいさたんのために頑張ったノノコはかえって次々と騒動を引き起こす結果に。
そんな小さな物語ですけれど、おじいさんの優しさと、ノノコに健気に、ユーモラスな騒動、ほっと気持ちが和む結果が快い読後感として残ります。
私としては好きなタイプの物語。杉田さんの絵もたっぷり楽しめます。

※私が子供の頃住んでいた一軒家も、近所の建設工事等の影響で傾いていました。ビー玉を置くと自然に転がっていってしまう。だからノノコちゃんの家は他人事でなく懐かしい。

 

若竹七海作品のページ No.2

  


 

to Top Page     to 国内作家 Index