植松三十里(みどり)作品のページ


1954年埼玉県生、静岡県育ち、東京女子大学史学科卒。婦人画報社勤務、7年間の在米生活、建築都市デザイン事務所勤務等を経て作家。2003年「桑港にて」にて第27回歴史文学賞、09年「群青−日本海軍の礎を築いた男−」にて第28回新田次郎文学賞、「彫残二人」にて第15回中山義秀文学賞を受賞。


1.帝国ホテル建築物語 

2.鹿鳴館の花は散らず 

 


                   

1.
「帝国ホテル建築物語 The Imperial Hotel Building Story ★★


帝国ホテル建築物語

2019年04月
PHP研究所

(1800円+税)

2023年01月
PHP文芸文庫



2019/05/16



amazon.co.jp

米国人のフランク・ロイド・ライトがかつて帝国ホテルを設計・建築し、その建物(通称“ライト館”)の一部は現在<明治村>に保存されている、ということは広く知られていることだと思います。
しかし、それ以上のことは知らない、というのもまた事実。
本作品は、その帝国ホテル建築に至る史実ストーリィ。

題名からその足取りが淡々と事実に添って綴られている作品かと思ったのですが、あにはからんや、実に人間くさいストーリィに仕上がっていました。
本作は建築物語である以上に、建築に関わった人々の物語、と言って良いでしょう。

歴史的な建築物とは、様々な人が集まって作られるもの、まさに本作はそうしたストーリィ。
時は大正時代。
渋沢栄一や大倉喜八郎に請われて帝国ホテル支配人を引き受けた
林愛作、その林の友人でもあり著名な米国人建築家であるフランク・ロイド・ライト、ライトを崇拝してその助手となった遠藤新らを計画実行にかかる中心人物として、<ライト館>の建築計画がスタートします。

そのほぼ最初から、建築に関わる様々な人々のドラマが色濃く綴られていきます。
完璧性を追求するライトの頑なな姿勢、意思疎通が不十分な故に反発する職人たち、とかく建築費用のことばかり気にする重役たち、間に挟まって苦労する遠藤新や林愛作ら。
その林愛作や遠藤新の人生も、建築物語と平行して語られます。
しかし、熱心に取り組んだからといって、その苦労が報われるかと言えば、必ずしもそう理想通りに進まない所が現実の難しさ、厳しさ。
結局、ライト、林愛作、遠藤新らは、完成を見ることなく、実務の場から遠ざけられます。
ただ、どちらが正しいか、そう簡単に言えるものではないことも事実でしょう。民間事業である以上採算性を無視して経営することはできないのですから。

昨年のGW、40年ぶりぐらいに明治村を再訪しましたが、その前に本書を読むことが出来ていたら、ライト館の造りをもっと丁寧に見ることができていただろうと思って、かなり悔しい。


プロローグ/1.男たちの絆/2.果てなき図面/3.登り窯の里/4.待ちわびた着工/5.ゆるぎない覚悟/6.天使たちの歌声/7.失われた本館/8.激動の竣工/エピローグ

                      

2.
「鹿鳴館の花は散らず ★★


鹿鳴館の花は散らず

2024年07月
PHP研究所

(1900円+税)



2024/08/17



amazon.co.jp

欧米との不平等条約改正のための“鹿鳴館外交”、その一翼を担った“鹿鳴館の花”と呼ばれた一人にして、日本赤十字社篤志看護婦人会会長等社会活動に尽力した、鍋島榮子(ながこ)の生涯を綴った歴史小説。

公家の娘=
廣橋榮子、16歳で岩倉具視の長男=具義に嫁すが、具義は23歳で早世。
その後、岩倉具視の斡旋で元九州佐賀藩主で外交官となった
鍋島直大(なおひろ)侯爵に再嫁。
夫婦で赴任したローマから帰国後、鹿鳴館外交を担う女性の一人となる。

鹿鳴館での活動は、夫の直大や夫の上司である
井上馨外務大臣の要請に基づくものでしたが、日本赤十字社の活動に協力して以降の榮子のバイタリティ溢れる行動力はまさに感嘆するしかありません。
それは“ノブレス・オブリージュ”という精神に基づく、榮子自身の意思であり、自ら行動したものですから。
 

鍋島榮子という傑物女性の履歴というだけでも読み応えがありますが、男性たちによる女性軽視への闘いでもあったという点に惹きつけられます。

※皇室に絡む人物史という面で、榮子の長女=
伊都子が梨本宮妃、孫娘=方子が朝鮮の李王妃となったこと、三女=信子系の孫娘=勢津子が秩父宮妃となったことは、個人的に興味深い。

1.鹿鳴館の名花/2.幕末騒乱の都/3.不平等条約改正/4.磐梯山噴火/5.肥前佐賀藩/6.若き看護師たち/7.ひそやかな偉業

      


   

to Top Page     to 国内作家 Index