辻 真先作品のページ


1932年名古屋生。草創期のテレビ制作演出を勤めた後、アニメ脚本、劇画原作を執筆。1982年「アリスの国の殺人」にて日本推理作家協会賞を受賞。


1.サハリン脱走列車

2.本格・結婚殺人事件

3.ブーゲンビリアは死の香り 他

4.昭和は遠くなりにけり

5.天使の殺人[完全版]

 


 

1.

●「サハリン脱走列車」● 

 

1997年8月
講談社刊

 

1997/09/27

日経新聞の書評を読んで期待した程のことはなかったが、面白く読んだのは事実。
敗戦日の8月15日以降になって、樺太の人々が突如として教われたソ連の侵攻と、それに恐慌をきたした人々の姿、その事実を描き出す。というと、きわめてシリアスなストーリィを予想してしまいますが、あにはからんや、辻真先という人らしくストーリィ運びの中についコミカルな生地がでてしまいます。また、主要登場人物のひとりひとりに魅力的な面白味があり、なんとなくコミカルさを感じてしまう。シリアスさとコミカルさがない交ぜになった、冒険小説というべきでしょう。戦争物語、というよりも。でも、当時の樺太の状況を知るのに役立つ本でもあることも事実です。

 

2.

●「本格・結婚殺人事件」●

 

1997年1月
朝日ソノラマ刊

 

1999/02/11

辻さんらしい悪戯心を織り込んだミステリ、あるいはユーモア作品。
まずは、“ざ・みすてり”大賞候補作という作中小説3篇を楽しみ、同時にその選考会のやり取りを楽しみます。
続きまして、選考委員3人を襲った本当の(?)の事件、その謎解きというストーリィへ進みます。そして解決。そこではきちんと大賞選考と事件の経緯が結び付けられています。
その一方、本作品は徹底して“結婚”にこだわったストーリィでもあります。なにしろ、主人公
可能キリコ牧薩次との結婚話から始まり、他の2組の結婚話を経て、二人の披露宴で終わるのですから。
そして読後よくよく考えてみると、読者は4つのミステリを楽しんでいたのでした。
それより、私としてはかつてファンだった、
可能克郎(キリコの兄)、智佐子の夫婦に再会できたことが嬉しいことでした。 (下記参照)

目次:あとがき/第一部 入賞から選考へ/第二部 動機から捜査へ/第三部 脱稿から執筆へ/まえがき/真・あとがき

 

3.

「ブーゲンビリアは死の香り」他●

萱庭智佐子・可能克郎コンピによる“トラベル・ミステリー”→“ホームドラマ・ミステリー”シリーズ。当時、智佐子はツアー・コンダクター、克郎は「夕刊サン」の新米記者でした。

1.ブーゲンビリアは死の香り   (シンガポール 3泊4日死体つき)
2.列車内での悲鳴はお静かに   (オリエント急行6泊7日死体つき)
3.南の島のお熱い殺意      (モリディヴ・ツァー7泊8日死体つき)
4.自由の女神にないしょで殺人  (ニューヨーク 8泊9日死体つき)
5.犯人のお好みは麻婆豆腐だった (上海6泊7日死体つき)
2人のハネムーン
6.婿ドノのいのちが危ない    (1LDKエアコンなし 死体つき)
7.新妻は二度ずつ、だまされる! (豪邸タダで貸します  死体つき)
8.若夫婦の寝室に潜んだヤツは誰だ(家賃格安オンボロ団地 死体つき)

このシリーズは、所々の台詞、文章が面白く、飛びあがって喜びたい箇所がたくさん ありました。
例えば第1作で、自分を「ブス」と呼んだOL3人組に対する智佐子の
「あのトリオめ、レイプされて死ね」とか、「冗談ではない、作者の私自身びっくり仰天した」とか。
このシリーズ、智佐子・克郎が探偵コンビというものの、いつも事件解決の手柄は予想外の人物に横取りされています。そんな結末もユーモラス。
なお、第1作目で登場する
可能キリコの他、上記本格・結婚殺人事件の主要登場人物、スナック「蟻巣」のママ・近江由布子新谷とかが既にこのシリーズで登場しています。
残念ながらこのシリーズ(新潮文庫刊)は、絶版となった様子です。

 

4.

「昭和は遠くなりにけり−時の回廊−」● ★★




1999年1月
朝日ソノラマ刊
(1700円+税)

 

1999/08/08

広瀬正「マイナス・ゼロ」を彷彿させる、タイム・トラベル・ミステリ或いは時空を超えたラブ・ロマンス、と言うべき作品です。
辻さんは、この作品を
「亡き広瀬正さんと亡き藤子・F・不二雄さんに捧げます」と書いています。したがって、広瀬作品を彷彿させるのも当然のことでしょう。

昭和29年の青函連絡船・洞爺丸転覆事故、その事故から奇跡的に救出された青年が本作品の主人公です。彼は記憶を喪失しており、鈴木太郎と仮に呼ばれます。上京した太郎は、新たに始まったテレビ放送制作の仕事に携る。そして新人女優の野末速美という恋人を得ます。
ラブ・ストーリィの展開かと思うと、一転してストーリィはタイム・トラベルへ。それでいてなお、ラブ・ストーリィの要素を引きずりつつ、ストーリィは更に広がっていきます。
タイム・トラベルのパターンは各種ありますが、本作品は間違いなく
「マイナス・ゼロ」のパターンです。辻さんの愛着故でしょう。
しかし、本作品は単に広瀬作品の踏襲だけでなく、昭和の時代へのノスタルジーが一杯詰まっているような気がします。既に平成も二桁になり、昭和はますます遠くなって行く。この辺で、昭和の時代を清算しておこうか、というような辻さんの思いを感じます。本書の題名は、そんな辻さんの気分を表しているものと思います。
そして、淀みなく流れるようなストーリィ展開は、辻さんならではの巧さが光ります。
最初から最後まで、いろいろな思いを味わい、楽しめる作品です。

※やはりノスタルジックなタイム・トラベル作品に、小林信彦「イエスタディ・ワンス・モア」があります。

  

5.

「天使の殺人[完全版]」● 

 

 
※1983年
大和書房

2002年2月
創元推理文庫
(680円+税)

 
2002/05/04

犯人も探偵も天使という、風変わりなミステリ。
人気上昇中の前衛劇団・大劇魔団の新しい上演作品は、「天使の殺人」という題名の推理劇。しかし、その作者の正体も結末ストーリーも皆目不明という謎めいた状況。その中で、3人の美人女優が主役“北風みねこ”の座を狙い、ライヴァルを排除しようと殺人計画を練ります。
しかし、死を望んでいたのは、何も彼女達だけではなかった。死者の出迎え役に任じられた2人の天使も、殺人事件の発生を待ち望んでいたのです。もっとも、天使が望んでいたのは、北風みねこの死だというから、ややこしい。

小説版の方は、ややこしさ+ユーモラスな実況的ミステリ、という印象が強く、面白さとしては今一歩。
むしろ、結末の異なる戯曲版の方が、展開も明快で面白く感じます。ただ、推理は一転、二転と、めまぐるしく逆転を繰り返します。井上ひさし「珍訳聖書」を思い出させるような推理劇。

小説版 天使の殺人/戯曲版 天使の殺人

 


 

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