砥上裕將
(とがみ ひろまさ)作品のページ


1984年生、福岡県出身。水墨画家。「線は、僕を描く」にて第59回メフィスト賞を受賞し作家デビュー。同作にてブランチBOOK大賞2019受賞。


1.線は、僕を描く

2.7.5グラムの奇跡 

3.一線の湖 

  


       

1.

「線は、僕を描く ★★★


線は、僕を描く

2019年07月
講談社

(1500円+税)

2021年10月
講談社文庫



2019/07/24



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水墨画の世界を舞台にした、とても美しいストーリィ。

両親を交通事故で失って以来、喪失感を引きずったままの大学生=
青山霜介は、水墨画のパネル展示を手伝うバイトが縁となり、西濱湖峰、その師であり日本水墨画界の巨匠である篠田湖山と知り合います。
湖山と知らぬまま、促されて展示された水墨画の印象を正直に語っていたところ、何故が湖山にひどく気に入られたらしい。
その孫娘で超美人の
篠田千瑛(ちあき)は、唐突に湖山が霜介を内弟子にしたいと言い出したことについ興奮してしまう。何故なら千瑛、未だ祖父に認められていないという思いがあるため。
そして霜介と千瑛、あろうことか1年後の<
湖山賞>をめぐって勝負をすることになります。

いきなりの巨匠の発言に唖然とした霜介ですが、それから素直に湖山のアトリエ兼自宅に通い、その指導を受けながら水墨画の世界を極めていくことになります。

水墨画は筆の線から始まり、描き手である人物の有り様、人生まで表すもの。
その意味で本作は、水墨画の修業を通して、霜介の青春、人間的成長ストーリィになっています。
成長を遂げるのは霜介だけではなく、霜介と競うようにして、次第に認め合いながら、共に水墨画を極める道を進む千瑛も同様。

霜介、千瑛を囲み、様々な人物が周囲に登場します。
霜介の学友である
古前、水墨画に興味を持つ女子大生の川岸
突然の師となった篠田湖山以外にも、その弟子である
西濱湖峰、斉藤湖栖、湖山も評価する水墨画家の藤堂翠山、と。
皆に見守られ、励まされながら、霜介と千瑛が切磋琢磨し合いながらひたすら道を究めていく展開、美しいという以外の何物でもありません。

読了後は、清浄な気持ちに胸が満たされたようです。
是非、お薦め。

第一章/第二章/第三章/第四章

 ※映画化 → 「線は、僕を描く

  

2.

「7.5グラムの奇跡 3.5 grams of you ★★   


7.5グラムの奇跡

2021年10月
講談社

(1550円+税)



2021/10/31



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珍しくも眼科の世界がストーリィの舞台。
そのうえ主人公は、新米で不器用なところのある
“視能訓練士”野宮恭一

私は眼科へ定期的に通わざるを得ない立場なのですが、視能訓練士という国家資格のことはまるで知りませんでした。
主人公を医師ではなく視能訓練士に設定したのは、至極もっともと思います。
医師と違ってまだ新米、これから成長すべき発展途上段階の人物なのですから。

有能な先輩視能訓練士の
広瀬真織、懐の深い北見治五郎院長、野宮を都合よく利用する看護師の丘本真衣、やたら元気な同・岡田剣に囲まれての連作風ストーリィ。

各篇、様々な症状の患者が登場しますが、
神様のカルテのような医療ドラマと比べると、そこは眼科だけに小ぶりな印象は否めません。
でも、その分丹念に、丁寧に描いている処が印象的。そこに好感を抱きます。

目新しい分野を切り開いていく斬新性といい、デビュー2作目も十分に期待に応えてくれたと評価したい。


1.盲目の海に浮かぶ孤島/2.瞳の中の月/3.夜の虹/4.面影の輝度/5.光への瞬目

            

3.

「一線の湖 ★★★   




2023年12月
講談社

(1800円+税)



2024/01/11



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待望の線は、僕を描く続編。

前作で、水墨画の世界に立ち入り、順調な成長を見せた主人公の
青山霜介でしたが、本作冒頭で早々と大失敗をやらかし、深刻な挫折に向かい合うことになります。
どんなに才能のある人だからといって、順調ばかりである筈はないし、むしろ挫折がない方が怖いくらいです。
とはいえ霜介の失敗は、大勢の見ている前でのことであっただけに、その後も霜介に対する大勢の視線は冷たい。
そのうえ、前作で霜介の才能を見出した
篠田湖山先生の態度もまた、厳しいと言うしかないもの。
一方、湖山賞を最年少で受賞した
千瑛は新進の若手水墨画家として一気に注目を高め、あちこちからひっぱりだこにあって超多忙の様子。

ただでさえ、大学3年生となり今後の進路に迷っていた霜介とすれば、大きな岐路に立たされた、と言う処でしょう。

そんな泥沼状態の霜介に新たな道を開いたのは、体調不良となった
西濱湖峰に代わって、小学生相手に水墨画の授業を行うことになったこと。子どもたちが描く活き活きとした絵に、霜介は感動と衝撃を覚えます。
しかし、さらなる事故が霜介を襲います。
それらを乗り越えて、霜介はどう水墨画の世界に立ち戻っていくのか。

本作には、霜介の新たな成長が描かれますが、それ以上に、深遠なる水墨画の世界が新たに幕を開けて目の前に広がり、陶然とさせられます。

また、読み終えた時には、目の前に遥けく大きな世界、湖山や湖峰、
湖栖だけでなく、千瑛や霜介も取り込んで、未来へと繋がっていく景色を見る思いでした。

一頁一頁、本物語の全てが愛おしくてたまらない、そんな気持ちを味わえる逸品です。 是非、お薦め。


第一章/第二章/第三章/第四章/第五章

     


  

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