武内 涼
作品のページ


1978年群馬県生、早稲田大学第一文学部卒。映画、テレビ番組の制作に携わった後、第17回日本ホラー小説大賞の最終候補作となった作品を改題・改稿した「忍びの森」にて作家デビュー。2015年「妖草師」シリーズにて徳間文庫大賞、22年「阿修羅草紙」にて第24回大藪春彦賞を受賞。


1.阿修羅草紙

2.厳島

  


       

1.

「阿修羅草紙 ★☆       大藪春彦賞


阿修羅草紙

2020年12月
新潮社

(2100円+税)

2024年01月
新潮文庫



2021/01/12



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時代は足利将軍・義政の時代。
主人公は、比叡山を守る忍び=
八瀬童子のくノ一であるすがる

比叡山延暦寺の宝物が何者かによって奪われます。
しかも、すがるの父で熟練の忍びでもあった
般若丸を含む8人の守部を殺害したうえで。
中ノ頭に任命されたすがるに、盗まれた宝物の奪回、盗んだ者への処罰が命じられます。助っ人は雇われた伊賀者2名。

本作はそこから始まる、熾烈な忍び同士の戦いを描く忍者もの長編時代小説。
しかし、何時の間にか、何のために宝物を奪い返すのかという目的は薄まり、忍び同士の、お互いに潰し合うかのような闘いが延々と続けられます。正直なところ、悲哀ばかりが増していく、といった展開。

・八瀬童子=忍びといえば、
隆慶一郎「花と火の帝。もっとも時代も異なれば、仕える先も異なり(本作は延暦寺、隆作品は帝)ますが、後者には伝奇小説としての面白さがありました。
・また、忍び同士の殺し合いというと、
山田風太郎「忍法八犬伝を思い出しますが、伝奇小説だけにカラッとした明るさがありました。
両作に比べ、明るさはなく、陰惨さばかり感じるストーリィと言って良いでしょう。
・なお、ストーリィ中には将軍義政、ならびにその側女であった今参局のことが出てきますが、ちょうど
奥山景布子「浄土双六で読んだばかりのことだったので、理解がし易かったです。

忍びの技という面では読み応えたっぷりですが、本作を読み終えた時には悲哀ばかりが強く残った、という感じです。

     

2.

「厳 島 ★★   


厳島

2023年04月
新潮社

(2300円+税)



2023/05/08



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これまで読んだ戦国小説というと、武田信玄・上杉謙信・織田信長以降、英雄と呼ばれる武将たちの物語ばかりで、主要舞台である中央から外れた毛利元就辺りは、まるで知りませんでした。

本作は、僅か二ヶ国(安芸・備後)を所有する小大名に過ぎなかった
毛利元就が、それまで服従していた陶晴賢(実質西国六ヶ国を支配)に反旗を翻し、独立を図った戦い<厳島の戦い>の前後全てを描いた戦国小説。

四千の寡兵をもって二万八千の大軍を擁する陶晴賢に勝つために元就が取った作戦は・・・謀略。
戦に謀は付きものではありますが、本作に描かれる元就の謀略は凄まじい。とにかくえげつない、の一言です。
まずその内容はというと、陶方の大将間に内通の疑惑を持たせ、内部抗争を誘うといったもの。
そして、寡兵をもって大軍を破る舞台として選んだのが、厳島という次第。

そんな元就に対し、謀は戦さの常であっても行ってはならないことがある、それは“信を壊すこと”だと怒るのが、陶晴賢に従う智将の
弘中隆兼
本作に描かれる厳島の戦いは、謀略を持って挑む毛利元就と3人の息子たち(
隆元・吉川元春・小早川隆景)と、武を誇る陶晴賢と元就の謀略を疑う弘中隆兼との戦いだった、と言って良いでしょう。

本作に描かれる武将としての毛利元就、とても好きになれるものではありませんが、矢継ぎ早に放つその謀略の凄まじさ、効果の程は大きく、まさに頁を繰る手がとまりません。

こんな面白い時代小説を読んだのは久しぶり、という快作。
戦いの舞台が、あの厳島神社のある厳島ですから、そんな激戦があったとは信じられないという思いが、本作をさらに面白くしてくれています。 お薦め。


序/秘計/三兄弟/防芸引き分け/折敷畑/騙し合い/隆助初陣/罠/琥珀院/囮城/栄興寺/布陣/炎/決戦/龍ヶ馬場/終章

     


  

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