奥山景布子
(きょうこ)作品のページ


1966年愛知県生、名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。高校教諭、大学専任講師等を経て、2007年「平家蟹異聞」にて第87回オール読物新人賞を受賞し、09年受賞作を含む「源平六花撰」にて単行本デビュー。2018年「葵の残葉」にて第37回新田次郎文学賞を受賞。


1.音わざ吹き寄せ

2.たらふくつるてん


3.葵の残葉

4.圓朝

 


           

1.

「音わざ吹き寄せ−稽古長屋− ★★


音わざ吹き寄せ

2014年11月
文芸春秋刊
(1650円+税)



2014/12/11



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将来を嘱望されていた女形だったが、脚に一生残る怪我をして長唄の師匠となった兄=音四郎、三味線弾きの異父妹=お久の2人による稽古屋稼業。
そして、兄の縁談の障害となったため、実家を出て2人の長屋に住み込みのお手伝いとして入った
お光が2人に加わります。
その3人がストーリィの軸となって展開する、連作風時代小説。

果たして面白いのだろうかと些か疑いを持っていたのですが、実際に読み始めてみると最初のページから何とはなしに面白さを感じて、楽しい気分になりました。
同じお役者絡みとはいえ、
田牧大和“濱次お役者双六”シリーズとは全く異なった雰囲気。一家の中心である音四郎が突出することなく、妹のお久、お手伝いのお光という3人がバランスのとれたトリオを構成していて、各々が主役的目線を備えているところが本作品の独特な隠し味となっていて、楽しい。

ストーリィは上記3人と彼らに関わりある人々の身に起きた出来事を描いていくのですが、ドラマティックな大きな波の様な展開はなく、小さなうねりが繰り返され、あるいは積み重ねられて皆それぞれに少しずつ前進していく、という展開。
短編小説であると同時に長編小説としての味わいも楽しめるところが、何とも贅沢な楽しさです。
(※唄の内容にも絡むのですが、私の理解がそれに届かず)

必ずしもはっきりとした答え、あるいは解決がある訳ではありませんが、理屈を超えた雰囲気の良さ、味わいの良さ、これが実に心地良いのです。
考えてみると本書には、根っからの悪人は登場していません。そんなところにも味わいの良さの理由があるのかもしれません。

新しい味わい良さを感じさせてくれる時代小説、お薦めです。

大女/ならのかんぬし/いぬぼうざき/はで彦/宵は待ち/鷺娘/菊の露/丙午/にせ絵

              

2.
「たらふくつるてん」 ★★


たらふくつるてん

2015年09月
中央公論新社

(1700円+税)



2015/10/01



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江戸落語の祖と言われる鹿野武左衛門の人生をユーモラスに描いた時代小説。

京の都に暮らす
武平は、塗師だったものの腕が良いとはとても言えず、そのくせ辻噺や見世物の類が大好きと、女房が怒るのも当然といった冴えない男。
そんな武平が思わぬトラブルに巻き込まれ、慌てて京の都を逃げ出し江戸へ至ります。
その江戸では、武平の語る噺が面白いと近付いてきた絵師たちに好きなようにセッティングされ、いつの間にか武平は噺を語って金を稼ぐ噺家となり、付けられた名前が「鹿野武左衛門」。
ところが世は犬公方と言われた五代将軍綱吉の時代。人が喜ぶ面白い噺を語れない鬱憤がいつしか溜まる内に・・・・・。

江戸落語発祥の物語かという展開も興味深いのですが、それ以上に本作品が楽しいのは、いつの間にか武平を囲む仲間の輪が生まれ、京に居た頃と違って武平が活き活きとしてくる処。
今日の都では無口で陰気な男だった武平が、何時の間にかいっぱしの自信と自分の噺に自負を持つようになっていくのですから、人の運命が転がっていく様子は面白いものです。
また、本ストーリィの楽しさは、武平ら男性陣だけによるものではありません。やがて武平の噺に三味線を合わせることになる
お咲お春といった女性陣の存在が、武平らのストーリィに彩りを与えています。
とくにお咲のキャラクターが秀逸。男が成功と幸せを手に入れるためには女性の支えが無くてはならぬもの、と指し示されているような気がします。

珍妙で愉快、そして個性的な仲間たちに囲まれての、活き活きとした楽しさを味わえる長編時代小説。
なお、最後は思いもよらぬ一幕が待っています。お楽しみに。


序.マクラ/1.発端 東の旅/2.日本橋/3.鹿野武左衛門/4.三枚起請/5.花見の仇討ち/6.仲間割れ/7.業/8.流人船/結.ご祝儀

              

3.

「葵の残葉 ★★        新田次郎文学賞


葵の残葉

2017年12月
文芸春秋刊

(1800円+税)



2018/01/14



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尾張徳川家の分家である高須松平家は子福者。
その結果、兄弟の内4人が他家への養子となり、幕末を迎えることになります。

それだけ聞いても特に何かを感じることはないのですが、その養子先が
尾張徳川家(次男=慶勝・五男=茂栄)、会津藩松平家(八男=容保)、桑名藩松平家(十男=定敬)と聞けば、目を見張らざるを得ません。
何しろ、幕末〜維新において尾張藩は維新派として、会津藩(京都守護職)と桑名藩(京都所司代)は佐幕派として戦ったのですから。

ただし、兄弟間の対立は、各個人の考え方の違いということもあるとはいえ、置かれた立場の違いということが大きかったのではないでしょうか。
尾張藩慶勝は御三家として幕府と同じレベルで日本の行く末を考えられる立場にあったのでしょうし、会津藩容保は、保科正之以来将軍家を支えるべき親藩として運命付けられていたのでしょうから。
同じ父親から生まれた兄弟とはいえ、こんなにも選択した道に違いが生じたことに運命の面白さを感じますが、それ以上に難しい選択であっただろうということがリアルに感じられます。

薩長対徳川という関ヶ原以来の再対決という面があるのも確かですが、変わらなければならないと考える側と変わりたくないという側の対立だったとも思うのです。
その点で、上記4兄弟の内では、西洋文化への関心が高かった徳川慶勝
に最も親近感を抱いた次第。

なお、
「序」「結」は明治11年、慶勝の発案により兄弟4人が集まり、銀座の写真館でそろって写真を撮ろうとする場面。
過去に複雑な経緯があったにしろ、兄弟が一堂に揃って写真を撮るということに、ほっとする読後感が生まれます。


序.二見朝隈写真館/1.写真と謹慎/2.家長のアングル/3.京という被写体/4.芋とレンズ/5.青松葉/6.荒城の月/7.金鯱、降りる/結.葵の残葉

                

4.
「圓 朝 --


圓朝

2019年02月
中央公論新社

(1800円+税)

2019/03/--

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       近日中に読書予定









序/1.牡丹灯籠/2.鰍沢/3.江島屋/4.乳房榎/5.塩原多助/6.真景累ヶ淵/7.名人長二/結.ふたたび、牡丹灯籠

   


   

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