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1.山の上のランチタイム(文庫改題:お山の上のレストラン) 2.山のふもとのブレイクタイム(文庫改題:お山の上のレストラン2) 3.藍色ちくちく 4.小田くん家は南部せんべい店 5.ちゃっけがいる移動図書館 |
「山の上のランチタイム Lunchtime on the Moutain」 ★★ (文庫改題:お山の上のレストラン−七歳児参りのふっくらムニエル) |
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2024年02月
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風光明媚な土地にあるレストランを舞台にした連作ストーリィ。最近はそうした設定の作品が多くなったなぁと思います。 その魅力は、爽やかさと美味しそうな料理にある、というのはもはや定番と言って良いでしょう。 本書の舞台となるのは青森県南部にある葵岳、そのふもとにあるレストラン“コッヘル デル モタキッラ(セキレイの調理器具)”、通称:葵レストラン。 スタッフはイケメン店長の明智登麿・25歳、その甥で不登校中の中二・明智瑛太、そして主人公である青木美玖・20歳の3人。 この主人公がかなり賑わしい。そそっかしくて不器用で、やたら元気。元柔道部。とはいえ、料理に対する味覚への信頼度は高いらしい。 ただ、11年前に家族3人で葵岳登山をしたその帰り、目の前で母親が転落死するという辛い過去を背負っている。いつも美玖が振りまく笑顔に、どこか無理しているところはないのだろうか。 各章、親子の繋がり、理解し合うことの難しさ、気持ちのすれ違いといった内容になっています。 「七歳児参りのふっくらムニエル」は母親を失くした息子と父親の関係、「崖っぷちのオッキ・ディ・ブェ」は不登校中の瑛太の事情、「塩むすびのてっぺんマリアージュ」は葵岳山頂での結婚パーティを望んできた和田蘭が抱えてきた想い、「四十年のミルフィーユ」は余命僅かとなった母親と中年男性の息子の関係、そして「リスタードのトリュフチョコ」は未だ妻の死を抱え込んでいるらしい父親と美玖の対立・・・。 ストーリィの背後にはいつも葵岳があり、美味しそうな料理がストーリィを進める要素になっているところが、爽快。 ちょっと突出気味ではありますが、美玖の健気な快活さに元気づけられるようで、好感。 1.七歳児参りのふっくらムニエル/2.崖っぷちのオッキ・ディ・ブェ/3.塩むすびのてっぺんマリアージュ/4.四十年のミルフィーユ/5.リスタードのトリュフチョコ |
「山のふもとのブレイクタイム」 ★★ Time for a Break at the foot of the mountain (文庫改題:お山の上のレストラン2−青葉の頃 ハーブポークの休息) |
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2024年03月
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青森県南部にある葵岳、そのふもとにあるレストラン“コッヘル デル モタキッラ(セキレイの調理器具)”、通称:葵レストランを舞台にしたストーリィ「山の上のランチタイム」の続編。 自然にあふれた爽快さと如何にも美味しそうな料理、というロケーション&道具立てのところから魅力あった前作、その続編ということであればとても嬉しい。 同じく高原のレストランという設定では、柴田よしき“高原カフェ日誌”も充分魅力的なのですが、本作はシェフの明智登麿も店員の青木美玖も共に20代と若々しいところが魅力。 また、その美玖、単に料理の運び手に留まらず、登麿の作る料理の味にも貢献しているらしいのが、嬉しいところ。 未だいろいろ迷いもし、葛藤もするシェフ・登麿。それに対し、猪突猛進といった具合に迷いなく突進する美玖。この2人に高校生バイトの瑛太が加わってくると、実に良いチームです。 ・「ハーブポークの休息」:瑛太の同級生=早苗。テニスがずっと不調というが、その挙げ句しようとしたことは・・・。 ・「こんがりチーズの焼きおにぎり」:小中の同級生=馬場健が祖母・母親連れで来店。登麿に祖母との思い出を回想させます。 ・「見えないケーキ」:中学時の同級生=工藤陽菜が来店。娘自慢の両親によると、東京の上京企業で活躍中というのだが。 ・「水ぬるむ頃まで」:小学校の同級生で今は地元紙の記者を務める西野が来店。その傍若無人な要求を、何故登麿は受け入れ続けるのか・・・。 登麿と美玖の関係、ちょっと前進でしょうか。次作が楽しみ。 1.青葉の頃−ハーブポークの休息/2.お盆の頃−こんがりチーズの焼きおにぎり/3.もみじの頃−見えないケーキ/4.水ぬるむ頃まで−ホワイトソースと厄介な頼み |
「藍色ちくちく−魔女の菱刺し工房−」 ★★ | |
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日本三大刺し子のひとつ、青森県南部地方に伝わる“南部菱刺し”をモチーフにした連作風ストーリィ。 寒冷な地域だったので木綿が育たず、育てやすい麻で布を織ったものの、麻布は目が粗いため寒い。そのため、撚って太くした糸でその隙間を埋めていく、それが南部菱刺しだそうです。 第一章の冒頭、高校生の武田綾は偶然、高齢女性の豊川より子が開いている<菱刺し工房>のことを知り そこに通うようになります。 規則正しい作業、集中して気持ちが落ち着く上に、この工房の居心地が何とも良い、という訳で。 そこから始まる、工房に関係する4人のストーリィ+各章の末尾に付けるようにして豊川より子の人生が語られます。 各章の主人公それぞれにいろいろな出来事、苦労、悩みがありますが、総じて地味で割と静かなストーリィ。 そして、菱刺しが各主人公の支えや救いになってくれる、というのがその内容。 綾の言葉ではないですけれど、本作の居心地良さに浸っていられるところが本作の魅力のひとつ。そしてもうひとつの魅力は、南部菱刺しのことを知る楽しみ、と言って良いでしょう。 ・「魔女の菱刺し工房」:主人公は進路を決められないでいる高校生=武田綾。友人の栗生賢吾も一緒に工房に出入りするようになりますが、全篇を通じてこの2人のやりとりが楽しい。 ・「今日の佳き日の矢羽根」:結婚間近の田向井結菜、このところ父親とギクシャクしていることが悩みの種。 ・「ひょうたん」:施設に入所している母親の世話を一人で見ている石田香織、母親の認知症度が進んでいて苦労。そのうえ母親の言動が香織を一層苛立たせて・・・。 ・「真麻の聴色」:6年間引き籠りの生活を送ってきた、より子の孫=亮平。ある出来事から引き籠っていられなくなり・・・。 1.魔女の菱刺し工房/2.今日の佳き日の矢羽根/3.ひょうたん/4.真麻の聴色(ゆるしいろ) |
「小田くん家(ち)は南部せんべい店」 ★★ | |
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ユニークな題名に、それだけで惹かれるものがあります。 舞台は、青森県の片田舎。 主人公である弘毅(こうき)は小四、祖父に似て背が低いのが悩みです。 婿である父親は会社勤めですが、祖父のよっしー・祖母のなぎばあ・母親とパートの安江さんで営む、家族経営のせんべい店。 高一の姉=芽衣と弘毅も、店が忙しければ手伝います。 しかし、弘毅は家業が嫌い。いつも小麦粉まみれになり、フケ、汚いと同級生たちから馬鹿にされているから。 それなのに課外授業で皆が、自分ちの店に来るなんて! ところが、隣の歯科医院の息子で不登校中の松田潤が、その翌日からせんべいを焼いてみたい小田家を訪れるようになり、対抗心を燃やした弘毅も、祖父の指導の下に潤と一緒にせんべいを焼き始めて・・・。 昭和の雰囲気を漂わせる三世代の家族物語、それに加えて、小学生である弘毅の成長&友情物語。 ただ、それだけなら割とよくある話に過ぎない処ですが、弘毅が何でも姉と同じであることに拘っていたこと、皆が美味しいというせんべいの<耳>を何故か嫌っていたことに、そんな理由があったとは。 せんべいが繋ぐ、弘毅と潤の友情、好いですねぇ〜。 南部せんべいと同じく、弘毅と潤の友情が長く続くことを祈ります。 1.せんべい焼き窯の熱/2.甘く香ばしいチョコクランチの冬/3.雨と耳と、手紙/4.薄胡麻と白/5.せんべい型 |
「ちゃっけがいる移動図書館」 ★★ | |
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小田桐実、35歳女性、独身。図書館で非正規職員、古バスでの移動図書館担当。 元々表情も性格も不愛想、非正規職員の契約が更新されるかどうかも不安という状況の中で、にこやかにできる訳がない。 そのうえ実家の母親は、その不安をえぐるような電話を度々して来ては、自分で収穫した野菜を送ってくる箱の中に毎回見合い写真を入れてくるのが常。 そんなある日、移動図書館バスの走行中、実は痩せ細った仔犬を見つけます。 元館長の運転手=和田さん、若い図書館員の佐藤とも世話するのは無理という中、里親が見つかるまでという条件で、実はその仔犬の面倒を見ることになります。幸い、大家のてつさんは実が部屋で犬を飼うことを認めてくれる。 そして、実が「ちゃっけ」(小さいという意味)と名付けたその仔犬が思いがけなくも、実の生活を大きく変えていく。 そしてまた、ちゃっけは移動図書館のマスコットとなり、小学生たち利用者たちを引き付ける存在にもなります。 一人だけの暮らしだと不安ばかり募る。でもそこに、自分が保護してあげなくてはならない存在が現れたら・・・。 どう実が変わっていくか、そこが本ストーリーの楽しい処。 実を見るちゃっけの純真無垢な瞳、楽しいことを純粋に喜ぶちゃっけの様子、何と可愛らしく、抱き締めたくなることか。 しかし、実は所詮、里親が見つかるまでの一時的な世話人。ついにちゃっけとの別れの時が来ます・・・・。 最初は庇護対象であり、そして大事な相棒となり、いつしか掛け替えのない家族に。 ちゃっけとの楽しい日々を読者も存分に味わえるストーリー。 ペットを飼うことが苦手な方も、きっと楽しめます。 プロローグ/1.真夏の蛇の祟り/2.コートニーのことは忘れたきりだったろう/3.猫おじさんのちいさいおうち/4.最後の移動図書館と完ぺきな里親/エピローグ |