高森美由紀作品のページ


1980年生、青森県出身・在住。2014年「ジャパン・ディグニティ」にて産業編集センター出版部主催の第1回暮らしの小説大賞、15年「いっしょにアんべ!」にて第44回児童文芸新人賞、17年「花木荘のひとびと」にて集英社ノベル大賞を受賞。


1.山の上のランチタイム

2.山のふもとのブレイクタイム

3.藍色ちくちく 

4.小田くん家は南部せんべい店 

 


                   

1.
「山の上のランチタイム Lunchtime on the Moutain ★★


山の上のランチタイム

2019年11月
中央公論新社

(1600円+税)



2019/12/21



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風光明媚な土地にあるレストランを舞台にした連作ストーリィ。最近はそうした設定の作品が多くなったなぁと思います。
その魅力は、爽やかさと美味しそうな料理にある、というのはもはや定番と言って良いでしょう。

本書の舞台となるのは青森県南部にある
葵岳、そのふもとにあるレストラン“コッヘル デル モタキッラ(セキレイの調理器具)”、通称:葵レストラン
スタッフはイケメン店長の
明智登麿・25歳、その甥で不登校中の中二・明智瑛太、そして主人公である青木美玖・20歳の3人。

この主人公がかなり賑わしい。そそっかしくて不器用で、やたら元気。元柔道部。とはいえ、料理に対する味覚への信頼度は高いらしい。
ただ、11年前に家族3人で葵岳登山をしたその帰り、目の前で母親が転落死するという辛い過去を背負っている。いつも美玖が振りまく笑顔に、どこか無理しているところはないのだろうか。

各章、親子の繋がり、理解し合うことの難しさ、気持ちのすれ違いといった内容になっています。
「七歳児参りのふっくらムニエル」は母親を失くした息子と父親の関係、「崖っぷちのオッキ・ディ・ブェ」は不登校中の瑛太の事情、「塩むすびのてっぺんマリアージュ」は葵岳山頂での結婚パーティを望んできた和田蘭が抱えてきた想い、「四十年のミルフィーユ」は余命僅かとなった母親と中年男性の息子の関係、そして「リスタードのトリュフチョコ」は未だ妻の死を抱え込んでいるらしい父親と美玖の対立・・・。

ストーリィの背後にはいつも葵岳があり、美味しそうな料理がストーリィを進める要素になっているところが、爽快。
ちょっと突出気味ではありますが、美玖の健気な快活さに元気づけられるようで、好感。


1.七歳児参りのふっくらムニエル/2.崖っぷちのオッキ・ディ・ブェ/3.塩むすびのてっぺんマリアージュ/4.四十年のミルフィーユ/5.リスタードのトリュフチョコ

                    

2.
「山のふもとのブレイクタイム ★★
 Time for a Break at the foot of the mountain


山のふもとのブレイクタイム

2021年09月
中央公論新社

(1600円+税)



2021/10/10



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青森県南部にある葵岳、そのふもとにあるレストラン“コッヘル デル モタキッラ(セキレイの調理器具)”、通称:葵レストランを舞台にしたストーリィ山の上のランチタイムの続編。

自然にあふれた爽快さと如何にも美味しそうな料理、というロケーション&道具立てのところから魅力あった前作、その続編ということであればとても嬉しい。
同じく高原のレストランという設定では、
柴田よしき“高原カフェ日誌も充分魅力的なのですが、本作はシェフの明智登麿も店員の青木美玖も共に20代と若々しいところが魅力。
また、その美玖、単に料理の運び手に留まらず、登麿の作る料理の味にも貢献しているらしいのが、嬉しいところ。

未だいろいろ迷いもし、葛藤もするシェフ・登麿。それに対し、猪突猛進といった具合に迷いなく突進する美玖。この2人に高校生バイトの
瑛太が加わってくると、実に良いチームです。

「ハーブポークの休息」:瑛太の同級生=早苗。テニスがずっと不調というが、その挙げ句しようとしたことは・・・。
「こんがりチーズの焼きおにぎり」:小中の同級生=馬場健が祖母・母親連れで来店。登麿に祖母との思い出を回想させます。
「見えないケーキ」:中学時の同級生=工藤陽菜が来店。娘自慢の両親によると、東京の上京企業で活躍中というのだが。
「水ぬるむ頃まで」:小学校の同級生で今は地元紙の記者を務める西野が来店。その傍若無人な要求を、何故登麿は受け入れ続けるのか・・・。

登麿と美玖の関係、ちょっと前進でしょうか。次作が楽しみ。


1.青葉の頃−ハーブポークの休息/2.お盆の頃−こんがりチーズの焼きおにぎり/3.もみじの頃−見えないケーキ/4.水ぬるむ頃まで−ホワイトソースと厄介な頼み

           

3.
「藍色ちくちく−魔女の菱刺し工房− ★★


藍色ちくちく

2023年01月
中央公論新社

(1700円+税)



2023/02/10



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日本三大刺し子のひとつ、青森県南部地方に伝わる“南部菱刺し”をモチーフにした連作風ストーリィ。

寒冷な地域だったので木綿が育たず、育てやすい麻で布を織ったものの、麻布は目が粗いため寒い。そのため、撚って太くした糸でその隙間を埋めていく、それが南部菱刺しだそうです。

第一章の冒頭、高校生の
武田綾は偶然、高齢女性の豊川より子が開いている<菱刺し工房>のことを知り そこに通うようになります。
規則正しい作業、集中して気持ちが落ち着く上に、この
工房の居心地が何とも良い、という訳で。
そこから始まる、工房に関係する4人のストーリィ+各章の末尾に付けるようにして豊川より子の人生が語られます。

各章の主人公それぞれにいろいろな出来事、苦労、悩みがありますが、総じて地味で割と静かなストーリィ。
そして、菱刺しが各主人公の支えや救いになってくれる、というのがその内容。
綾の言葉ではないですけれど、本作の居心地良さに浸っていられるところが本作の魅力のひとつ。そしてもうひとつの魅力は、南部菱刺しのことを知る楽しみ、と言って良いでしょう。

「魔女の菱刺し工房」:主人公は進路を決められないでいる高校生=武田綾。友人の栗生賢吾も一緒に工房に出入りするようになりますが、全篇を通じてこの2人のやりとりが楽しい。
「今日の佳き日の矢羽根」:結婚間近の田向井結菜、このところ父親とギクシャクしていることが悩みの種。
「ひょうたん」:施設に入所している母親の世話を一人で見ている石田香織、母親の認知症度が進んでいて苦労。そのうえ母親の言動が香織を一層苛立たせて・・・。
「真麻の聴色」:6年間引き籠りの生活を送ってきた、より子の孫=亮平。ある出来事から引き籠っていられなくなり・・・。

1.魔女の菱刺し工房/2.今日の佳き日の矢羽根/3.ひょうたん/4.真麻の聴色(ゆるしいろ)

              

4.
「小田くん家(ち)は南部せんべい店 ★★


小田くん家は南部せんべい店

2024年02月
徳間書店

(1800円+税)



2024/03/24



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ユニークな題名に、それだけで惹かれるものがあります。

舞台は、青森県の片田舎。
主人公である
弘毅(こうき)は小四、祖父に似て背が低いのが悩みです。
婿である父親は会社勤めですが、祖父の
よっしー・祖母のなぎばあ・母親とパートの安江さんで営む、家族経営のせんべい店。
高一の姉=
芽衣と弘毅も、店が忙しければ手伝います。

しかし、弘毅は家業が嫌い。いつも小麦粉まみれになり、フケ、汚いと同級生たちから馬鹿にされているから。
それなのに課外授業で皆が、自分ちの店に来るなんて!
ところが、隣の歯科医院の息子で不登校中の
松田潤が、その翌日からせんべいを焼いてみたい小田家を訪れるようになり、対抗心を燃やした弘毅も、祖父の指導の下に潤と一緒にせんべいを焼き始めて・・・。

昭和の雰囲気を漂わせる三世代の家族物語、それに加えて、小学生である弘毅の成長&友情物語。
ただ、それだけなら割とよくある話に過ぎない処ですが、弘毅が何でも姉と同じであることに拘っていたこと、皆が美味しいというせんべいの<
>を何故か嫌っていたことに、そんな理由があったとは。

せんべいが繋ぐ、弘毅と潤の友情、好いですねぇ〜。
南部せんべいと同じく、弘毅と潤の友情が長く続くことを祈ります。


1.せんべい焼き窯の熱/2.甘く香ばしいチョコクランチの冬/3.雨と耳と、手紙/4.薄胡麻と白/5.せんべい型

     


   

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