桜木紫乃作品のページ No.2



11.霧(ウラル)


12.裸の華

13.氷の轍

14.砂上

15.ふたりぐらし

16.光まで5分

ラブレス、ワン・モア、起終点駅、ホテルローヤル、誰もいない夜に咲く、無垢の領域、蛇行する月、星々たち、ブルース、それを愛とは呼ばず

 → 桜木紫乃作品のページ No.1

 


                

11.
「霧 ウラル ★★


霧ウラル

2015年09月
小学館刊
(1500円+税)

2018年11月
小学館文庫化



2015/10/26



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昭和30〜40年代、北海道最東端の町=根室を舞台にした、その地で生きるしかない男や女たちの荒涼たる物語。
当時の根室といえば、ソ連侵攻によって国後島から逃れてきた人たちが多く住み、北方領土四島の返還を願う気持ちを強く抱えていたとらしい。その点もあって、根室=国境の町と本書中で何度も語られます。

本ストーリィに漂うのは、尽きることなく荒涼とした雰囲気。それは土地についても、そこに生きる人間についても変わりありません。
主人公は、その地の水産業を仕切る
河之辺水産社長の次女である珠生。親に縛られたくないと芸妓の道を選びますが、やがて相羽重之という男と知り合って惚れ込み、その相羽が起業した土建業「相羽組」で「姐さん」と呼ばれる存在になります。
その珠生と対照的な道を歩むのが長女の
智鶴。常に百点満点の生き方をする彼女は、この地で運輸業を仕切る大旗家の国政進出を目指す長男に嫁入りし、やがて全てを自分の計画通りに操る黒幕的な存在となっていきます。
三女の
早苗は、親の命じるままに生きることを良しとしないながらも、智鶴が張り巡らした網の中で自分は生きる他ないことに気付きます。

荒涼とした気配漂う極北東の土地で、タッグを組んだ相羽に汚れ仕事を担わせることによって国政進出に必要な力を付けていく大旗家。男たちがそんな力勝負の世界でうごめく姿を、女たちはただ見ているだけしかないというストーリィと思って読み進んでいましたが、終盤に至ってそれは違うのではないかと気づくようになりました。
むしろ荒涼さを身の内に抱えているのは、他の場所に行くこともできず、また女の力では何もできないと決め付けられた、河之辺家の三姉妹なのかもしれません。

予想もしなかったハードボイルドな世界に、胸打たれるばかり。

             

12.
「裸の華 Dancer's Passion ★★


裸の華

2016年06月
集英社刊

(1500円+税)



2016/07/18



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怪我でストリッパーを引退せざるを得なくなったノリカ、40歳は振り出しに戻って出直そうと、かつてストリッパーとして初舞台を踏んだ札幌ススキノに戻ってきます。
そして店舗物件を賃借し、独力で
“ダンスシアター・NORIKA”を開業する。
店のスタッフとなったのは、店舗を斡旋した不動産屋社員から転じてバーテンダーに応募してきた
竜崎甚五郎=JIN 38歳。その紹介によるダンサー、桂木瑞穂23歳浄土みのり20歳
ノリカがダンスの構成を考え、2人にレッスンしてダンスショーを売り物にしたバーがスタートするのですが・・・。

ノリカの心の身体には、先輩ストリッパーであり踊りの師匠であった
静佳から仕込まれたDNAが今も刻み付けられている。そして今、ノリカを師匠として慕うみのりが、ノリカのDNAを受け継ごうとしている。

ダンスシアターという舞台、ノリカ、竜崎、瑞穂とみのりという他に居場所のない4人(瑞穂は少々異なりますが)が、力を合わせて新しい店を盛り上げていこうとする展開、ノリカからダンスのDNAを受け継ごうとする瑞穂とみのりと2人を育て上げてやろうとするノリカとの師弟関係の様な展開が、ぐいぐいと読み手を引きずっています。その快感は、陶酔と言って良い程です。
吹き寄せられては流れるように人々が消えていくという札幌・ススキノという街が、荒涼感と生きる厳しさを背景に漂わせていますが、それは歯切れの良さに繋がっています。

ストリッパーであったノリカの踊りと、みのりたちの踊りにどれ程の違いがあるのか。
ノリカの明け透けな言葉を借りれば、下着をつけないのと下着を脱がないとの違いということになりますが、観客を魅了して楽しませるという点では僅かの違いしかない、という。だからこそ、みのりはノリカを師匠として慕い仰ぐのです。

本ストーリィの原点がノリカの踊りにあることは言うまでもありません。したがって、元ストリッパーの踊りと偏見を持ってしまうと本書の素晴らしさを感じ取ることができずに終わってしまうかもしれません。是非、色眼鏡なく本ストーリィに魅せられて欲しいと思う次第です。

     

13.

「氷の轍 ★☆


氷の轍

2016年10月
小学館刊

(1600円+税)



2016/10/23



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私は未読で知らなかったのですが、桜木紫乃作品に「凍原−北海道釧路方面本部刑事第一課・松崎比呂−」という、女性刑事を主人公とした警察捜査もの作品があるそうなのですが、本作はそれに続く道警釧路方面本部を舞台にした警察捜査もの第2弾。

釧路市の千代ノ浦海岸で男性の他殺死体が発見される。被害者は札幌に住む元タクシー運転手の
滝川信夫、80歳。
しかし、捜査は中々進捗せず。
本書の主人公は、女性刑事の
大門真由30歳。父親も釧路方面本部の元刑事、母親も元婦警という警察一家ですが、実はいろいろ複雑な家庭事情あり。
そんな大門真由は、ベテラン警部補の
片桐周平と組まされ、被害者である滝川信夫の経歴を追います。
舞台は札幌へ、そして青森、八戸へ。その過程で真由たちは、ある母娘家族の悲痛な人生を知ることになります。

一応、殺人事件の捜査ストーリィであり、ミステリと紹介されていますが、本質的にはミステリには当たらないのではないか。
何故かというと、事件の真相を明らかにしようという執念、追求心が真由と相棒の片桐に余り感じられず、淡々と歴史を紐解いていくような雰囲気を感じるからです。

家族関係に事情を抱えた女性刑事が、事件捜査という切り口で明らかにしていく、北の大地で孤独で貧しいが故に、数奇で悲しい人生を送った母娘の物語。
警察捜査ものという構図を取った故に、かえって中途半端に終わってしまったという印象が拭えません。

             

14

「砂 上 ★★


砂上

2017年09月
角川書店刊

(1500円+税)



2017/11/05



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北海道の江別に暮らす柊令央は40歳。
作家を志望しずっと小説を書き続けてきて、新人賞にも毎度応募してきたが、何の成果も得られず年月ばかりを費やしてきた。
その間に夫が浮気して離婚。20歳で令央を産みシングルマザーとして奮闘してきた母親の
ミオも死去したばかり。
今の生活は、幼馴染が営んでいるビストロでのウェイトレス仕事と、別れた夫が毎月振り込んでくる慰謝料だけ。
別に暮らしている16歳下の妹=
美利(みり)は、そんな母親と姉を見て育ってきたからか、ひどく現実的。

そんな令央を訪ねてきた東京の女性編集者=
小川乙三(おとみ)、令央がこれまで書いてきた応募作品も知ったうえで、主体性がないと批判、そのうえで書き直すつもりがあるかと、令央の覚悟と問うてくる。
乙三からまるで挑まれるかのように要求されるまま、何度も作品を書き直す令央。それは作家としての覚悟を問われると同時に、自分ならびに母親が抱えてきた秘密、そしてこれまでの人生を直視することへと繋がっていく。

虚構と真実が交錯して炸裂するかのような、息詰まる、迫真のストーリィ。
小説のジャンルによっても違うのでしょうけれど、<私小説>となるとここまで自分自身を追い詰めなくてはならないのか、と圧倒される思いがします。

※本書における令央の苦闘、どこまで桜木さんの実体験が反映されているのかと思うと、興味尽きません。

                 

15.
「ふたりぐらし Un homme et une femme ★★


ふたりぐらし

2018年07月
新潮社刊

(145円+税)



2018/08/25



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映写技師の信好看護師の紗弓という、30代の夫婦を主人公にした連作短編。

この夫婦にはいろいろ問題が、悩みがあります。
信好にろくな収入はなく、生活は紗弓の給料に頼り切り。
認知症が出ているものの一人暮らしの信好の母。一方、紗弓は信好との結婚に反対されたことから、両親から遠ざかっている。
35歳という年齢は紗弓にとって課題ですが、今の収入状況で子供を持つことに不安・・・等々。
そんな夫婦の日常が、伸好、紗弓、それぞれを語り手にしながら短篇小説という形式で綴られていきます。

桜木さんにしては珍しい、地味なストーリィ。
でも一つ一つの出来事を大きなドラマにして仕立てようとすればできることでしょう。
でも今回、桜木さんはそうせず、ぐっとドラマを抑え込んで、誰もが日々送っている、ありふれた日常ストーリィに仕立て上げています。

映画やドラマチックな小説は一定期間の出来事に過ぎません。でも日常は、それが終わった後も生涯続いていく。
本書で桜木さんが描いたのは、2人がともに過ごす、ずっと共に過ごしていきたいと願う日常に他なりません。

だからこそ、信好と紗弓の2人が、2人が共に過ごす時間が、その時間の積み重ねが、とても愛おしい。
 
良い作品に出逢えた、そんな読後感です。


こおろぎ/家族旅行/映画のひと/ごめん、好き/つくろい/男と女/ひみつ/休日前夜/理想のひと/幸福論

                

16.
「光まで5分 


光まで五分

2018年12月
光文社刊

(1400円+税)



2019/01/11



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吹き流されて沖縄に行き着いた、というような女と男の物語。

主人公である
ツキヨ・38歳は、北海道に生まれ、今は沖縄に辿りついて、沖縄にやってきた若い女たちが一時的に身体を売って金を稼ぐ売春宿「竜宮城」に居ついている。
幼い少女の時期に義父から悪戯されていたことに始まり、身体で世を世を渡っていく方法しか知らない女性。

そのツキヨが出会ったのが、訳ありで逃げてきて、死んだという体裁をとっている元歯医者の
万次郎
その万次郎の近くに侍っていようとするのが、
ヒロキという青い眼をした青年。
「光まで、5分かな」とつぶやいたのが、そのヒロキ。

その3人に、どこか如何わしい
南原という地元の中年男、ヒロキが慕う「おばあ」が絡むのですが、要は、どこまでも流されていくしかない女と男を描いた物語、と言って良いのだろうと思います。
ただ、同じような境遇だとはいっても、なんだかんだ言いつつ、やはり男性より女性の方がしぶといのかもしれません。

本書読了後、そろそろ桜木紫乃さんの作品世界からもう離れてもいい時期に至ったかな、と感じた次第です。

  

桜木紫乃作品のページ No.1

 


   

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