桜木紫乃作品のページ No.1


1965年北海道釧路市生、釧路東高校卒。2002年「雪虫」にてオール読物新人賞を受賞。07年「氷平線」にて単行本デビュー、新官能派として注目を集める。「ラブレス」にて12年に"突然愛を伝えたくなる本大賞"、13年に第19回島清恋愛文学賞、13年「ホテルローヤル」にて 第149回直木賞、20年「家族じまい」にて第15回中央公論文芸賞を受賞。


1.ラブレス

2.ワン・モア


3.起終点駅

4.ホテルローヤル

5.誰もいない夜に咲く

6.無垢の領域

7.蛇行する月

8.星々たち

9.ブルース

10.それを愛とは呼ばず


霧ウラル、裸の華、氷の轍、砂上、ふたりぐらし、光まで五分、緋の河、俺と師匠とブルーボーイとストリッパー、孤蝶の城、ヒロイン 

 → 桜木紫乃作品のページ No.2


谷から来た女 

 → 桜木紫乃作品のページ No.3

 


                

1.

LOVE LESS ラブレス」● ★★☆ 突然愛を伝えたくなる本大賞・島清恋愛文学賞


ラブレス画像

2011年08月
新潮社刊

(1600円+税)

2013年12月
新潮文庫化



2012/01/29



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実は本作品、刊行された当時読もうかどうか迷って、結局保留したという経緯があります。
その理由は、内容がかなり凄絶な女性の生涯を描き、かなり重たい内容のようだ、と思ったから。
それなのに今回読んだのは、最新刊
ワン・モアの見事さに衝撃を受けたから、に尽きます。

さて冒頭、
清水小夜子の元に従姉妹の杉山理恵から電話が入ります。町営住宅で独り暮らしの母親=百合江に連絡がとれない、ついては様子を見に行ってほしい、と。
そこから始まる、北海道東部の開拓村・標茶の掘っ立て小屋を出発点に、対照的な性格の姉妹2人(
百合江里実)の人生ドラマを描いたストーリィ。
主役は百合江で、中学を卒業してすぐ薬屋に住み込み奉公に出されたものの、自らの意思でドサ廻りの歌手一座に加わり、その後も数奇な人生を辿ります。
彼女が求めたものは何だったのか。決して波乱万丈な人生ではなく、普通に生きる場所と家族だったに違いない。
けれども彼女の前には、次々と困難や不幸が立ちふさがります。そんな中、百合江が歩んだ道は、一歩一歩地道に前に進むというだけ。

百合江の人生はどうだったのか。対照的な妹=
里実との比較、2人の娘である理恵、小夜子の目を通して、百合江という一女性の生涯が語られます。
もうすぐ終わりという段階に至って、百合江をどれだけ悼んでくれる人がいるのか。また、理恵と小夜子がそういう段階に至った時、そんな人が2人にはいてくれるのか。

出だしこそ、暗いばっかりのストーリィですが、終わりに至ってみれば、自分のできる限りで精一杯、真摯に生きた女性の人生が浮かび上がってきます。それには、唯々圧倒されるばかり。

                                  

2.
「ワン・モア One More」● ★★☆


ワン・モア画像

2011年11月
角川書店刊
(1500円+税)

2015年01月
角川文庫化



2012/01/10



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ひんやりと冷たい感触、でもそこに冷たいきらめきが感じられてむしろ快い、そんな印象を受ける連作風長篇小説。

主人公は各篇で異なりますが、皆相互に何らかの繋がりをもっており、各篇で主人公とその他人物という立ち位置の違いは有れど、主要な登場人物としては一貫しています。
舞台は北海道・道東の港町。
冒頭
「十六夜」に登場する柿崎美和は、不祥事で離島に左遷された女医。島でも奔放に過ごしており、極めて評判が悪い。
その美和と高校同級でやはり女医の
滝澤鈴音は、離婚して一人っきり、そこで癌と転移が発見されて自ら判断するに余命半年。
その滝澤医院に勤めるベテラン看護師の
浦田寿美子は、結婚に縁無くずっと独身の49歳で老父母と3人暮らし。
一方、同じ町にある書店の店長=
佐藤亮太は32歳の今に至るも、女性経験が皆無。
どの人物もあえて言うなら、惨め、というに近い状況です。

でも決して終わりじゃない。
諦めず、自分を失わず、今を強く生きていけば、きっと可能性、希望はある筈、というメッセージが伝わってきます。題名の
「ワン・モア」はその意でしょう。
最初こそ暗く悲惨、という印象でしたが、章を追うごとに力強い足音が聞こえてくる、そう感じられてきます。
諦めるかどうかで人生は変わる。その象徴とも言えるのが「十六夜」の美和と、彼女が関係をもった
木坂昴の2人。
また、浦田寿美子も、佐藤亮太も、鈴音の元夫である
志田拓郎の父親も然り、と言えるでしょう。

ストーリィをひっぱる柿崎美和という女医のキャラクター、その力強さが実に良い。その柿崎が決して評判の良い人物ではないだけに、かえって本作品のメッセージが強く胸に響いてきます。
桜木紫乃さん、読んだのはまだ本書一冊だけですが、注目していきたい作家です。

十六夜/ワンダフル・ライフ/おでん/ラッキーカラー/感傷主義/ワン・モア

                    

3.
「起終点駅 ターミナル」● ★★


起終点駅画像

2012年04月
小学館
(1500円+税)

2015年03月
小学館文庫

2024年07月
講談社文庫


2012/06/11


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どんなことがあってもどんな目にあっても、人は生きていける。
たとえどん底まで落ちようとも、人はそれだけの力を持っているものなのである。
そんな究極のストーリィ、6篇を詰めた短篇集。
主人公たちを容赦なく落とし込んでみせる、そこに桜木紫乃さんの魅力を感じます。

「かたちないもの」:捨てられたという思いをずっと引きずっている笹野真理子の元に届いたのは、かつて愛した男の納骨式の知らせ。
「海鳥の行方」:デスクとの確執に悩む新人記者の山岸里和が知り合った釣り人=石崎には直視できない過去があった。
「起終点駅」鷲田完治が釧路で国選弁護しか引き受けない弁護士として生きてきた理由は、捨てた妻子への罪の意識からだったか。
「スクラップ・ロード」:エリート銀行員だったのに辞職して失業した飯島久彦が見つけたのは、違法廃品回収業者となった父親の姿だった。
「たたかいにやぶれて咲けよ」:再び山岸里和。地元で名を馳せた女流歌人の軌跡を記事にしようと挑むが・・・。
「潮風の家」:30年ぶりに故郷に戻った久保田千鶴子に、かつて世話になった星野たみ子がかけた言葉は・・・。

自分もまた父親と同じ状況に引きずりこまれなかった主人公を描く「スクラップ・ロード」と、女同士の覚悟を共有するかのような「潮風の家」。その2篇が特に印象に残りました。

かたちないもの/海鳥の行方/起終点駅(ターミナル)/スクラップ・ロード/たたかいにやぶれて咲けよ/潮風(かぜ)の家

               

4.
「ホテルローヤル」 ★★          直木賞


ホテルローヤル画像

2013年01月
集英社刊
(1400円+税)

2015年06月
集英社文庫化



2013/02/02



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北海道の小さな町、湿原を背にする一軒のラブホテルを背景に、男女の抱く閉塞感、空虚感、孤独を映し出した連作小説7篇。

個々の、人生の一片であるドラマでの様々な悲喜劇が描かれていますが、同時に、「ホテルローヤル」という名前のこのラブホテルが知る経営者家族の長きに亘る悲喜劇も描き出されているという二重構造に面白さがあります。
単純に時系列で描いていたなら平凡な印象に終わっていたかもしれませんが、廃業されて廃墟となったラブホテルの様子から始まり、営業当時の様子、そして最後に開業当時の事情と、時間を遡って語られるという構成に妙が有ります。
即ち、今は寂れて廃業した姿をさらけ出していますが、開業当初はそれなりに夢があったのだということ。それはそのまま人生の移ろいを語っているようでもあります。
冒頭の
「シャッターチャンス」は、廃墟と化したラブホテルにヌード撮影をしようと入り込んだ男女の話。
それ以降の篇の中身を些かなりともここで紹介してしまうと、本書を読む楽しみを奪ってしまうことになりかねないと感じますので、省略。

作者の桜木さん、床屋を経営していたお父上が突然にラブホテルをやると言い出し(同じホテル名)、15歳から結婚する24歳まで毎日使用後の部屋の掃除などをやっていたそうです。(思春期の女子がなんとまぁ・・・)
そうした事情からして本書は、桜木さんにとって一つの区切りをつける作品になったのでは、と思います。

各篇ひとつひとつのドラマ、7篇全てを通して浮かび上がってくるドラマ、そのどちらにもちょっと言葉にし難い味わいがあって惹きつけられます。
閉塞感、空虚感、孤独といったマイナス要素もありますが、それだけではなく、
「えっち屋」「星を見ていた」等、プラス要素を感じる部分もあり、むしろ楽しかったという読後感あり。桜木紫乃ファンには、是非お薦め。

シャッターチャンス/本日開店/えっち屋/バブルバス/せんせぇ/星を見ていた/ギフト

                

5.
「誰もいない夜に咲く」 ★★☆


誰もいない夜に咲く画像

2013年01月
角川文庫刊
(514円+税)

2013年01月
角川文庫化



2013/05/27



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2009年刊行「恋肌」を改題、大幅な加筆・修正を施したうえで「風の女」を追加収録した短篇集、計7篇を収録。
どの篇も北海道の荒涼として広大な大地がストーリィの背後に見えるようです。自然の厳しさが、そのまま生きる上での厳しさに繋がっているような舞台設定に、何と北海道は相応しいことか。

まず冒頭の「波に咲く」が秀逸。酪農家の跡継ぎである主人公=秀一は30歳になるまで女性経験がなく、嫁来い運動で中国から花海(ホアハイ)を嫁にしたものの、まるで今も両親に仕えているかのような暮し。そんな中で秀一は、言葉の通じぬ妻の花海へ語り続けることによって彼女に自分の気持ちを伝えようとする。その結果は・・・。

その他6篇はいずれも女性が主人公。設定は違えどいずれも薄幸の身の上で、男運にも恵まれていない。
いやむしろ、北海道という荒涼の地で吹き寄せられるように男と関わり、その男たちがまるで甲斐性なしである故に、ますますその人生はうら悲しいものになっている、という風です。
それでも女は強い。追い詰められたそこでその真価が発揮されるかのようです。
たった一人で中国から北海道の酪農家に嫁いできた花海もそうですが、
「海へ」千鶴「絹日和」奈々子「根無草」六花等々、最後の最後で彼女たちが見せる強さには胸を打たれるものがあります。

うら寂しいストーリィばかりですが、その中で仄かに咲くような女性たちの強さが印象的。単なる“短篇集”を超えた読み応えを感じさせてくれる一冊です。お薦め。

波に咲く/海へ/プリズム/フィナーレ/風の女/絹日和/根無草

                       

6.
「無垢の領域 Area of Innocence ★★


無垢の領域画像

2013年07月
新潮社刊
(1500円+税)

2016年02月
新潮文庫化



2013/08/19



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新潮社のPR誌「波」に「モノトーン」という題名で連載されていた作品を改題・修正加筆しての単行本化。
という訳で本作品、連載で読んでいました。連載で読むのと単行本で読むのとはまた違った感触がありますが、読み直すという形にはなるため読むのが随分と楽です。

書道家と高校の養護教諭という秋津龍生・伶子の夫婦、民間委託された図書館長の林原信輝と問題のある純香という兄妹。その4人を中心に据えたストーリィかと思って読み進むと、途中意外な形で純香が退場して最後に残るのは3人だけ。そもそもは秋津、伶子、林原という3人を主役にしたストーリィだったかと気付きます。
3人の生活は各々、自らを身動きの取れない暗がりへ閉じ込めたかのようで、その先にもまるで明るさが見い出せません。それに対し、25歳の女性といっても頭の中はまるで小学生並みという純香、その太く直線的なキャラクターの存在によって3人の異形ぶりが浮き彫りになっています。
何故単純に希望を持とうと思えないのか、何故わざわざ暗い処ばかり見ようとするのか。純香の兄に対する疑問は、そのまま読み手の3人に対する疑問でもあります。
北海道を舞台にした作品の多い桜木さんですが、その中でも道北、寒さの厳しい
釧路という土地はなおのこと本ストーリィに相応しく感じられます。
先に希望を持つには強さも必要なのである。本ストーリィでは端役ですが、伶子が関わることになった女子高生=
君島紗奈の、今は真っ暗でも自力で明るい場所へ出ていこうと強い意志も、3人の姿とは対照的です。 

読了後、目の前には荒涼とした風景が広がるようです。
しかし3人の物語にまだまだ終わりは来ない、と感じられます。

         

7.
「蛇行する月 ★★


蛇行する月画像

2013年10月
双葉社刊
(1300円+税)

2016年06月
双葉文庫化



2013/11/25



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道立湿原高校を卒業して2年、図書部の仲間だった須賀順子が突然に20歳も年上の既婚職人と駆け落ちしてしまう。
その後再会した順子は、故郷を捨て、服も化粧もままならない極貧の生活を送っているというのに「私は幸せ」と言う。

本書は、順子と図書部仲間だった4人に他2人を加え、数年毎に各人を主人公とする物語を須賀順子と対比させながら描いた、女性たちの人生ストーリィ。

ホテルの営業職に就いた戸田清美、定期フェリーの乗務員となった藤原桃子、教職に就き35歳にして結婚を間近に控えた小沢美菜恵、独身のまま40代となった看護師の角田直子と、卒業後に各人が辿った道はそれぞれであるが、4人とも今の自分は幸せ、という気分には程遠そう。
それに対し、彼女たちが年月を隔てて再会する順子は、化粧もせずすっかり老け込んだ様子でありながら、自信に溢れた様子で幸せだと言う。
その違いはどこにあるのか。
普通に結婚して普通に家庭を築く生活が今や単純に幸せとは言い切れない現代、幸せと感じるかどうかは結局各人の考え方次第、と言わざるを得ない。そうした中で、須賀順子が辿った人生は各篇の主人公たちと極めて対照的に映ります。
あえて順子と他の女性たちを比べるなら、周囲の状況より自分を信じる強さの違い、と言えるような気がします。

順子と他の女性たちとどちらが幸せか、などと比較することは何の意味もありません。何が幸せか?を考える時、須賀順子のような生き方、考え方もあるのだと思うことで十分な気がします。

1984 清美/1990 桃子/1993 弥生/2000 美菜恵/2005 静江/2009 直子

               

8.
「星々たち ★★☆


星々たち画像

2014年06月
実業之日本社
(1400円+税)

2016年10月
実業之日本社
文庫化



2014/07/05



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桜木紫乃作品に少々飽きてきたかなと思ったところで出会ったのが、本作品。いやー、読んで良かった。

本書は、塚本千春という一人の女性の来し方を、彼女と一時関わりをもった人々を主人公とする小ドラマ9篇から成る連作小説という形式で描いた作品。
各篇の主人公は、18歳未婚で千春を産み、祖母に預けっぱなしで一人釧路でバー勤めする母親=
咲子、千春が祖母と住む家の隣人主婦の育子、千春と入れ違いでストリッパーを引退する広瀬あさひ、千春と最初の結婚をする木村晴彦、二度目の結婚相手の母親=田上桐子、現代詩教室の講師=巴五郎、死病を抱えた咲子と暮す能登忠治、バスを間違えた千春を一晩泊めた河野保徳、そして千春が産んだ娘=田上やや子、という面々。

千春という女性の印象は次のように語られます。
無口で気真面目風、でもどこか愚鈍、警戒心が抜け落ちているような女性だと。
決して千春の辿ってきた道のりは褒められるようなものではないでしょう。でも、恵まれない家庭環境に育った中で、生真面目に真っ直ぐ、自分らしく懸命に生きてきたという事実は誰も否定できないと感じられます。
それは、どこかで投げやりな処がある各篇の主人公たちと対比すると殊更に感じられることです。
そして、ある意味の強さは、咲子から千春を経てやや子へと、しっかり伝えられていると思います。決して母子という密接な関係を築けなかった3人であったにしろ。

各篇の小ドラマ+塚本千春を主人公にした長編ドラマという二重構成。こうした連環小説、私は大好きです。お薦め!

ひとりワルツ/渚のひと/隠れ家/月見坂/トリコロール/逃げてきました/冬向日葵/案山子/やや子

              

9.
「ブルース ★★


ブルース画像

2014年12月
文芸春秋刊
(1400円+税)

2017年11月
文春文庫化


2014/12/26


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釧路の貧民窟のような長屋で生まれ育ち、ついには釧路の裏社会の実力者となった6本指の男=影山博人の変遷を、8人の女性によって語るという趣向の連作風長編小説。

北海道は道東の街、釧路。住民の方には申し訳ないと思うし、実際に訪れた感想としては必ずしもそのとおりではないのですが、道東、釧路という言葉からは、荒涼とした原風景がイメージとして浮かび上がります。
8篇において主人公となる女性たちは、それぞれ不遇な状況に甘んじている。そんな彼女たちの前に現れる影山博人という陰のある人物。
行きずりと言って良いような影山との関わりは、そのまま彼女たちの荒涼とした胸の内、満たされぬ思いを象徴しているかのようです。
それに対して、同様な状況である筈の影山は極めて無表情。いわば彼女たちの現状を映し出す鏡の様な存在に思えます。

その不遇をリアルに感じさせる女性たちの向こうに、無表情で心の中を少しも覗かせない影山という人物が立っている、という対照的な構図は鮮烈です。
一片を切り出したような荒涼とした原風景というイメージが強烈で、心の中に深く跡を残すような作品になっています。


恋人形/楽園/鍵/ブルース/カメレオン/影のない街/ストレンジャー/いきどまりのMoon

             

10.
「それを愛とは呼ばず ★☆


それを愛とは呼ばず

2015年03月
幻冬舎刊
(1400円+税)

2017年10月
幻冬舎文庫化



2015/04/01



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故郷の新潟で10歳年上の女性事業家と結婚した伊澤亮介54歳は、その妻が自動車事故に遭い意識不明状態になったことから、専務である義理の息子に副社長の座を追われ、北海道で廃墟同然のリゾートマンションの販売を担当させられることになる。
一方、かつて美少女発掘コンテストで準優勝し上京してアイドルを目指した
白川紗希29歳は、夢を叶えられないまま芸能事務所から契約を打ち切られ、行き場所を失う。
それぞれに居場所を失った男女が東京で出会ったところから、北海道、そして新潟へと舞台を移しつつ、2人の運命が交錯していくストーリィ。

結局、何が2人の運命を狂わせたのか。
それを考えてみると、主人公2人とも自分の手で“幸せ”像を築くことができなかったからではないか、それ故に他人が語った“幸せ”を表面的に真似する道しかなかったのではないか。
そしてその結果、読み手として想像もつかない結末に至ったのではないか、と思えます。
同じような道を辿ったとはいえ、2人が行き着いた“幸せ”感にはズレがあったように感じられます。その所為か、結末には空疎感が漂います。
また、主人公2人に幸せを求めて足掻くような姿がなかった分、ストーリィにやや物足りなさを感じざる得ませんでした。

幸せとは何か。それは人に示してもらうものではなく、苦労しても、自分で見出さなくてはいけないものだと思います。

※本作品は、「越後では杉と男は育たない」という格言から生まれたものらしい。

1.新潟・亮介/2.銀座・紗希/3.南神居町・亮介/4.東京・紗希/5.カムイヒルズ/6.南神居町・紗希/7.小木田と春奈/8.釧路・紗希/9.楽園の蜘蛛/10.東京・紗希/11.新潟・亮介/12.新潟・紗希

  

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